それなりに平和な日常を過ごしていた加納たちだったが、急に武装していく街の人たちを見て城に向かう。

「何があったんだ?」
「さあ」

2人ともこの世界の知識をある程度は経ているが、それでもこれだけの大騒ぎは始めてである。
もっとも、暴走族時代はやたらと多かった喧騒の中にいるので、騒ぎ出しそうな欲求を押さえ込むのに必死な2人だったが。

恋姫†無双 狼達の三国志演舞 第四話


王城に到着した二人はまず超雲と合流した。

「おい、こいつはどういうことだ?一体何が起こってんだ?」

息を切らせたまま加納が聞く。

「あわてなさるな。どうやら今から戦のようです」
「戦・・か」

もともと荒事が好きだが、殺しは好きじゃない二人。
しかも実際に目の前で殺し合いが始まるとあっては、気が気じゃいられないのか、2人とも体が震えている。

「フフ、その気持ちは分かりますが、今は自重したほうがいい」
「ああ…そうだな」

それを武者震いと勘違いでもしたか、たしなめる超雲。面倒なのか勘違いさせたまま答える加納。
そのまま3人で玉座に向かうことになった。



玉座に到着したときには、公孫賛はすでに鎧姿になっていた。

「今回はどこが相手なのですかな?」

超雲が聞くと公孫賛はため息をつきながら答えた。

「黄巾党だ。朝廷からのお達しでね。お前ら準備はいいか?」

戦う意思はすでに固まっている、と超雲は答え、2人ともうなずいた。

「よし、とにかく向かうぞ。事は一刻を争うからな」
「はっ」
「ウス!」
「ウィッス!」

そして玉座を後にした四人。



「しかし、2人ともずいぶん馬に乗るのが上手くなったじゃないか」
「そりゃ、周りみんな乗れるの見てりゃ練習もしますよ」
「フッ。しかしまぁ、ここに来てまだ1ヶ月たたないうちに乗れるなんてすごいな。どんな練習したらそうなるんだ?」
「ま、そりゃ秘密ってことでお願いします」

もともとバイクに乗っていたのだから、それなりに乗れるかと思っていたのだが、流石に生き物相手は難しい。
慎重に扱わなければ暴れだすし、形だけでも乗れるようになったのも最近なのだ。
ぶっちゃけ2人とも内心ビビりまくりである。
ま、2人ともこの世界に来るまでは、乗馬体験などなかったのだから無理もないが。


さて、そうこうしているうちに、黄巾党が陣を張っている地点へと到達した公孫賛軍。
作戦としては、まだ戦力を整えている状況である黄巾党の本陣を全軍で包囲し総攻撃をかける、というものだ。
周りを山で囲まれているため、出入り口となる門を前後の封鎖し、残りの兵で一気に仕掛ける。

「さて、掃除でも始めようか。全軍行動開始!」

公孫賛の掛け声とともに、総勢7000人の全部隊が静かに行動を開始した。


「んじゃ、行きますか」
「ああ。派手に暴れてやるか」

公孫賛の声とともに動き出した中央の部隊が動き出したのを見て、加納たちも行動を開始した。
今回加納と如月と超雲は別の部隊に配属された。
超雲は公孫賛の直属部隊とともに行動する部隊、加納は左翼からしかける部隊、如月は右翼からしかける部隊をそれぞれ指揮している。

「じゃ、健闘を祈ってるぜ」
「お前もな」

と、一気に分かれて走り出す。


加納の部隊は左翼から一気に崩しにかかる。

「オラオラアアアァァァ!ブッ込めテメエラァァァァ!」
「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!」

敵陣に近づいたため、加納が声を張り上げる。
彼自身乗りなれぬ馬から降りて、十文字槍を振りながら味方を煽りつつ、先頭で叫びながら突撃する。

「うぐぁっ!」
「ぐぼっ!」

人の骨を拳で砕く感触は慣れているし、ナイフで人を刺すのにも慣れているが、これほど大型の武器を使ったのは加納自身初めてだ。
慣れない感触に戸惑いながらも槍を振るい続ける加納。

「くっ!やっぱり使い慣れねえな・・・けど、文句たれてられねえよな」

ゲームでは軽々と振り回すところを見ているためか、簡単だと思っていた加納だったが、その考えが甘いことを知った。
鉄パイプや角材などとは違い、先端が重いので振り回す際に体がもっていかれそうになるのだ。
しかし、彼はこんなところでくたばるつもりは無いし、ましてや賊ごときに自分の命をくれてやるつもりはさらさら無い。

