VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action23 −利潤−




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敵襲―

マグノ海賊団総員を戦慄せんとする事態に、船内の誰もが敏感に反応した。

職務にただ懸命に励んでいればいい、平和で穏やかだった時間が終わりを告げたのである。

前回の襲撃では海賊団発足以来の危機に陥れられたのだ。

敵戦力は倒せば倒す程日増しに高まってきている。

鳥型襲撃以後数日が経過して、どれ程の規模の戦力が押し寄せてくるか分からない。

艦内の緊張が高まる中、誰もが思いもかけない事実が判明する。


「数機のみ、だと?」

「はい、間違いありません。
タイプ別に言いますと、キューブ型二機にピロシキ型一機です」


 敵の第一発見者であるアマローネがコンソールを操作しながら述べる。

長距離センサー担当であり、外部把握能力に優れているアマローネの見識に間違いは殆どないと断言できる。

メインブリッジにて、事実確認を迫ったブザムは予想外の敵戦力にやや驚いた顔を見せた。

自分達が、正確にはカイが前回大規模艦隊を殲滅させたのは敵側も承知のはず。

なのに今回に限って大幅に戦力ダウンして攻めてくる意図が理解出来なかった。

ブザムは思考の渦に身を任せ、状況分析を図る。


「敵、接近。距離5000」


 アマローネと同等の分析能力を持つベルヴェデールが、事細かに戦況を伝えた。

熟考していたブザムだったが、敵の接近に悩んでいる暇がないと判断して、視線を傍らへと向ける。

ブリッジ中央の艦長席に座るマグノは、ブザムの視線に慎重な様子で答えた。


「アタシらがこれだけの戦力で倒せるとは思っちゃいないだろうから、様子見ってところかね?」


 自分と考えている事が同じだと分かり、ブザムも相好を崩す。


「もしくは前回の襲撃で持ちゴマの大半を失ったという可能性、ですね」


 最新鋭の鳥型二十機にピロシキ型数機。

主力部隊に連なるように、尖兵の役割を持つキューブ型が百数機もの数で攻めてきた。

マグノ海賊団総力をもってしても苦戦を強いられた規模。

その戦力を壊滅させられて、残存兵力が少なくなってきている。

マグノの考えを補うように、ブザムの出した可能性の一つがこれだった。


「アタシとしてはこれ以上は御免蒙りたいんだけどね・・・・」


「同感です」


 肩を落として言うマグノに、ブザムは苦笑気味に答える。

敵が何者なのかも分からなければ、戦力も把握出来ていない。

対して、向こう側は何度も何度も襲撃を加えている事実。

マグノ海賊団の道程や位置、その目的が半ば知られている証拠だろう。

加えてマグノ達は一度たりとも敗北は許されないのに比べ、敵側は敗北を重ねても新しい戦力で襲い掛かってくる。

イタチゴッコの繰り返しだった戦いに、今回初めての変化が訪れたのだ。

判断を誤れば、事態はより最悪へと向かう可能性がある。

反面、状況を的確に把握すれば好機へも望める。

慎重な対応を行う必要がある事を感じ、マグノやブザムも慎重に対処すべく作戦を練りこむ。


『お頭、出撃の準備完了しました。全機、発進可能です』


 中央モニターにノイズが走り、画面に明瞭な解像度でメイアが映し出された。

通常ドレッドリーダーを任されているメイアは、個人の判断で出撃は可能である。

本当ならこのようにマグノやブザムに逐一報告する必要はない。

メイアにはそれだけの権限があり、それだけの事故判断力を信頼されているからだ。

ブザムはその意味を理解し、メイアへと顔を向ける。


「敵はキューブ型二機に、ピロシキ型一機だ。
ピロシキは内部にキューブを温存出来る事を考えると、キューブ型は数十に及ぶ可能性もある」

『事実は認識しています。出撃はいかが致しましょうか?』


 メイアの淡々とした対応に、ブザムは内心で笑みを浮かべる。

状況判断に困っているのはメイアも同じなのだろう。

戦力が小規模だからこそ、安易な行動は禁物。

そう考えて、メイアは自分達上司に意見を求めている。

