人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。

 悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

  6・What a wonderful world

 

『……というわけで、以後も彼女はこの船に残ることになった。以上』

 アイリスの正体及び、処遇が発表された。発表と同時に艦内が「えぇ〜〜〜!?」という叫びと言うか、何と言うかに包まれるのを感じる。

 そして、

「……あれ、あの人よ」

「うっそ〜、ほんとに女だ。男だと思ってたのに」

「なんかすごく強いそうだし……」

「あたし銃向けちゃったよ。どうしよう」

 医療室の入り口は興味本位でやって来る連中でごった返している。

「はぁ……」

 白衣姿でアイリスはため息をついた。こう一挙手一投足に何かを言われては治療にも専念できない。

 アイリスは宣言通りドゥエロを手伝って怪我人の治療に当たっていた。と言っても彼女の場合、問答無用で新陳代謝を促進させて怪我を治すというものだ。要するに重傷でもない限り、一瞬で事が足りてしまうのである。

 今も一人作業中に腕を切ってしまった整備クルーを治療している。その手に両手をかざして意識を集中させる。すると両手に光が灯り、怪我の部分へと集まっていくのである。それをしばらく続けるだけで怪我はうねる様に脈動すると、どんどん消えていくのだ。後には何も残らず消えてしまうのである。

「はぁぁ……」

 治療を受ける側も見る側にも驚きだ。最も知的好奇心旺盛なドゥエロが一番それに見入っているが。

「はい、終わり。次の人〜」

 淡々と仕事をこなしていくアイリス。ふと、ベッドルームのほうを向いた。そこからは啜り泣きが聞こえてくる。ホームシックの連中である。

 アイリスはこういった精神的なことに関しては不得手であった。仲間のマリーなら得意なことなのだが、

「……幻覚見せても意味ないからなぁ」

 手を止めてそうつぶやいた。

「それはしかたないだろう」

 ひと段落着いてドゥエロが言ってきた。

「郷愁というのは誰にでも起こり得ることだ。仲間や家族に会えないというのは辛いものだからな」

「それが、ペークシスの気まぐれで起こったとあればねぇ……」

 ため息をついてアイリスは白衣を脱ぐ。

「どこへ?」

「格納庫よ。

 そろそろ……奴等の気配が強くなってきた。」

 それだけ言うとアイリスは慌てて下がるギャラリーを尻目に医務室を後にする。

「……ふむ」

 ドゥエロは何かを思い当たったのか急にカルテの整理を始めた。

 

 

 謎の敵はそれから10分もせずに襲ってきた。文字通りの急襲と言う形を取って。

 

 

「全艦戦闘配備!!」

 レーダーに敵影が映ると同時にブザムが号令をかけた。そして、バリアを展開した直後、長距離からのレーザー砲の一斉砲撃が艦を揺すった。

 揺れるブリッジの直横を見せ付けるように敵が過ぎって行く。

「は、速い!」

「敵影確認!今までにない機体です。それに……この加速は先のメイア機の速度に匹敵します!」

「なんだと!?」

 

 疑問を口にするまもなくパイロット達は艦から飛び出してくる。バリア内でフォーメーションを組むが、敵の予想以上の速さに皆が緊張の色を隠せない。

「迎撃パターン、アルファ―1!全機攻撃開始!」

『『ラジャー!!』』

 メイアの号令と共にバリアが解除され、ドレッド部隊が展開する。

 敵は先のメイアとヒビキの合体機体を粗悪に真似たシロモノだが、その加速は途轍もない物だった。その機体はレーザーと鋭い切っ先を使った体当たり攻撃を繰り出してきたのである。調査によって無人機だと言うことが分かっているから納得がいく戦略である。

 そして、新人の混じったマグノの部隊では荷が重いというのも事実であった。

「きゃぁぁぁ!!」

 今、一機が敵のレーザーにブースターをやられフォーメーションを乱し、敵機の射程に身を晒してしまった。

「――!!?」

 敵が凄まじいスピードで機体に狙いをつける。しかし、その後ろからレーザーを浴びせる機体があった。メイア機である。その機動性を活かして敵を追い払うと素早く通信を送る。

「下がれ、バリア内に退避していろ!」

 しかし、その通信が注意を一瞬だけ乱した。その隙というには偶然すぎる偶然に、横から敵が体当たりをかけてきたのだ。

「リーダー!横!!」

 パイロットが上げる声にハッと振り向くが時すでに遅し。出来たことは機体を傾けてコクピットへの直撃を避けることぐらい。

 コクピット近くを抉られる様に持っていかれたメイア機は爆発し、宇宙に漂ったのである。

 

