VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action3 −哺乳類−




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 広大な宇宙に自らを鼓舞するかのように、それはあった。

空母クラスの戦艦を遥かに凌ぐ大きさ。

全長にして五キロを超える巨大なステーションである。

周囲を防衛施設で覆い、慄然とした設計により完成されている建造物の姿は都市を彷彿させる。

都市の周りには小惑星郡が繋がるように円形に並んでおり、間には小型の施設が数多く飛び交っていた。

その雄大な施設の前に、融合戦艦ニル・ヴァーナが待機している――


「間違いありません。遠距離スキャンで確認された前線基地です」


 この建造物を一番に発見したアマローネは、確認作業を終えて報告する。

敵との交戦で行方不明となったカイの探索に乗り出したマグノ海賊団一行。

敵味方もろ共自爆をせんとする敵をカイは打ち破り、そのまま消えてしまった。

自分達を助けたカイを探す決意を固めたマグノに、正面から反対する者は一人もいない。

そのまま昼夜欠かせずカイの行方を追ったマグノ達が唯一の手がかりとして発見したのが、この目の前の建造物だった。


「周囲に敵が潜んでいないか?」


 ようやく見つけた手がかりだが、油断は出来ない。

何しろ現在も敵領域の範囲内であり、人工物があったとしてそれがプラスになるかどうかは別問題なのだ。

少しでも気を許して踏み込めば、以前の砂の惑星のような手痛い罠が待ち受けている可能性もある。

前回はカイの機転により、メイア達主力パイロットは無事怪我もなく罠を突破した。

そして今、そのカイはいない――

ブザムは慎重に慎重を重ねて、詰めを誤らないように判断材料を出来得る限り手に入れたかった。


「敵反応、ありません。
基地周辺の防衛施設にも反応はなく、現状維持を保ったままです。
恐らく機能そのものが停止状態しているのではないかと」


 丹念に状況確認を行ったベルヴェデールが、自分の判断を加えて言い切った。

信頼するブリッジクル−二人の作業報告だったが、ブザムは尚も慎重な姿勢を崩さない。


「もう一度確認を頼む。基地の識別信号をチェックしてくれ。
ドレッドチームは周辺の巡回。警戒を決して怠るな」


 ブリッジ中央で、部下達を指揮するブザム。

そんなブザムの背後より、老齢な声が生まれる。


「おやおや、随分懐かしいモノがあるね・・・」

「お頭。お休みになられたのではないのですか?」


 メインブリッジ上方に位置する執務室から、稼動シートに載って悠々と降りてくるマグノにブザムは視線を向ける。

意外そうな表情をするブザムに、マグノは穏やかな微笑みで返した。


「皆が頑張っている時に、そうそう休んでもいられないさ。
それに、あの坊やも・・・」

「お頭・・・」


 本当ならマグノもカイが見つかるまでは休むつもりもなかった。

不眠不休で探索に励むクルー達を置いて、一人休める人間ではない。

それにカイはマグノにとっても多大に気にかけている存在だった。

船の危機を救って行方不明になったカイの身を、誰よりも一番にマグノは案じている。

ブザムも分かってはいたが、マグノはマグノ海賊団を束ねる頭目である。

万が一にでも倒れられたりすれば、過酷な旅を強いられているクルーに悪影響を与えてしまう。

頑として譲らないマグノを何とか説き伏せて、ブザムはマグノに休息するよう願い出たのである。


「ふふ、しんみりしてしまったね・・・
大丈夫。アタシはそんなにヤワじゃないさね」

「・・・はい。それにまだ、死んだと決まった訳ではありません。
過酷な状況に置かれているとはいえ、カイはそう易々と運命を甘受する男ではありませんから」


 毅然とした態度で、ブザムは言い切る。

副長の人を見る洞察力と心強い断言に、マグノも頷く。


「アタシも同意見だよ。あの子はきっと生きているさ。
で、あの子のいる可能性があるのがここなんだね・・・」


 メインブリッジ中央モニターに映し出されている宇宙の停泊所。

電気系統も最低限しか機能していないのか、真空の闇と同化して薄暗く見せている。

モニターに目を移し、ブザムが先程のマグノの言葉を頭の中で反芻しながら言う。


「懐かしいモノと仰っていましたが、お頭は何かご存知なのですか?」


 各方面の膨大な知識を保有する頭脳を持つブザムにも、目の前の建造物には見覚えがない。

何らかの基地であるとは判断出来るものの、タラーク・メジェールの宇宙施設の通常規格にない古いタイプである。

見た目からしても、数十年単位の年月が過ぎているのが分かる。

ブザムの質問に、マグノもまたモニターを見ながら答えた。


「あれは『ミッション』だよ」

「『ミッション』・・・これが・・・」


 覚えがあるのか、驚愕の眼差しでまじまじとモニター先の画面を見つめるブザム。


「幼い頃何度か見ただけだから、アタシも殆ど記憶がないけどね・・・
こうして改めて見ると懐かしく感じられるから、人間ってのは不思議なもんだよ」


 じっくりと見続けるブザムに、マグノは楽しそうな表情をして言葉を続ける。


「ここは植民船時代に重宝された中継ポイントさ。
祖先の星地球から旅立った船が、長旅による物資補給と船員の環境状態を最善にするべく建設されたステーションなんだよ。
言ってみれば、宇宙の休憩所さね」

「地球からの移民を保護する為に建造された、という事でしょうか?」


 理解の早いブザムに、マグノは満足そうに頷いて続ける。


「地球は植民計画を実行した際に未来の可能性を信じて、より多くの船を旅立たせた。
それこそ所かまわず
その為未開拓惑星に人類の生存出来る環境保全を行う必要があり、地球とその星を繋ぐポイントだったという事さ。
もっとも、もう昔の話だけどね・・・」

「今はもう、機能はしていないのでしょうか」

「勢いはそういつまでも続かないって事さ。
植民船を旅立たせる事はなくなり、地球そのものも今はどうなっているかも分からない。
結果として、ミッションも用済みになったのさ・・・・」


