人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。

 悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

 

  11・過去の過ちは突然に

 

 

 平和。という言葉がしっくり来る日は何ヶ月ぶりだろう。戦いに注ぐ戦いで疲弊するニル・ヴァーナのクルー達。体力的にも精神的にもそろそろやばいなぁ、と思えるそんなある日のこと。

 

「どうでもいいけどよぉ」

「ん?」

 ヒビキのあげた声にディータが振り返る。

「何で俺がこんな事しなきゃいけないんだ?」

「いいからいいから」

 言ってディータは食料庫の棚を開いた。

 ニル・ヴァーナの船内にある食料は基本的にイカヅチ襲撃時に女達が積み込んでいた物だけである。今まで何度か補給を試みたはいいのだが、その度に敵の襲撃があったりして補給が出来ないでいた。

 150余名という大所帯を抱えるニル・ヴァーナ。もちろん、イカヅチの食料庫にもいくらかの備蓄はあるのだが、アレだしなぁ……。

 火の車と言うわけでもないが、少なくなりつつあるのは目に見えている。

 そんなニル・ヴァーナの倉庫内で二人は何をやっているのか。

「ねぇ……何しているの?」

 ボソっと声が聞こえてきた。

『うわっ?!』

 さすがに驚く二人。棚の影からパイウェイが覗き込んでいたのだ。

「ぱ、パイウェイには関係ないの。」

 と、何故か突き放すディータ。

「う、……今日何の日か知ってる?」

 突き放されたことに異常に反応したパイウェイが恐る恐る聞いた。

「さぁ、……何の日だっけ?」

「……うぅ」

 何故か悲しそうにその場を去っていくパイウェイであったが、

「何だ。アイツ」

「ふふ……」

 不思議がるヒビキに対し、何か腹に一物あるディータであった。

 

 

「さて……後はこの配線を繋いで、と」

 アイリスは格納庫にいた。自機の強化のために、廃材を集めること数ヶ月。やっと形になってきたのだ。出来上がったのは、4基のミサイルポッドと、ペークシスから直接エネルギーを供給して撃つ、二基の三砲身、二連ガトリング砲だった。(多!!

 4基のミサイルパックは脚部と、肩部。ガトリングは両腕にそれぞれ固定された。もちろん、炸薬での排除も可能なシロモノである。

「よっし、OK。ガスコさんから弾薬貰って装填もしたし、砲身の回転のテストも無事終わった、と。

 化け物だな、こりゃ」

 確かにこんなものをまともに全弾発射したならばどうなるのか想像などつかない。

「ま、パルフェの尽力もあったから、いいとするか」

 さすがにアイリスだけでは限界もあった。そこで協力を申し出てきたのがパルフェだったのだ。廃材の提供や、各種基盤、手間のかかる仕事の大半が整備クルー達によって成されたものなのである。

「これで死んだら目も当てられないな」

 言いながら彼女はコクピットに座ると、各パーツの動作を確認する。

「……全弾発射の際には著しく出力が低下するか。まぁ、代償にしては軽いほうかな。

 よし、これでいってみよう!あとは……、重くなった機体を運ぶブースターの調節か」

 作業を続ける事十数分。

「おっしゃ〜〜、ファントムヘビーアーム完成!」

 相当無骨に改造された自機を見上げてアイリスは感嘆の息をついた。

「うんうん。渾身の出来だな」

 自画自賛のアイリス。と、いきなり入り口からヒビキが飛び込んできた。

「うわっと!」

 アイリスを見てのけぞると、すぐに自分のヴァンガードに駆け上がる。

「ん??」

 乗り込んで起動。わき目も振らずに飛び出していってしまった!

