あなた方に最上級の感謝を捧げよう。

 敵である私を拾っていただき、飢えた私にパンと水をくださり、一夜の寝所を与えてくださった。

 あなた方に最上級の感謝を捧げよう。

 叶うなら、いがみ合うお互いの間に未来への絆の生まれん事を。

 

 VANDREAD the unlimitedSecond Stage

 

 1・Red Light

 

 カラーン!

 薄暗い格納庫の中で甲高い金属音が響いた。

「あ」

 そして、上がる女性の声。

「ったく……」

 愚痴りながら機体から出てきたのは、アイリスだ。手元がくるってスパナを取り落としたようである。

 

 あの刈り取り母艦を破壊してから十数日、まったく襲撃がない。暇をもてあました彼女は事あるごとに機体整備に熱を入れていた。

 まぁ、ヒビキのほうは始終整備しまくっているが。

 そんな彼女であるが、最近は本当にする事が無くなってきて少々気が抜けた状態になっているのである。

 タラップを降りてスパナを拾い上げる。そして、ため息をひとつ。

「…………」

 そのスパナをじっと見据えて何か考え込む。

「……何やってんだろ。私」

 いきなりスパナを後ろに放り投げた。それは後ろにあった工具箱に寸分たがわず落ちてガシャンと乱暴な音が立つ。

「あぁぁぁぁぁぁ、暇だぁぁぁぁ……」

 蛮型の収まっている格納庫の床に大の字に横になってしまう。

 とうとう機体整備にまで飽きが来たようだ。ガスコーニュとポーカーでもすればいいと思うのだが、それもとっくの昔に飽きている。

 愛機を見上げながらアイリスは物思いにふけり始めた。

 

 脳裏に仲間達と過ごした日々が浮かんできた。

 毎日のようにトラブルに巻き込まれては、四苦八苦していた当初。

 ジャングルの極地でテロリスト相手に喧嘩を売ったあのころ。

 実の親に叩き出されたあの頃、そんな親に復讐したあの日。

 ……いろんな思い出が脳裏を次々によぎっていく。

 そして、いつしか脳裏の映像は蛮型に乗って共に戦う仲間たちの映像に切り替わっていた。

 前方の視界は利かない。しかし、確実に敵の攻撃が当たり始めている。

 心の中に焦りが生まれた。その時、ヴァンドレッドに変形したヒビキ達が敵へと突っ込んでいく。

「ヒビキ、待ちなさい!突っ込むのは危険よ!」

 通信を送ったつもりだが、まったく通じていない様子でヴァンドレッドは見えない敵に砲を向けた。そこに狙いすましたように敵の攻撃が来た。

 それはヴァンドレッドを直撃した。

「ヒビキ!ディータ!」

 慌てて援護に行こうとするが、今度は予期しなかった真横からの攻撃にアイリスの蛮型が直撃を受けた。

「うあぁぁぁぁ!!?」

 右腕に鈍痛が走り、ペークシスの翼が剥がれる。しかも立て直そうとしても機体が反応しなくなっている。

「ちょっと……どういう事!?」

 新たな衝撃音に視線を戻すと、メイア機とジュラ機も攻撃を受けて操縦不能になっているようだ。

 と、砲撃が今度は後ろにいたニル・ヴァーナを砲撃し始めた。ニル・ヴァーナはバリアを展開するでもなく、攻撃にさらされ続ける。

「ちょ、バートは何やってんのよ!」

 と、ニル・ヴァーナ内部から爆発が起こった。それは融爆し、船全体に広がっていく。

「そんな……そんなことって……」

 目の前で信じられない光景が広がっていく。

 耐え切れなくなったニル・ヴァーナはとうとう……、

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 跳ね起きるアイリス。そして、周囲を見渡す。別に何の変化もないさっきと同じ格納庫である。