『リーダー!!!』

 パイロットの絶叫に気づいたのはアイリスだ。翼を広げての高速飛行で2機までは潰したものの、数の多さに目が回りそうになっていたのである。

 振り向けば、メイア機が息絶えたように虚空を漂っている。その機体からは黒煙が上がっている。しかもコクピット近くで。

「メイア!?」

 しかもその機体に止めを刺さんと敵が迫っている。

「させるかぁぁぁ!!」

 ブースターを全開にし、敵を上回る加速で逆に敵に体当たりを仕掛けるアイリス。さらに手刀でその機体を薙ぎ裂いた。

 メイア機に近付いて状態を確認するアイリス。コクピットは外れているが、中は酷い有様だった。メイアは無事のようだが、頭から出血している。放って置くわけにもいかない。

『どいとくれ!!』

 突如ガスコーニュの声がする。すぐ上にデリバリーが迫っていたのである。ガスコーニュはメイア機を回収するとヒビキとディータを従えて戻っていく。

「ドゥエロ!聞こえる?今メイアが行ったわ。ストレッチャー用意して!」

 

 

「頭部外傷……大腿骨骨折……脾臓破裂、くっ無事なところを探すほうが難しい」

 ストレッチャーで運ばれるメイアを診ながらドゥエロは悔しげにつぶやいた。

「この馬鹿が、あんな無茶しやがって」

「リーダー……」

 併走しつつヒビキとディータも声をかけ続ける。

 呼吸器をつけられたメイアは薄目を開けながらぼうっとなっていた。

(……皆、何を言っている。私は……)

「診療台を空けろ!!」

 ドゥエロの叫びが医務室に飛び込んだ。

 同時に敷居を通る衝撃でメイアの髪飾りが飛ぶ。床に落ちて跳ねる髪飾りは、メイアのその後を案じさせるように空虚なものだった。

 パイウェイがそれに気づいて呆然と見下ろす。

「パイウェイ、何をしている!手伝え!」

 血にまみれた髪飾りはその後、怪我人が拾うまで10数分放置されたままであった。

 

 

Aチームはフォーメーションアルファ―1!Bチームは、えっと……」

 メイアに代わってサブリーダーのジュラが指揮を取っていた。しかし、ジュラには決定的なものが欠けている。状況判断力と冷静さであった。ジュラの指揮に置かれたことでドレッド部隊はさらに混乱をきたしていた。追い込んだ先の部隊はなく、さらには弾幕の先にチームを突入させたり、ドレッド同士の正面衝突など相撃ちが多くなってしまったのである。

「ジュラ!しっかりしなさいよ!フォーメーションがバラバラじゃない!!」

 見かねたバーネットが怒鳴る。

「分かってる!分かってるけど……」

 立て直そうとすればどつぼにはまる。悪循環である。

「ジュラ!ジュラったら!!」

「もう、……あたしに聞かないで!!」

 せかすバーネットについにジュラが切れた。最悪だ。

 

 

「メイアのリーダーシップに頼りすぎていました。サブリーダーの育成がおろそかになり……」

 ブザムが悔しげにつぶやく。

「あの子がそれをしなかったのさ。」

 そのブザムを遮ってマグノが声を上げた。

「あの子は自分が全てを背負うことで、自分を罰しているつもりなのさ。自分の過去にね」

「…………」

(メイア、死ぬんじゃないよ。アンタまだ元取ってないんだからね!)

 マグノは目をカッと開くと、回線を開いて言った。

「聞こえるかい!ジュラ、アンタはもういい。」

 なんと、ここに来てジュラを降ろしてしまったのである。ブザムがさすがにマグノを振り返った。

「アイリス!聞いてるね?」

『はい、一応!』

「ドレッド部隊はあんたが指揮を執るんだ!出来ないとは言わせないよ!」

 その台詞に、パイロットを含めてブリッジクルー全員がハッとなる。アイリスを指揮官にする!?