「ちょ、アンタ!出撃命令なんて出てないでしょ!」

 聞こえるはずも無く、ヴァンガードは旋回し見えなくなった。

「ちぃ!」

 すぐにアイリスは自機に飛び乗った。

「ったく、とんだ試運転じゃない!」

 ハンガーに出たところで、装甲服に身を包んだ一団が走りこんできた。手に手に銃を持っているところを見ると、穏やかではないようだ。

「何やらかしたんだか」

 アイリスは、最初から翼を全開にすると、ニル・ヴァーナを飛び出した。

 

 

「ヴァンガードです!捕虜が逃げました!」

 ブリッジでは緊迫した空気が流れていた。

「待てヒビキ!どこへ行くつもりだ!」

『うるせぇ!俺もう穴倉に戻るのはゴメンなんだよ!!』

 そう怒鳴ると一方的に通信を切る。次いでアイリスが通信を開いた。

『一体何事ですか?!』

「アイリスかい。ちょっとしたゴタゴタがあってね。悪いがヒビキを頼めるかい?」

 マグノがこちらも困った表情でそう言った。

『……後で説明お願いしますよ』

 言って通信は切られる。

 

 実はこの時、女達の間で「男は敵である」というプロパガンタが再発し始めていたのだ。事の起こりはなんとヒビキにある。

 あの倉庫の一件後、ヒビキが荷物の重さに耐え切れず、倒れ込むように入ってしまったのは、ニル・ヴァーナ内唯一男との共存を拒絶し続けていたブリッジクルー「セルティック・ミドリ」の部屋だったのである。コスプレ衣装が散乱しているその部屋に入ってしまった彼は何とセルティックの着替えに遭遇。無論たたき出される羽目になるのは承知の感覚だが、ここからが違う。セルティックが感情的になり、クルー達にある事ない事騒ぎ立て、しまいにはディータがパイウェイと不仲になったのはヒビキのせいだと豪語。

 そのパイウェイがその場に現れ、ヒビキとディータの料理風景を撮影した音なしの映像を持ち込んだ。それがまた勘違いしそうな風景だ。たまねぎを刻んでいて目に染みたディータを理解できず、ヒビキが詰め寄っているのだ。音があればまだまだ見れたかもしれない。しかし、パイウェイもディータに相手にされない事に不満を抱えていたのも事実。

 結局セルティックの力説とパイウェイの映像でその場は沸騰してしまい、パイウェイがハッとなったときには時すでに遅し。

 パイウェイも流される形で男達を締め出す事を決めた。

 まず狙われたのは食堂のヒビキだ。試食として出されたハンバーグを頬張っているところに、いきなり装甲服の一団が乱入。

 訳の分からないヒビキは逆上し、テーブルをひっくり返し逃走したのである。無論、向かった先は格納庫である。

 その途中でヒビキは医務室に駆け込む。そこにはドゥエロとバートがいた。バートはドゥエロに自分の扱いについて不満を並べていたのだが、

「どわぁぁ!!」

「あぁ、笑いたくば笑え!邪魔者扱いされるよりはましだ!」

 なんとバートはドゥエロの言った長い髪の男の例えを勘違いし、女装することで打ち解けようと考え、実践中だったのだ。無論、ブリッジからは叩き出しを食らったが。

「あんだと!?ぶっ飛ばされたいのか!」

「野蛮だねぇ。それだから、女に嫌われるんだ」

「んだと……」

「いたぞーー!!」

 後ろからかかったのは追っ手の声。

「くそっ!」

 ヒビキは転進すると、ベッドルームに飛び込んだ。入れ違いに出てきたのはマリーだ。

「静かに通ってくださーい!」

 一応そう言うが、ヒビキは聞いていない。患者達も何だ?という顔で見送った。

 マリーが視線を戻すと、さらに装甲服の一団が突進してくる所だった。

「ちょっと、皆さん!」

「どけ!」

 追っ手のクルーはマリーを押しのけようとしたが、逆に首根っこをつかまれると、細腕一本で投げ飛ばされた。

「貴方達!ここをどこだと思っているんですか!医務室ではお静かに願います!」

 珍しく怒りの表情で仁王立ちになるマリー。

 クルー全員が彼女もアイリスと同じ尋常な人間でない事を知っている。目の前で人一人が投げ飛ばされればなおの事だ。

「くそっ、別方面から追え!」

 諍いは時間の無駄。彼女達はドゥエロとバートを同じく捕らえ、早々に医務室を去っていった。

 マリーのおかげといってはなんだが、このおかげでヒビキは格納庫にたどり着けたのである。

 

 

 ゴアァァァ!!

