VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



Action13 −取引−




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 一種即発とは今のような状態を言うのであろう。

旧艦区格納庫内において小型ガスバーナ−を片手に不敵に立っているカイに、

メイアを戦闘に女海賊達はそれぞれの武器をカイに標準を定めて敵対している。

両者が互いに睨み合う空間の中、隅の方で全面降伏をした士官候補生達が成り行きを見守っていた。

候補生達の脳裏にあるのは、捕らえれた事への屈辱と女達への恐怖と嫌悪、

そして、一つの疑問がそれぞれに共通してあった。

すなわち「女達と敵対しているあの男は誰だ?」という疑問である。

唯一の例外であるドゥエロもカイの行った行動には不可解な疑問点があった。


(何故このような無茶な行動に出たんだ?)


 アルコールを散布しての命を盾にした脅迫行為、一言で言うと無茶だった。

現在も非常に危ういバランスで成り立っている状態なのだ。

もし女達が一つでも疑問点、あるいは強要的行動に出ればカイは即座に殺される。

傍目で見ているドゥエロに、そこまでして危険な行動に出るカイの行動理念が掴めなかった。

今までエリートの道を歩み、自分の将来すらも予想できていた彼の明晰な頭脳でも答えが出せない人物。

ドゥエロが自分の中で生まれつつある感じた事のない気持ちを自覚していた。


(どうでる・・・・三等民君・・・) 


 それぞれが視線や想いが交える中で、カイはゆっくりと口を開いた。


「さーて、お前らの親分と話をさせてもらおうか」

「・・・・何を話すつもりだ?」


 カイの隙をうかがいながら、メイアはカイに尋ねる。


「決まってるだろう、お前らにはこの船から出て行ってもらう。
あー、それとそこに捕まっている男たちも解放してもらうぞ」

「ふざけるな。そんな条件が飲めると思うか」

「そうよ、そうよ!男の癖にいい気にならないでよね」


 メイアの言葉に続いて、後方にいたジュラも怒りのこもった叫びを上げる。

カイは小型ガスバーナーを再び着火して、ゆっくりと床に濡れている酒に近づける。


「自分の立場が分かってないようだな。俺は別にいいんだぜ?
このまま火をつければお前らはただではすまない。結果的に大ダメージを与えられるんだ。
その後、ゆっくりとお前達を捕まえればいい事だからな」

「あんたこそ自分の立場が分っていないようね。
ここで引き金を引けば、あんたが着火する前に殺す事はできるわよ!」


 バーネットは自分の趣味で現在では廃れつつある旧式の銃機器を愛用している。

数メートル離れているカイの眉間に、ハンドガンの弾丸を正確に命中させる自信はあった。

だが、カイは脅しにも怯まなかった。


「別にいいぜ。やるならさっさとやれよ。
ただ、俺が死んだ瞬間に手からバーナーは離れる。
この小型バーナーは落ちる際の風圧では炎は揺らぎすらしない。
俺は死んだと同時に床のアルコールに着火、そして燃え上がる、と。試してみるか?」

