北郷の部隊と連合し、何とか黄巾党を撃退した加納たち。
その後、公孫賛軍と北郷軍が正式に同盟を結び幽州はほぼ統一されたといっていいだろう。
互いの領土をこれまでどおり治めてはいるが、実質ひとつの連合国家として成立しつつある。
とはいったもののそれほど大きなことが起こっておらず、平和な日々がしばらく続く。
そんなある日の出来事。

恋姫†無双 狼たちの三国志演舞 第五話



「お、趙雲じゃねえか。ちといいか?」
「何か?如月殿」

遼西の城内でのこと。
如月と趙雲がすれ違ったところを如月が声をかけた。

「こないだの約束、守らせてもらうぜ?こないだ給料が入ったんで懐が少し暖かいんでな」
「ほう、それは楽しみ。どこで食べようか?」
「うまいラーメン屋知ってるんでな。少し小さいが、味は文句なしだ」
「ぜひ向かいましょう」

そうと決まれば嬉々として向かう趙雲。やはり楽しみにしていたんだろう。


「しかし、やはり食事にメンマは欠かせませんな。このラーメンのダシも捨てがたいが」
「いやそれはお前だけだと思う」

如月が案内したラーメン屋で、真っ先にメンマを口に運ぶ趙雲。
おいしそうに食べる表情は可愛いが、その前にそのラーメンに乗せられたメンマの量に驚く如月。

「つかそれ、メンマの山ばかりで麺とかが見えないんだが・・・」
「ふむ、そのうちメンマ丼のある店でも探すとするか」
「聞いちゃねえしこいつ・・・」

ツッコミを流され、本気で呆れる如月。
別に否定するわけではないが、そんなにメンマばっか食って飽きないのか、とも思う。
まあでも、本人が幸せそうならいいか、とも思ってしまうのは、彼女に対して何か思うものがあるからだろう、と無理矢理自分を納得させた如月だった。

「あ、店主。ついでに酒も出してくれればありがたいんだが」
「昼間から飲むな」

流石に彼女に飲まれると懐が痛くなるのは分かっていたのか止めた。


さて、加納はどうかというと。


「珪、どうしてもくるのか?」
「当たり前だろ。領主といってもこないだの件以来暇なんだ。それに、お前のことをもっと知りたいしな」

街に繰り出していた。
ちなみに加納も公孫賛に言われ敬語をすでにやめ、真名がない公孫賛を「珪」と呼んでいる。
如月はいまだに姓で呼んでいるが呼び捨て、敬語もやめた。

「ま、いいか。親父〜、いるか〜?」
「おう、入ってこいや」

加納が店の奥に声をかけると、奥から野太く、それでいてしゃがれた声が聞こえてくる。
ちなみにここは武器屋だ。

「何を頼んだんだ?」
「ま、見てなよ」

公孫賛の質問もそこそこに、加納は中へと入っていく。

「例のブツはどうよ?」
「ま、アンタの希望に添えるかどうかは微妙だな」
「そこまで無茶な注文はつけてないつもりだがな」

といって出された武器二つ。
一つは薙刀のようだが、刃が両端についているものだ。
もう一つは刀だった。それも日本刀。

「・・・上等だ。これでいいよ。いくらだ?」
「予定通りでいいよ。材料費もそんなにかからなかったしな」
「んじゃこれで」

と、金が入った袋からいくらかを恰幅がいい中年の男に渡す。この男がこの武器屋の店長だ。
紙幣がないこの時代、加納の財布に収まる小銭の数じゃないのでこれも買ったもの。

「うむ。確かに。じゃまたな。ただ、これは俺にとっても初挑戦なんでな。どこまでできてるかは振り回してもらわんとわからん」
「それで上等だよ。ブン回せるだけの強度はあるってことだからな。アフターサービスは任せるぜ?」
「おう・・・って、あふたあさあびすって何だ?」
「ま、これからもよろしくってことだ。もちは餅屋、武器は武器屋ってな」
「おう。じゃ、また」

といって武器屋を後にした2人。

「あの時の槍じゃ満足できなかったか?」
「いや。ただ、こういう武器が使いたかっただけさ。俺は長物の武器にはまだあまり慣れていないしな」
「そうか?それにしてはその槍みたいなヤツは結構長いし、あまりそういう風には見えなかったが・・」
「そりゃ、ガキん時からその辺の木の棒とか振り回してたし、族になりたての頃は鉄パイプとかで喧嘩してたしな。だが、本格的な長物を使うのは初めてだが」
「鉄ぱいぷ?賊?なんだそりゃ?京介がいたところでも黄巾党みたいな奴らがいたのか?」
「それはな・・・」

と、話し込んで時は過ぎていく。


公孫賛と分かれて部屋に戻った加納は、着替えてから暇になったので自慢の得物を袋に包んで持ちながら城の中をブラついていると、中庭で一人転がっていた趙雲と出会った。

「よう、趙雲。こんなところで会うとは奇遇だな」
「む?京介殿か。確かに奇遇ではありますが・・・その長物は一体?」
「おう。頼んでたブツがようやく出来上がったんだよ」
「ほう、それはよかった。してそのブツとは?」
「こいつさ」

