VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action15 −少女−




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深夜――



ドゥエロ=マクファイルは瞳を閉じたまま、ぼんやりと眠れぬ夜を過ごしていた。

時間にして消灯時間後、いつもなら何の疑問もなく就寝している時刻だった。

ドゥエロの担当する医療はクルーの怪我等の外因的治療から、病気等の内因的治療まで多岐に渡る。

病気の元となる要素の活動は決して時間を選んだりはせず、何時如何なる時にでも対応が迫られる。

マグノ海賊団クル−総員及び男二名の健康管理を任されているドゥエロの睡眠は、他の人達と比べても比較的浅いと言っていい。

が、それでもドゥエロは消灯時間が過ぎるとあてがわれた自室で眠るようにはしている。

医療は体力勝負であり、治療を行うドクターが体調を崩すのは笑い話にもならないからだ。

今日も今日でトラベザでの食事を済ませた後バートやカイと別れ、医療室で一仕事を終えて帰り就寝についた。

一日の疲れもあってすぐに眠りに入れると思っていたのだが、何故か一向に眠れなかった。

神経が過敏になっているのかと考えるが特にそうでもなく、至って穏やかだ。

寝苦しいのかとも考えたが空調は完璧であり、監房内は過ごし易い適温に設定されている。

周りも静まり返っており、カイやバートも自分の部屋で休んでいた。

ドゥエロはそのままじっと横たわっていたが、結局眠れずに瞼を小さく開けて嘆息する。

明日も早い。

仕事は仕事でやりきり、休息時間には英気を養うのが自分のスタンスなのだが、今日はそうも言ってはられないようだった。

ドゥエロはどうするべきか考える。

このまま起きて医療室でカルテの整理を行うのも良し。

眠れないのなら身体をほぐすなり、カフェテラスへ行き何か飲み物を口にするのも悪くはない。

ドゥエロは素早く今から出来る事柄を考え、実行に移すべく身体を起き上がらせようとする。

その時だった――



バサッ



(・・・・ん?)


 かすかにだが、耳元に何か物音が聞こえた気がした。

かなり小さな音だったので、もし消灯時間で皆が寝静まってなければ聞こえなかったかもしれない。

ドゥエロは咄嗟に瞳を閉じて、耳をすませる。



バサッ!タッタッ!!



 衣擦れのような音に、監房の床に響く二つの足音。

ドゥエロは自分の耳が正常であり、物音の正体に気がついた。


(カイ・・・?)


 聞こえてきたのは正面側。

自分が眠る部屋の対面に位置する部屋の内部より聞こえてきた。

まぎれもないカイの部屋である。

恐らくは羽織っていた布をどけて、簡易ベットから降りたのだろう。

ドゥエロは不自然にならないように自分に被せている布を整え、瞳を閉じたまま寝ているように見える姿勢を保つ。

そのまま起きて声をかけても良かったのだが、何故か躊躇われた。

自問するが、理由ははっきりしない。

常日頃明快な論理で動いているドゥエロには珍しい事だった。

ドゥエロがそのままじっとしている間にも、正面側の部屋の主は行動していた。

目は閉じたままなので判別は出来ないが、ベットを整えて着替えをしているらしい物音が聞こえてくる。

一応や自分やバートに気を使っているのか、耳に届く音は微小だった。

聞こえるか聞こえないかの境界で、カイは何か支度をしている。

逸る好奇心を何とか抑えて、ドゥエロはそのまま寝たフリを続けていた。

やがて数分後、物音が途絶えてドゥエロの鼓膜をはっきりとした声が震わせる。


「野郎どもは・・・・寝ているな。よしよし・・・・
んじゃま、行くか」


 まるでこれから冒険に行くかのように、声に楽しげな響きを乗せて自室から出る足音が聞こえる。

完全に寝ているのだと思い込み、安心したのだろう。

足音は軽快な鼻歌を乗せて監房から外へ出て行き、徐々に遠ざかっていった。


(・・・出て行ったか・・・)


 瞼を閉じたまま、ドゥエロは胸の内でそう呟く。

何かの拍子にカイが戻ってくる可能性もあるのでしばらくじっとしていたが、足音は遠ざかりそのまま消えてしまった。

戻ってこないのを確信すると、ドゥエロは目を開けて上半身をむっくり起こした。

そのまま真っ直ぐに正面を見ると、案の定ベットの上に人影がない。


「・・・こんな夜中に何をしに・・・・」


 ドゥエロは難しい顔をして考え込む。

カイがある種独創的な思想を持ち、行動性も多種に渡る事は把握できている。

思いもよらない行動を取り、自分を驚かせた事は一度や二度ではない。

考え方も非常に個性的であり、タラークに蔓延と広がっている常識概念に当てはまらない発想を見せる時がある。

色々な意味で面白く、また興味深い人物だった。

そのカイが、このような深夜に起きて何処かへ出かけてしまった。

何をしに行ったのだというのだろうか?


