VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action5 −宝捜し−




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 宇宙中継基地ミッションを前に、マグノ海賊団は外的調査を続ける。

行方不明だったカイの乗る予備ドレッドが発見されたとあってか、外部スキャンを行うブリッジクルー達も血色良く作業を行っていた。

内部調査を行う事を申し出たブザムの申し出は、マグノの一声で即決定。

カイの救助に加えて、長旅を続ける上で必要不可欠な物資補給も出来て一石二鳥だった為だ。

発見から一時間連続の調査の結果、敵及び防衛施設の反応は皆無であると断定。

ミッション内部探索による長期停留の歯止めとなる要素は何もないと分かり、総指揮を取るブザムも重い腰を上げた。


「ミッションの調査を開始する。メイア、探索班を編成し内部へ突入。
くれぐれも用心を怠るな」


 危険性はないと判断されても、何が起きるかは分からない。

数ヶ月の旅を経ての教訓だった。

慎重な姿勢を崩さないブザムに、通信先のメイアも厳しい姿勢で望む。


『ラジャー、メンバーの選抜は既に出来ています』

「選抜は終わっていたか。仕事が早いな」


 命令を受ける前に準備が整っている様子のメイアに、ブザムは言葉軽くしながらも内心驚いていた。

敵襲撃なら早期準備は当たり前だが、今回は未明の基地探索である。

もしも不利益な要素が一つでも基地に内在していた場合、調査は行われなかった可能性だってあった。

行方不明のカイが乗じているとはいえ、本来カイは味方でもない。

ブザムがマグノ海賊団の安全を優先して、カイを見捨てる選択を行っていたかもしれないのだ。

なのにメイアは否定的見解をブザムが示さないと断定して、準備を整えてしまっている。

慎重かつ客観的視野を持つメイアにしては珍しい主観的な結論だった。

ブマムの内心の戸惑いを気づいてかいらずか、メイアはこう述べる。


『本当を言いますと、私が独自で選んだ訳ではありません』

「ほう、というと?」


 ブザムが眉を潜めると、メイアは瞳を閉じて――


「カイがあの基地にいると分かった途端、続々とパイロット達が申し出たのです。
私が行ったのは正確に言うと、希望者の制限です」

「メイア・・・」


 ブザムはおろか、ブリッジにいる面々全員が目を見開いている。

モニター先に映し出されているメイアの穏やかな微笑を目にして――


『パイロットほぼ総員が口を揃えて言っています。
借りを返したい、と』

「・・・なるほどな・・・・」


 ブザムはメイアの言葉を聞いて、感銘を受けたように眼差しを閉じる。

心配している者がいる、助けたいと願っている者がいる。

感謝している者がいる――

今までのカイの行動は決して無駄ではなかった。

蔑ろにされていた訳でもなかったのだと――

今ミッション内にいるであろうカイに伝えてやりたかった。

ブザムは心の内の気持ちを静め、メイアを見る。


「分かった。ただ、今回のミッション探索はカイの救出だけではない。
我々が故郷を目指す上で必要となる物資補給の意味もある。
救出に乗り出したい気持ちは分かるが、目的を見失うな」

『・・・了解、皆に伝えておきます』


 そのまま映像は消えて、中央モニターは真っ黒になる。

ブザムはしばし映像の余韻を追っていたが、やがて溜息を吐いた。

目的を見失うな、それは部下のみではなくメイアにも当てた忠告である。

その意味を察してか、通信先のメイアが一瞬声を詰まらせたのをブザムは見逃さない。





『俺が宇宙一のヒーローになって、お前を幸せにしてやる』





 常識的に考えて、メイアが聞こえていたとは思えない。

生死をさ迷う状態で、意識を保てる訳もない。

カイの心からの叫びも奮戦も、メイアは知りようがない筈だ。

鳥型に攻撃されたメイアに意識を戻ったのは事後。

全てが終わった後だ。

そう考えるとカイとの接点がないように思えるが、実際あの戦いの後二人は少し近づいた。

仲が良いとはまだまだ言えないが、酷薄な関係ではもうなくなっている。

少なくとも、メイアにカイを敵外する様子はもう微塵もない。

それだけでも、大したものだと言える。

心を閉ざし続けていたメイアに拒絶意識を消し飛ばしたのは、あの時の言葉なのだろうか?