この慎重さと状況判断力が、メイアのリーダーとしての優秀性を何より証明していた。

マグノに拾われてパイロットになり解き放たれた才能。

そして、他人に心を寄せ付けない頑なさゆえの努力。

この二つがあってこその優秀さであり、メイアという存在を確立している。

否、確立していた――


「・・・・・・・・・・・」

「?どうした」


 画面向こうで返答を待つメイアが、少し落ち着かなさそうにしている。

視線こそブザムやマグノに向いているが、注意そのものがモニターにいっていなかった。

メイアの不振な様子を訝しげに思い、ブザムは尋ねる。

上司の回答が遅いからと焦れるメイアではない。

真剣な顔で尋ねられ、メイアは珍しく顔色を伺うような低姿勢な態度で口を開く。


「カ、カイの事なのですが・・・・」

「カイ?奴がどうした」

「はい、その・・・・
姿を見せないようなので気にかかりまして・・・」


 メイアの質問に、マグノとブザムは顔を見合わせる。

カイが戦いが始まっているのに姿を見せない。

普段のカイをよく知る者からすれば、異常事態だと断言出来る程ありえない事だった。

カイの自分の夢と機体に対する思いは半端ではない。

何度も命懸けの状況に巻き込まれて、尚戦いへと赴くこれまでの姿勢が物語っていた。

だが、二人が驚いたのはそんな事ではなかった。

そもそもカイが戦いの場へと訪れない理由はよく分かっている。


「カイはもうクル−ではない。我々の仲間になる事を拒否したんだ。
共に戦う理由はない」


 冷静にブザムは答える。

今までマグノ達は捕虜としてカイにパイロットの任務を求めた。

キューブ型、ピロシキ型、ウニ型、クモ型、鳥型。

どれもが皆強敵であり、苦境へ老い込まれ、その都度カイは戦い勝利してきた。

カイの心中は定かではないが、利潤や打算抜きにこれまで戦ってきたのではないだろう。

出なければ、これまで敵側である自分達を助けてくれた理由が思い浮かばない。

カイ本人が言っていたのだ――



『冗談じゃねえ。誰がお前らのために戦うなんて言ったよ。
あくまで俺のためだ』



―――と。

苦境を乗り越えて強くなる。

自分自身の壮大な夢を実現する為に、カイは宇宙へと飛び出して来たのだ。

ましてや、この数日自分達はカイを虐げて疎んでいた。

艦内の自由行動を抑制され、差別し、肩身の狭い思いをさせた。

そこまでされて、一緒に戦おうとは思わないだろう。


「それにカイの機体は現在調整中との事だ。
少なくとも、今回は参戦はしない筈だ」

「・・・・そうでしたか。突然、失礼致しました」


 メイアはそういって一礼するが、まだどこか納得出来ていない素振りがあった。

カイが出撃しない事を懸念しているか、もしくは・・・・・

戦いに参加していない事を心配している――

二人の驚きはそこにあった。

メイアが特定の個人に、しかもよりにもよって天敵だったカイを心配するなどという事はありえなかった。

今までは――

もしも出会った頃のメイアなら、カイがその場にいなくても気にもかけなかっただろう。

案外いない事に胸を撫で下ろしていたかも知れない。

カイの存在すら疎ましく、邪魔だと思われていたのだ。

メイアが目の前で見せる変化の兆しにブザムは驚きを隠せないが、マグノは違った。

驚いた顔に微笑みを乗せて、メイアの様子を優しく見守っていた。


「敵、さらに接近。距離3000」


 話はそれまでだと言わんばかりに、アマローネが外の変化を報告する。

耳にしたブザムは気を引き締めて、メイアへと向き直った。


「メイア、今は動かず待機。
敵がおかしな動きを見せないようなら、迎撃に移ってくれ」


 慎重論を優先したブザムなりの判断に、メイアも反対する理由はなかった。


『ラジャー』


 そのまま通信回線は切られ、画面はシャットアウトした。















 敵迫りし時。

緊張感を嫌が応にも煽られるこの時、艦内を縦横無尽に交差する通路の一角で重苦しい雰囲気に満ちていた。

船内が敵襲撃による針路変更と対応で揺れる中で、不気味な静寂が流れている区域。

一組の男女と、一体のロボットが向かい合って立っていた。


「さ、ほっておいて行くぴょろ。
