神は自身に似せて人を創造した。人は増え自分たちの文化を持ち、やがて神の元を離れた。

 そして、進みすぎた科学を持って人は不可能な領域にまで進みだす。永遠の命、不老不死。

 やがて、人は己を神だと名乗りだす。人は神にはなれない。人が神にはなってはいけない。

 もし神になろうとすれば……、

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

 12・To Like Water

 

 「う〜〜、宇宙人さ〜〜ん……」

 ディータがうなるように望遠鏡を覗き込んでいた。

 そんな虫眼鏡で遺伝子を判別しようと言っている様な事をやって見つかっていれば苦労はないのだが、ディータは真剣だ。

 だが、ふと望遠鏡をある影がよぎった。

「ん?」

 あわてて戻してみる。やはり何かがあった。そして倍率を戻すとそこに映っていたのはラバットの宇宙船だった。

「あれは……」

 

 

 ラバット艦が着艦し、扉が開く。

「ほらよ、落し物だ」

 入って来るなり、肩に抱えていたヒビキを転がす。まだ気を失ったままだ。

「宇宙人さん!!」

 警備員を押しのけて、駆けつけてきたディータがヒビキにかけよった。

「宇宙人さん大丈夫?ディータの事わかる?」

 ヒビキはディータに抱き起こされて意識を回復した。そして、自分の腕を見る。まだぼんやりする意識の中、セランに巻いてもらったバンダナが目に入る。

 そのとたん、あの忌まわしい記憶がフラッシュバックし、意識が覚醒する。

「こんなことしてる場合じゃねぇ!!」

 ヒビキはディータを押しのけて、船へ飛び込んでいく。

「待って、宇宙人さん!」

 それを追うディータ。

「はは、相変わらず元気な連中だ、……っと」

 ラバットも入り込んできたが、その眼前に銃が突きつけられた。

「何の真似だ?こりゃ」

 バーネットも銃を向けて言い放った。

「おあいにく様。これ以上、男を野放しにしておくわけにはいかないのよ」

「……なんかあったのか?お前ら」

 そんな現状をまったく無視してアイリスが飛び込んでくる。通り抜けざまに警備員の通信機をひったくった。

「整備ドック!誰かいる?」

 怒鳴りながらそのまま行ってしまった。

「何……アレ」

 ジュラがさすがに汗を流していった。何か鬼気迫るものがあったのだ。

 

 

 

 その頃、ブリッジでは、パルフェがナビシートに向かって作業の真っ最中だった。

「なんとしても、男無しで操縦できるようにするのよ!」

 ヴェルヴェデールが意気盛んに言う。だが、当のパルフェはあまり気が進まないようにちまちまやっていた。

「う〜ん……」

 ブリッジは一番初めに徹底的に調べつくした後なので、今更バート無しで操縦できるようにしろと言うほうが無理があるのだが、なんとなく流された感じだ。

 そんな風景を見ながらマグノとブザムはエズラの配っているお茶を飲んでいた。

「みなさ〜ん。お茶が入りましたよ〜」

「まったく、よくやるよ。あの子達も」

 と、その時。

「婆さん!!」

 怒鳴り声と共に、ヒビキが入ってきた。

 コンソールを飛び越えて、マグノの前に立つと言い放つ。

「話がある!」

 マグノは眉をひそめた。

 

 

 ラバットはその頃警備班によって監房へつれて来られた。まぁ、男達の住居がやっと本来の機能を使ってもらえた事になるが。

「ラバット!?」

 バートが驚いて身を起こした。

「よお、兄ちゃん達。久しぶりだな。……おいおい、人類みな兄弟だろ?」

 警備班はラバットを同じ監房へ収容すると帰っていく。

「何でこんなところに」

 ラバットが去ってからかなり経っている。そして、レーダーに補足された時点で彼は独房にいたためにバート達はそれを知らない。

「お前たちこそ、何やらかしてこんなところに入ってるんだ?」

 バートの隣に割り込んで座る。

「嵐が過ぎるのを待っている」

 ドゥエロが静かにそういった。

「ふうん」

「相棒はどうした?」

「あぁ、ありゃ雌だからな」

「え?」

 バートが呻いている中、そのウータンは喜び勇んでピョロを追い掛け回していた。

 