 空気のない宇宙空間を二機のヴァンガードが飛行する。一機は金色に似た輝きを放ち、もう一機は戦意むき出しの悪魔といった感じの印象を受ける。

「待ちなさいよ!」

「るせぇ!てめぇもついてくるんじゃねぇよ!」

「そんなわけにいかないでしょ!何があったのか説明くらいあってもいと思うんだけど?」

「俺だって分からねぇんだよ!」

「はぁ!?とにかく、速度を落としなさい!こっちは荷物背負って重いんだから」

 超高速を可能にするアイリスの機体ではあるが、ヘビーアームを取り付けたせいで飛行性能はがた落ちに落ちていた。ヒビキのヴァンガードに置いて行かれるほどにだ。

「ち……」

 ヒビキが蛮型の速度を落とした。アイリスが横に並ぶ。

「で、事の起こりは何?」

「知るかよ!こっちもいきなり追われて訳がわからねぇんだ。俺が一体何をしたって言うんだ」

「逆ギレしないでくれる?」

「……くそっ」

 その後しばらく二機は飛行を続けていた。すでにニル・ヴァーナの航路から外れきっている。アイリスも何とかしてヒビキを説得しようとしたが、ガンとして受け入れない強情さはアイリスを苛立たせただけだった。

「で?これからどうする気なの?」

「……何がだよ」

「帰る場所もない。帰る道も分からない。小さな箱の中で一体いつまでいられると思ってるの?」

「さぁな。その内どっかに着くだろ」

「あ〜あ、やだやだ……」

 アイリスがさらに愚痴をこぼそうとした時だった。

 ズバァァァ!!

 二機の至近距離をビームの一閃が過ぎ去ったのだ!

『なっ!?』

 それを皮切りに次々とビーム砲の攻撃が二機を襲う!

「くそっ!」「何よこれは!」

 二機はそれでも器用に砲撃をかわし続ける。

 その内、

「ぐあっ!?」

 ヒビキが一発をかわし切れず右腕の装甲を焼いてしまった。

「野郎!!」

 それで頭に血が上ったヒビキ。無謀にもビームの発射元へと突撃を始めた!

「あ、待ちなさいよ!」

 アイリスも重量級の機体の速度を緩めることなくヒビキに追従する。

 やがて、十数隻からなる艦隊が目に入ってきた。どうやら刈り取り艦隊のものではないように見えた。

「あれね!」「あれかっ!」

 

 

「識別急げ!」

 艦隊旗艦内では突然の襲撃者に対する攻撃と識別が急がれていた。

「艦長!データにない機体です!」

「一機が高速で接近してきます!」

 モニターに写された二機の機体。それは、紛れも無くヒビキとアイリスの蛮型であった。そして、ビーム砲の雨を掻い潜り、フォーメーションから旗艦の位置を予想したアイリスは、挨拶代わりにヒビキを追い越して突撃してきたのだ。

 ドンッ!!

 旗艦に鈍い衝撃が走った。そして、目の前の窓から見えたのは無骨な、そして、寒気がするほどの武装を搭載した一機だった。

 

 アイリスは機体の両手を組む。そうする事で両腕のガトリングガンが正面を向く。

「どこのどなた様か知らないけど、相手が悪かったわね!死ぬか名乗るか、さあどっち?」

 戦闘はその場の雰囲気を制したものが有利に立つ。構わずに全周波数で話しかけたアイリスは一瞬にして主導権を奪い去ったのであった。

『何者だ!何故この宙域に侵入した!』

 突如横手から戦闘機が顔を出した。そして、問いかけてきたのはやけに色白の男性だ。

「たまたまだよ!文句あっか!」

 これに答えたのはヒビキだ。

『どこの者だ?』

「タラークとメジェール、そういえば分かるかしら?」

 

「タラーク……メジェール?」

 艦長はその会話を聞いて何か思い当たったらしい。

 数分後、二人には着艦の許可が下りた。

 

 

 クルーに連れられてブリッジに上がってきた二人。そこには男と女が各座席にペアで座っていた。全員が珍客を見つめている。

「何だ何だ、なまっちろい顔しやがって。俺はいつでも相手になんぜ!」

 ガンッ!