 だが、アイリスは荒い息と共に全身に汗をじっとりとかいていた。

「……ゆ、夢?」

 汗をぬぐいながら呆然とつぶやいた。あまりにもリアルな夢過ぎたのだ。しかも鈍痛が走った右腕までジンジンと痛みが走るようだ。

「……冗談じゃないわよ、ちょっと」

 立ち上がって蛮型を見上げた。

「…………」

 物言わぬ蛮型のモノアイ。最初に乗った時からそうだった漆黒の機体に真紅のモノアイ。今、それがやたらと不気味に見えてきた。

 と、いきなり格納庫の外から誰かが駆け込んでくる音がする。

 だが今は全員就寝している時刻のはずだ。不思議に思ってアイリスは蛮型収納庫から顔を出す。すると、そこに立っていたのは息を荒くしたヒビキだった。

「ヒビキ!?」

「ん?おめぇ、どうしてここに!」

「それは、こっちの台詞よ。アンタこそ何で?」

 と、アイリスはヒビキが妙に汗をかいていることに気がついた。

「……まさか、悪夢でも見たの?」

「!!」

 ヒビキも驚いてアイリスを見た。

「まさか……おめぇも見たのか?」

「ニル・ヴァーナが撃沈される夢……」

 アイリスの脳裏にはっきりとした像となって蘇って来た。ニル・ヴァーナが敵の攻撃によって撃沈されていく様が。

 と、新たにまた二人格納庫にやってくる人影が。メイアとジュラだ。

 メイアはきっちりパイロットスーツを着ているが、ジュラの方はガウン1枚を羽織ったきりの格好だ。

「おめぇらまで……」

「ヒビキ、アイリス?」

「まさか……あんた達も、見たの?」

 うなずく二人。

「やだやだ、みんなが同じ夢を見るなんて」

 ジュラがそう言った時、今度はディータが駆け込んできた。

「あれ……皆、も……なの?」

「これで5人か」

 アイリスがつぶやく。

「で、どう見る?この集団催眠的な状況」

「……何かを伝えようとしてた。私にはそう感じた」

 いつもは理論思考のメイアが珍しい発言をした。

「じゃあ、あれはペークシスが見せた夢って事?」

「確かに、われわれには共通の体験があるからな」

 ジュラの意見にメイアはニル・ヴァーナがこの航海が始まるきっかけになった事件を挙げた。

 ペークシスの暴走だが意思だかで、船は丸ごと別空間に移動。その時、彼女達はペークシスに近い所で巻き込まれている。

 いや、もう一人いたはずだが、

「そういえば、バートは?」

 唐突にアイリスが切り出した。

『え?』

「バートもあれに巻き込まれたはずじゃなかった?だったら、何で来ないの」

「そういやぁ……」

「来ないね」

「どうでもいいわよ、そんなの」

 頭を抑えてジュラが言った。かなり調子が悪そうだ。

「あの夢見てから頭痛がしてきたわ。私は戻るわね」

 ふらつく足取りでジュラは自室に戻っていった。

「私も戻る。寝るに限るわ。こんな夢見た後は」

 アイリスも格納庫を去る。

 そんな中、ヒビキはじっと愛機である蛮型を見上げていた。

 

 

 同時刻、ニル・ヴァーナ機関室。

「パルフェさーん、またおかしくなりました〜」

24時間ほぼノンストップで働き続けている機関クルーたち。そのうちの一人が、コンソールに表示された文字に機関部長であるパルフェを呼んだ。

「ったくもぅ、またなの〜?」

 この航海が始まってから何度呼ばれたかわからない彼女であるが、すでにルーチンワーク化しているらしく、別に嫌な顔はしていない。

 コンソールに取り付いた彼女は、ガラス越しに見えているペークシスプラグマを見た。

「このペークシスはプロトタイプだからなぁ。何が起こるか予想できないんだよねぇ」

 コンソールを操作して、解析を開始。すぐに結果が表示されるが、解析結果は“原因不明”。毎度のことである。

「ったく、こまったチャンよねぇ」

 ペークシスを見て、パルフェはため息をついた。

 

