VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action28 −力即−




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全ては一瞬の出来事だった――

始まりが突然なら、終りも突然。

呆気ないくらい単純に、何も知る事なく終わってしまった。


「・・・止まった・・よね・・?」

「そのようだ」


激しい警告音と止まる事を知らない震動――

永き眠りから醒めたミッションの鳴動が突如止まったのである。

物音一つ立たず、周囲は安定したように静まり返る。

隔壁により封鎖されて数時間。

何の手立ても打てずに静観していたメイアとバーネット。

二人は周囲を警戒しながら、言葉を交える。


「外で何かあったのかしら?」

「分からない。状況を確認しようがない」


 困ったような顔をするバーネットに、メイアは虚空に視線を這わす。

何かが起きたのは明白だが、如何する事も出来ない。

状況に流されるしかない今の事態に、メイアは苦味を感じた。


「ピョロ、何か分からないか?些細な事でも構わない」


 歩み寄りメイアが尋ねると、ピョロは困惑した顔を浮かべる。


「うーん・・・ミッションの機能が停止したくらいしか分からないぴょろ」


 ディータと共に行動を開始し、ピョロもまた奮戦していた。

何者かに掌握されたシステムに介入するべく、あらゆる手段を用いてアクセスを試みたのである。

結果としては失敗に近く、現状を把握するにも手間取っている。


「機能が停止した?何故だ」


 ピョロの報告に眉を潜め、メイアが問い質す。

例えばシステム類を破壊されたのならまだ分かる。

ディータの思いがけぬ行動にセキュリティを発動させられ、慌てて閉じ込めた犯人が壊す。

もしくは無効化させて、プログラムそのものをデリートする事も出来る。

隔壁操作まで可能な犯人だ。

そのくらいの事、朝飯前の筈だった。

システム類には詳しくないメイアにでも分かる。

ミッションのシステムは諸刃の剣だ。

使い様によっては良くも悪く作用し、使い方を誤らなければ有効利用が出来る。

機能そのものを停止させては、犯人の行動にも差支えが生じる可能性があるのだ。


「リーダー、リーダー。きっと宇宙人さんですよ!」

「・・・奴が?」


 戯言だと思っても、ついつい耳を傾けてしまう。

メイアの責任感の強さであり、本人には見えない心遣いだった。

当の本人ディータは、何も気づかずにピョロの隣でぎゅっと握り拳を作る。


「ディータ達が困ってるのを知って、頑張ってくれてるんです。
悪い宇宙人さんをばったばったとやっつけて、すぐ助けてくれますよ!」

「・・っ・・・・・」

「・・・どうかしたぴょろか?」

「?何がだ?」


 疑問符を浮かべるメイアに、ピョロが不思議そうに聞き返す。


「いつものメイアなら、ディータを怒っているぴょろ。
『馬鹿な事を言うな』とか『あんな男に頼ってどうする』とか」

「わ、私は別にカイやディータにいつも目くじらを立てている訳ではない。
可能性があるなら、頭ごなしに否定をするのはおかしい」

「ぴょろ・・・」


 確かにメイアの言い分は正しい。

そう、今のメイアの言葉は至極もっともなのだ。

ならば、過去のメイアは―――?

当時はディータやカイの発言には、メイアは常に反対していた。

ありえる場合でも、ないと断言していたのだ。

心境に何か変化でもあったのだろうか?

ピョロはメイアの変化に、不可思議なものを感じていた。


「リーダーもそう思いますか!?
そうですよね。絶対に宇宙人さんは助けてくれますよね!」

「・・・言っておくが、あくまで可能性だ。
カイ本人も似たような状況かもしれない。
我々はあの男を救助しに来た事を忘れるな」

「はーい・・・すいません」

「謝る事ではない」


 途端しょぼんとするディータに、メイアは静かに首を振る。

その仕草にディータへの親身な思い遣りがあった。

黙って見ていたバーネットでも、どきりとさせられる。

表情こそ冷静だが、伝わる穏やかさは自然だった。

頑なさが蜃気楼のごとく薄らいできている。

ここ数日で少しずつ変わって来ているメイアに、バーネットは何も言えずにいた。

おかしくなっているのならともかく、今のメイアはより親しみやすい。

歓迎すべき変化に、口入れする程バーネットは愚鈍ではなかった。


「でも、どうするの?このまま待つ?」


 ほのぼのとした様子に無粋な横槍は入れたくはないが、事態が事態である。

バーネットが意を決して尋ねると、メイアも普段通りの厳しさを見せる。


「機能が停止したのなら、我々にとってはチャンスでもある。
お頭へのアプローチとミッションへの外部操作をもう一度続けよう。
ピョロとディータで作業を続けてくれ。
私は皆の様子を見てくる。
バーネットとジュラは通信機での連絡を頼む」