「やめなさい」

 アイリスが簡単にヒビキを黙らせた。そして、艦長が手を組んで話しかけてくる。

「手荒い真似をしてすまない。こちらも刈り取られまいと必死なのでな」

「こっちもね。せっかく綺麗な船に傷をつけちゃって」

「まぁ、それについては目をつぶろう。」

「ところで、刈り取りって事は……」

「うむ。我々も黙って刈り取りの時を待つくらいなら、最後まで抵抗しようとここで防衛ラインを張っているのだ」

「防衛ラインだぁ?」

 ヒビキが復活して睨んだ。

「そんな受身だから間違えるんだろうが。俺だったらやれれる前にやってやんぜ!」

「同意見だけど、ま、しょうが無いのかな」

「…………」

 対照的なアイリスたちに興味を持ったのか、艦長は静かに微笑んだ。

 

 

 二人は格納庫に戻ってきた。

 ヒビキは黙って自機の傷を見つめていた。右の二の腕、その同じ場所にヒビキも傷を負っていた。

 アイリスは早速武装の換装作業のため交渉にいっている。

「まずは貴方からよ」

 突然声がかかった。振り向けば、一人の女性が傷薬を持ってやって来ていた。

「な、何でもねぇよ!これくらい」

「だめよ」

 女性はヒビキの腕を取ると、傷口に薬を噴きかけた。

「つ……」

 淡々と治療を続ける女性を不思議な目で見るヒビキ。

「私はセラン。この船のメカニックなの。

 ……はい。OKよ」

 手を離したヒビキの腕にはバンダナが巻かれていた。

「あ、お……」

「あら、お礼の言葉は無いのかしら?」

 笑顔でそう見つめてくる女性。

「あ、ありがとよ……」

「ふふ」

「やあ、パイロット君」

 ここで最初に彼らに話し掛けた男性がやってきた。

「傷のほうは大丈夫かな?」

「心配ねぇよ。」

「君達には悪いことをした。破損箇所もすぐにメンテさせてもらう」

「俺も手伝うぜ。相棒のことは俺が一番分かってる」

「あぁ。そうだな」

「それじゃ、その前に一服しましょうか?」

 セランはそう言ってカップを取り出す。ストローが付いていて中身は薄い黄色をしていた。

「はい。セラン特性ドリンクよ」

 ヒビキにそれを渡し、立ち上がる。

「これは?」

「まぁ、飲んでみたまえ。もっとも、味のほうは保障しないけどな」

「リーダーも飲まなきゃダメよ。はい」

 セランは彼にもカップを手渡した。

「…………」

 ヒビキはその光景を何か自分の知らないものを見ているような感じで見ていた。

「あ、あのよ……」

『ん?』

「お前らはその……、ずっと一緒にいるのか?」

「……?どういう意味だ?」

「いや、その」

「ずっと一緒よ。そして、これからもね」

 見せ付けるわけではないだろうが二人はよりそう。そんな光景を見て恥ずかしくなったヒビキは無言でドリンクに口をつける。が、

「ぶはっ」

 あまりの味に失礼極まりないことをするヒビキ。

「なんだこりゃ……!」

「ビタミンBとCを配合。お肌にいいのよ」

 セランが説明する。

「肌?」

 ここでリーダーが真面目な表情に戻り言った。

「うん。奴らは我々の皮膚を狙っているんだ。」

「皮膚……」

 と、

「ヒビキ!準備に入って!!」

 アイリスが大慌てで飛び込んできた。

「来るわよ!」

「!!」

 アイリスの言葉に反応してヒビキもドリンクを放り出し、すぐさま修理に取り掛かろうとする。

「ど、どうしたんだ」

「その奴等っていうのが来るんだ。ぼさっとしてねぇでお前らも支度しろ!」

 機器を手に取り、修理に入る。アイリスも燃料の補給と、計器チェックに入っている。

「……セランも手伝ってやってくれ。僕も皆を集める」

 尋常ではない雰囲気にセランも警報を待たずして動く。

 そして、警報が鳴ったのはその後すぐだった。

 