『お頭!お言葉ですが……!』

「出来るとは思えません!!」

 パイロット達が状況無視して語気を上げる。

「反論を許した覚えはないよ!」

 その一言で皆が静まる。それだけ発言力があるのだ。

『言っときますけど……』

 アイリスが遠慮気味に言ってきた。

『終わった後にパイロット全員仮眠室送りになりますが』

 マグノは面白げに、

「構わないさ。せいぜいやっておやり」

 

 

「なら、遠慮しないわよ!」

 アイリスの手がコンソールを滑る。スクリーンを全周に切り替えて、新たにモニターを映し出す。操縦桿を握り直すと、声を張り上げる。

「これから即席にチームを編成するわ。無駄話は許さないからそのつもりで!

 ロゼ、シェリルはバーネット共にBチーム!アイリーン、ミケールはジュラについてCチーム! 残りはAチームでアタシについてきて!」

『せいぜい、お手並み拝見と行くわ!』

 バーネットが皮肉気に通信してくる。

「死なせないからご心配なく!ガスコさん今すぐ来て!

1−7−2方向!弾薬はスラッグ弾20!ホーミングミサイルTypeB40……!」

 

 

 ものの数分で形成が拮抗状態に戻った。

「なんて奴だ……」

 ブザムでさえ言葉を失っている。アイリスの指揮は途轍もなく早く、かつ正確だった。弾切れを見計らってガスコーニュにまで指示を送り、全機体を投入せず2機ほどを交代要員としてバリア内にとどめる。エネルギー切れまたはガスコーニュに回収されるたびにチームに補充する。個人の力量を完全に度外視してフォーメーションを次々に送っては試す。パイロット達の精神力の限界、ドレッドの耐久力の限界に挑戦するといった感じの指揮だった。

 ただ、ジュラよりは確実に腕がいい。それは言える。

「……予想以上だね。これは」

 マグノもここまで出来るとは思っていなかったのだろう。渡されたIDに記載されていた情報に、「戦闘小隊隊長歴任」などと書かれていたが、ここまでパイロット達を振り回してくれるとは思わなかった。

「敵味方共に拮抗状態です。」

『ダメです!敵が速すぎてドレッドでは追いつけません!』

 いくら指揮が良くても、埋められない溝と言うものは存在する。追いかけても、追い込んでも逃げられる。不意をつく攻撃でもその加速でかすることしか出来ない。

 しだいに、パイロット達に疲れが見え始めた。

 

 

 ガウンッ!

 ジュラ機が鳥型のレーザーをかすった。

「つっ、スラスターが……!」

 白煙を上げるジュラ機にアイリスが素早く通信を送って来た。

『ジュラ、下がって!後は任せて』

「…………く」

 戦闘下での指揮官の判断は絶対である。ジュラに変わって持ち直させたアイリスの指示ならなおのことだ。

 

 その頃、ヒビキとディータも戦場へと舞い戻っていた。次々と送られてくるフォーメーションの指示を二人は完全に把握しきれず、結局遊撃要因として自由にやってもらっている。そのせいでフォーメーションのドレッドに動きを阻害されることもたびたびあった。

「くそっ、まともに動けやしない。

 ……贅沢は言ってられねぇか」

 ヒビキは憎憎しげにつぶやくと、ディータに回線を開いた。

「おい、UFO女!どこだ?合体するぞ!」

 しかし、ディータはメイアのことが気がかりで心ここにあらずの状態だった。

「……リーダー」

「おい、どうした!いっつも合体合体ってうるせぇ奴がよ!」

「え、……あ、うん!」

 両機が急接近すると光が走り、蒼い巨人が現れる。キャノンを構えて追いかけるが、

「もらった!」

 いざ引き金を引こうとしたとき、いきなり目の前からアステロイドが迫ってきた。

「おわ〜〜っ!?」

「きゃぁぁ!!」

 ぎりぎりで回避に成功する。と、戻ってきたジュラに出くわした。

「何よ。気張ってる割にこれ?」

 皮肉気に言うジュラ。

「うるせぇ!指揮もロクにできねぇ奴に言われたくねぇよ!」

 売り言葉に買い言葉で言い返すヒビキ。

「!! 男に言われたくないわよ!」

『やめなさい!!』

 アイリスが鋭い口調で通信してきた。全回線に耳を傾けているので筒抜けになっているのである。それで指示と通信と操縦をこなしているのだから異常としか言いようがない。

 

 