「く・・・・・・・」


 きつく唇を噛み締めて、バーネットは口を閉ざした。

未来的予測が誰もできない以上、カイの言葉が真実かどうかを試すほどの勇気はなかった。

もし本当にそうなれば、自分達は再起不能にされてしまう。


「うんうん、大人しくしてくれれば俺も何もしねえよ。
じゃあ話を戻して、と。お前らの親分に話をさせてもらおうか」


 メイアに視線を向けると、彼女は屈辱と怒りに体を震わせながら通信機を取り出した。

すると、通信機から着信のダイヤル音が鳴り響く。

「!?副長からか・・・・」


 横目でカイを見ると、顎をしゃくらせて「出ろ」と了承の合図を出していた。

メイアは一度深く深呼吸をして自分を落ち着けると、通信機の電源を押す。


「こちら、メイア。副長にお知らせしなければいけないことがあります・・・・」


 メイアは現在の状況を、そしてカイの要求を事細かに説明した。
















「そう、分かった。その男と話がしたい。こちらから取引をしてみよう」

「了解。申し訳ありません、私がいながら・・・・」

「かまわない。誰にも予測はできない事だ」


 事実、状況を聞いてもプザムには信じがたい出来事だった。

メイアの謝罪を穏便に収めて、ブザムはその男との交信を希望した。


「大丈夫かしら、メイアちゃん達・・・・・」

「うーん、その男にもよるけどね」


 横で不安そうにしているエズラに、パルフェもさすがに答えようがなかった。

状況ろくに知らされていないのだ、無理はない。

二人が見守る横で、難しい顔をして黙り込んでいるブザム。

冷静に頭の中でいくつかの打開策を考えながら、メイア達を捕らえたという男の応答を待った。

やがて渡されるようなパシッととした音が響いて、一人の男の声が伝わってくる。


『・・・あんたが親分か?』

『随分若いな・・・・私は海賊団副長を務めるブザムだ。お前は?』

『俺はカイ。酒場の息子だ』

『さ、酒場の息子?』


 思っていたよりも若い声、そして不可解な紹介をするカイに眉をひそめるブザム。

実際は素直に紹介しているだけだが、なまじ駆け引きに長けているブザムには相手の真意が掴めなかった。

困惑するブザムをよそにカイは話を続ける。


『それより!俺は親玉と話をさせろといったんだぞ。何で副長のてめえが出るんだよ』

『私は今回の仕事を一任している。いわば責任者だ』

『ふーん、まあいいか。状況は青い髪の女から聞いているな?
てめえの子分達を預かっている』


 カイの声の背後から何やら音声が不明瞭に聞こえてくる。

どうやら聞き咎めた他のクルー達がカイの言葉に文句を言っているのだろう。

どうやら無事であることが確認できたブザムは一息ついて本題に入る。


『状況は理解している。お前の条件を聞こう』

『話が早いな。まずこっちで今お前らの子分に捕まっている男達がいる。こいつ等を解放しろ』

『フリーズした男達か・・・・分かった。元々脱出させる予定だった。異存はない』

『本当かよ。あてにならねえな』


 不信がるカイの言葉を流して、ブザムは交渉を続ける。


『それで?こちらは男達を解放するんだ。当然、そちら側の人質も解放してもらえるんだろうな?』

『いっ!?ちょっと待てよ、まだあるぜ』

『それはおかしい。こちら側は人質を解放する。ならば、そちらも解放するのが流儀だ』

『馬鹿言うな。お前らも船から出て行ってもらうぞ』

『その条件ではそちらが一方的に有利だ。互いに人質をとっている今の状態では待遇は同じにしてもらおう』

『え、えーと・・・・』


 通信機の向こうで必死に悩んでいるであろうカイの呻き声に、ブザムは内心確信した。

相手側は取引の類に長けていない素人である事、そして根が善人である事を。

もし相手が根っからの悪党であるならば、条件を飲む振りをしてしまえばいい。

後で約束を破って、自分達のクルーを殺せばそれですむ話だからだ。

だが、交渉相手の男は必死になって妥協案を考えようとしている。

すなわち相手側は人質を殺すつもりがない事、そして取引を守る信頼の置ける相手であるという事だ。


『え、えーと・・・・じゃあこうしよう。
女達は解放するからこちらに捕まっている男達をちゃんと解放し、脱出させる。
そしてお前ら全員が出て行く見返りにこの船の物資とかはくれてやる。それでどうだ?』