 

 ブリッジは重い空気に包まれていた。

 ヒビキが今までの経緯を説明したせいである。

「メラナスは生きるために戦った!アンパトスの連中とはぜんぜん違ったんだ!」

「だがその結果、全滅した」

 ブザムが冷静に言った。

「……アイツらの死を、無駄にしたくねぇんだ」

 マグノを睨み吸えて言い放つ。

 だが、マグノは一言、

「初めてかい?人の死を見たのは」

「――!――」

 ヒビキの脳裏にセランの死が、戦艦をを一撃で消滅させた砲撃がフラッシュバックする。

「…………」

「それで、正直勝てそうな相手かい?」

「……勝てなきゃ、死ぬまでだ」

 勝てるわけが無い。たとえ、ニル・ヴァーナといえど。あんな主砲をまともに食らってはひとたまりも無い。

「まぁ、迷っているうちは何をしたって無駄だね」

 廊下で音がした。偶然通りかかったメイアがヒビキの話しを聞き終わり、格納庫に向かったのである。

 

 

 十数分後、トラペザのドアに「会議」と書かれた紙が張り出され、クルー達が続々と入ってきた。

 テーブルも片付けられ、なぜか天井には「刈り取り反対」などと英語で書かれた横断幕が張られている。

「結論はもう出てるわよ!やられる前にやる!それしかないわ!」

 アマローネがのっけからそう切り出した。

「そうよ!男どもの力を借りなくたって、私たちだけで出来ることを証明するのよ!」

 ヴェルヴェデールも負けじと言う。

 だが、巻き込まれた形で来てしまったジュラは、

「でも、ドレッドだけで勝てるの?」

 ヒビキと意識を共有したことで、彼女にはヒビキの考えている事がよく判っていた。

それにヴァンドレッドとドレッドの性能を一番知っている者の一人なのだ。自然と状況を客観視していた。

考えのうちではもう結果は出ている。ヒビキの蛮型を抜いては絶対に勝てない、と。

「勝てる勝てないの問題じゃ無くて、勝つのよ!そうでしょ、みんな!!」

『おおーーー!!』

「バーネット、怖……」

 一人チップスを食べながら、元凶のパイウェイはつぶやく。

 お立ち台代わりのテーブルに立ったバーネットが激昂する。

「私達だけで勝つことは、メジェールにとっても意味のある勝利なのよ!」

『おおおーーー!!』

 全員が賛同の雄たけびを上げる。そんな中、

「くっだらないねぇ」

 ハスキーな声が響いた。ガスコーニュが窓にもたれてそう言ったのだ。

「くだらないって、どういう意味?」

「そのまんまだよ。あんたの言ってることは、まるで男の理屈みたいに聞こえるよ」

「……。ガスコさん、今更まぜっかえさないで!」

「でも、正しいですよ」

 ドア付近から声がする。マリーだ。

「ガスコーニュさんの言っていることは間違っていません」

「あんた……、じゃあ何、私達が負けるとでも?」

「えぇ、負けます」

 クルーの視線が鋭くなった。いきなりズバっと言われては怒るのは当然だが。

 バーネットに至っては、テーブルを降りてマリーと向かい合った。

「えらくきっぱり言ってくれるじゃない。」

「現状を客観視しているだけです。話は聞かせていただきました。簡単な話です。ドレッドクラスの戦闘機を多数搭載した艦隊が全滅したほどの敵に、ヴァンドレッドを抜いた我々の戦力では勝てない。そう言っているんです」