 

 同時刻、ニル・ヴァーナ会議室。

「現在、我々はメジェールからおよそ90日の距離に到達しています。“刈り取り”艦隊における、身体器官刈り取りについての情報はすでにメジェールと男の星タラークに対し、通信ポッドを送りました」

 会議室ではブザムとマグノ、ガスコーニュの3人が会議を行っていた。議題はやはり、敵の刈り取りの目的だ。

 タラークとメジェールに対する刈り取りが行われることは掴んだが、何を刈り取られるのかは分かっていなかった。

 だが、先の戦いにおいて、ラバットが漏らした台詞から目星をつけたドゥエロはマグノに報告し、マグノもそれらの情報を付け加えたデータを故郷の星に向けて送信したのだ。

「それ以前にあたしらが送った通信はどうなったのかねぇ。」

 確かに彼女達は以前にも通信ポッドを故郷に向けて送信した。だが、それ以後の音沙汰は何も無い。

「……シカトされちゃったかねぇ」

 マグノ達にとって何より考えたくないのがそれだ。

 彼女達は海賊。しかも、相当故郷に恨みを買っている。そんな連中の言うことを誰が聞く?普通聞かないだろう。童話の「うそつき少年」と同じことだ。……細かい点で違うけど。

 とにかく、彼女達がいくら危機を故郷に伝えたところで相手にされていない可能性があるのだ。

 今のマグノ達にはそれが悩みの種だった。

「まぁ、幾らなんでも今度の情報は母星の連中もひっくり返るだろうよ。なんたって、連中の目的はアタシ等の生殖器官を奪う事だってんだから」

 マグノの発言に二人も少しではあるが、表情が明るくなる。

 マグノの人の良さはこういうところにでているのだ。

 と、機関室のパルフェから会議室に呼び出し音が鳴った。

『機関室、パルフェです』

「何だ?」

『今朝からのペークシスの異常ですが、原因が全く分かりません。現在も制御作業は継続していますが、出力は通常の80%までダウンしています』

 彼女の後ろに見えるペークシスも見るから不安定に明滅を繰り返していた。

「やれやれまたかい……」

「女と男の船が融合したときの拒否反応が、未だにあるということでしょうか……」

 ブザムも論理では解決できないペークシスにはお手上げといった風である。

「クルーとそうかわりゃしないってことじゃないの?なかなか溝が深いよ。男と女の間はさ……」

 ガスコーニュが皮肉を込めてそう言った。

 

 

 

「しっかし、こう何もないと暇だよねぇ」

 ブリッジでヴェルヴェデールがそう漏らした。戦闘中は声がかれるほどに矢継ぎ早な報告を求められる彼女達だが、こう戦闘がないと暇なのである。

 長距離スキャンに切り替えても何の機影も映らないレーダーをこづき、アマローネもぼやく。

「こういう時に限って変なのが出たりするんだよねぇ……」

 では、ご期待に応えてこんな物を出してみよう。

 ヴィーヴィーヴィー!!

 いきなり、長距離レーダーに何らかの影が映った。

「!?変な事言うんじゃなかった!」

 慌ててコンソールを叩く二人。

「未確認の物体を確認しました!救難信号を発しています!」

 警報とほぼ同時にマグノとブザムがブリッジに入ってきた。

「どこの救難信号だ?」

「それが、移民船時代のものです」

 ヴェルヴェデールが解析結果を見ながら言った。

 ブザムはマグノを振り返った。

「いかがしますか?お頭」

 彼女も通常の救難信号ならわざわざ伺いを立てる必要も無いが、相手が殖民船時代の物となると判断に困るのである。

「助けを求めてるんだ。助けないわけには行かないだろう?」

 ブザムは半分予想していたように笑みを浮かべ、視線を戻すと、

「総員、第3警戒態勢!これよりポッドの回収に向かう!」

「了解!」

 とたんにブリッジが慌しくなる。

「兄ちゃん、休憩は終わりだよ!速く戻っといで!」

『へ〜い……』

 マグノは操舵士であるバートを呼び出した。

 彼しかニル・ヴァーナを操縦できるものがいないとはいえ、事あるごとに呼び出されるバートはなかなか多忙なクルーと言えよう。

 

