VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action13 −入手−




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 ミッション中央・メインシステムルーム。

円形に展開するミッションの中心軸に当たるフロアで、ミッション内全システムを統括するコンピューターが保有されている。

かつて地球より旅立ったエンジニア達がミッションを建造する上で、科学技術の粋を凝らしたシステムがここにある。

膨大なシステムコンピューターに、全フロア内を一望出来る巨大モニター。

その全てを制御するコンソールの前で、一人の男が悠々と座っていた。


「やれやれ・・・頭脳労働は肩が凝って仕方ねえぜ」


 風変わりな衣装に隠された逞しい肉体を鳴らしながら、ラバットは見上げる。

長年の歳月で老朽化したメインシステム――

休眠状態に入って当の昔に停止していた筈の機能が今、着実な動作を行っている。

ラバットは機能しているシステム類を満足げに見つめ、自分の手の平を払った。


「長い間放置されてたせいで埃だらけだぜ、たくよ・・・・
ま、動いてくれただけ御の字だがな」


 一か八かの賭けだった.

カイが約束した時間は一時間足らず。

それもギリギリまで粘っての公算だった。

それ以上長くなる事はなく、短くなる可能性は十分にあったのだ。

ラバットが持つ秘術と知識を最大限に活用しても、時間はぎりぎりだった。

今でこそ悪態をつける余裕はあるが、先程まで冷や汗混じりに死に物狂いで手を動かしていたのである。

その全ては――















『―――してもらいたんだ』














『「フロア内を封鎖」してもらいたいんだ』














 その一言で――

ラバットはカイの戦略の全容を悟った。

敵を誘き出し、閉じ込める――

ウータンが敵を撹乱する役目。

カイが敵を誘い出す役目。

ラバットが敵を閉じ込める役目。

単純ではあるが、作戦がうまく行けば確かに有効的だと言える。

何も敵を倒す必要はないのだ。

わざわざ命懸けで戦う理由もなければ、危険を冒す必要もない。

このミッションには内部に保管されている物を求めて来ただけである。

敵が襲い掛かって来たからといって、相手をしなければいけない理由はなかった。

ウータンに敵の相手をさせると言った時には流石にラバットも反対はしたが、ウータン本人が乗り気だった。

人語を話せないとはいえ、カイに頼まれた時のウータンの表情を見ればすぐに分かる。

自分の相棒がやる気なのを見て、ラバットもようやく本気になった。

そのまま二手に分かれて、カイとウータンには敵の陽動に―

ラバットはここ中央メインシステムを探し出して、システムの復旧を行った。

敵を捕獲するのに必要なのは、フロアの把握と隔壁の作動。

カイが誘き寄せた敵の位置をモニターで確認し、そのフロアの隔壁を降ろす。

さすれば見事敵を封じ込める事が出来る。

ラバットにとって問題だったのは、その全ての行程を一時間で行う事だった。

成功したからいいようなものの、システムが作動しなかったら大変な事になっていた所だ。

数々の修羅場を潜り抜けてきたとはいえ、重労働であった事には変わりはなかった。

作業も終わり、ラバットは一息つく。


「にしても・・・・あのガキ、信じられねえ事しやがる・・・・」


 カイがどのように敵を誘き寄せたか――

ラバットはモニターを見ながら、顔を険しくする。

映し出されているのは敵が辿ったルート。

保管庫から通路、通路から別区域に至るまでをモニターが全て映像化していた。

点々と付いている血――

捨てられた血塗られたガラスの破片――

流れる血を何度も見てきたラバットでも、背筋にゾクリと走った。

カイは―――自分の身体を切り裂いたのだ。

何処を切ったのかはその場にいないラバットには分からない。

ただ、現場に残された血の量を見るだけでかなり派手に切り裂いた事が分かる。

しかも鋭利な刃物ではない。

きわめて切れ味の悪いガラスの破片で切ったのだ――

その苦痛は想像を絶する。

切れ味のいい刃物なら、実は苦痛はそれ程ではない。

切るという行為を一瞬で行う為に、人体が苦痛の信号を出すよりも早く切れる為だ。

だが、ガラスの破片ではそうはいかない。

ガラスはそもそも切る為の道具ではないのだ。

大きな傷を作るには、血液を大量に出すには苦痛を伴う。