「男の力を借りろっていう気?冗談じゃないわ!」

 マリーにしては珍しく、言い争いをしている。彼女にしてもアイリス同様に激戦を生き抜いてきた女性だ。戦場で私情を挟むことは愚考以外の何物でもない事を知っている。

「現に今までそうしてきたではありませんか。何故いまになってこんな事になっているんですか?」

「男と女は一緒にはいられないってことよ。元来敵同士の私達が今まで過ごしてきた方が不思議なのよ」

「一度は仲間として認め合ったはずです。それが崩れたということは何らかの原因があるはずでしょう?」

「それは……」

 バーネットが言葉につまり、パイウェイが青ざめる。

 思い出せば、扱いを考え直すと言い出した原因は、ヒビキの「覗き(冤罪)」であり、パイウェイの持ち込んだ「嫌がらせ程度に考えていた衝撃映像」である。

「あなた方の意見はわかります。しかし、戦いの中には勝って生きるか、負けて死ぬかの2通りしかありません。持っている力を全て出して戦えば勝てる相手なのかもしれません。しかし、自ら制限を課して戦って負けてしまえば、それはただの馬鹿です」

 真正面からバーネットを見据えて言うマリー。

 珍しくマリーは怒っていた。敵の親玉らしき奴が出張ってきたというのに、この期に及んで男女の仲違いを見ていられなくなったのだ。

 もし、男連中が隅のほうでちまちま戦っているような場面なら何もいわない。しかし、バートは船の総舵手であり、ドゥエロは医者であるし、ヒビキに至っては戦力の一角だ。

 車に言い直してみれば、運転手もいない、熱くなったエンジンを冷やすラジエーターが無い、エンジンを強化するターボが無い状態である。

 運転手がいなければ車は走らないし、ラジエーターが無ければエンジンはオーバーヒートするし、ターボが無ければ車は速く走れない(峠は除く)のである。

 周りで補助している電気系統や、パイプ連中がいきがっても限界があるのである。

「それにあなた方、メジェールのための勝利と言いましたが、あなた方の祖国との立場をお忘れですか?海賊ですよ。“天下の海賊マグノ一家”と聞きましたけど、双方にとって見れば、いなくなったのはありがたい事であるし、満身創痍で帰っても丁度いいから潰してしまおうの一言で終わりです。

 祖国を捨てて海賊になって、祖国に仇為しておきながら“祖国にとっても意味ある戦い”なんてどの口で言えますか」

 ギリッ……。

 バーネットの歯軋りが聞こえてくるようである。

「その辺にしときな」

 バーネットが拳を握り締めたその時、ガスコーニュが割りこんだ。

「邪魔したよ」

 マリーの腕を掴むと、強引にその場を去ってしまった。

 後に残ったのは、ただただ重苦しい空気だった。

 

 

 SPドレッドの格納庫。メイアが入ってきたときには大騒ぎになっていた。

 アイリスが整備クルーを引っ張り出し、蛮型を両機とも運び込んで修理を急いでいるのである。すでにアイリスの蛮型は外装が撤去されていた。

 メイアがそれを見ていると後ろからまた騒ぐ声が、

「ピョロー!!やめるピョロー!!」

 ピョロとウータンが入ってきた。ウータンはようやくピョロを捕まえると、嘗め回し始めた。

「錆びるピョロー!あ、メイア、助けてくれピョロー!!」

 唖然としていたメイアだが、ふっと息を吹くと、そこに向かった。

 

 数分後、ドレッドの座席に腰掛けたメイアはつぶやいた。

「機械が羨ましい。感情も無く、迷いもしない。いつも同じ結果が出せる」

「いろんな結果を出せる人間の方こそ羨ましいピョロ。何も感じないなんてつまらないピョロよ」

 ウータンが横でコンソールを弄り回している。だが、反応はしない。

「……羨ましいとか、つまらないとか、ピョロは十分人間的だよ」

「それは、ピョロがこわれたままだからだピョロ。……心が持てるなら欲しい」

「壊れているから人間的か。皮肉な話だ」

「人間は、永遠に未完成だからこそ、ピョロは羨ましく思うピョロ」

「…………」

 メイアは無言で身を起こすと、ドレッドを起動し始めた。

「ピョ、どこ行くピョロ?」

「今、できることをしに行く」

 ピョロが何か言う前に、ハッチが閉じた。

 