 第3警戒態勢とは言っても、「自機に乗っかって待っていろ」というわけではなく、「戦闘になるかもしれないから注意しとけ」という意味に近い。だから、パイロットにはまだ召集がかかったわけではないので、皆々まだ自由行動をしていた。

 さて、長距離航行用、とりわけイカヅチや海賊船だった物の中には往々にして運動不足解消用の施設が設けられている。

 もちろん、ニル・ヴァーナに融合してしまった今もそれはきちんと機能していた。

 そんな施設の一つ、射撃訓練施設では、

 バンバンバンバンバン……!

 バーネットとジュラ、加えてアイリスがいた。バーネットはいまさら言うまでも無く20世紀の火薬銃の使い手として知られているが、アイリスも50口径の使い手として知られてきた。お互いに火薬銃を使っていることもあってかよく練習に付き合っているのである。

 今撃っているのはアイリスだが、2丁拳銃で練習というより曲芸に近い撃ち方をしている。手首のクロス、背面撃ち、脇撃ち、速射、ジャンプに又抜き。端から見れば踊りでも踊っているような撃ち方だが、ただの一発も外れていないのは脅威に値する。

『…………』

 唖然としているのはバーネットである。今までに何度か彼女の射撃を目にすることもあったが、練習というだけでこんな物を見せられたのでは彼女の見てきた常識が粉々に壊されるのも当然といえよう。

 ザッ、とアイリスが動きを止めた。両手の銃のスライドが後ろに下がったまま、弾が切れたのである。

 グリップの釦を押し、スライドを落とす。だが、マガジンは半分も出てくるとピタっと止まってしまった。マガジンにはなんとデジタル表示が出ており、残弾数の表示が0を示していた。

「命中率100%。クリアタイム50秒……。レベルDにしちゃそこそこかな」

「そこそこって、あんた……」

 練習用に自前で持ってきたベレッタF92(ビーム仕様)を片付けるアイリスに、バーネットがさすがに突っ込みを入れた。

「あたしですら1分出すのがやっとなのに、50秒って……」

「別にあたしが魔法使いだからとかってのは関係ないわよ。それに……ゲームなんだから気楽にやりなさいよ。それが1番」

「…………」

 ムスっとするバーネット。

「ほら、交代交代」

「なんだかなぁ……」

 愛銃のCz−75を手にトボトボとレンジに向かう。

「子供欲しいなぁ」

「――!!?」

 ガッ!