 名残惜しそうに見つめるマグノの瞳には、かつて重んじられたミッションのなれの果ての姿が映っている。

年月は人も物も容赦なく飲み込んでしまう。

人は年を取り老いていくのと同じく、物もまた腐敗していく。

存在を許された以上、滅びも必ず迎えなければいけない。

話は途切れ静けさをしばし保っていたが、不意にブザムが話し掛ける。


「・・・お頭、私から一つ申し出があります」

「ふふ・・・分かっているよ、BC」


 余裕の表情を見せて、マグノは言った。


「あそこを調べたいっていうんだろう?
放置されている施設とはいえ、ミッションはステーションだ。
必要な物資がまだ保管されているかもしれない。
それに・・・・」

「はい、カイがいる可能性もあります」


 今度がブザムがマグノの言葉の先を読み取って返答する。

両者の合意が成り立ち、二人は視線を交わして頷き合った。

そこへ――


「副長。前方の前線基地に・・・・・
予備ドレッドの反応があります」


 残念そうでもあり、安堵した様子でもある。

一度耳にするだけでは判断つきかねない声で、調査を進めていたセルティックが報告する。

その言葉に、その場にいた全員が色めき立った。


「見つかったの!?」

「それは間違いないか!?」


 口々に反応する面々を相手に、冷めた反応で答えるセルティック。


「間違いありません。今・・・機体が確認出来ました」


 機体の確認。

一度は自爆に巻き込まれて大破してしまったのではないかと心配されていたカイのドレッド。

その心配が今、杞憂に終わった。

一同は安堵すると共に、肩から力が抜ける。


「やっぱり生きてたじゃない・・・・」

「本当にしぶとい奴ね。生命力だけは誉めてやってもいいかも」


 生きていると分かった途端に、アマローネとベルヴェデールから出るカイへの不平。

その言葉には悪意はなく、むしろ温かみがあった。

クルーの明るい反応に影響されてか、マグノも喜びを隠せない顔でいる。


「ドレッドの様子をモニターに出せるかい?
出来れば、通信回線を開いてくれるとありがたいね。
言ってやりたい事が山ほどあるからさ」

 無事でいた事の安堵。

自分と自分の大切な者達を救ってくれた感謝。

何も相談せずに一人で突っ走った憤り。

何から口にすればいいのかは分からないが、言いたい事はたくさんある。

マグノの頼みに、セルティックは微妙な表情をする。


「あの・・・・・止めておいた方がいいと思います」

「おや?どうしてだい?」


 普段気弱なセルティックがマグノに反対するのは珍しい事だった。

目を瞬かせるマグノに、セルティックは溜息を吐く。


「あの人の馬鹿さ加減がまた一つ明らかになるからです」


 きっぱりはっきり言うセルティック。

興味をそそられたというほどではないが、艦長席傍らにいるブザムが命令する。


「かまわん。モニターに出してくれ」

「・・・分かりました」


 そのまま反論せずに、セルティックは手元を操作してモニターに表示させる。

探索の成果。

映像が徐々に鮮明になるにつれて、マグノはセルティックの反対の意味を理解する。


「なるほどね・・・・」


 中央モニター。

映し出された映像には、ミッションの下限の壁にぼっこり空いた大穴が映し出されていた。















 地球植民時代設立された宇宙遠征基地・ミッション。

発見出来たのはカイにとっても偶然であり、幸運でもあった。

