人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。

 悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

  9・More barbarous than Heaven

 

 

 長距離スキャンに反応が出たのは数時間前。ニル・ヴァーナはこの星に少なくなった食料を求めたのだが……。

 

「ペークシスの反応があり、星の99%が水に覆われた海洋惑星です。」

 ブリーフィングルームではブザムとマグノがその星について検討をしていた。

「大気は地球の環境に近いようです。住人はヒューマノイドのようです。

 都市も見え、それから、海底に宇宙船の残骸らしき影も見えます」

「情報収集の為にぜひって言うんだろ?しかしねぇ」

 

 

『うわ〜〜〜〜!』

「綺麗な星……」

 確かに美しかった。星全体が宝石のように輝いているのだ。

 そんなクルーたちが見とれている中に、マグノ達は戻ってきた。結局結論は出ないままであった。

 と、

 ヴィーヴィーヴィー!!

 サイレンが響いた。

「何だ!」

「星の裏側に敵機!」

「数は?」

「キューブタイプが十数機と、あと変な機械が見えますぅ」

 エズラが報告すると共に、星の影から何か妙なつぼみの様な物が現れた。そして、それに群がるキューブも。

「なんだい、あれは!」

 マグノが声を上げた。

 

 

「おっしゃーー戦闘だぁぁ!!」

 嬉々としてヒビキがレジから飛び出してきた。その直後、

 カッ!

「うわっ!?」

 いきなり前方から光が浴びせられた。その撮影用のライトを背にして仁王立ちになっているのはジュラであった。その影からはバーネットがデジカメで撮影している。そして、ジュラが浪々と言う。

「いい事!今度合体するのはジュラとだからね!」

 指を突きつけ、ポーズを決める。そして小声で、

「どう?決まってる?」

「バッチリ」

 どうもヴァンドレッド・ジュラに合体するドキュメンタリーでも撮りたいらしい。意図を察したヒビキは呆れた表情で角に消える。

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

「何してんのよ!あんた達!」

 同じくレジから飛び出してきたアイリスが声を上げた。

「戦闘なのよ!とっとと配置に着きなさいよ」

 言うだけ言って走り去る。

「……この〜〜。

 バーネット!セカンドステージよ!」

「はいはい……」

 ムキになるジュラにバーネットも呆れ気味である。

 

 

 キューブ型はニル・ヴァーナを感知するとすぐさま迎撃に打って出た。そして、出てきたのはヒビキ、アイリスの蛮型、SPドレッド3機、そして、バーネット機のみである。数が少ないため、他の機は予備要員であった。

「オラオラオラーー!!」

 ヒビキがいつもの通り剣を引き抜いて斬りかかる。しかし、キューブはいつもと動きが違った。ギリギリまで引きつけてその剣先をすり抜けたのだ。そして、後方から一斉掃射である。

「ぐぁぁ!この、逃げ方覚えやがったな!」

 アイリスも剣で斬りつけようとするがかわされる。小さく舌打ちした後、アイリスは戦闘の型を変えた。剣戟と銃撃を織り交ぜる戦法に。すると、面白いように引っかかっていく。戦いに慣れた者はその敵ごとに戦法をいつも変えていくというが、アイリスもそれが出来る一人なのである。

「おらぁぁ!」

 ザンッ!

 左手で逆手に抜き打ちし、一機を破壊するヒビキ。さすがに動きが良くなったキューブに対して疲れが溜まり易くなっていた。

「はぁはぁ……」

『苦戦してるようね』

 そんなヒビキに珍しくジュラが声をかけた。

『今なら、合体してあげてもよくてよ!』

「やかましい!俺はひとりでやる!」

 接近するジュラ機を避ける様に次の標的へ向かうヒビキ。

「諦めないんだから!」

 キューブを破壊しつつ、それでもヒビキに食い下がるジュラ。

 と、キューブ3機が蛮型を取り囲んだ。

「ちぃ……」

 そして、後部を取った一機が蛮型に組み付き、剣が弾き飛ばされる。同時に残りの二機も組み付いてあろうことか、大気圏へ突入しだした!