 その頃、ヒビキは独房につれてこられていた。

「あ……」

「よぉ、トンガリ兄ちゃん。感謝しろよな。メラナスのゴミためん中から拾ってきてやったんだからな。」

「! 野郎!!」

「おっと!」

 ラバットに飛び掛るヒビキ。だが、足蹴り一発でそれは止められた。

「何で、セラン達を助けなかった!」

「ふん、奴らは金にならん」

「んだと!?」

 足をかわすが、今度は壁に向かって蹴り飛ばされる。

「へへ……ん?」

 身を起こしたラバットだったが、今度はヒビキは飛び掛ってこなかった。

「……ちくしょう、ちきしょう!」

 その場にうずくまり、嗚咽を漏らした。

「何だ、つまらん」

「ひどい男だな。」

 ここでドゥエロが口を開いた。

「ヒビキは金になるのか?」

「金になるのは奴じゃねぇ。金のなる木に繋がってるんだ」

 

 

「一生のお願い!」

 ディータはパルフェに向かって手を合わせていた。

「ん〜、何すんの?」

 作業の手を止めずに、パルフェは言った。

 誰もいなくなったブリッジでパルフェは一人作業にいそしんでいたのだ。

「宇宙人さんの相棒さん直すの!」

 ヒビキの蛮型を修理する気らしい。パイロットが自機を整備するのは当然の行為だが、勝手の違う機体ではどうだろう。

「バーネットにまた怒られるよ」

「いいもん!」

 覚悟はあるらしい。

「……はぁ。私忙しいんだよね。暇ならそこのツールボックス片付けといて。明日まで使わないんだ」

 言外に使っていいといっている。ディータもそれを察し、

「ありがとう!パルフェ。」

 パルフェに飛びついた。

 

 

 その頃、偵察に出たメイアは、レーダーを見ながら冷や汗を流していた。

 レーダーに映っていたのはあまりに巨大な移動物体だったからだ。

「こちらメイア。敵機……発見」

 

 

 

 ディータが格納庫にツールボックスを抱えて入って来たとき、すでにヒビキの蛮型の中にはアイリスが潜り込んでいた。

「魔法使いさん」

「ん?あぁ、ディータか。悪いけど今手離せないから」

 ディータを一瞥して、アイリスは作業を再開する。驚くほどに手の動きが早い。

 何故アイリスがヒビキの蛮型をいじっているかというと、すでにアイリスの方の修理がほぼ終わったからである。

 損傷のひどかった回路などの修理はほとんどアイリスがやってしまい、外装や、伝送機器などの修理はクルー達が行った。

 アイリスの蛮型の構造が妙にシンプルだったというのもあるだろう。残りの外装取り付けと、チェックを残して、アイリスはヒビキの蛮型の修理に回ったのである。

「その修理、ディータがやるよ!」

 手が止まり、アイリスが身を起こした。

「悪いんだけど、私よりアンタの方が100倍機械には弱いと思う」

「う……でも」

「どうしてヒビキの事になるといっつも一生懸命なの?」

 いきなり横から声がかかった。パイウェイだ。格納庫に向かうディータを見つけて付いて来たのだ。

「う〜ん、パイウェイはそういうこと無い?」

「え?」

「いっつも誰かのことが気になって、いっつも追っかけまわして、その人のことばっか考えるの。ディータ、宇宙人さんのことばっか考えてる。最初に会ったときからずっと」

「『でも、ヒビキ、ディータのこといっつも怒鳴ってるケロ』」

「そうだね」

 笑顔を浮かべる。

「時々アイツが憎たらしくなるわね……」

 誰にとも無くつぶやくと、乱暴にふたを閉じた。

 と、

 ヴィーヴィーヴィー!!