「ふむ・・・・」


 消灯時間を過ぎれば船内の殆どの施設は稼動停止し、照明は落とされて最低限の光源しかない。

何を行うにしても施設は使用出来ず、暗い中を行動することは意味はない。

話し相手を求めるにもクルー達の大半は寝静まっている。

ましてやカイはマグノが設立した環境改善により、クルーと認められはしたがその実かなりの行動制限を余儀なくされた。

女達への不可侵に機能・設備の一切の使用拒否。

カイに出来る事といえば、自分達の生活エリアを当てもなくうろつく事しか出来ない。

自分と同じように眠れなくて、時間を持て余し仕方なく気分転換に出たのか?

普通に考えれば、それが一番あり得る可能性だった。

じっとしていても眠れないのなら、船内を散歩でもする。

静かな通路内をただ歩くだけでも、一応の気分転換にはなるだろう。

結論に至り、ドゥエロはいつしか興味を無くしてベットに横たわった。

数分間だが奇妙な緊張感を味わったせいか、程よく眠りにつけそうだった・・・・・


「・・・・・・うん?・・・・」


 ドゥエロははっと思いついたように目を開き、顔を上げる。

無意識に漏れた声だが、幸いにも隣の部屋のバートにまでは届かなかった。


(確かカイは先程・・・・・・)


 ドゥエロは出て行く一瞬前のカイの声を明確に思い出す。



『野郎どもは・・・・寝ているな。よしよし・・・・
んじゃま、いっちょ決行するか』



 自分やバートが寝ているかどうかを確かめるのは、起こさないように気遣ったと解釈してもいい。

が、それにしても気分転換に出て行く人間の台詞とはとても思えなかった。

明らかに何か含みがあった。

ドゥエロは口元に手を当てて、思考の渦に身を浸す。

カイはただ眠れずにいたのではなく、皆が寝静まる消灯時間に行動する為に故意に寝ずにいたのだろう。

そうでなければ、言葉の意味が成立しない。



自分やバートに黙って、こっそり深夜に一人で行動しているカイ――



一体何が目的なのだろうか?

自分達には秘密にして一人船内を探索しているとも考えられるが、ドゥエロはすぐに自分の考えた可能性の一つを取り消した。

カイはパイロットであり、戦闘時以外は女達への都合を除いて時間を持て余している。

わざわざ深夜に一人行動しなくても、昼間に堂々と歩けばいい事だ。

セキュリティによる行動障害は、夜になれば解決する問題ではない。

すると残される可能性は――


「一人で何か企んでいる場合か・・・・」


 同郷の身である自分やバートに黙って、深夜船内で何かを起こしている場合。

十分に考えられる可能性であった。

カイは一体何をしようというのか?

ドゥエロはベットに腰掛けたまま分析する。

女達が占拠する広い艦内で、皆が寝静まった頃合にカイは内に何か企みを持って行動をしている。

自分達には秘密にし、恐らくは女達にも話していないだろう。

カイは自分の目論見を心に秘め他人には内緒にして、後で驚かせるのが好きという傾向がある。

しかも行動力は人並み以上で、単独行動をよく行う。

女達に会いに行ったとも考えられるが、昨晩カイは実際に実行して失敗している。

カイの性格から再挑戦しに行く可能性も捨てきれないが、セキュリティの壁の厚さはカイ一人で突破出来るレベルではない。

本人もその事は今日一日で身にしみているだろう。

そんなカイが誰にも秘密にして、一人深夜に内密にしている行動とは?