「どぅぁ!?」

「おっと」

 いきなり上がったジュラのつぶやきに驚いたバーネットが段差に躓き、ベシャっと倒れ、跳ね上がった銃をアイリスがキャッチした。

「ジ、ジュラ!?」

 倒れた姿勢から顔だけジュラのほうに向け、声を上げるバーネット。

「い、今なんて??」

 ボーっと天井を見上げていたジュラから、

「子供欲しいなぁ、って」

 ガバッと起き上がったバーネットはジュラに詰め寄り、

「あ、あたしにオーマになれっての?」

 メジェールが女しかいない事、卵子と遺伝情報を組み合わせることで子を成す事は以前に述べたが、「次に子供を作るのはこの二人だな」NO1にとうとう春が来たのだろうか。

「ううん、男と赤ちゃん作ることに意味があるのよ」

『エェェェェーーー!!?』

 女同士での遺伝子交配の事を聞いていたアイリスは最初は動じなかったが、さすがに男女間の話に持っていかれると動揺する。

 もっとも、メジェールに生きている者達にとって男と協力して子供を作るなど、「お前、精神病院行け」的な発言に値する。

 だが、当のジュラは大真面目に、

「男のタネを使って赤ちゃんを作る、それでメジェールに帰ってごらんなさいよ!男のタネを使ってのファーマ第1号!新時代のヒロインの誕生よ」

 完全に自分の言葉に酔っている。呆れ果てるバーネットは、

「……そのタネどっからもってくるわけ?……まさか!?」

 理解を超えるジュラの言動に逆に信憑性を求めてしまうバーネット。まさかの言葉どおりに、

「当然、あの3人からに決まってるじゃない。」

 当たり前のように答えるジュラに、すでにバーネットは反論する気力すら失せている。しかし、何か嫌な予感を感じた彼女は、恐る恐るジュラに尋ねた。

「……何でもいいけど、タネってどうやって貰って来ればいいのよ?」

 ジュラは立ち上がると、ビシッとアイリスを指した。

「そこで、あんたの登場よ!」

「うぇっ!?あたし!?」

「あなた前に言ったわよね、男と女が一緒に暮らしてる世界から来たって。当然、子供の作り方なんてのも知ってるわけでしょ?」

 ボッ!

 一瞬にしてアイリスの顔が真っ赤に染まる。

 まぁ、もちろん知らないわけは無い。だが、彼女の暮らしてきた社会通念的なことを鑑みるに彼女達にそれを教えるべきかといえば、それは例えるならコミケで売られている同人誌上に「adult only」と書かれている物に手を伸ばすことや、レンタルビデオ店の奥に見るからに安物ののれんで仕切られたスペースに足を踏み入れること、さらに卒業する先輩に入学以来から思いを寄せていた少女が告白する間際の時の心の内や、子供が始めてエロ本に手を伸ばしてそれをレジに持っていく時のような、……そんな勇気が必要だと思われる。

「あ……、えと、それは……」

 しどろもどろになるアイリス。

「何真っ赤になってんの?」

 男女のそれを知らない二人は何故いきなりアイリスが真っ赤になったのかが分からない。

「まさか……知らないの?」

 皮肉気味にジュラが言う。

「あ、……あたしは経験無いから判んないわよ、そんなの!」

 思わず語気が強くなる。まぁ、思春期真っ盛りを生きている少女に直球の聞き方をすれば当然だ。

「怒鳴ること無いじゃない。そんなに言えない事なわけ?」

「いや、別にいえないことじゃ……いや、しかし……」

 真っ赤になったままブツブツと言いはじめる。

 と、その時、

『これより、救助作業に入る!パイロットは出撃準備にかかれ!』

 ブリッジから出撃命令が出た。

「……その話はまた今度!!」

 これ幸いとばかりにアイリスはレンジを飛び出していってしまう。

「あーー!ちょっと、私の銃!!!」

 バーネットがアイリスが持ったままの愛銃を追って出て行ってしまう。

「あ、バーネット!……もう、ジュラは諦めないんだから!」

 

 

 ブリッジのメインモニターに何かの機影が拡大表示された。

 アマローネが解析データを読み上げる。

「救難信号の発信元を補足!小型の救命ポッドと思われます!」

「メイア!これよりガスコーニュのデリバリー機による回収作戦を開始する。敵襲に備え、護衛を頼む」

 ブザムがメイアに通信を送った。すると、正面モニターにウィンドウが新たに開き、ドレッドのコクピットに収まっているメイアが出た。

『了解。すでに選抜は済んでいます。ご指示あらばいつでも……』

 それを聞いたブザムがニヤリとなる。

「ふふ……さすがだな。よろしい!早速出向いてもらうとしよう。ドレッドチーム発進せよ!」

 

 