 アラームと共に、格納庫の照明が灯った。

「え?」

「来たな……」

 

 

「敵機確認、接近中!距離1万2千!!」

 アマローネが表示された情報を読み上げる。

「全艦戦闘態勢。ドレッドチーム発進せよ」

 メイアからの報告でいち早く接近を確認したニル・ヴァーナ。めまぐるしく動き回るクルーたち。ピョロとウータンはまたも追いかけっこをしている。

 そして、男達も。

「化け物とやらが、来た」

 全員が顔を上げた。

「大丈夫かな。女達だけで」

 自分がいなければ船が動かないことをバートは知っている。そして、その横でなぜか靴のかかとを取り外すラバット。

「くっ……」

 そして、自分が何も出来ないことに憤慨するヒビキがいた。

 

 

「アタシらに待ち時間なんて、無いんだからね!」

 レジ内部、パイロットたちがごった返す中をガスコーニュは声を張り上げながら歩いていた。

「パイロット達が完全なコンディションで、完璧な仕事をして、無事戻ってくる。それができて当たり前なんだからね!」

「ガスコさん」

 そんな彼女の前を塞ぐ女性。バーネットだ。

「能書きはいいから、早くオーダー通して」

 言いながら、自分のオーダーの書かれたカードを突き出す。だが、ガスコーニュはバーネットに顔を近づけると、

「余裕ないよ、バーネット」

「…………」

 憮然とした表情のバーネット。

「スマイルスマイル!」

「……に、ひひ」

 ……無理やりやらされても歪んでおしまいである。

「よろしい!ま、やることはやるよ、完璧にね」

 バーネットのカードを取ると、自分の持っていた承認機に通した。

「ほれ」

 バーネットは返されたカードをひったくると、奥へと進む。

「しっかりおやり」

 先の騒ぎでバーネットはかなりキテいるはずである。焦りが募るのも仕方が無い。

 

 

 ほぼ全機が宇宙へと飛び出し、後方からもディータとジュラのドレッド、アイリスの蛮型が飛び出してきた。フォーメーションを組むドレッド達にメイア機が合流してきた。

「いつの間に出てたの?」

 そんなメイアにジュラが通信を送る。

『状況を把握してきただけだ』

「そ。勝てそう?私達だけで」

 だが、メイアはそれには答えず、指示を飛ばす。

『ジュラはAチームの指揮を、バーネットはBチームを任せる』

『了解!』

「メイア」

『何だ』

「ジュラね、基本的に負けるのイヤなんだよね」

『私もだ』

「そ、よかった」

 

 

「メイア機、フォーメーションに戻りました!」

「敵艦、真っ直ぐこちらに向かってきます!」

「BC,回線を開いておくれ、ダメモトで話をしてみよう。」

「了解」

 ブザムが席に着こうとしたその時。

 ボン!!