 宇宙空間を巨大な何かがゆっくりと滑るように接近してくる。

 それはまるで絶望を形にしたのような禍々しい物だった。その体の両面にはピロシキ型が百機以上張り付いており、船の先端は怪しく光をたたえている。

「何だこいつは!」

 蛮型のモニターでそれを見たヒビキは驚きと共にセランを振り返った。

「お前達、こんなのと戦ってるのか?」

「戦わなきゃ狩られるだけよ。私達は最後まで生きることを諦めない」

 セランの目には決意があった。

 アイリスも同じようにモニターでそれを見ていた。さすがに緊張の色が見える。

「里中君たちがいればなんてことは無い相手だけど……、守りながら一人でか。

 皆、力を貸して……」

 届かないであろう祈りをアイリスはつぶやく。仲間との距離は果てしないほど遠いのだから。

 

 

「砲撃開始!!」

 艦長の声と共に全艦隊が砲撃を開始した。

 同時に戦闘機の部隊が突撃を開始する。

「ここで食い止めるんだ!我々の星には一歩も近づけさせるな!!」

『『ラジャー!!』』

 ミサイルが、レーザーが飛び交い大激戦が始まった。

 しかし、数では圧倒的に敵が勝っている。キューブは抱えたポッドを持って船に接近、それを船に撃ち込んだ。

 

 そのポッドは船に張り付くと、熱線で装甲を焼き切ると艦内に侵入する。それは赤い刈り取り装置で、這うように艦内を進む。

 その刈り取り機をクルー達が迎え撃った。

「メインデッキには近づけさせるな!」

 しかし、銃弾を物ともせずに装置はクルーの一人に襲い掛かる!

「うわぁぁぁぁ!!」

 覆いかぶさるように倒れこむと、なんと装置はその男の皮膚を生剥がしにし始める。

 

「右舷に敵集中砲火!装甲持ちません!」

「艦内に敵キューブ侵入!被害甚大!」

 艦全体にも何度と無く衝撃が走る。

「怯むな!我々の意地を見せてやれ!」

 

「こっちは終わった!俺も出る!」

 中のシステムの修復を終えたヒビキが外装修理をしているセランに声をかけた。

「もう少し待って!こっちもすぐ終わるから」

 見向きもせずに修理に集中しているセラン。

「この子は、絶対直してみせる!」

「…………」

「よし!終わった!」

 ヒビキのほうを向き、親指を立てるセラン。

「修理完了!がんばって!」

「おう!まかせろ!」

 答えるヒビキ。その時!

 ドゴォォォン!!