「ヴァンドレッド・ディータ、戦線に参加しますぅ!」

 エズラが嬉々として報告する。しかし、聞き慣れない名前にマグノが思わず聞き返した。

「なんだい?その名前は」

「あ、メイアちゃんのと区別をつけなきゃいけないと思って」

 エズラはそのおっとりした言動から頼りなさげに思われているが、窮地に陥っても冷静でいられるクルーほど頼もしいものはない。

「こんな時に名前考えてるとはね……」

 マグノはため息をついた。そして、回線を開く。

「兄ちゃん!しっかりやっとくれよ!」

『分かってらぁ!けどよ、あいつの指揮早すぎるぜ!』

「なら死ぬ気で着いていくんだね。アンタとは二つ以上も格が違うよ」

 

 

「言ってくれるぜ。」

「宇宙人さん、左!」

「――!?」

 敵の一機がレーザーを撃ち込んでくる。それを何とか回避するヒビキ。しかし、回避した先にドレッドが突っ込んできた。注意力を一瞬乱したためにフォーメーションからコンマ数秒遅れたドレッドだ。

 そして、

『きゃぁぁぁぁぁ!!』

 左翼部をごっそりと持っていかれた。

 

「しまった!!」

 そして、

『こちらロゼ!そろそろ……限界』

『ミケール!ミケール応答して!』

『どうするの!?皆限界よ!』

 皆から次々と体力の限界という意見が降ってくる。アイリスはすぐに決断を下した。

 これ以上続けていても被害がまた増える。撤退するしかない。

「ニル・ヴァーナ、こちらアイリス!パイロットたちがそろそろ限界みたい!!撤退許可を!!」

 ニル・ヴァーナからの通信も早かった。

『よし、全機一時撤退!バリア内に退避せよ!』

「了解!!

 全機撤退!Bチームは下から回りこんで!Cチームはミケールを援護!アタシが回収する!」

 

 

 回収された後のパイロットの状態と言ったらなかった。降りてくるなりその場に腰を落としてしまったのだ。それだけ過激な操縦を繰り返していたことになる。『全員仮眠室送り』というアイリスの言葉もウソではないらしい。

 しかし、休んではいられない。敵はまだいるのである。

 整備クルーが全力で整備を続ける中、パイロット達は体に鞭打ってフォーメーションのチェックに入っている。

 そんな中、ジュラは一人隅にうずくまっていた。自分の指揮で混乱をきたしたことに対して重圧を感じていたのである。

「どうせ……アタシにメイアの代わりなんてできない」

 絶望的にそうつぶやくジュラに声がかかった。

「思い上がるんじゃないよ!」

 ガスコーニュであった。ガスコーニュは遠慮なく声を上げる。

「誰もあんたにメイアの代わりなんて頼んじゃいない。あんたを追い込んでるのはあんた自身だろ?」

 ガスコーニュの考えは、ジュラをプレッシャーから開放してやることだった。自分の能力以上のことをやろうとすれば必ずイライラがつのる。それを背負おうとするジュラの荷を、降ろさせようとしているのだ。

「周りを見てごらんよ」

 変わってやさしい口調で話しかける。

「皆も自分のできることを精一杯やろうとしてるんだ。あんたが全部背負う必要はないんだよ。みんなを頼るんだ。

 あんたはジュラでメイアじゃないんだからね」

 それだけ言うと、その場を立ち去った。ジュラは呆然とそれを見送り、目をこすると毅然と立ち上がった。

 それと同時にレジの扉が開いてアイリスが入ってきた。

「とりあえず皆いるわね?」

 入ってきたアイリスに早速バーネットが食って掛かる。

「いるわね、じゃないわ!あんなフォーメーションさせて、ボロボロになるじゃないの!」

「あれくらいやらないと立て直せなかったのよ。判って」

「…………」

 バーネットは何も言い返せなかった。メイアの指揮でも難しい所を持ち直したのだから。

「で、これからどうするの?」

 今度はジュラが話しかける。その声と共にパイロット全員がアイリスに視線を送る。

「とりあえず、皆にはこれを飲んでもらうわ」

 言って取り出したのは箱に入ったカプセルだった。キラキラと輝いている。

「って、ドーピングしろって言う気!?」

「失礼な。ただの気付け薬よ。薬草をいくつか混ぜたもの。依存性も麻薬性もないから安心して」

 進められて結局全員がそれを飲んだ。

「さて、これからだけど、何か案はある?アタシだけの案じゃまた同じことの繰り返しだから」

 アイリスは自分では指示せずにパイロット達から意見を求める。そして、

「あるわ。」

 ジュラが声を上げる。その顔には自信が甦っていた。

 