 いきなりブリッジが揺れた。

「何だ!」

 原因はパルフェだった。機械が暴発したらしく顔中がすすで黒ずんでいる。

「う〜ん、ペークシスプラグマの機嫌が悪いのよねぇ」

「バートを呼ぶかい?」

『ダメです!!』

 声を上げたのはアマローネとヴェルベデールだ。

「私達だけでやるんです!」

「男に頼ったら、私達の負けです!」

 この期に及んでも意地を突き通したいらしい。

「お前さんたちねぇ、いい加減に……」

「ピョローー!!」

 その時、いきなりピョロとウータンがブリッジに乱入してきた。そして、あたり構わず走りまわる。

「はぁ〜あ、BC、そっちはどうだい?」

「ダメです。応答ありません」

「ちぃ、闘るしかないのかねぇ」

 逃げ回っていたピョロだが、ここでようやっと捕獲された。パルフェに。

「グッドタイミングじゃん!」

 1分もしないうちに、ピョロにケーブルが接続されてしまった。パルフェはピョロを端末代わりにしようと思っているのだ。

「パルフェー、本当に大丈夫だピョロ?」

「大丈夫大丈夫、アンタならリンクできるって。行くよ」

 スイッチが入り、リンクが始まる。うまく行っているようにも見えるが……、その直後に煙を吐いて、ショートしてしまった。

「あちゃあ……ウマくいくと思ったんだけどなぁ」

 リンクしているピョロからしてみればえらい迷惑な話である。

 だが、その直後、ピョロが再びシステムを回復、いきなり宙に浮かんで言った。

『オ前達ハ、我々ノ部品トナル以外、イカナル存在理由モ成立シナイ』

 無視質な声が響いた。

「敵からの通信です。ピョロちゃんのシステムにリンクしてますぅ!」

「我々ってのはどこのどなた様だい」

 マグノは驚くでも無く聞き返した。

『我々ハ、地球ヨリ遣ワサレタ。オ前達ハ、我々ノ糧ノタメニノミ存在ヲ許サレテイル。……』

「地球って……」

「メジェールの祖先の星じゃない!」

 もちろんメジェールだけでなくタラークにとっても祖先の星である。無論、アイリスにとっても。

『運命ニ甘ンジテイレバヨシ。未来ヲ否定スル行為ハ、地球ノ秩序ニ反スル。ソノ場合、アガラウ者ノ未来ハ、消滅アルノミ』

 言いたいことを言うと、ピョロはまたも煙を吐いて落下した。

「……なんてことだ。地球の未来のために、我々を刈り取ると……」

「いったい、地球に何が起こったって言うんだい」

 

 

「それ何やってるんだ?」

 バートがさっきから小型の機械を操作するラバットを不審に思って聞いた。ラバットは一言、

「帰る」

「帰る?どうやって」

 その時、端末が小さく音を立てた。そのとたん、彼らを拘束していた手錠が落ちた。

「あっ」

「面倒はゴメンでね」

 立ち上がってさらに機械を操作すると今度は牢屋のレーザーが解除された。

「知っていたな、奴らの事」

 慌てるでもなく騒ぐわけでもない。ラバットがここまで落ち着いているのは何か裏があると思ったのだろうか、ドゥエロが唐突に聞いた。

「何!?何で黙ってた!」

 バートも立ち上がって聞く。

「金にならん」

 この男は金でしか動かないのだろうか……。

 だが、ドゥエロは淡々と、

「我々は何を刈り取られる」

「男と女の違いは何だ?」

「! 生殖器か!」

 思い至ってストレートに言った。

「イヤン!」

「奴らは俺達のあっちこっちを継ぎ接ぎしながらずっと行き続けてるのさ。皆同じ地球人なんだからな。

 俺達は殺されるために生み出された。いろんな土地で臓器やら何やらを快適な環境で育てるためにな。いわば牧場って訳だ。

 俺の役目は牧羊犬。あっちこっちを商売で回りながら地球に情報を売るのさ。」

 スパイというわけだ。

「僕達を売ったのか!」

「だったらどうする。殺すか?ま、どっちみちこのままじゃおっちぬだけだがな」

 いいたいだけ言うと去っていった。

「くそ、やっぱり嫌な奴だ」

 と、ヒビキが急に立ち上がった。そして、出て行こうとする。

「待て、ヒビキ。どうするつもりだ」

「……今できることをやる。生き抜くために」

 振り返り、ドゥエロをまっすぐに見た。

「テメェの証を立てるためにも、生きてなきゃはじまらねぇ。そうだろ」

「……ふ、いい顔だ」

 

 

 その通信はパイロット達も聞いていた。

「おんなじ。ディータと宇宙人さんもおんなじ。おんなじなんだ」

 そして、同じ地球出身でもこちらは、

「ふざけた理屈をゴタゴタと……」

 グリップを握る手に力がこもる。

「この世界の連中は、そこまで不死を欲するようになったっての?」

 人は必ず死ぬ。遅いか早いかだけである。不老不死は日夜研究されていることではあるが、それが不可能であるということもまた周知の事実のはずだ。それをして今度は人間の養殖ときたもんだ。ふざけるにもほどがある。

「ったく、……行く先々でやたら腐った真似してくれるわねぇ。」

 アイリスは様々な世界を渡り歩いている。その先々のパラレルワールドにいる人間達もやはり愚かな行為に及ぶ連中が大勢いた。

「ま、ぶったおされりゃ気も変わるかしらね」

 一度は不覚を取った相手に、勝負を挑む。だが、緊張は無い。あるのは体を巡る憤り。相手を倒すという気合。そして、端から出し惜しみなどする気は無い。

 そんなアイリスの視線の端を、何かが通り過ぎた。

「ん?あれって……」

 

 