「宇宙人さん!!」

 ディータがいち早く気づいて接近しようとするが、キューブが邪魔する。

「あぁん!敵が邪魔して宇宙人さんに近づけないよぉ!」

『ディータ後ろだ!』

 メイアが通信した。一機がディータ機の後ろに張り付いたのだ。しかし、その一機を破壊して同じく大気圏へと全速で突っ込む機体があった。ジュラ機である。

『ジュ、ラ!あん、た死、ぬ気!?』

 大気摩擦で真っ赤になるコクピット内にノイズの走るバーネットの通信が響く。しかし、ジュラの目は生き生きしている。

「バーネット!カメラ回ってる?」

『そんな場合!?』

「見てなさいよ!サードステージの開幕なんだから!」

 ジュラ機は一気に蛮型に近付いた。そして、光に包まれた。

 

 

「ジュラ機、ヴァンガード。大気圏へ突入しました!」

「誰か援護に回せないのか!」

「ダメです!全機敵と交戦中です!」

「くっ……」

 ブザムが唇を噛んだ。しかし、

「あの子達の機体なら大丈夫だろうさ。それより、今は目の前の敵に集中するんだ!」

『了解!』

 マグノが珍しく、後回しにするように命じた。まぁ、それだけ信頼しているということである。

 

 

 ドォォォーーーーン!!

 水面をかち割って、ドレッドと蛮型が墜落する。都市からいくらも離れていない海面である。ジュラ達を追って大気圏に入ってきたキューブ形もサーチモードに入った。そして、

 ザバァァ!と海面を割って出現したのは、

 

「おぉ……!」

「また新しいのが出てきたね」

「しかし、……これは」

 マグノとブザムがつぶやき、

「……カニ」

 アマローネまでもが唖然としてつぶやいた。

 

「いやぁぁぁぁぁん!こんなのジュラのじゃないぃ!」

 モニターで見た自機の姿にジュラが叫んだ。いや、さすがにカニだし……。

「くそ……どうなってんだ。こいつは」

 ヒビキもいつもと違うコクピットに閉口していた。なにせ、中央に天球儀を備え、その周りを席が回るような作りなのだ。なお、上空部分は全周モニターになっている。そして注目するのが8機の、周囲を回っているビットだった。そして開いた両翼の中心には鏡のようなペークシスの光を湛えた円盤がある。

 そして、衝撃が走った。キューブが攻撃を再開したのだ。

「くそ……のんびりはしてられね、うるせぇぇ!!ちっとは反撃しろ!!」

 さっきから騒ぎ立てるジュラについにヒビキが声を荒げる。しかし、ジュラも、

「いーーや!!」

 コンソールに両手を叩きつける。ついでにそこにあったスイッチを押してしまう。

 とたんにブースターが起動し、後ろに走り出す。追うキューブ。

 

「ヴァンドレッド・ジュラ、移動開始しました!」

「まずいね」

「はい。都市に近すぎます」

 そう、カニ、もとい!ヴァンドレッド・ジュラが移動する先には都市があるのだ。

 

「くそっ、ふざけやがって!」

 コンソールの扱いに困惑するヒビキ。ふと、手元のレバーが目に留まり、

「こいつか!」

 レバーを握ると、引いた。すると、ヴァンドレッド・ジュラのアームが伸びて偶然にもキューブの一つを打ち払った。

「へ、……これもありか?」

 結局アームを振り回して無様な戦い方になってしまうヴァンドレッド・ジュラ。ますます苛立ちやらなんやらが膨張していくジュラ。

「なによこれ、かっこわるいじゃない!!」

「やかましい!言ってる暇があったら武器を探せ!……こいつはどうだ!!」

 叫んで、コンソールに手を叩き付けた。

 すると、8機のビットが展開し、円盤が光った。

 ズヴァァァ!!