 その頃メイアを治療しているドゥエロは、どういうわけかパルフェを呼び出していた。メイアの脳内にあるペークシスの破片の振動抑制を依頼したのだ。そうしなければ下手に取り出そうとした場合、脳に致命的な障害が残ってしまう。

 アイリスに助けを一度は求めたが、指揮中であることと、脳内の外科手術は魔法では不可能と言う返答が帰ってきたのだ。

「脳内にペークシスの破片が入り込み、微妙な振動を繰り返している。記憶中枢の混乱の中で彼女の精神がどれだけ持つか」

 ドゥエロにしても賭けであるが、これしか手はないという自信も見て取れる。

「チャンスは一度よ。失敗したらメイアの脳は二度と元には戻らない」

 スイッチの調整をしならがパルフェは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 うなずくドゥエロ。そして、スイッチが入れられた。

 

 その頃、メイアの精神中で家族との対話が行われていた。記憶が乱流し、忘れようとしていた過去が思い出される。拒否するメイアに死んだ母親の言葉がかかる。

『私はね、弱い人だから外に出て行く勇気がないの。だから、戻ってくる人が笑顔でいられる場所を作るのが夢なのよ。

 あなたにもきっとわかる。大切な人ができたその時に……』

『メイア、強くなれ!』

 今度はオーマの声がかかった。

『お前は一人ではないんだ。』

『あなたには帰るべき場所がある。行きなさい、大切な人のところへ』

「いやだ!私も一緒にいく!!」

 遠ざかる両親の姿に向かってメイアは走った。引き離された子供のように、失いたくないものを追いかける。

『メイア!』

『メイア、帰ってきて!』

『リーダー!!』

 マグノや、バーネット、ディータの声が耳に響いた。

「やめろ、放っておいてくれ!

 母さん聞いて!母さんは弱い人なんかじゃなかった!弱かったのは私のほうだ!何でも母さんに押し付けて、母さんに守られてばかりで、自分の殻に閉じこもって、だから、だから……!」

 

 

 ジュラのアイディアは全機のビームとバリアの周波数を変動させて、同士討ちを防ぐと言うものだった。アイリスは即採用し、同時にそれを元に策を考える。ヒビキもそれを聞いて何かを思いつく。

 ヒビキの案を聞けば、アイリスの考えたものとまったく同じであった。

 マグノの許可を受けて、ドレッド部隊全機が出撃する。アイリスも作戦に必要なためにドレッドを借り受けた。

 そして、怒涛の攻撃に耐えながら、バリア内でフォーメーションを整える。

『もういい加減腹減ってきたからな。一回で済ますぞ。

 全員ふんどしの紐締めてかかれよ!』

『何?それ』

 流れる二人の声に一人だけ笑うアイリス。さらに、パイロット達にも不思議なことが起こっていた。先ほど疲れていた体がウソのように軽く、さらに内から何かが湧き上がってくるような感覚を覚えるのだ。アイリスの秘薬の効果覿面と言うところか。

『距離1200!!』

 ベルヴェデールが叫ぶように報告する。

『まだ……』

「まだよ!」

 アクセルに足を乗せて身構えるアイリス。ドレッドの操縦方法は乗ったとたんに頭に流れ込んできている。それも彼女の持っている能力だった。初めて扱う物も手足のように操れる。そして、

『距離900!!』

 報告と共にヒビキとアイリスの声が唱和する。

『行けぇぇぇぇ!!!』

 バリア解除と共に全速力でビームの嵐を突き進むドレッド達。最後尾をヴァンドレッド・ディータが行く。

 しかし、ドレッドはすぐに八方へと逃げ去って行った。ヴァンドレッド・ディータは敵の攻撃をいっせいに浴びる羽目に。

 

 

「あたしは、きっと強くなる!母さんに胸を張ってそういえるように。もう逃げ出したりしない、母さんのように皆を守りたいから……」

 メイアは立ち止まった。そして、その視界が光に包まれる。

 消え行く意識の中で家族の声が最後に響いた。

『私たちは……いつでも、お前を見守っている。もう悩まなくていい……』

 

 

「全チーム配置完了!ヒビキ!!」

 アイリスの声をと共にヴァンドレッド・ディータが背中の砲を腕に回す。

「うおおおおお……!!」

そして、大きく体を広げた。そして、八方にビームをぶっ放した!