敵に気づかれないように悲鳴を堪えて、着々と自分を切り刻む。

カイの苦痛と覚悟がいかなるものだったか、想像が出来るラバットはただ驚くばかりだった。

それに切り裂いて終わりではない。

血を流した後は通路に垂らして道標とし、誘き寄せる場所まで辿り着いたら血を拭う。

それ以上誘導する必要がないからだ。

垂らすのを止めて血を流さないように止血をし、その場を離れる。

血がその場所で止まっていれば敵も驚き、一瞬でも足を止めてしまう。

見事なまでに周到な戦略だった。

ラバットはカイの取った行動を考え、宙に映し出すように仰ぎ見る。

口だけではない――

短時間で練った戦略にしては、大胆ではあるが効果的だった。

まだ知り合って間もない人間を信用し、平気で片棒を担がせる。

作戦を指揮する本人も危険な役割を果たし、その上でさらに戦略を練って行動している。

自身が傷つく事を恐れず、芯に覚悟を巻いている。

ラバットはカイという男の評価を改めなおした。

まだまだ未熟ではある。

自分のような男を簡単に信用する甘さ。

着眼点は優れているが、一度思い込むと突っ走る単純さ。

善悪を信じる幼さ。

一人で人生を背負って生きていくには、カイは未成熟だ。

まだまだガキだとは思う。

が、それでも―――


「・・・おもしれえな、あの小僧・・・・・
それに―――」


 ラバットはちょいちょいと手元を操作する。

広大なミッション内の全てのシステムを掌握するのは不可能だが、一部のみ機能を行使する事が出来る。

ラバットは自分が操作した隔壁内の様子をモニターに大画面で映した。


「こいつらもな。
化け物の正体は可憐な乙女達とはねえ・・・・」


 真面目な顔を取り繕ってはいるが、声の響きは楽しげなラバット。

引き締めようとしているようだが、見る目はだらしなく緩んでいた。

モニターに映っている敵の正体。

隔壁に閉じ込められて、訳も分からずに右往左往している女達がそこにいた。

見れば、殆どが十代から二十代の若い女達ばかり。

モニターに映る光景を目にして、ラバットは頭を掻いた。


「『刈り取り』の連中じゃねえのは確かだな。
ん〜、どうしたもんかな・・・・・
女相手に危害を加えるのは俺の流儀じゃねえし」


 画面越しに女達を凝視しながら、ラバットはぶつぶつと呟く。

考え込む仕草は柄になく真剣で、対処に悩んでいるようだ。


「にしても、あの野郎も全然気づいてないみたいだな。
教えてやるべきかどうか・・・」


 作戦も成功しカイは今頃休息を取っているか、こちらへ向かっているだろう。

いずれにせよ、もう一度合流する必要がある。

その際に閉じ込めた者達についてを話すべきかどうか――

カイは完全に「刈り取り」であると信じている。

だからこそ戦略を立てて、自らを傷つけてまで作戦完遂に徹底した。

そのカイに実は「刈り取り」ではなく、不審な女達一行だと教えればどうするだろうか?

考えていたラバットだったが、その沈黙は次の瞬間破られる。

背後より扉が開く音が――

瞬間、行動に出る。


「おーい、おっさん。生きてるか〜」

「キッキ、キィッキー!!」


 男の声と獣の鳴き声。

ラバットはふっと全身の力を抜いて、腰だめに構えていた銃を仕舞う。

こちらへ歩いてくる気配を感じて、ラバットは手早くコンピューター操作を行った。


「いたいた。何だよ、何かあったかと思ったじゃねえか。
返事くらいしろよな」

「キキッキッ!!」

「悪い、悪い。ちょっと作業中だったんでな」


 カイ=ピュアウインドにウータン。

今回の作戦の功労者達が顔を見せる直後、ラバットの背後のモニターが消える。

女達の映像はシャットアウトして、モニターは真っ黒に染まった。


「ん?今、何か映ってなかったか?」


 一瞬ちらりと見えた画面に、カイは怪訝な顔をする。

カイの疑問に対して、ラバットは平然とした顔で答えた。


「ミッション内のシステム情報にアクセスしてたからな。
お陰でこの馬鹿でかい施設の全てが把握出来た」

「お、と言う事は・・・・」


 目を輝かせるカイに、ラバットはにやっと笑って答える。


「何処に何があるかが俺の頭に全部詰め込まれたって事だ。
お宝のある場所もばっちりだぜ」

「マジか!?よっしゃー!!
余計な時間も食わずに、全部手に入れることが出来そうだな」

「おうよ。後は手に入れて、ここからオサラバするだけだ」


 喜び勇むカイの表情に、先程の疑問の色が消えている。

もう頭にも残っていないだろう。

敵の正体が何か、ここから見る事が出来るのか?