 円盤から放たれた光はビットで開放され強力なビームとなり、周囲にいたキューブを全部葬り去った。

「おっしゃぁ!やるじゃねぇか!」

「うう……」

 

『キューブタイプは全て撃破しました。しかし、あの妙な物体は攻撃を受け付けません』

 戦闘を終えたメイアたちが機を翻して言った。

「分かった。もういいよ、ごくろうさん」

 そう返して、改めて妙な物体を見た。

「あれはもしや、刈り取りの装置でしょうか」

「そうねぇ、……下の連中にでも聞いてみようかね」

 いう視線の先には青く輝く星があった。

 

「交信できます〜。」

「メインモニターに出しておくれ」

 送った通信に出たのは金髪の女性だった。どこか病的な感じを受ける。

『初めまして。私の名はファニータ。ようこそ宇宙で最も美しい星「アンパトス」へ。』

「アンパトス?」

『はい。私たちはそう呼んでいます。なた方がムーニャですね』

 いきなり言われたムーニャと言う言葉に不思議な顔をするも、マグノは自分の用件を優先させた。

「悪いけど、あたしらはムーニャとやらではないよ」

『え?』

「すまないがそっち降りて行ってもいいかい?聞きたい事があってね」

『……儀式の時が迫っておりますので、大したもてなしは出来ませんが』

「別に構わないよ」

 そう言って、通信を切る。

「相変わらず淡々としてるねぇ」

 バートがそうつぶやいた途端、いきなりマグノとの回線が開いた。ドキッと心臓が跳ねたと思ったら、

「聞こえるね。あたしらはこれから星に降りる。後の事はあんたに任せるからね。留守番しっかり頼むよ」

「あ、はい……えぇぇぇ!!?」

 いきなり、任せると言う。これは他でもなく艦長代理をやれと言う事だ。

「後ね、逃げるの禁止だからね」

 問答無用でそう言って回線を切ってしまう。

「あの、ちょ、そりゃないっすよーー」

 呆然とバートはつぶやいた。

 

 

 分離して偶然?にも流れ着いた海上都市。町の中は妙に活気付き、何かイベントが行われるようだ。

「祭りかな……。おい、行ってみようぜ!」

 横に同じく流れ着いたSPドレッドの上でうずくまるジュラに声を掛けるヒビキ。しかし、反応は無い。

 自分のヴァンドレッド・ジュラがあんな醜態を演じた事に深い傷を負ったらしい。……プライドっていうものはホントに。

 と、ヒビキの視界に降下してくるシャトルが見えた。

 

 降下してハッチが開いた時迎えに出たのはあのファニータと、他二人だった。降りたのは3人。マグノ、ブザム、アイリスだ。

 降りたときにブザムが上空を振り仰いだ。そこに棚引いていたのは妙な形をした旗。人間の背中から何かが立ち上るような形。

「あの形は……」

 

「宇宙人さんどうしてるのかなぁ……」

 格納庫内ではディータがうろうろしながらヒビキを心配している。

「そんなに心配する必要もないだろう?」

 メイアが壁にもたれつつメイアが言う。

「でもぉ!ジュラと二人っきりなんて……」

「おかしらと副長もいるだろ」

「でも〜〜。……宇宙人さん」

「…………」

 心底ヒビキを心配するディータであった。

 

 そんな彼らの後方から接近する物があったが、その時誰もが気づくことはなかった。さらに、その物体の接近で目の前のつぼみモドキに光がともった事も。

 

 

 水上都市の真ん中に聳え立つ塔。その先端に光が灯った。

『おお!!』

「ムーニャだ!」

「ムーニャがいらしたんだ!」

「準備を急ごう!」

 市民たちは揃って足を早める。

「ばあさん!」

 案内のために先導したファニータ達に付いて行くマグノ達。呼び止められてみれば、ヒビキが一人でこちらへ走ってくる。

「おや、無事だったかい」

「ジュラはどうした?」

「しらねぇよ。あんなイジケ虫」

「無事ならいいさ。あんたも一緒においで。」

「あぁ」

 案内されて着いた場所は塔の内部。内部は上空まで吹き抜けになっており、中央に螺旋階段がある。

「ここは……」

「ここが聖なる道へと続く神殿です」

「で、あんたたちのいうムーニャって言うのは。何者なんだい?」

「ムーニャは私たちをこの星へと導いてくれたものです。われわれは感謝しています。ムーニャはアンパトスの礎なのです」

「いったい何をしにくるのですか」

「ムーニャは我々を必要としています」

 マグノの眉がはねる。

「はぁ……?」

「ムーニャは我々のスパイラルコードを必要としているのです」

「スパイラルコード……」

「なんじゃそりゃ」

「……まさか!」

 ブザムが何かに気づいた。

「……“脊髄”、ね。」

 横にいたアイリスがつぶやいた。

 