 数時間以上に渡る監禁で、全員心身共に疲弊している。

何時出られるか分からない上に、何が起きているのかも分からない。

不安と緊張は高まるばかりで、限界は近い。

今メイアに出来る事は、部下全員を励ます事くらいだった。

前向きな言葉に皆は頷き合って動き、メイアも近くにいる者に声をかける。

否、かけようとしたのだが――





ゴゴゴゴゴゴッ・・・・





 鈍重な物音に、メイアの視線がそちらへと向く。

音は前方――

床の血跡が向かっていた方向にある隔壁が、ゆっくりと音を立てて開いていく。

メイアの反応は素早かった。

息を呑んで見つめる皆の前に立ち、指に填められているリングガンを隔壁に向ける。

封鎖された扉が開いたのを幸運と歓迎出来る生き方はしていない。

閉じ込めたのが犯人なら、開くのも犯人かもしれない。

ここに来て、助かったのだと受け入れる甘さをメイアは持ち合わせていなかった。

もしも隔壁の向こうに犯人がいて攻撃を仕掛ければ、リングガンを躊躇わずに発射する。

指に填められた小さな指輪は殺傷力はないが、丸まった指輪の先より小型レーザーを発射出来る。
威嚇にはもってこいの武器で、扱い易さは類を見ない。

目に発射すれば失明すらありえる護身用の指輪である。

油断なく構え、隙のない佇まいで隔壁を見つめるメイア。

やがて隔壁は開かれ、見える人影にリングガンを突き付けて――





「お前ら、無事か!
ってうお!?」

「動くな!一歩でも動けば・・・カイ!?」





 蒼き瞳と黒き瞳が触れ合う。

互いが互いを見つめあい、驚きを浮かべて存在を認識する。


「えーと・・・・とりあえず。
何か、お前は俺にやっぱり恨みがあると?」


 しっかりと向けられたリングガンを前に、渋い顔をするカイ。

それでも両手を上げているのが、少しカイには情けなかった。


「い、いや!?
すまない・・・まさかお前とは思わなかった」


 メイアは慌てて手を下げた。

ふうっと息を吐き、メイアは落ち着きを持ってカイを見つめ――

目を見開いた。


「どうした、その怪我は!?誰にやられた!?」

「え?いや、これは・・・・」

「これは何もない!誰にやられた!」

「だから、んな大袈裟に騒ぐ程じゃ・・・」

「信用出来ん。お前は死にかけでも何でもないと言う男だ」

「あ、あのな・・・」


 でも確かに立ち姿だけを一目しても、カイはボロボロなのが分かる。

頬には幾えにも紅の線が走っており、着ているTシャツはズタズタ。

腕に巻かれた包帯は赤黒く染まり、解けてぶら下がっている。

誰がどう見ても怪我の具合はひどかった。


「ふう・・・」


 メイアは嘆息し、そのままカイに歩み寄る。

カイはぎょっとして身を引くが、メイアはかまわずカイに接近した。


「何だ何だ!?何するつもりだ!?
あれか!?日頃の恨みを晴らそうと、怪我している俺にトドメを刺すつもりか!?
くっそ、なんて女だ。
そんなひどい奴だとは思わなかっ・・・イタタタタッ!?」

「詳しい事情は後で聞かせてもらう。 救助班。包帯とガーゼ、消毒液を」

「リ、リーダー・・・?
怪我の手当てなら私達が・・・」

「いや、私がやる。
皆は準備にかかってくれ。ミッションを離脱する」


 てきぱきと指示をするメイアに、皆は困惑しながらも命令に従う。

封鎖の危機を免れたのは分かる。

閉じられた隔壁を解除して開いたのはカイであり、助けに来たのも分かる。

ただ何故カイが傷を負っているのか?