その全ての疑問がラバットの言により消滅し、目先の利益のみに心が躍っている。


「作戦も無事成功したし、お宝も無事手に入れられそうだ。
これもお前が頑張ってくれたおかげだぜ、ウータン」

「キキキ、キキッキッキ!」


 二人(一人と一匹)が仲睦まじく手を取り合っているのを見つつ、ラバットは口元に笑みを浮かべる。

そのまま背後に寄りかかったかと思うと、利き腕を背後に回してシステム操作を行った。

途端、手元の小型画面に文字の列が映る。

意味を端的に表すと――



『モニター情報閲覧をプロテクトしますか?』

『YES』



 最後に了承をし、キーをクリックする。

打ち込まれた命令をコンピューターは忠実に守り、情報は全て完全に封鎖された。

プロテクトされた情報は命令者にしか閲覧は出来ない。

これでミッション内の全てを、閉じ込められている者達を見る事は永久に出来なくなった。

プロテクトを解除しない限り――

全ての作業はほんの数秒だった。

目の前で無邪気に喜んでいる人間には到底見えない仕上がり。

案の定、何も気づかずのままカイは周りを見渡した。


「それにしても汚い部屋だな・・・
部屋中のあちこちにガラクタが転がっているじゃねえか」


 ミッションのシステムを起動させる――

ラバットに頼んだのは他ならぬカイだが、実際に辿り着いてみると思っていた以上に雑然としていた。

システムのある場所はすぐに分かったのだが、中の様子までは事前には分からなかったのである。

初めて足を踏み入れて、予想外に汚かった事に驚いた。

システムを制御するコンピューター類はいいのだが、問題なのはその周り。

部品、金属類の破片、剥き出しになったコードや散らばっているデータディスクの数々。

床に散乱している機械類だけでも、足元を危くする程積まれている。

カイとウータンがラバットの元へなかなか近付けなかったのも、足の踏み場もなかったからだ。


「殆どが使い捨てだな。
使われなくなった部品とかを全部ここに収納したんだろう。
施設そのものが放置されてるんだ、片付けるやつもいねえよ」

「使えそうな奴とかもあり・・・・・」

「?お、おい・・・」


 ラバットが顔色を変えて近づくのも分からず、カイの目は色をなくす。


「・・・そう・・・・なの・・・に・・・・」



   バタッ



 視界が暗転し、カイはその場に倒れた。















・・・・・・・














『ここに、僕の研究の起源があります』















 差し出したのは――















・・・・・・・














「――――い!おい!!
しっかりしろ!」

「・・・・・ん・・・・・」


 耳元で聞こえる怒鳴り声に促されるように、意識が覚醒する。

カイは目を開けて、ぼんやりと顔をあげる。

目の前にはウータンの泣きそうな顔。

そして、ラバットの怒り顔があった。


「お前、腕を大怪我してるなら早く言え!
処置が遅かったら、手遅れになってたところだぞ!!」

「腕・・・・?あ・・・・・・・・」


 カイは鉛のように重い頭を振って、思い出す。

敵を誘う為に自分が行った手段を――

カイはそのまま自分の腕を見下ろす。

システムルーム内の暗さで見えなかったが、間近で見ればすぐに分かる。

手短な布で縛り付けただけの左腕――

完全に血が滲んでおり、赤黒い斑点が各箇所を点々と不気味に染め上げている。

いや、染め上げていた――先程までは。


「・・・治療してくれた・・・・のか・・・」


 綺麗に巻かれている包帯を見て、カイは元気なく呟いた。


「応急手当だ。ちゃんと治療するには、船に戻らねえといけねえ。
医療装置なら傷跡すら残らないから安心しろ。
むしろ倒れたのは貧血だ貧血。
・・・・面倒かけやがって」


 ぶっきらぼうだが、どこか安心したようにラバットは言う。

不機嫌な顔とは裏腹の心配を感じたカイは、素直に詫びた。


「・・・・悪い・・・大した事ないと思ってたんだが・・・」


 行動に移すまでは躊躇いはあった。

事実ガラスの破片を握り締める手は震え、違う方法を考えようかとも思った。

が、瞬時にカイは弱音を蹴り飛ばした。

この気持ちが曲者なのだ。

やめようとする気持ち、苦しみから逃げようとする性根。

弱さを引き起こす自分こそが敵なのだ。

ここで逃げたら・・・・

カイは歯を食いしばって、





腕にガラスを突き刺した―――






「あほか。重傷だ、重傷。
ちゃんと手当てするまで動かすな」

「おう・・・・・」


 激痛はひいたが、腕は今までとは比べ物にならないほど重い。

血が抜けたのに重くなる腕に、カイは奇妙な皮肉を感じて力なく笑った。

重傷、確かにそうだろう。

空元気を出していたさっきまでと比べて、体調も悪い。

今では立つのも辛かった。

カイはそのまま床に身体を預けて、落ち着かせるように横たわった。


「・・・ふう・・・・・・ん?」


 そのまま顔を横にしたカイの目線に、何かが引っかかった。

積もりに積もっている部品類。

残骸の山々に埋もれて分かりにくいが、箱のような物が床に転がっている。

少し気にかかってカイは右腕を伸ばし、掴む。

手元に手繰り寄せて見ると、それは小さな金庫だった。


「??・・・ガラクタかな・・・・・」


 古ぼけて、錆付いた金庫。

大きさは手の平大くらいで、中に入れられる物は些細な物でしかないだろう。

カイは何気なく掴み、中央のボタンを押した。



ガチャッ 



「・・・なんだこれ・・・・?」


 中に入っていた物――

それは一枚のディスクだった。



























<to be continues>

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