『水と食料の補給はできるの?』

『あの……ロッカールーム変わりたいんですけど』

 口々に、無数の通信がバートの元へと寄せられていた。まぁ、重要なものは数個で、後は物珍しさだろう。

 そして、バートはそんな彼女たちに怒鳴る。

「あぁーー!もう、うるさぁい!」

 叫んで通信を一方的に切った。さすがに十耳の皇子じゃあるまいし、全員の意見を裁くことなどできたら苦労などない。

 そして、もう二つモニターが開く。

「今度は何?」

『サボるなよ』

 パイウェイの皮肉と、

『あの〜、私が受けましょうか?意見』

 マリーのねぎらいだった。

「くあ〜〜……」

 最早泣くしかなかった。

 

「嬉しい事も、悲しいことも、何もかもひっくるめて、これからって歳の子達ばかりじゃないか」

 外を歩く人々を見てマグノが言う。しかし、

「ムーニャに迎えられるときが至福のとき、迷う者などおりません」

「ふん、そう言ってはいるが、その綺麗なおべべ下は恐怖で鳥肌が立っているんじゃないかい?」

「恐怖などありません。すべてはムーニャのために……」

 長い話になりそうだった。

 

 バートに寄せられる通信はさらに激化していた。

「だぁぁぁ、もういい加減にしてくれぇぇ!!」

 絶叫して通信を切ったその時、

 ビーーーッ!

 アラームが鳴り、後方から接近するあの物体がレーダーレンジに入ってきた。アンカーのような物をあの装置に打ち込んだのである。

 

『敵です!』

 バートがすぐに通信をマグノに送った。

「数は?」

『一機です。なんかでっかいコンテナみたいな……』

『敵機はアンカーらしきものを先の物体に打ち込みました。やはり刈り取り装置のようです』

 マリーが回線に割り込んだ。

『敵機の開口部の大きさと、あの装置の大きさはほぼ同等です。まず間違いないと思います』

 バートと違って的確な情報を送っている。だてにアイリスの仲間を名乗っているわけではない。

「刈り取り船か、お頭!」

「どうやら、あんた達の待ち望んでいたムーニャのようだよ」

「来ましたか!」

『おお……』

「ついに時が来た」

 そんな彼女をマグノとアイリスは冷たい目で見ている。

 

カッ!!

 塔の先端が大きく輝いた。

『おお!!』

「時が来たんだ!行こう神殿へ!」

 誰かの声とともに、民衆は全員が胸元の仮面をかぶり、“神殿”へと歩き始める。そんな彼らの足元まで水かさは増していた。

 神殿へと入ってきた民衆は塔の螺旋階段を上がっていく。

「うお、……何だこの水!」

「よく考えたものだ。こうすれば皆一所に集まる」

「あんた等の言い伝えでアタシ等まで刈り取られるのはごめんだよ!」

「我々にあがらう事は許されません。」

「ふざけるな!!おかしいとはおもわねぇのかよ!!」

 ヒビキの叫びにもファニータは淡々と、

「それがしきたりなのです」

 そう言うだけ。

「くっ、ばあさん、これじゃ埒があかねぇよ」

「ふん……しきたり、言い伝え。便利な言葉じゃないか」

 マグノが間をおいてそう言い、

「自分たちじゃ何も決められない奴のね!」

 怒鳴ったのである。

 睨み合う両者。そして、ファニータは仮面に手をかけた。

「しきたりはしきたりです。運命は変わることなどないのです」

 

 

 