 ブザムの指令により、上部カタパルトから3機のドレッドが飛び出してくる。ペークシスによって改造されたSPドレッドと言うべき代物だ。

 3機は前方から発艦したバーネット機他4機と合流すると編隊を組み始める。

 それを確認したガスコーニュもデリ機を起動させ、ニル・ヴァーナから発進した。

「さて!いっちょ行くかね!」

 スロットルレバーに手を掛ける。と、その時。

『待て待て!俺も行くぞ!』

 ガスコーニュがモニターに目をやるといつの間にかヒビキの蛮型がデリ機に張り付いている。

『何のための人型だと思ってんだよ。回収ならこの俺様に任せとけってんだ!』

「素直に行きたいっていやぁいいだろう?」

 呆れ顔でため息をつくしかないガスコーニュであった。

 

 

『いいぞ。……おし掴んだ』

「そのつもりだよ……」

 デリ機のマニュピレータで器用にポッドを捕まえたガスコーニュ。すぐさま反転し、母艦へ戻ろうとしたその時、レーダーに敵影が映った。

「ち、なんてタイミングだい!」

 

 

「敵影確認!距離2万!」

「今までに無い信号パターンです。戦力、把握できません!」

 アマローネ、ヴェルヴェデール共に矢継ぎ早に報告をし始める。

「別の母艦から発進してきたのか……」

「やれやれ、あたしらもすっかりお尋ね者だね。ま、海賊らしいっていやらしいけどね。

 パルフェ!ペークシスは?」

 すぐに機関室のパルフェが出て、

「なんとか生きてまーす」

「バリアの展開は可能か?」

「未だ不安定なままです。長時間の戦闘は無理です」

「ちぃ、メイア!不必要な戦闘は回避。ポッドを回収しだい離脱する!」

 

 

「了解!」

 メイアがそう答えている合間にすでに敵は目の前まで接近して来ていた。

「なにっ!?」

 ドンッ!

 敵キューブはデリ機のマニュピレータを破壊し、ポッドを奪取して逃げていく。

「くそ、いつの間に……!」

 

 

「敵キューブ、ポッドを奪取して母艦に戻っていきます」

「狙いは我々ではないのか?」

「だとしたら、ますます譲れないねぇ。あれはあちらさんいとっちゃエラく大事なものらしいからね」

 

 

「それを取ったのはこっちが先だ!返してもらうぜ!!」

 ヒビキが果敢に追いすがる。だが、キューブはそれを上回る速度でドンドン引き離していく。

「くそ、はえぇ!」

 他の全員もキューブに翻弄されていた。

「何よあのキューブ!前のとはぜんぜん加速が違う!」

 そんな中、メイアはすぐさま敵キューブに追いすがると、正確にキューブだけを狙い撃ちポッドを取り戻す。

「合体だ!ポッドを回収しニル・ヴァーナへ戻る!」

「おし!」

 接近する2機。だが、その時1条の赤い光がメイア機をかすった!

「くっ!」

「なっ……、赤い光!?」

「何をしている!早くポッドを!」

 スパークするコクピットからメイアが叫んだ。

「お、おう!!」

 浮遊するポッドに向かってヒビキが加速する。だが、一歩早くキューブが持ち去っていく。

「くっ!……ん?」

 ふと視界の端を何かがよぎる。それはジュラ機だ。

「いっただきぃ!」

 ジュラ機はヒビキに急接近すると同時に変形、合体する。同時にバリアを起動し、キューブを押しのけメイア機も巻き込んでバリアを展開した。ポッドも中に入っている。

「どう?ちょっとしたもんでしょ?」

「今頃出てきて何言ってやがる」

 ジュラは席をヒビキに寄せ、耳元でかすかに言った。

「ねぇ、あなたはジュラの赤ちゃんに何をくれるの?」

「!!? だぁ、今はんなこと言ってる場合かぁ!」

 さすがに耐えられないヒビキは怒鳴る。

「ジュラ、ヒビキ、このままニル・ヴァーナへ!」

「りょ〜か〜い」

「敵は観察モードに入ったようだ。このまま……」

 カッ……!!