 離脱するラバット鑑。そのラバット鑑から通信が来た。

「ちょいとお前さん。逃げる気かい?」

 相手が何か言う前に、マグノは自分から口を開いた。

『揉め事は苦手でね』

「後ろばっかり見てる奴は出世しないよ」

『死んで花実が咲くもんかい。もっとも、あの譲ちゃんにも言われたがな。なんにしても、死ぬ気は無いんだろ?』

「あぁ、あいにくね」

『だったら、また会う日も来るさ』

 そして、通信は切れた。

「憎ったらしい!」

「やっぱ男って嫌い!」

 

 

 そして、敵が動き出した。

 今までに遭遇した、全種類の敵機。百以上のピロシキ型に千を越える数のキューブ型。圧倒的な数で押し潰そうと迫ってくる。

「来たぞ。私のチームとバーネット隊は敵の迎撃。Aチームはニル・ヴァーナの護衛に当たれ。」

『ラジャー!!』

『私は少し突っ込んでみるわ!』

 ドレッドチームが突入を開始し、ミサイルとバルカンの応酬が始まった。

 アイリスの蛮型はそんな応酬の中を全速で突っ切っていく。途中で手当たり次第にキューブ型やピロシキ型を切り裂きながら。

「いっけーーー!!」

 翼を大きく展開、すると翼の上下から、無数の光線が発射されてキューブ型を追尾し始める。

 そして、宇宙に華が咲く。しかし、数が数だ。爆炎を貫いて、キューブ型やウニ型が後方へと突入していく。

「ジュラ!そっち行ったよ!」

『ひぇぇぇぇぇぇ!』

 ジュラのほうもすでに乱戦に巻き込まれたようだ。

『きゃぁぁぁぁ!!』

『気をつけろ!奴らこっちの動きを読んでる!くっ!?』

 変幻自在に動き回る蛮型より直線的な動きしか出来ないドレッドの方が動きを読まれやすいらしい。

「まずい……、完全に後手に回されてる」

 

 

 ドドドドン!!

 船が爆発に揺さぶられた。ペークシスが不安定なために、シールドまで散発的にしか展開することが出来ず、キューブ型のバルカンがガンガンヒットしてくる。

「いつもより手強そうだね……」

 マグノがつぶやいた。

 指揮官は慌てない。慌ててはいけないのだ。慌てればそれは確実に部下達に伝播する。

 と、その時マリーが駆け込んできた。

「結界は私が張ります!」

 そう言うとナビシートの先に立ち、呪文を唱え始めた。

「ちょっと、お前さん!」

 マグノが声をかけた直後に呪文は完成していた。手を合わせたマリーが徐々に腕を広げていく。その中央に小さな球体が出来上がっていた。それは、マリーが手を広げるとそれにあわせて徐々に巨大化し、マリーを、ナビシートを、ブリッジ、船の上部、そして、船全てを内包して結界を形成した。

「こりゃまた驚いた」

 マグノが驚嘆の声を上げた。結界はキューブ型の攻撃全てを防御し、しかも安定している。

 マリーはといえば、目を閉じ、両手を広げ、体から光を立ち上らせながら、呪文の詠唱を続けていた。

「こんな事も出来るのか……」

 ブザムも冷や汗を浮かべて結界に見入る。

 だが、その時、

「大変ですぅ!ニル・ヴァーナの航路が傾いてます!」

 エズラが慌てた口調で言った。

「なんだって!?」

「10時の方向に存在する惑星が、強力な磁場を発生させています。ニル・ヴァーナは徐々に引き寄せられています!」

「高密度のガスが充満しています。このままではシステムに影響が」

「すみません。さすがに船の航路までは……」

 マリーがすまなそうに言う。

「さすがにマズイねぇ」

 

 

 ドゥン!