 悪くない提案である。本来の目的が物資の強奪であったからだ。

ブザムは念入りに提案をいろいろな角度で照らし合わせて、了承の返答を返した。


『分かった。それでかまわない』

『よし!じゃあまずは男達の解放をしてもらうぞ』

『その後でお前が女達を焼き払わないという保証はないな』


 ブザムはここで相手側にカマをかけてみる事にした。

すると通信機の向こうでカイは怒った様な声を上げる。


『誰がそんな汚い真似をするか!?一度言ったことは守る!それが男だ!!』

『ほう、その言葉を信じるというのか?』


 相手に害はないと悟り揶揄するようにブザムが言うと、カイは自信たっぷりにこう返答した。


『当然。宇宙一のヒーローになる俺の言葉に嘘はねえ』

『宇宙一の・・・ヒーロー?ふふ・・・』

『あ、こら!てめえ笑ったな!何がおかしいんだ、こらぁ!』


 凄んではいるものの、通信機越しではあまり迫力がなかった。

ブザムは相手に謝罪はするものの、口元にはまだ笑みがこぼれていた。


『悪かった、お前の自尊心を傷つけてしまったようだ』

『ま、まあ分かればいいけどよ。じゃあ早速お前の部下に命令してもらおうか。
俺の言葉なんて信じようとしないだろうしな』

『分かった、先程の青い髪の女に代わってくれ』


 交渉を終えて、ブザムは通信機から口を離した。

すると待ちかねたように、パルフェとエズラが口々に質問をしてくる。

「だ、大丈夫なんですか!?メイアちゃん達は!?」

「ディータとかも怪我とかしてませんよね!?」


 迫ってくる二人を静かに制して、ブザムは自信を持って言った。


「大丈夫だ。相手の男は人質には何もしない」


 面白い男だと口元を緩める副長に、二人は互いに顔を見合わせた・・・・・・・・・















「海賊達が旧艦区を乗っ取りにかかりました!」

「艦内の情報が出力されています!!このままでは情報がリークされる危険性が!?」


 旧艦区を無情に切り捨てて脱出を図った新艦区は、安全圏まで退避して状況を判別していた。

悲鳴のようなオペレーターの悲痛な報告が次々と伝え出されてくる。

どの報告も極めて状況が悪化していく内容ばかりで、聞いている首相は苛立ちを抑え切れなかった。

「憎き女どもめ・・・・船の乗っ取りにかかりおったか。どこまでも忌々しい連中だ!」


 艦長席の肘掛けに勢いよく殴り、拳を震わせる首相。

もはや冷静さも満足に保てない首相は、怒鳴り散らすように艦長に詰め寄る。


「奴らの乗っ取りを阻む手はないのか!貴様は艦長であろう!」


 ここまで追い込まれた一因に首相があるのだが、彼の頭にはすっぽり抜け落ちていた。

艦長とて考えてないわけではなかったが、生憎状況を打開できるほどの手立ては見つからなかった。


「・・・駄目です。ここまで追い込まれた以上最早・・・・・」

「ち、使えん奴め。こうなれば・・・・・・」


 首相はすっと立ち上がり、鋭くモニターを睨む。

首相の態度に嫌な予感を感じ止めようとしたが、すでに後の祭りだった。


「宙航魚雷『村正』発射準備!!」

「ええっ!?ちょっと待ってください!?」


 命令を聞いたクルー達全員が目を見開いて、首相を見る。

それほど今の命令は常軌を逸脱していた。


「首相!!旧艦区を破壊するおつもりですか!!そんな事をすれば艦区に残されたクルー達は!」


 横で聞いていたアレイク中佐もさすがに黙っていられなくなったのか、首相に詰め寄る。

一同の批判の視線を全員に受け止めて、なお彼は考えを変えるつもりはなかった。


「むざむざ敵の手に落ちるくらいなら・・・・・・いっそこの手で!!」

「そ、そんな!?」

「さっさと準備をしろ!!」


 もはや頭に血が上っている首相に、何を言っても無駄だった。

アレイク中佐は血がにじむほど唇をかみ締めて、モニターの旧艦区を見つめる。


(カイ君・・・・・・・・・・)


 カイの懸命の努力をよそに、旧艦区の完全爆撃の準備が進められていった・・・・・・

































<First encounter その14に続く>

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