「絶対生き残る・・・何があろうともな!」

その決意を胸に秘め、戦い続ける加納。



しばらくすると、敵が自分の周りに集まってきた。
何十人単位で集まる黄巾党。

「うざってェ…どきやがれテメエラァ!」

槍を振り回しながら、敵の中心部から逃げ続ける加納。
果たして、どうなるやら…


同時刻、如月は右翼から攻め寄る。この作戦は左右ほぼ同時に展開しなければならない。
そこで彼は集団で一気にかかった加納とは違い、馬を下りて静かに坂を駆け下りていく。
静かにかけることで、派手好きな恭介にあつまる連中の裏をつけると考えたからだ。

「さて、慎重に行くか。恭介のやつは無茶したがるし・・・」

すると、向こう側から加納の図太いシャウトと兵たちの雄たけびが聞こえた。

「向こうが作戦を開始したのならちょうどいい。一気に仕掛けるぞ」

と、如月も馬から降りて先陣を切っていった。
勢いは加納隊にも劣らない。

「一気に狩らねぇと、あとで恭介や超雲にいやみ言われるかもだからな」

公孫賛に関してはどうするんだ如月・・・・
すると、如月はある光景を発見した。

「あのバカ野郎…おい、誰かいるか!」
「「「「「「はい!」」」」」」

15人ほどの若者が返事を返した。

「京介…いや、加納将軍が面倒なことになってるんで助けに行くぞ。ついてこい!」
「「「「「「了解です!」」」」」」



「クソッ!どうすりゃいい!?」

加納は完全に囲まれていた。
これが名だたる武将なら全員吹き飛ばして前に突き進むんだろう。
が、加納にはあいにくそこまでの腕力はない。

「だけどなぁ…やっぱり死ねねぇわ。こんなところじゃよ」

体は疲労困憊とまでは行かないが、それでも疲労はたまっている。
槍がものすごく感じられる。
しかし、生きる気力、殺す覚悟、戦う決意。すでに加納には逃げる道は残されていないが、彼も逃げる道を選ぶことは無いだろう。
これまでもここまでではないが、一対多は多数経験している。

その彼が選んだのは…

「テメェ、舐めてんのか?」
「別に。本来の戦闘スタイルに戻しただけだ」

徒手空拳。
彼は槍を捨て、素手でそこに立っていた。

考えてみれば、彼以外のみんなは長物の武器を使う。
それは、長物ゆえの長所を生かすためだ。
初心者でも距離をとって戦うことでいくばくかの不安を減らし、ある程度安全に敵を殺せる武器が、ある意味槍であり、薙刀である。
そして、間合いを取れて接近戦ができるというのが大型の武器の長所だ。
それは加納自身、この世界に来て実感したことだ。

しかし、それでも体はこれまでの経験を優先して動く。
彼にとって戦いとはタイマンであり、喧嘩である。
そして彼にとっての喧嘩は、素手が常識。武器を使うものは邪道とも言われた。

しかし、この世界では殺すか殺されるか。
そうも言ってられないはずなのだが…素手で、しかも数の暴力に勝てると思っているのだろうか?

「…死にてぇヤツだけ、かかって来い!」

何かどこかで聞いたような台詞だが、気にしないのが吉だろう。

「ギャアッ!」

すると、加納がつぶしたわけでもないのに悲鳴が聞こえた。
それに続いて周りがざわつき、キョロキョロし始めた。
加納も少しあせるが、ド素人ではないので緊張は緩めない。

「よう、待たせたな」
「遅ぇよ。でもサンキュ」

出てきたのはやはり如月だった。
そのままの勢いで公孫賛の部隊も合流し、一気に切り崩しにかかった。
すでに敵の棟梁も討ち取り、残党を掃滅した後そのまま帰還する。



しかしこの帰り道、とんでもないニュースが公孫賛軍に舞い込む。
なんと、帰りの通り道付近で黄巾党が集結しているというのだ。
攻め込むにも先の戦いで5000人ほどに減り、兵の体力も馬も疲労困憊状態。
そのため逆に攻め入られ、苦戦を強いていた公孫賛軍。
そこに登場したのが・・・・