「決行と言っていたが一体・・・・
―――!?」


 様々な可能性が思い当たり難航しつつあったその時、天命の如くドゥエロの思考をある閃きが走った。

同時に、あり得ないという否定ともしかしたらという不安が交差する。

可能性に可能性を重ねて論議し、思い立った推論。

それはカイが女達によからぬ行為を、マグノ海賊団に不利益になる事をしでかす為に今行動を開始した――

考えられないと思う理由は、カイのこれまでの活躍からである。

カイはパイロットとして幾度かの修羅場に立ち向かい、乗り越えて勝利を我が物としてきた。

その過程で、カイは女達を助けようとする素振りを見せている。

女を男が助ける。

タラーク生まれの男ならあり得ないのだが、カイはその概念をあっさりと破って何人もの女の危機を助けた。

メイアが死にかけた時がいい例だ。

あの時カイはメイアに訴えかけて、何とか立ち直らせようと必死だった。

そして自分もまた、カイに勇気付けられた人間の一人だ――

そんなカイが女達を害する行動を行おうとしている?

もしも昨晩までなら馬鹿なと一笑する考えだが、昨日と今日では決定的な違いがある。

今日の朝から設置されたセキュリティだ。

海賊の頭目マグノがこれまでの旅の行程より自分達を正式にクルーの一員と認め、仲間としての権限を与えた。

自分はセキュリティ5、バートは3の認証レベルを与えられた。

お陰で何の妨げもなく女達へのエリアにも足を運ぶ事が出来、施設類にも携わる事が出来るようになった。

バートはひどく喜んでいて、自分も不満はない。

唯一の例外はカイだった。

セキュリティ0、カイに定められた認証レベルである。

レベル0は文字通り何の権限もなく、今朝からのカイの行動の一切は封じられたと言っていい。

女達のエリアに近づく事も出来ず、最短ルートのエレベーターはこの船でカイ一人が乗る事が出来ない。

待遇もうって変わり、女達の生活区域はおろか施設の一切に至るまで接触禁止。

多少は妥協されている部分もあるが、自分から見ればカイの劣悪な待遇を笑いものにしているようにしか見えない。

カフェテラスがいい例だった。

皆が使用している設備は使用が認められず、カイ一人が除けられて個人設備使用を強制されている。

食事を共にする事も許されなくなり、カイはテーブル席に座ることも許されず、一人だけゴザという扱いだ。

あれではクルーどころか、捕虜以下の差別的扱いだった。

ドゥエロは表面上こそ何も言わずに静かにしていたが、カイが文句を言っていたら援護するつもりでいた。

セキュリティ設定はマグノの決定で行っているというが、何故カイ一人だけあのような扱いにするのだろうか?

そもそも、女達が自分達男にどれほど歩み寄らせるかの目安となるのがセキュリティ認証だった筈だ。

これまで散々貢献してきたカイへの女達からの回答が今の扱いだというのなら、海賊達への認識も改める必要があるだろう。

カイ一人が捕虜のままだと言われる方がよっぽど説得力がある。

捕虜のままの立場ならまだいい。

結局女海賊に捕まった不幸な身の上として、虐待や冷遇にもそれなりに納得して耐える事ができる。

でも、マグノははっきりとカイもクルーの一員だと言ったのだ。

なのにカイに今置かれている現況は、自分達男への不信を利用した差別的な苛めでしかない。

これでは捕虜扱いされていた頃の方がカイもましだろう。

こんな扱いが今後もずっと続いていく。

その事にカイが耐え切れなくなり、冷遇する女達に怒りを覚えたのだとしたら?



『んじゃま、いっちょ決行するか』



 出て行った時のカイの言葉がリフレインする。

決行――

自分やバートに迷惑をかけないように一人出て行き、女達へ仕返しをする。

その為に今カイは・・・・・・・


「・・・・考えすぎだとは思うが・・・・」


 ドゥエロは立ち上がり、で部屋の片隅にある椅子の背に手をかける。

落ち着く間もなく椅子にかけていた白衣を着用し、ドゥエロは監房から出て行く。

考え込んでしまい、時間はかなり過ぎている。

もしもカイが今夜行動を起こすとすれば、急がないと間に合わない。


「手間のかかる・・・・・・」


 ドゥエロは嘆息しつつも、速まる足を抑える事は出来なかった。
 














 その頃――





「ふっふっふ・・・・・・・
いくら拒絶されようがこのまま黙って引き下がる男じゃねえぜ、俺は・・・・・・」


 通路内の暗闇にまぎれて、一人の男が楽しげに笑って歩いていく。

両手からチャプチャプという音を立てて・・・・・



























<続く>

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