 突如爆発が格納庫内でおきた。思わず顔を背けたヒビキだが、顔を戻すと、いるはずのセランがいない。

「セラン? セラン!」

 セランは床に倒れていた。足場ごと吹き飛ばされたのだ。

「大丈夫か!セラン!」

「どうしたの!?」

「どうしたの!?」

 出ようと立ち上がったところで起きた爆発に、アイリスも思わず飛び出してきた。

「あっ!!」

「おい!セラン!」

 セランは倒れたままうっすらと目を開けた。

「……皆、……大、丈夫、かし……ら」

 そして、彼女は目を閉じた。

「おい、セラン! 冗談だろ……おい、セラン!!」

 しかし、彼女は反応しない。

「セラン!」

「ヒビキ!!」

 アイリスがヒビキに声をかけた。

「おい、お前!セランを助けてくれ!お前できるだろ?」

 立ち上がりアイリスに詰め寄るヒビキ。しかし、アイリスは首を横に振る。

「ごめんなさい。あたしには……」

「なんで!」

 アイリスの胸倉を掴み上げる。

「なんで……」

 しかし、そこまでだった。歯を食いしばり震えるヒビキ。

「…………」

「………ちくしょう。……ちくしょう!!」

 アイリスを放り出し、蛮型に飛び乗った。そして、お構い無しに格納庫から飛び出していった。

「……ごめんなさい」

 アイリスはもう一度それを言った。

 実はアイリスも人の蘇生はできるのである。しかし、それは自ら封印していた。いや、仲間全員の意思によって厳に禁じたのだ。

 人を軽々しく蘇生し、命を奪うようなことをすれば、それは命を玩具にすることになる。人がどんなに悲しもうが、どんなに望もうとも、これだけは守らなければならない。そう、決めていたのだ。

 アイリスはセランの遺体に向かい跪き、十字を切った。

 そして、彼女も蛮型で飛び出して行った。

 

 

「うおおおおお!!なぜだぁぁぁ!!」

 絶叫し、手当たりしだいに敵を斬りまくるヒビキ。目の前で人の死を見た悲しみと衝撃で、錯乱しているのである。

「何であんな簡単に、いっちまうんだよぉぉぉ!!」

 アイリスは比較的冷静に戦場を飛んでいた。もうこの艦隊は全滅する。そう確信したのだ。ヒビキにくっついて来た事を少々後悔もしたが、もうどうでもいい。

 ならば……、

「死ぬ前に一矢報いさせてもらいましょうか!!」

 アイリスは全速で敵のど真ん中に飛び出した!そして、全武装を開放した。

「おおおおおおおおお!!」

 横に立てかけた剣が大きな光を発する。その光は外の武装へと収束する。

「行けぇぇぇぇ!!」

 ズドドドド……!!

 全ミサイルポッドから一斉に数十発のミサイルが発射された!ガトリングからも間断なく弾丸が吐き出される。

 ミサイルはさらに小さく分裂し、数百発のマイクロミサイルとなる。そして、そこらじゅうの敵キューブへと命中する。

 さらに、命中した先からまるで船を爆破したかのような大爆発が起こった!それは周辺キューブを巻き込んで宇宙に花を咲かせる。

 

 その光景を艦の中で見ていた艦長は、

「あの少年たちが……、皆!あの二人に続け!!」

 その時、敵母艦に変化が起きた。正面にいた敵が一斉に脇へよけていく。そして、母艦の正面に光が収束していくのだ!

「主砲!?」

 アイリスが驚きの表情でそれを見る。その正面、射線上には彼女がいたのである。

「くそっ!!」

 アイリスは炸薬で肩と脚のミサイルポッドを切り離した。同時に母艦が主砲をぶっ放す!

「間に合うか!?」

 翼を全開にして上へと逃げる!主砲はそこを通り過ぎ、後ろの艦へと牙を剥く。それはヒビキ達がいた旗艦だった。

「何!?」

 巨大な砲撃に艦は一瞬にして飲み込まれた。そして、爆発・消滅する。

「くっ!」

 ヒビキが動きを止めてそれを見た。

『危ない!!』

 突如声がかかった。ヒビキが視線を戻すとキューブが突進してきたのだ。

「!?」

『うぉぉぉ!!』

 そこに横から割り込んだのはリーダー機だ。そのままキューブへと突っ込み、キューブごと爆発した。

「あ、ああ・・・・・・・」

 呆けた様に、それをみるヒビキ。そして、

「どいつもこいつも……ばっきゃろうだぁぁぁ!!」

 ブレードを引き抜くと、無謀にも母艦へと突撃し始めた!