 その頃、バートは一人困っていた。マグノたちがいない今すべての権限はバートにあるのだが、要領がわからないのである。しかも逃げ腰でいる。マグノの忠告がなければ逃げ出しているところだ。

「くそー、どうすればいいんだ……」

『決まっている。』

 メイアがそんな彼にコクピットから通信を送った。

『我々がここで防衛線を張る。そうだろ』

「そう、だよな……。ドレッド隊出撃!!」

 やけくそで叫んだ。

『船を180度回頭させてください!後の指揮は私が!』

 マリーがそれだけ言って通信を切った。そして、ブザムのシートに座るとコンソールを操作し始める。そして、メイアに回線を開いた

「メイアさん、防衛線の維持を最優先に。惑星へ敵機の侵入をさせないでください」

『言われなくてもそのつもりだ。それより、お前もアイリスの仲間なら早く来たらどうだ』

 ちゃっかりシートに座っているマリーをメイアはにらんだ。アイリスの仲間=人外の戦闘能力と思っているメイアだったが、それは違う。

 マリーの担当は後方支援。RPGで言うところの後衛。回復や補助に属するのである。

「私には私の役割がありますので」

 そう言っていきなりその場で手を組んだ。

「……偉大なる者。偉大なる力。護り、救うはわが盟友」

 ポウ……、とマリーのからだが発光を始める。

 

「ん?」

 モニター越しにそれを見たメイアは船を振り返った。そして、

「あれは……!?」

 一瞬マリーの姿が宇宙に映りこんだと思うと、包まれるようにニル・ヴァーナの周囲に光が収束し始める。そして、出来上がったのは巨大な二枚の魔法陣。回転しながらニル・ヴァーナの周囲を回っている。

『私の仕事は護ること、救うこと……もちろん、あなた方も』

 モニター越しに映るその顔は美しく、母性にあふれていた。

『防御はお任せを、心置きなく戦ってください!』

 真顔に戻ってそういうマリーにメイアも表情を引き締めた。

「分かった。では任せる。

 全チーム攻撃開始!深追いはするな!!」

『『ラジャー!!』』

 

 

「……これは正しいことなのです。」

「本当にそうかい?なぜそう言える。こんなちっぽけな陸地にしがみついて何が知れる。その若さで何を悟る。

 宇宙で一番美しい星?比べたことがあるのかい!」

「……これは決まっていることなのです。大体あなた方は突然押しかけてきて我々の神を侮辱する。失礼極まりない話です!」

 手を震わせて声を荒げるファニータ。

「侮辱ねぇ……。」

 いきなりアイリスが前に出た。

「侮辱って言うのは、こういうこと?」

 そう言ってどこからともなく取り出したボールをファニータの後ろのレリーフに向かって投げつけた!

 派手な音がして、ボールが爆発する。煙の後にはレリーフは完全に吹っ飛んでいた。ボールは小型の爆薬だったのである。

「な、何ということを!」

「あら、違う?なら、こうかしら?」

 背中からおろした*M4カービン銃であろう事か民衆の上っていく螺旋階段やそこいらの壁を銃撃し始めた。いきなりのことに驚いて逃げようと混乱する民衆。

「おやめなさい!!一体何をかんがえ……!」

 タタタンッ!