奇跡や心の疎通等と言う曖昧な事象は信じていないブザムだったが、今のメイアを見ているとそう思えてならなかった。

いずれにせよ、カイをこのまま野放しには出来そうもない。

ブザムは口元を緩めて、通信モニターを切り替える。


「警備クルーも探索班と同行。
救出対象であるカイは重度の衰弱状態にある可能性がある。
栄養補給を行えるようにしておいてくれ」

『衰弱!?
分かりました、メンバーを編成致し装備を整えます』


 数日前セキュリティが整備されて、カイが何も口にしていない事は報告されている。

新型兵器の一件もあり、異例の差別に晒されたカイの身辺をブザムはそれとなく監視していたのだ。

結果として事件類は何も起こらずだったが、カイが不遇だったのには変わりはない。

今回の事件が起こり、一日半が過ぎている。

人間が生命を保つにはそろそろ限界が近い。

それに、ミッションに突撃して大穴を空けたのも気にかかる。

もしもカイが意識不明の昏睡状態に陥って、そのまま突っ込んだのなら只では済まないだろう。

いずれにせよ、救出は急ぐ必要はあった。


「・・・簡単に死ぬような男ではないが・・・」


 ブザムは気づかない。

冷静さを装ってはいるものの、拳をしっかりと握っている事に――














「あぐっ、はぐっ、んぐんぐ・・・・くちゃくちゃ・・・」


 両頬をふっくらさせて、口一杯に詰め込んで頬張る。

薄く汁が垂れている缶詰の肉、乾いたパンに長持ちし易いビスケット。

手元の携帯用スプーン・フォーク類は千差万別に使用され、はみ出した食料の欠片が床に散らばりを見せる。

胃に飲み込まれる速度と口に詰め込まれる瞬間はほぼ同時で、見事なまでに胃に消化されていった。


「ん、ん・・・・ぷはぁー!」


 もくもくと平らげていく内に突如喉を押さえ、慌てて床に置かれていた水筒を掴んで口に流し込む。

ごくごくと喉が鳴り、潤いを見せた所で満足そうに一息をついた。

その全ての様子を観察していたラバットは、深々と嘆息する。


「ちっとは遠慮しろ。
人の物だと思ってガツガツ食いやがって」


 ラバットが半眼で告げると、対面にいたカイは食べるのを止めずに顔をあげる。


「ほうが・・・はぐ、ほぐ・・・・ふう。
しょうがねえだろう、四日以上何も口にしてなかったんだぞ俺」


 ラバットと名乗った男との襲撃戦から数十分後。

ラバットと共にしていた生物・ウータンの仲介(?)で、二人は毒気を抜かれて互いに矛を収めた。

両雄共に情報不足であったのも戦いが収まった一因でもある。

ラバットはカイに関する情報がなく―

カイは自分が不時着した場所、そして突然の襲撃者に関する情報はない。

二人とも情報無くしても不便ではないにしろ、やはり気になってしまう。

名乗りあった二人は情報交換という事で場は収まり、次の瞬間乱れた――















『ところで、お前に頼みたい事がある』

『おいおい、いきなりかよ。
何か聞きたいなら、対等の証として俺の質問にも答えてもらわないとよ』

『ちげえよ・・・・
何か・・・・食う物・・・ないか?』

『はあ?何言って・・・・って、おい!』

『・・やべ・・・げん・・・・かい・・・・』















 そして、そのまま倒れた――















「たく・・・これは借しにしておくからな」


 いきなり倒れたカイに驚愕しながらも、ラバットは仕方なく介抱する。

そのまま見捨てても良かったのだが、ウータンが泣き叫んでカイにしがみ付いていたのだ。

庇った時といい、カイに懐いてしまっている様だ。

このまま放り出しても、ウータンがカイに離れなければ意味がない。

渋々ラバットは持っていた手荷物から食料を用意したのである。


「堅い事言うなよ、おっさん。
これも人助けじゃねえか」

「おっさんだぁ!?
俺にはラバットって名があるし、第一まだおっさんって呼ばれる年じゃねえ!」


 気軽に対応するカイに、ラバットは額に青筋を浮かべて怒鳴る。

形相からするとかなりの迫力があり、一般的な生活を送る者が見れば怯むだろう。

が、カイは目の前の男の本当の怖さを、今さっき骨身に染みる程味わったばかりである。

今更表面的な怒りでは怯んだりしない。


「ラバットって何か言いずらいじゃねえか。