 

「馬鹿!散々失敗したのを忘れたのか!」

 バートも思わず声を上げた。しかし、かわされたビームは更に外側にいたドレッドを直撃し、折れ曲がったのである。

「え?」

 

 ビームはドレッドに次々と直撃し、折れ曲がる。乱反射したビームはまさに全方位から鳥型に襲いかかり、その全てを撃破していったのであった。その光景はまさに“籠の鳥”を思わせた。最後に母艦の大爆発と共に、敵影はその全てが消滅した。

「……まさか、味方を反射に使うとは」

 ブザムもその常識はずれな作戦に声を失っていた。

「ありゃ、あの連中にしか浮かばない作戦だよ」

 マグノも席によりかかり大きく息を吐いて言った。

 

 

「う……」

 メイアは呻いて薄っすらと目をあけた。

「よかったぁ!メイア!」

「うぅぅぅ!!」

 いきなり目前に泣き顔のパルフェとパイウェイが現れる。いきなりの光景に声を失うメイアだが、ふっと息を吐いた。

「皆、なんて顔だ……。 !」

 顔をさすったメイアがいつも着けている髪飾りがないことに気づいた。ドゥエロは傍らの髪飾りを持ち上げて彼女に示す。

「ここにある。よほど大切なもののようだな」

 しかし、メイアは毅然とした顔になり、言った。

「違う。それは、それは戒めだ」

 

 

 その後、激戦を勝ち抜いたことと、メイアの快気祝いという事で、パーティが催された。皆が多くを語り、多くを食した。ヒビキもペスカトーレの皿をいくつも重ねたほどだ。

 メイアはかなり遅れてトラペザに足を運んだ。すでに宴は終わり、電気が落とされて皆眠り込んでいる。その皆をねぎらうように顔を見て回る。そして、その足はヒビキの前で止まった。

「皆よくがんばったよ。」

 後ろからマグノの声がかかる。自室で食事をとマグノがここにくるのは珍しいことだ。

「お頭」

「しかし、不思議だね……。この感情むき出しの馬鹿。いつの間にか皆の間に溶け込んじまってる。」

 ヒビキに上着をかけながら言うマグノ。

「もう許していいんじゃいのかい?自分をさ」

「……お頭!?」

「そうよ」

 後ろから声がかかった。振り返ると、アイリスがキッチンから出てくるところだった。その手にはグラスが握られている。

「人っていうのは一人じゃ生きて行けない。一人で生きていると思っても誰かが支えている。

 それが、家族であり、友達であり、仲間でありね。」

「お前は……」

「何も知らずに、って言いたいんでしょ? アタシも似たような境遇なのよ。」

 マグノの目が細まった。

「あたしは一度死んだ人間。軍の娘として生まれて育てられて、結局は姉のスケープゴートにされた。そんなアタシを救ってくれたのが会って一年もしない仲間だったわ。彼らがアタシの支えになってくれた。だから、失いたくない。大切にしたい。」

 メイアはアイリスの過去の吐露に驚いていた。自分の過去より悲惨な過去を簡単に口にするのだから。

「もちろん。あなたもね」

 にこりとして、持ったグラスをメイアに差し出した。

「人は変われる。ただ、時間がかかるだけよ」

 すれ違いざまにそう言って、食堂を後にするアイリス。呆然とそれを見送るメイア。

「後は、あんたの気の持ちようだね」

 マグノも静かに食堂を後にした。

 メイアは星の海に目をはせる。息を吐いて穏やかな顔になると、グラスを一気にあおった。

 

「ぶっ!!」

 いきなり、メイアがむせる。のどの奥が焼けるように熱い。酒だ。

「どう?ウィスキーのオレンジ割の味は」

 入り口からアイリスがからかうように言ってきた。

「……き、貴様!」

「あははは!!いい物見たわ」

「ま、待て、この!!」

 逃げるアイリス。追いかけるメイア。

「元気になってよかったじゃない!これからもよろしくね!」

 早々に姿を消して、言葉だけが響く。

 足を止めてため息をつくメイア。

 気が静まっていくのは酒のせいではないだろうと思いつつ、憮然と自室へと戻っていった。

 

 

 To be continued

 

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   あとがき

 

 つーことで早々に5話目突入ということで、書き上げました。

 う〜〜〜〜む、書くこともないので、また次回!!(おい)

 次回「Easy life」を期待してくれ! P!  hairanndo@hotmail.com

 

2002年6月29日