と、袋を解いて見せると、趙雲。

「・・・これはまた珍しいものを作ってもらったものですな」
「ま、あそこの親父も初挑戦だって言ってたし」
「そうでしょうな。それなりに諸国を放浪していた私も、このような武器は見たことがない。どのような使い方をするのか興味が出てきましたな」
「やってみるか?俺と」
「よろしいのですか?手加減できませんぞ?」
「上等だ。それぐらいじゃねえとやりがいってもんがねえだろ」
「さて、始めますか」


立ち合いからお互いの武器を構える加納と趙雲。

「参ります」
「come on!」

互いに接近し、そのままぶつかる二つの刃。

鍔迫り合いに持ち込んだ加納は当てていた刃の一つを寝かせて趙雲の槍を離す。
そのまま加納は体を入れて槍を回し、もう一つの刃が趙雲の首元に迫る。
それにしてもいきなり吹き飛ばされなくなっただけ、京介も成長したんだろう。

しかし趙雲も伊達に一騎当千と呼ばれる武将ではない。
その刃をしゃがんで交わし、槍も離して一気にジャンプして離れる。
しかし加納も予測済みなのか、その槍を地面につきたて、それを軸として半回転し前方にジャンプ。
一気に差を詰めて彼女を槍ごと蹴り飛ばし、宙に浮かせる。

「くっ!何だとっ!?」
「正々堂々としたタイマン勝負とはいえ、正攻法の攻撃ばかりが出てくると思うな!」

いくら彼女の実力がずば抜けて高いとはいえ、やはりこれは体格と体重の差。
実際の殴り合いになればどうしても体格に恵まれた加納の方が有利になる。

そのまま二合目。 今度は互いに弾き、そのまま三合、四合と打ち合う。
しかし、こうなったときの趙雲はうまい。ひらりひらりと加納の攻撃をかわしだした。
とはいえ、加納も伊達にここまで修羅場はくぐってない。あせることなく裁き、いったん距離を離す。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…流石京介殿といったところか。初めてやりあったときの無様さが、今じゃ影も形もありませんな…ずいぶんとここまで重い攻撃を…」
「はぁっ、はっ、はぁっ、はぁっ、くっ…吐くかも」

お互い疲れてきている。
勝負は一瞬。それはお互い理解しているところだ。

「…京介殿…疲れてはおりませんか…?」
「…それはお互い様だろう、趙雲?」
「そろそろ、体が、持ちませんな…次で、決めましょう」
「いいぜ?…天下の、趙子龍と、引き分けたとあっちゃあ、こいつもいい仕事したな」

そして一息つく2人。

「ハァ…行きますぞ!」
「フゥ…来い!」

そしてぶつかり合う二つの刃。
激しい音を立て、弾かれたのは趙雲の槍。
それと同時に、趙雲が倒れこむ。

「…お見事です…まさか、私が、敗れる、なんて…」
「ま、帝王を、名乗ってた、ことも、ある以上、な」

少し間をおき、京介も地面に転がる。
お互い、切らせた息を整えつつある。

「なるほど…確かに、鬼神のような、強さでした。私を、負かせることが、できたということは、幽州の、竜虎を、破る実力が、あるやも知れませんな…」
「勘弁してくれ…あんな、人間やめた強さを、持ってる奴らに、勝てるわけがねえ…」
「そうとも、限りませんぞ…愛紗や鈴々は、別に、あなたが思っているほど、人間をやめているわけではない。私のような、ずるがしこさがない分、戦いやすいかも知れませんな」
「んなこと知るか…」

寝転がったことにより、眠気が京介を襲う。

「確かに、これほど熱くなれる戦いは久しぶりでしたな。では私も横に」

そして趙雲も横に並ぶ。

「なあ」
「何ですかな?」
「趙雲はさ「星でよい」…おい」
「何か?」

わざわざ呼び方を変えさせた、ということはそれは彼女の真名なのだろう。
それを呼ばせる意味も、加納は理解していた。

「それは俺を認めてくれた、ってことでいいんだな?」
「もちろん。でなければ真名など教えません」
「いろいろ聞きたいが…なんか、今はもういいや。疲れた」
「膝をお貸ししましょうか?」
「いや、いい。お前も疲れてるだろ?」
「フフ、確かに。では私も…」

と、星は加納よりも先に寝入ってしまった。

「…ったく、起きりゃ皮肉だの何だのきっついことやたら言いまくるくせに、寝顔は可愛い奴だな。ま、素が可愛いんだから無理もねえか」

といって、着ていた黒のジャケットを星に着せ、黒地に白で鷹が描かれた長袖のTシャツにジーパン姿で転がる加納。

そのまま夕方、肌寒くなるまで寝ていた二人。
夕食時は公孫賛や如月に思いっきりからかわれた。

続く






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