食料は皆無、機体は派手に損傷、運行エネルギーは限界値ぎりぎり。

このまま漂流を続ければ後一日も持たずに、宇宙の片隅で死んでいただろう。

カイ本人も辿り着けた時には歓喜した。

文字通り手放しで喜び、起き上がる気力も無かった身体も力が湧いて拍手喝采した。

それがいけなかった――


「あいたたたた・・・・・」


 予備ドレッド・コックピットが上下に開き、シートから起き上がったカイが飛び降りる。

床に着地をしたカイと同じくして再び閉じて、予備ドレッドは機能停止し沈黙を保った。

カイはそのまま床に膝をついて、真っ赤になっている額を抑える。


「くっそ〜、手を放したら自動操縦とかいう便利な機能はついてないのかよ!」


 安堵と歓喜のあまり、迂闊にも操縦桿から手を離したのがいけなかった。

そもそも予備ドレッドはカイのでたらめな初期動作で、最加速で射出されて飛び続けていたのである。

加速はエネルギー不足と機体損傷で弱まってはいたが、静止していた訳ではない。

並みの船よりは格段に上の速度を保っており、それをぎりぎり制御出来ていたのがカイの拙い操縦だった。

その操縦桿を手放したのである。

既にミッションというニルヴァーナを超える規模を保ったステーション目の前にあるというのに――

ブレーキという制御を失った予備ドレッドはそのまま加速し、ミッションの厚い壁をぶち破って侵入した。

そのまま錐揉み状に衝突を繰り返したドレッドは機能停止を余儀なくされて、見事に壊れて停止してしまった。

コックピットで船酔い運転をたっぷり味あわされたカイは停止直後、操縦桿に強く額を打ち付ける結果となった。

激痛を訴える額を押さえたまま、カイは涙を滲ませつつ呟く。


「ま、止まったからいいか。空気もあるみたいだしな」


 カイはそのまま立ち上がり、埃を払いながら辺りを見渡す。

視界の範囲に納められる光景は、格納庫のような姿を見せていた。

老朽化した壁や機材はそのままに、幾つかの宇宙船が一列に並んで収められている。

カイはそのまま歩き、物珍しそうに見て回った。


「見た事ない形の船だな・・・・うわ、埃だらけじゃねえか!?
パルフェやガスコーニュが見たら怒るぞ」


 機械のメンテナンスや整備にうるさい二人を思い出して、カイは口元を緩める。

と、カイはそこで顔を青ざめた。


「しまった!?あの船に相棒置きっぱなしだ!?
しかも新型までほったらかしで来ちまった!?」


 新型兵器開発に着手してくれているのが、思い出される二人だった。

自分の半身でもある蛮型と完成間近だった新型兵器をそのままにしてしまった事実に気づき、カイは嘆く。


「どうすっかな・・・・
連中が近くにいればいいけど、そんなうまい話がある訳ねえしな・・・
第一どうやって帰ればいいんだ」


 今まで乗ってきたドレッドは停止してしまった。

恐らくは壊れたのだとは思うのだが、もしかするとエネルギー残量が0になったのかもしれない。

それとも他の要因かもしれない。

エンジニアではない自分には判りかねる事だった。

何にしろ、もうあのドレッドで今後航海するのは無理だろう。

カイはニル・ヴァーナに帰る手段を失ったのだ――


「帰るか帰らないかで悩んでいたけど、状況が答えを出してくれたか。
ここにある船に乗って帰るって手もあるけど・・・・あれ?
そういや、ここには誰もいねえのか?」


 カイがこの施設にこっそり侵入した訳ではない。

むしろ散々壁やらなんやらを壊して回り、大騒ぎをして中に入ってきたのだ。

普通ならこれほどの規模を誇る施設である。