どうしてメイアがその傷の手当てをするのかが分からない。

聞こうにも聞けない雰囲気を壊してくれたのは、様子を見ていたジュラだった。


「脱出するのは賛成だけど、大丈夫なの?
まだ何か罠とかあるかもしれないじゃない」


 背後で頷く一同。

カイは笑って首を振った。


「大丈夫。もう何もない。
ミッションはもう動かない」


 カイはそのまま上を見上げる。


「ここはもう・・・・眠りについたんだ・・・」


 ほろ苦い表情を浮かべ、カイは消えゆく声で呟いた。

何か言いかけたジュラだが、カイの顔をじっと見て顔を曇らせる。

そこへ忙しない足音を立てて、急接近する影があった。


「宇宙人さんっ!」

「ぶわぁっ!?」


 突然胸元に飛び込んで来た柔らかな感触に、カイは仰け反って倒れる。

困惑するカイを尻目に、嬉しげに抱き付いたディータは頬擦りする。


「やっぱり助けに来てくれたんだぁっ!
ディータね、宇宙人さんが来てくれるって信じてたよ」

「分かったから離せ!?いてえだろうが!」


 じたばた喘ぐが、ディータの耳には届かない。

感謝と感激で胸が一杯で、ディータはただカイの温もりに酔っていた。

至福と苦痛。

二人が全く異なる感覚を味わっていた時、背後から人影が乱暴に手を伸ばし引き剥がす。


「何やってるのよ、あんたは。
カイは怪我してるんだから離れなさい」


 そのまま抱き上げて遠ざけるバーネット。

二人の様子に黙っていられなくなったらしい。

ディータは残念そうにしながらも、カイを心配そうに覗き込む。


「宇宙人さん、お怪我大丈夫?」

「お前のせいでしこたま痛い」

「えぅ、ごめんなさい・・・・」


 歯に衣着せぬ言い方に、ディータはしょぼんとする。

カイはしばしじっと見つめ、嘆息して言った。


「・・・謝る事はねえよ。
お前にはちっとは感謝してるから」

「え?え?」


 何の事と目をぱちぱちさせるディータ。

もしもディータが自分を信じなければ、今頃は――

何も分かっていない無垢な表情に、カイは小さく微笑みを浮かべる。


「・・・何でもねえよ。
黒髪、そいつうるさいから早く連れてけ」

「はいはい。行くわよ、ディータ」

「う、うん!じゃあ宇宙人さん、また後でね!」


 二人連れ添って、離れて行く。

残されたカイとメイアは互いに押し黙って、そのままでいた。

救助班が救急箱を持って来て、メイアに渡す。

メイアは一つ頷くと、カイに向き直る。


「服を脱げ。手当てをする」

「ええっ!?服ってお前・・・」

「恥ずかしがっている場合か。嫌なら無理に脱がせるぞ」


 カイは嫌そうな顔をし、ふと不思議そうにメイアを見る。


「どうした?早く服を・・・」

「いや、それはいいけど・・・
お前、嫌がってないな」

「?何がだ」

「だって男の裸なんぞ・・・」


 見たくないだろう?と言い掛けて、押し黙る。


「・・・お前には借りばかり作っているからな。
少しは返しておかないと」


 瞳を閉じて――

メイアは今までカイが見た事がない優しい表情を浮かべていた。


「べ、別に俺はんな大した事は・・・」

「ふふ・・・お前ならそう言うだろう。
お前は・・・そういう男だ」


 救急箱から清潔な布を取り出し、メイアは血で塗れたカイの頬を拭いた。


「・・・・そういう男なのだと・・・やっと分かった・・・」

「・・・・?・・・・」


 メイアの言葉に、首を捻るカイ。

本人は何も分かっていない。















――それでいい――















 メイアはただ、そう思った。


「痛かったら言ってくれ」

「だ、大丈夫だよ。この程度」

「・・・では遠慮はいらないな」


丁寧に血を拭いてくれるメイアに、カイは照れ臭そうに目を閉じた。














――説明は後でいいか――















 忙しなく動き回る周囲の中で――

二人の時間は止まっているかのように、静かで穏やかだった。






















<to be continues>

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