『――!!?――』

 メイアが言いかけた瞬間、またあの赤い光が迫り、ヴァンドレッド・ジュラのシールドを直撃した。すると、どいうわけかヴァンドレッド・ジュラが強制分離してしまった。

 

 

「ヴァンドレッド・ジュラ、分離しました!」

「なんだと、何故だ?」

「詳しくは分かりませんが、あの赤い光が何らかの影響を及ぼしたようです」

「あれも、敵の新兵器だってのかい……」

 

 

「ってえ……ちきしょう」

 いち早く意識を取り戻したのはヒビキだ。するにポッドを探す。そして、目に入ってくるポッド。どうやら、ダメージは受けていないようだ。

「いた!獲物は俺に任せろ!!」

 バーニアを吹かし、ポッドに追いすがる。だが、そうはさせじとキューブが蛮型を取り押さえてしまう。

「くそっ!離しやがれ!!」

 さらに他のキューブがポッドを奪取していく。

「だめぇぇ!!」

 そこにディータ機が突っ込む。蛮型とディータ機が急接近。すると光が走り、衝撃でキューブが弾き飛ばされた。そのまま2機は合体、ヴァンドレッド・ディータとなりポッドを奪ったキューブまでも弾き飛ばし、ポッドをその手につかんだ。

「よし……」

「どーんなもんだい!簡単に渡すもんですか!ね、宇宙人さん?」

「お、……おう」

『安心するのはあとだ!敵が迫っている。すぐに離脱せよ』

 すかさずメイアから指示が飛んできた。

「ラジャー!」

 

 メイアが一息ついたその時、背中に悪寒が走った。

「なにっ!?」

 接近してきた母艦らしき物体が赤いビームを発射!

「くっ!」

「きゃぁぁ!!」

『ヒビキ!ディータ!』

 油断していたわけではない。しかし、予想以上に至近距離から撃たれたため、回避するまもなくヴァンドレッド・ディータは右腕に攻撃を食らってしまう。

「くそっ……あれが、正夢になるってのか?」

 そして、赤い光を撃った船が近づいてきた。それは巨大なエイに似た姿をしている。

「え、……右手が」

 ディータが何かに気づいた。そう、赤い光を食らって分離こそしなかったものの、攻撃をかすった右腕が赤い錆のような物に侵食されてきているのだ。同時に全体の自由まで利きにくくなっている。

 エイ型は自由の利かないヴァンドレッド・ディータに接近してくる。

「ちぃっ!」

 ヒビキは左の砲を腕に移動させ、敵に向ける。だが、エネルギーを集中できずそのまま止まってしまった。

「なっ、どうなってんだ!」

 完全に無防備になるヴァンドレッド・ディータ。エイ型は触手を伸ばし、胴体を拘束。そのまま引き寄せ始めた。エイ型の腹部が開き、まるで口のようになっている。

「ヒビキ!ディータ!……えぇい!」

 援護に行きたいメイアだがキューブがさらに絡んできて思うように行かない。

 いよいよ年貢の納め時、さすがにヒビキがそう思ったとき、

『ちょっと、いつまでそんなのとじゃれてるつもり?』

 いきなり割り込んできたのはアイリスだ。敵の発見と共に出てきたのだが、キューブの癖をつかむのに手間取っていたのだ。

「お前!」

「魔法使いさん!」

 アイリスの蛮型はキューブをものともせずエイ型に肉薄し、ヴァンドレッド・ディータをつかむ触手を一閃で叩き切った。

『しっかりしなさい!悪い夢に付き合ってる時じゃないでしょ?』

 さらに、アイリスはキャノンを起動させると、赤く光るビームの発射口を攻撃、潰してしまう。だが、破壊できていない。

「けっ、いい所もって行きやがる」

 ヒビキが手に力を入れた。

「確かに、あんなちんけな夢にこだわってる場合じゃねぇな……。この俺が目開けてるうちは、テメェらの思い通りには絶対ならねぇ!!」

 気合一発。すると、ペークシスが輝きを取り戻し、侵食までも吹き飛ばしてしまった。

「やったぁ!」

「おっしゃぁ、行くぜぇぇぇぇ!!」

 改めて左腕の砲にエネルギーを集中。そのままエイ型の中に突き刺した。

「あんあ夢に付き合ってる暇はねぇんだよ!!」

 発射、膨張、爆発!