顔色を変えて警備員の二・三十人は飛び込んできてもおかしくはない。

何よりセキュリティシステムが黙っていないだろう。

非常警報や対緊急システムが作動して、施設内は大騒ぎになっている筈である。

なのに、今現在でもカイの周りは静かなものだった。

好ましからぬ訪問をした客に挨拶の一つもない。


「まさか、あの連中に刈り取られたって事はねえよな・・・・」


 カイと海賊達が戦い続けている敵。

以前初めて立ち寄った惑星は人類は滅亡しており、星そのものが荒廃して罠の巣となっていた。

この静寂がもし敵によるものだとするのなら、憤りを隠せない。

注意深く周りの様子を伺っていたカイだが、ある事に気づく。


「汚い船が多いだと思ってたけど・・・・周りもそうか。
全体的に古臭くなっているんだ。
人がいないんじゃなくてほったらかしにされた場所なのかもしれないな、こりゃあ」


 カイはそのまま歩いて回り、格納庫のような場所を一つ一つ見て回る。

と――


「うん?」


 カイが何気なく頭上に視点を移すと、何か影のようなものが横切るのが見えた。

はっとなって目を凝らした時には既に消えており、普通に天井がある。

「?気のせいかな・・・・」


 そのまま視線を前方に戻したカイだが、どうも気になって仕方がなかった。

また視線を上にすると――


「!?」


 今度は見間違いではなかった。

明らかに何かが素早い動きで飛び回り、縦横無尽に天井を駆け回っている。

信じられない動きだった。

少なくとも、人間に出来る動きではない――


「何だ一体!?」


 カイは腰の十手を引き抜く。

飛び回る影は物凄い敏捷性で果敢に動き回っており、姿を捕らえるのは難しい。

カイは少しの間考えて、そのまま前方に駆け出す。

と――


「キキャアァァァァ!!!」


 背後から反響する吼え声を上げて迫り来る影を察知して、カイは振り向きざまに十手を振るう。


「キャン!?」


 重い手応えを十手に感じ、カイは顔を引き攣らせながら油断なく相手を見る。

確実に捉えた十手の一撃はダメージがあったのか、影は床に転がった。


「この野郎・・・・俺に襲い掛かるとはいい度胸じゃねえか。
俺は今腹が減って仕方がねえから、ちょいと機嫌悪いぞ」


 不機嫌な顔で十手を構え、カイは吐き捨てるように言う。

そのまま影の正体を見るべく近づき、傍に立った。


「さーて、どんな面してやがるのかな・・・・って、ええええええ!?」


 カイに襲い掛かった影の正体。

愛嬌のあるパンツと作業手袋を着用しているが、人間というにはあまりに毛深い生き物。

その生き物はカイを向いて、にっと笑った。


「ウキ?」

「さ、猿ぅーーー!?」


 口にして、カイは瞬間つぐんだ。

猿?さる?サル・・・・・?

猿って・・・・・何だ・・・?



ビシュン!?



 カイの叫びとほぼ同時。

何かが高速でカイのすぐ横を通過し、頬を浅く切る。

カイは高揚していた頭が冷めて、緊張感に身体が強張るのを感じた。

いきなりの背後からの射撃。

カイは奇妙な概視感を感じながら、背後を見ずに呟いた。


「青・・・髪・・・・?」


 背後からの返答はなく、そのまま射撃音がもう一発響き渡る――































<to be continues>

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