「ヒビキ!?」

 アイリスが慌ててそれを追いかける。ポッドを捨てたことである程度の速度は戻った。

「ええぃ!」

 アイリスはガトリングガンも切り離すと、ブレードを持ってヒビキを追う。途中で進路を妨害する敵を容赦なく叩き斬り、母艦ぎりぎりで追いついた。

「……!」

 改めてその大きさに驚愕するアイリス。そして、押さえつけるように捕まえたとき、母艦側面、ピロシキ型が何十機も張り付いている部分が、一斉に光り輝いた。

「う、うわぁぁっぁぁぁぁあ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 遠くで何かが光った。しかし、ディータはそれに気づかないまま遠くを見つめる。

「宇宙人さん……」

 

 

 すでにそこはゴミための様になっていた。全ては破壊され、形を残していない。しかし、そんな中に二つの物があった。蛮型である。金色の装甲はくすみ、輝きを失っている。もう一つも翼は折れている。命を失ったように二機は虚空を漂っていた。

 と、そこに一隻の船がやってきた。潜水艦を模したようなシルエットは見たことがある。

 船はその二機をその中へと回収した。

 

 加重力されたデッキに二機の蛮型が横たわる。それを見渡すように男、ラバットはデッキを歩く。

「やれやれ、……とんだ拾い物だぜ」

「ウキーー」

 あいぼうのウータンは懐かしい人に会ったと喜んでいるようだが。

 ラバットは漆黒の機体によじ登ると機体表面をなでる。やがて、その手が何かに当たった。それは蛮型の変容時に同時に改変された強制開閉ノブだった。

 それをそれとして知っていたかはともかく、ラバットはそれをひねる。

 バシューー!!

 蒸気音と共にファントムのハッチは開いた。

「どれどれ……」

 覗きこもうと顔を近づけるラバット。と、

 チャキッと軽い音がして、目の前に大口径の銃が突きつけられた。

「いよう。久しぶりだな。姉ちゃん」

「…………」

 目の前の銃は意にもかえさず、頭から血を流しているアイリスに声をかけた。

 

「全く、つくづく縁がありそうだな。あんたらとは」

 全速で船を飛ばすラバット。その横にはウータンが座り、後ろにはアイリスが頭に包帯を巻いて座っていた。

「こっちは断りたいわね。」

「邪険にすんなよ。放り出されたいか?」

「今は遠慮しておくわ」

 言うことはきついが口調は軽い。

「ところで、何があった?」

 口調を戻してラバットが問う。

「…………、久々に化け物に会ったわ」

「化け物……か」

「ったく、守るものが多いと勝つ戦いも勝てないわ!」

 忌々しそうにアイリスは吐いた。

「おやおや、守ってるつもりだったのか?そこの坊主を」

「目の前で人が死ぬのを見たくないだけよ」

「……。修羅場潜って来たみたいだな、アンタ」

「さあ。アンタの歳の数は越えてると思うけどね」

「ハハハッ!なるほど。

 で、……この先どうするつもりだ?」

「……このまま引き下がるつもりは無い、とだけ言っておくわ。仲間と合流しても決定打がないし。あんたはどうなの?」

「俺はアンタ達のように命知らずじゃないからな。真っ先におさらばさせてもらうよ」

「出世しないわよ。そういう人は」

「死んで花実は咲かない。とも言うぜ」

「あ、そ。ちょっと寝かせてもらうわ。」

「ごゆっくり〜」

「襲ったら殺す」

「俺のほうからお断りだ」

 そして、結局アイリスはシートに身を預けて眠ってしまった。

「……連中。いよいよやり合うか。奴らと」

 何かを知っているのか、ラバットは唸るようにそう言った。

 

To be continued

――――――――――――――

 あとがき

 遅れまくりのP!でした。

 あぁ!石投げないで〜〜!!

 まぁ、とにかくそんなこんなで書き上げた11話です。今回はラバットとの絡みも少々盛り込んでみました。

 そして、次回12話はどうしようかなと今から悩んでいるしだいです。ま、勢いに乗れば時間は掛からないと思いますが。

 んじゃ、そういうことで12話「To Like Water」をよろしく。

 感想来ないな〜〜。(汗

ご感想、よろしくお願いします P!  hairanndo@hotmail.com

 

2002/12/03