 エイ型はさすがに耐え切れずに爆発した。

 

「ヒビキ!ディータ!」

 メイアの目にはエイ型もろともヴァンドレッド・ディータが爆発したかに見えた。しかし、ポッドを無事に抱え爆煙を裂いて出てきたとき、ようやく息をついた。

「まったく、無茶をする男だ」

 

「やった、やったぁ!ディータ達の勝ちぃ!やっぱり二人で力をあわせれば怖いものなんか無いんだ!そうだよね、宇宙人さん!」

 戦いが終わってハイテンションに戻るディータ。

「こいつは……んとに何はなせばいいんだか」

 そんなディータにヒビキはつぶやく。

「え、何?何て言ったの?」

「何でもねぇよ」

「何?気になる……」

 

 

 あ、さて。無事に戻ってきた時にはすでに格納庫は人だかりができていた。パルフェや、ドゥエロ達もきっちり機材を持ってきている。

 さっそくその場でポッドを開放する作業が行われた。パルフェが機材を接続し、内部をチェックする。

「……よし、開けるよ」

 パシュゥゥゥ……

 冷気をはいて、ポッドは開いた。

『おおお……』

 皆から嘆息が漏れる。

 中には少女が横になっており、組まれた両手には何かを握っていた。

「女の子だ」

「宇宙人なの?」

「残念、私たちと同じ地球人だよ」

 さっそくドゥエロが検査機を少女に向けた。

「どう?」

「生命維持装置は正常に作動していた。問題は無いはずだ」

 と、言ってる先から少女が意識を取り戻した。

「う……あ」

「気がついた!」

 と、

「俺にも見せろって!」

 蛮型の格納に行っていたヒビキが戻ってきて人ごみを掻き分け前に出てきた。

「お、どわぁぁぁ!!」

『あ!!』

 勢い余ってそのままポッドに突っ込んでしまう。

「いってぇぇ……、お?」

 中の少女と目が会った。

「な、何だよ」

 すると、少女のイヤリングから何やら大福もちのような物体が出てきた。ホログラムのようだが……。

「あなたが、……あなたが救ってくれたのね!」

 覚醒直後だというのに少女は跳ね起き、ヒビキの首に抱きついた。

「ありがとう!私の王子様!!」

 で、ざわめきだすのは周囲だ。

「おうじ……」

「さまぁ!?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 唖然とするジュラとバーネット、そしてディータは絶叫する。

 どうにもこうにもヒビキは女運があまりよろしくないようである。

「んふふふふふ……、新たな事件の予感に赤丸チェーーック!」

 パイウェイはパイウェイらしくまたメモに何やら書き込んでいる。

 

 どうにも……また波乱が広がりそうである。

 いつもか。

 

 ― To be continued

 

 ********************

 あとがき

 

 はいはい、セカンドステージ突入と相成りました。

 アイリスに母艦を破壊させるってこともできましたが、セカンドは一歩引かせて見ます。だれかさんにご指摘も受けたものでww

 さて、セカンドステージに入ったばかりで何ですが、ラストの話を。

 一応アイリスが前面に出てこないと、こちらとしても書きがいが無いのでラストは弾けさせますよ。もうこれでもかってほど。

 んじゃ、そんな物を期待しつつ次を待ってください。

 サイドストーリーも書いたのでそっちが先になるけど。

 P! http://www3.to/hairanndo

2004/03/14