今日中に全職場を挨拶しに回るって言ったのはカイだぴょろよ」


 黙って突っ立ったままのカイの手を握り、ピョロは引っ張ろうとする。

じっとしたままでは埒があかないと踏んだのだろう。


「こ、こら、引っ張るな!?いだだだだだ!」


 見かけによらず物凄い力が、カイの手に重く圧し掛かる。

つんのめりながらカイは悲鳴を上げるが、ピョロは聞く耳をもたない。

そのまま強制的に連れ出そうと、一途に思い詰めた様な顔を突っ走っていく。


「ちょっと待ちな、ピョロ!」


 ハスキーな声の静止に、ピョロは嫌そうな顔をして振り向く。

徹底的な無視が出来ないのは、呼び掛けた人間の人徳ゆえだろう。

ピョロが止まったのを見て、ガスコーニュは口を開いた。


「二人の話を聞いていると、どうやら事情を知っているみたいだね」

「・・・・何がだよ」


 何となくは気づいていた。

ガスコーニュが何を自分達に確定して話し掛けているのか、を。

分かっていながらも、カイは素知らぬ振りで聞き返した。

ガスコーニュはそんなカイの態度に疑念の余地もなく、そのまま聞いた。


「今回の一件の裏さ。
あんたの境遇の根本的な原因、と言った方が分かり易いかね」


 軽い口調で話してはいるが、表情にはどこか哀切のようなものが漂っていた。

いつもは勝気に輝く瞳もどこか濁っており、顔艶にも色がない。

徹夜明けのような疲労の濃い表情だった。

ガスコーニュの指摘を受けて、ピョロは目をギンっと三角にして指を突きつける。


「当然だぴょろ!裏で悪事を隠そうとしても無駄だぴょろ!
全部何もかもキッ―――ふぐっ!!?」

「原因?何の事やらさっぱりわからねえな」


 ピョロの顔を後ろから力づくで絞めながら、カイは平然とした顔で答えた。

カイの答えに意表をつかれたのか、眉を潜めて質問を重ねる。


「知らないだって?」

「知らんったら知らん。何いってんだ、お前」


 本当に知らないのか、とぼけているのか。

ガスコーニュはカイの顔をじっと見つめながら問うた。


「あんたが抱えている相棒は知っているような事を叫んでいたけどね・・・」

「こいつは壊れやすいからな。
たまに意味不明な事をほざくんだ」


 ストレートにも婉曲にも尋ねても、そ知らぬ顔をしたまま変わらない。

問われた当の本人は懐で何か言いたそうに激しく暴れているピョロを必死で抱えている。 

ガスコーニュはカイをじっと見つめ、ふうっと肩を落とした。


「なるほど・・・分かったよ・・・」


 カイが事情を半ば悟っているのは何となくは分かる。

ガスコーニュとて馬鹿ではない。

ピョロの様子と抑えるカイの必死な様子を見れば、ある程度事情は理解できた。

カイは誰かを庇っている。

そしてその者はカイに全ての事情を話した者だろう――

それでも知らないと言い切るカイに、これ以上ガスコーニュも何も言えなかった。

いや、言う必要もなかった。


「変な事言っちまったね。忘れておくれ」

「・・・別にいいよ。気にもしてねえ」


 全ての事情を知っていながら、苦情も何も言わない。

事の張本人を、自分を差別した女性達を憎んだりせず、怒りすら持っている様子もない。

それどころか、事情を話したその者を庇う言動すらしている。

もしもカイと同じ境遇に立たされたら、自分はカイのように許せるだろうか?

真実を知っても何も文句を言わず、敵側の人間を庇えるだろうか?

ガスコーニュは自問し、首を振る。


「?んだよ、にやにやしやがって」

「別になんでもないよ。気にする事はないさ」


 微笑ましかった。

劣境に立たされながらも、他人を気遣える目の前の少年が。

その少年が自分の見込んだ人間だと思うと、ガスコーニュは口元が緩むのを抑え切れない。

今は反れどころではないと分かってはいるのに――


「それで、結局お前さんはどうするんだい?」

「あん?」


 怪訝な顔をして聞き返すカイに、ガスコーニュは長楊枝を揺らす。


「戦闘だよ。
アタシが言うのもなんだけど、機体もなければ、義理もないんだろう。
お前さんが出る必要がないと言うピョロの意見は正しいとアタシは思うよ。
幸い、外の敵さんも今回はそんなに大した相手ではなさそうだ」