それに俺から見れば、あんた十分におっさんだぞ。
な、ウータン」

「キッキ」


 何故かラバットではなく、カイの傍らにいるウータンが笑顔で声を鳴らす。

直接的な意味こそ理解は出来ないが、連れ添うラバットには察する事が出来た。


「あっさり俺を裏切りやがって・・・・
にしても、お前随分こいつに懐いているな」


 カイに寄り添うウータンの様子を見て、ラバットはしみじみ口に出す。

余程意外なのだろう、何気にはしているが驚いている風にも感じられる。

カイは横にいるウータンに視線を向けて、口を開いた。


「ところで、このウータンってのは何なんだ?
こんな生き物見た事ないぞ」


 記憶を失っている以前に、カイの故郷であるタラークに生物類は存在しない。

勿論鼠やゴキブリ等の昆虫類はいるが、人間の腰元程にもある大きさの生物はいない。

理由としては簡単で、環境が適応されていない為だ。

人間が生きていくのも大変な土地に、動物が住める環境を整えるのは不可能である。

クローン技術が優れ、人間の培養が可能になっても同じ。

環境が適応しなければ、すぐに死に絶えてしまう。

何よりタラークは人間社会であり、男という生物を尊重している。

人間第一な世界には、動物そのものが不必要なのだ。

カイが酒場での生活を数年間過ごしても、動物を見た事がないのは当たり前だった。


「てめえの住むタラークにゃあいないのか?
ま、無理もねえかもしれないが・・・」


 ラバットはそのままウータンの毛深い頭をポンポン叩きながら言った。


「こいつはオランウータンっていう生物だ。
人間に近い遺伝子を持っていて、頭もいい。
俺の相棒でな、共に旅をしている」

「へえ・・・・」


 ウータンの頭から足の先までをまじまじと見つめるカイ。

人間ではない生き物。

生態から言語まで全く違う存在を目の当たりにして、カイは新鮮な感動を味わっていた。

タラークにいれば、絶対に出会えなかった生命の形。

毛並みを触れてみると、暖かい感触が伝わってくる。


「お前は一人なのか?」

「へ、何が?」


 半ばウータンに意識を取られながら、カイは疑問の声を上げる。

ラバットはそんなカイをまじまじと見つめて、言葉を反芻する。


「一人でこんな辺境に来たのかって事だよ。どう考えてもおかしいだろうが。
タラークからここまでどれだけ距離があると思ってやがるんだ?
ガキ一人単独で来れるとは思えねえな」


 そこまで言い切って、ラバットはカイに視線をぶつける。

カイはウータンから手を離し、ラバットと相対する。

興味本位に見えて、自分を疑っている眼差し。

敵・味方という曖昧な選別ではなく、明確な存在そのものの疑問。

カイは真っ向から目を離さずに口火を切る。


「・・・今は一人だ」

「今は?」


 メイア達と離れて一日以上が経つ。

あの海賊達が自分を探しに来てくれると思うほど、カイは楽観主義ではなかった。

今までの共同生活を振り返れば分かる。

女達は自分の事など当の昔に忘れて、今頃は旅を続けているだろう。

彼女達の使命は故郷を救う事であり、男との共同生活を続ける事ではない。

元々色々な突破的事態が重なって、今まで共に旅をして来たに過ぎない。

特に海賊入りを断ってしまったのだ。

そんな後で仲間でもない者を探す程、女達は暇ではないだろう。


「・・・ああ」


 ラバットの疑問に、カイはぽつりと言う。


「・・・今は、だ」


 視線を落とす。

未練は、ない――


「キイ・・・・?」


 物静かになったカイに何か感じたのか、ウータンは心配そうな表情でカイを見る。

カイはほろ苦い笑みを浮かべ、ウータンに何でもないと首を振った。

そんな二人の様子を少しの間見ていたラバットは、にっと笑って立ち上がる。


「よ〜し、じゃあてめえには飯代代わりに俺の手伝いでもしてもらおうか」

「手伝いだあ?」


 何で俺が―――と言おうとしたカイは、


「おう、お宝捜しだ」


 ラバットが楽しげに返した時、目の色が変わった。






























<to be continues>

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