 怒鳴るファニータの顔に3本のナイフが突き立った。

「おい!?」

 ヒビキがさすがに声を上げた。だが、縦に裂けた仮面の下、彼女の顔は傷など一つもなかった。

「人に意見するときは顔見せたらどう?それとも、この星の人はそんな常識も知らないとでも?」

「く、……」

「侮辱ついでに教えてあげましょうか。この星の名前の由来を」

『……??』

 突然話題を変えてアイリスが、ゆっくりとファニータに近づきつつ話し始めた。

「“アンパトス”。“パトス”はギリシャ語で受態の意。外界の変化を受容し、受け入れることで生まれる感情や、感動、意思のこと。

 “アン”は否定を表す言葉。繋げて御覧なさいよ。

 外界の変化を知っても何もしない。動こうともしない。逃げようとも闘おうともしない。

 自分の意思を持たず、考えも持たず、ただ命じられたことだけ忠実に実行する、傀儡っていう意味なのよ!!」

「なっ!?」

「おいおい、マジかよ……」

「…………」

 ファニータは声を詰まらせ、マグノとブザムはただ静かに事の成り行きを見守っていた。

「あんた達は第一世代じゃないわね。たぶんスパイラルコードがどんな意味かも知らなかったはず。教えるわけないわよね。将来持っていかれる臓器の名前なんて。

 そうそう、ムーニャって言う名前のことも思い出したわ。

 古代ギリシャの叙事詩に登場する猛獣の名前。その猛獣はね、捕らえた獲物をすぐに食べようとはしないで、飼うのよ。えさを与えて太らせて、食べごろになったらザクッと……!」

 言って自分の首を切る真似をする。

「……刈るのよ。おわかり?」

 最後にはファニータの顔を覗き込みながら言った。すでにファニータの顔はアイリスを睨むのみ。

「何、その顔。真実を知った憤り?それともここに来た私たちへの怒り?

 どっちにしても、もう遅いわ。あなたたちの運命は変わったのよ」

 

 

 メイア達戦闘部隊は熾烈な戦いを演じていた。装置を吸引するコンテナ型はやはり攻撃を受け付けず、防衛用キューブも回避率を増しているからだ。そして、そのうちの十数機がなんと星の大気圏へと突入を始めた。

「敵キューブタイプ、惑星へと降下!」

「ドレッド部隊は交戦中。援護は無理です!」

 

 

『敵キューブタイプが降下!』

『援護は不可能……!』

 状況確認のため開いた通信にはとんでもない報告が。

「来やがったか……!」

「お頭」

 しかし、マグノはじっとアイリスとファニータのやりとりを見つめるのみ。

 無論、報告はアイリスの耳にも入っている。

「神がいないとは言わないわ。確かにいるかもしれない。試しに、その片鱗を見せてあげましょう」

 言ってファニータから離れると、腰の剣を引き抜いて石畳へと突き立てた。剣に柄へと手をかざし、

「流れるもの、清らかなもの……」

 唱え始めた瞬間、水の流れが止まった。塔だけではない、星全体の水のうねりが停止したのである。

 そして、剣が青く発光を始めた。

 ゴゴゴ……と、妙な地鳴りが響いてくる。

「あ……?」

 ヒビキが何気なく後ろを振り返ったとき、怒涛の勢いで水が迫ってきていたのである。

「のわぁぁぁぁぁ!!?」

 しかし、迫り来る水流が襲ってくると思った瞬間、目の前で左右に別れ、塔の壁面に沿って螺旋を描きつつ“登り始めた”!

「これは……一体!?」

 水流は勢いを増し、塔を登りつめる。視線を戻してアイリスを見て更に驚く。

 剣が水面に立ち回転をしている。しかも蒼く光を発しているのだ。

「神に等しい力……見たい?」

 口元に笑みを浮かべた。同時に剣の回転が速くなり、塔の壁面を這う水の勢いも増した!

「在って在るこの世のもの、天尊神地尊神在る様に在れ、流れ行くは我が刃、今我が意志に従いて……!」

 唱える呪と共に剣の回転がピタッと止まる。

「切り裂け!!」

 剣を握り、上に振り上げた。

 キィィィィ……!

 甲高い音が響き始めた。

 ジャッ! バガァァァァン!!

次の瞬間、塔の全体が超高圧力の水流によって、砕け散った!

『っ!!?』

 砕けた破片はさらに細切れに粉砕される。

 螺旋階段に登った民衆達に戸惑いの表情。

「こんな……こんなことが!」

「舞、舞、巻いて、立ちて、絶ちて、断ちて……」

 目を閉じ、剣を横にしてさらにアイリスは唱える。

 水がうねった。うねり空中に巨大な球を形成する。そして、脈動と同時に8方へと散って行った。

 るおぉぉぉぉぉ!!