 ガスコーニュはそう言って、通路の両脇に設置されている窓の外を見る。

ピョロも同感なのか、カイに押さえつけられたまま必死で顔を上下した。


「・・・・・・・・・・・」


 助ける必要はない。

共に戦い合う程、仲がいい訳ではない。

尚且つ、自分の愛用の機体もない。

肝心要の相棒がいないのなら、この戦いに望んでも何の強さにもならない。

戦いに参加する理由はなかった。

助っ人も必要ない戦況である以上、この戦いに参戦する意味はない。

感謝してくれる者は誰もいない、喜んでくれる人は誰もいない。

自分にもまた、プラスにもならない。

でも――















『ここまでされて・・・・どうして・・・・怒らないんですか・・・?』


 一人の女性の問い。

理解出来ない気持ちから生まれた戸惑いに満ちた疑問。

心から尋ねるチーフに、堂々と言った――















「男ってのは・・・・・」

「え?」


 不思議そうな顔をするガスコーニュに、カイはにっと笑う。

「細かい事は、気にしないんだよ」


 それが全て――

呆然とするガスコーニュを尻目にカイはその場で背伸びをして、自分の頬を力任せに叩いた。


「うし、行くか!」


 迷いを吹っ切った様子で、そのまま快活に言い切るカイ。


ガスコーニュはふっと笑い、カイと向かい合う。


「いいのかい?迷惑がられるよ」


 歓迎される事は絶対にないだろう。

現実を突きつけるガスコーニュに、カイは平然と答えた。


「別に。気にしないぜ」

「勝手な事をしたら、印象を悪くする可能性もあるよ」

「自分で決めた事だ。
それに、これ以上悪くなると思うか?」


 自分の事であるにも関わらず笑って聞くカイに、ガスコーニュも笑って答えた。


「そりゃそうだ。もう地の底だからね」

「そこまでかよ!?
っち、ばあさんに匹敵する口の悪さだぜ」


 カイは苦笑して押さえつけていたピョロを離し、そのまま背後を見せて歩き出す。

ようやく開放されたピョロは目を回したように空中をふらふらさせて、開口一番怒鳴った。


「どうして戦うぴょろか!?意味ないぴょろ!
飯の種もならないぴょろよ!」

「俺がやりたい事だから、無料サービスだ。
ま、飯については何とかなるだろう」


 考えがあるようで、後先考えずのような意見。

ピョロは大げさに溜息を吐いて、カイの正面へと回る。


「問題なのはそれだけじゃないぴょろ」

「何だよ、まだ何かあるのか?」


 しつこいとばかりに不満顔を見せるカイに、ピョロは呆れた様な顔をする。

実際呆れているのかも知れないが。


「戦いに出来るのはともかく、機体はどうするぴょろ。
カイの蛮型は整備中だぴょろよ!」


 新型兵器の為に、行動不能となっているカイのSP蛮型。

例え意気込みが立派でも、戦う武器がなければカイは動けない。

「格納庫に保管されている他の蛮型もほったらかしのままで使えないぴょろ。
カイは今戦えない状態だぴょろよ!」


 ニル・ヴァーナは元々男女の船が融合した戦艦である。

元男側の船だったイカヅチ旧艦区には、格納庫に多数の蛮型九十九式が眠っている。
使用しようと思えば使えない事はないのだが、問題は長期に渡る整備不良だった。

砂の惑星に降下する際にも機関部クルー総員での整備が必要となったのだ。

女達も使用せず、唯一の男パイロットカイも自分の愛機を持っており、誰一人使用する事もなく封印されていたのだ。

整備しようにも、敵は待ってはくれない。

今からでは完全に手遅れだった。

ところが――


「おいおいお前、誰が蛮型を使うなんて言ったよ?」

「へ?で、でもカイは戦いに行くと言って―――」

「戦いには行く。だけど、俺の相棒は今は使えない。
他の蛮型に乗るのは気が進まねえ。
と、なると残りはあれしかないだろう?」

「?あれ??」


 ピョロの疑問に、カイは声を潜めてこう言った。

最新のコンピュータでも算出出来なかった答えを――















「ドレッドに乗りゃあいいんだ」


 実に、実に楽しそうにカイは笑って、ぴんっと人差し指を立てた。


































<続く>

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