「ど、どうも・・・北郷一刀です・・・」

この外史の主人公であり、物語の突端とも言える存在。
「天の御使い」北郷一刀率いる幽州の部隊だ。

「おう。加納恭介だ」
「如月瞬だ。よろしく」

3人で握手を交わす。
どうやら北郷も加納たちと同じように、この世界に飛ばされたらしい。

「ご主人様。そちらは・・・」

黒髪の美女が北郷に声をかけた。

「ああ、どうやら俺と同じ世界にいた人たちみたいだ」
「ほう、では私も自己紹介を。私は関羽、字は雲長。今後ともよろしくお願いします」

と、関羽と名乗った少女は加納たちに手をさしのばしてきた。

「おう。よろしく。加納京介だ」
「如月瞬だ。よろしくな」

と、順番に2人とも握手した。

「鈴々は張飛!字は益徳なのだ!」

と、今度は赤い髪をショートカットにした元気で小さな女の子が声をかけてきた。

「加納京介だ。よろしく」
「如月瞬だ。できればあんたたちとは争わないですむといいな」
「もちろん。われわれも無益な争いは好みませぬゆえ」

そのまましばらく言葉を交わしていると、北郷はなにやら関羽と張飛とともに去っていった。

「やれやれ、あいつも大変だな。いきなり受難の相が背中から滲み出いてやがる」
「まあな。でもあいつらがいいならいいんじゃね?」
「…だな」

そのまま公孫賛が軍議に出るということで、加納と如月はしばらく公孫賛陣内にいた。



陣内に帰ってきた公孫賛に結果を尋ねる加納。

「それで、どうなったんだ?」
「とりあえずこのまま様子を見ることになった」

倍以上の戦力を持つ黄巾党がどう動くのか分からない以上、下手に仕掛けるのは被害ばかりで逆効果だろうと判断してのことだ。

「しかし、それでよろしいのですか?」
「どういう意味だ超雲」

割って入ってきた人がいた。超雲だ。

「確かに正規兵相手ならば納得する内容ではあるが、相手はたかだか一般民上がりではないですか」
「それがどうした?」

挑発するような言い方の超雲に対し若干キレ気味の公孫賛。

「一騎当千の武将達で一気に仕掛ければよいのでは?一気に相手の戦意を削げるし、敵の頭数も減らせ、一石二鳥では?」
「ずいぶんと急進策だな。面白そうではあるが」
「乗ろうとするな加納。いくらなんでも無謀すぎる。下手をすれば一気に有力な武将を失うことになるかも知れないんだぞ?」
「ま、何事もうまくいくなんてのはほぼありえない話ではあるわな。物事には必ずどっかに欠点がある」

乗りそうになった加納を止めた公孫賛に乗る形で発言した如月。

「ではお2人は何か他の策がおありか?」
「ない。だから今どうするか考えるために向こうの動向を窺っているところだ」

もっともだ。しかし超雲は何か考えがあるのか、それともただ暴れたいのか、積極策を推す。

「今膠着しているこの状況だからこそ、こちらから攻め込むことが重要だと思うのですが」
「少し落ち着いて考えろ超雲。それだけのことができるような武将、一体どこにいるってんだ?」

ヒートしているように見える超雲を収めようとするついでに挑発する口調の加納。

「ここに三人はおられるぞ」
「ほう・・・ならばその名を言ってみろ」

この公孫賛の問いに超雲はニヤリと笑い、

「知れたこと。北郷軍の関羽殿に張飛殿、そしてこの私が」
「…また豪華メンバーだなオイ」

如月が呆れた風に言う。いや、実際呆れているのだろう。
顔がそれを物語っている。

「…俺達は別にかまわないが、関羽たちが乗ってくるか?張飛は乗るだろうが、関羽を動かすのは難しそうだぞ」
「ふふふ。あなた方2人とも武人というものを理解しておられない。特に如月殿」
「アァ?」

いささか不機嫌なように聞こえるかも知れないが、これが彼の地である。

「そんなことでは彼女たちや私とやっていくのは厳しいですぞ?ま、慎重なのは無謀な者よりはマシですが、それでもいざというときは前に出る度胸も必要ですからな」
「…とりあえず向こうの出方次第だな」

とりあえず今はこの話題を終わらせるべきと考えたのか、無理やりではあるが結論を出した加納。
他の面子も頷いたようだ。

続く






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