 水流は龍を形作ると、降下してきた敵へと襲い掛かっていく。あいえない物の攻撃に反応できないキューブ達。

 もはや、敵になす術は残されていない。

 

 宇宙空間では、いまだに戦闘が続いていた。そして、あの牽引された装置がとうとうコンテナにはめ込まれた。しかも、取り込まれたと同時に装置のつぼみのような物が開き、吸引を開始したのだ。

 

『コンテナが吸引を開始しました!!持たせられません!』

「くっ……!」

 さすがのブザムも汗が浮かぶ。

 そして、マグノがとうとう口を開いた。

「坊や!」

「あ、な、何だ?」

「あたしゃ、こんな所でくたばるのはごめんだよ。行っといで!」

「ばあさん……。おう、分かった!!」

 気合を込めて言うとその場を飛び出した。

「さて、どうやって暇潰そうかね〜」

 ファニータを振り返ってそう言った。

 

 

「おい!出撃するぞ!!」

 外に走り出た、ヒビキはジュラのドレッドの元へと走った。すでに海は荒れ放題に荒れていた。

「おい!聞いてんのか!?」

「うるさいわね!ほっといてよ!!」

 怒鳴り返すジュラ。すでに自分の立場などどうでも良くなっている。

 ヒビキはドレッドに飛び降りると、ジュラに駆け寄った。

「何言ってやがる!今戦えるのは俺達だけなんだぞ!」

「関係ないもん……」

 しゃがみこみ、駄々をこねる子供のような状態だ。

「たく……おい!」 

 言ってジュラの肩に手をかけた。

 殴られると思ったのか、ジュラが身を堅くした。しかし、何もしてこないヒビキにジュラが振り返る。ヒビキはジュラを真っ向から見て言った。

「簡単に見捨てんなよ。お前の大事な相棒だろ」

 しかし、ジュラは視線を戻してしまった。

「……たく」

 ヒビキは身を離すと、言った。

「皆が度肝抜かすところなんだけどな〜。」

 ジュラの肩が一瞬震えた。

「なんたって星を守るんだ。まだ誰もやっちゃいない事だぜ」

 ヒビキはジュラの性格を良く分かっている。ディータやメイアと合体した際に彼女達の性格を理解したのと同じように、最初の合体時にジュラの根本の性格も理解したのだ。

 ジュラはプライドや、体面にこだわる。ならば、戦うことにそれなりの理屈をつけてやればどうだろうと思ったのだ。

 結果、

「悪くないわね」

 立ち上がって髪をかき上げてそういった。

「……やれやれ」

「そうと決まったら合体よ!もたもたしてたら許さないんだから!」

 言ってさっさとコクピットへと飛び込んでいった。

「たく……女ってのは変わり身早ぇなぁ」

 

「逃げない……逃げない……逃げない」

 ニル・ヴァーナが吸引装置の影響を受け始めた。さすがにマリーの結界でも船体ごと吸い込まれてはなす術はない。バートもなんとか姿勢維持を続けているが、さすがに眼前まで敵が迫って来た時に根を上げた。

「あぁーーー!!もうだめだぁぁ!!」

『甘ったれるんじゃないよ!!』

 その時、マグノの怒声が聞こえてきた。

『あたしゃ今までに数え切れないほどの死に立ち会ってきた。その度に自分の無力さを呪ったもんさ。死に行く者たちに何もしてやれなかった自分にね……』

 

「どんなに無念だったろう。どんなにやり残した事があったろう、……そう考えるたびに身を引き裂かれる思いさ。でもね、誰一人として諦めなかった、最後の一瞬まで輝こうとした。あたしはね、そんな奴らを知っているんだ。知っているからこそ、自分の運命を人任せにする連中が許せないんだよ!!」

 感情をむき出しにしてそう叫ぶマグノ。それは自分自身の経験の吐露であり、この星に住まう者たちへの憤りの表れだった。

 ファニータの顔に浮かぶ、怒りとも羞恥ともつかぬ表情が浮かぶ。

 