「きゃぁぁ!!」

 ディータのドレッドが攻撃で外装の一部を持っていかれた。

「ディータ、下がって立て直せ!くっ!?」

 ディータに追いついたメイアの後ろにも、鳥形が一体張り付いた。だが、その直後レーザーの一閃で破壊される。

「メイア!数が違いすぎる、このままじゃジリ貧よ!」

 アイリスだ。前のほうまで出ていたはずだが、やはり物量に負けて下がってきたのだ。

「しかし……」

 その時、メイアの目に信じられないものが飛びこんだ。キューブが一箇所に集結し変形していくのである。

「あれは……!」

 4つ。集合体ができあがった。そして、それは紛れも無く3体のヴァンドレッド、そしてアイリスの蛮型をまねたシロモノだった。

 

「奴ら、……とうとうここまでコピーしたのか」

 ブザムが唖然として出現した機体を見る。

「まさか、こんなことになっているとは夢にも思わないだろうね。母星の連中は」

 

「偽者――!!」

「ディータ!?」

 怒りのあまり、ドレッドを飛び込ませるディータ。

「ったく、あの娘ってば!」

 アイリスは慌てて機体を反転させた。

 

 

 ニル・ヴァーナの航路が傾きまくって、修正不可能になった頃、

「おまたせしましたー!天才操舵士の参上っス!」

 バートがブリッジに入ってきた。

「遅いよ!今までどこほっつき歩いてたんだい」

「……はは、面目ない」

 バートがナビシートに戻り、ようやく正常航行が可能になったが、船はすでに惑星の重力に捉われてしまった。

「仕方ない。惑星内に入るよ!」

『アイサー!』

 

 

「いやぁぁぁ!!」

 やはりというか、勢いで突っ込んでいったはいいものの、偽ヴァンドレッドディータの砲撃で追い返されてしまうディータ。

 追撃をかける偽者にキャノン砲の一撃が決められた。

『ディータ!何無茶やってんの!』

「魔法使いさん!」

『ニル・ヴァーナへ戻る!全チーム後退しろ!』

 メイアがすばやく指示を飛ばした。

 

「ちょ、ちょとまってよ!」

 ジュラも後退をかけながら、自分の偽者と撃ち合っていた。だが、防御に特化した彼女に機体に似せて、相手の兵装もバリアに特化しているらしい。攻撃が全く効いている気配が無い。

「この!偽者の癖に!」

『ジュラ!下がれ!』

 メイアが援護に来た。偽者たちにプレッシャーをかけ、ジュラともども戻ろうとした時、ヴァンドレッドメイアの偽者が来た。

「……しまった!」

 ゴォン!!

 翼をえぐられ、操縦不能に陥った。

『メイア!!』

『リーダー!』

「ちぃっ!」

 アイリスはすばやく機首を反転。散発的にビームを撃ちながら、メイアの近くに接近する。

 と、その時、以外にもメイアを連れ去ったのはデリ機だった。操縦不能に陥ったメイア機を器用にマニュピレーターで掴む。

『すまない。助かった』

「お互い様だよ。皆!あたしについといで!」

『『ラジャー!!』』

 

 

 その頃、ヒビキも格納庫へ向かっていた。

 だが、突如として光の奔流に巻き込まれ、吼えていた。

「ちきしょ、こんな時に!

 黙ってみてろ!俺は生きる!生き抜くんだ!!」

 

 

To be continued

 

************************

 月日は百代の過客にして、行きかう人々もまた旅人なり。

 皆さんお久しぶり、P!です。

 

 だぁぁぁぁぁ!!ごめんなさぁぁぁぁい!!

 核爆弾のスイッチだけはぁぁぁぁ!!

 

 まぁ、そんなこんなで1年ぶり、1年ぶりの続編だと思います。

 今まで何をしていたかというと、エクスドライバー書いて、ラグナロクやって、カウンターストライクやって……、小説と何の関係も無いことをちらほらと(滝汗

 てか、急ぎで作ったから、内容が淡白すぎましたな。初めのほうではイメージが濁流のごとく流れてくるとかほざいておいて、1年も遅らせる俺ってやっぱダメなんでしょうかねぇ。

 まぁ、何にしても一番書くのを楽しみにしてるのはラストのラストなんでその途中をどうしようか、迷っております。

 展開が深いからなぁ。まったく。

 じゃ、また2年後に会いましょう

 

 ポチっとな。

 

 ご。

 

2003/12/30



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