 そんな発言を聞いたバートは正面に向き直り、

「絶対に逃げない……!」

『邪魔だ!!どけ!!』

「えっ……?」

 いきなり後方、地表のほうから何かが飛び出してきた。それはあのビットである。ビットは大気圏をぐるりと取り囲むと、青緑のバリアを展開し始めた。ヴァンドレッド・ジュラはバリアに特化した防御型ヴァンドレッドだったのだ。

 そして、自身バリアの核となってバリアの表面に張り付く。

「後はまかせて、昼寝でもしてな!」

「ぐずぐずしてると一緒にやっちゃうわよ!」

 完全に自分を取り戻したジュラが威勢良く叫んだ。

 大気圏の中が急に沈静化した。バリアが吸引を遮ったからである。しかし、刈り取りを優先しようというのか、装置はニル・ヴァーナから進路を変えてヴァンドレッド・ジュラの方へと向かい始めた。

「へっ、今たらふく食わせてやるよ!!」

 ヒビキは叫んでスイッチを押す。すると、ヴァンドレッド。ジュラの組んだアームの内部だけがバリア解除された。その強烈な吸引力で、地表から水が巻き上げられ始めた。

 

「メニクス、ファリキス、アレイウス……」

 地表、巻き上げられる水に今度は意味不明な呪文を唱え始めるアイリス。

「……エリエル、ラウル、ガルザード!!」

 前に突き出した両手に青い光が収束し始めた。

「おりゃぁぁぁ!」

 その光を立ち上がる水流に向かって解き放つ。青い光は水流にぶつかるが、別に何も起きない。だが、宇宙空間では……、

 

 吸い込まれる水流。その先端が吸引に逆らって止まったのだ!

「な、何だ!?」

「な、何?!あれ!」

 そして、まさにガバァァァ、と言う音でも出そうな感じで水流は竜の顎となったのである。

『!!!!!?????』

 音の無い空間で、吸引装置よりも巨大化した竜の顎は、その脆弱な機械を微塵に噛み砕いたのである。

「……アイツか」

 メイアはそれがアイリスの仕業だと感ずいた。そして、全機に撤収を命じた。

 

「やっぱ、最後ぐらいは派手に行かないと」

 手を叩きながらそう言うアイリス。

「なんということを……」

 ファニータが呆然とつぶやいた。そして、憤怒の表情でマグノを睨む。

「我々の神に対する冒涜は決して忘れません……!」

 そんなファニータにマグノは言う。

「神様って言うのはね、何もしてくれない。ただ見ているだけの存在なんだ。

 曲がり間違っても、見返りなんて求めたりしないんだ。

 さて、……これからあんた達は自由だ。生きるも死ぬも自分達で決めるんだね。

 邪魔したよ」

 それだけ言うと、後を見ずにその場を後にした。

 

 

「ビデオ回って無かったって、どういうことよ!」

 格納庫、全員が帰ってからジュラはカメラを回していなかったバーネットに食って掛かった。

「そんな場合じゃなかったでしょうが!」

 さすがにバーネットも言い返す。

「まぁいいわ。次こそあたしの華麗な姿をビデオに納めておいてね。なんたって、星ひとつ包み込むほどスゴイんだから」

 完全に高飛車振りが復活したジュラ。さすがにその場にいた全員があきれ返る。

「……ったく、女ってのは変わり身早いよな」

 その頃、戻ってきたマグノはと言えば、

「お頭お疲れでしょう。お部屋へ」

「いや、まだ寄る所がある」

「はぁ……」

 そう言って彼女が行った場所、それはバートのナビ席である。

「あぁ〜〜〜、だりーー……」

 倒れて起きようとしないバート。そんな彼にマグノは容赦ない一言を。

「なんだいこの様は、少し留守した間に船がギシギシになってるじゃないか。」

 さすがに吸引力にマリーの結界は効き難く、スラスターなど数箇所がオーバーヒートなどの事態に陥っていたのである。

「な、何を言うんですか!」

 マグノを見たとたんにバートは跳ね起き、食って掛かり始める。

「僕がどれだけ苦労したか、知らないでしょ!」

「あぁ、知らないね」

「ああ、やっぱりな。いいですか、部屋割りだの交代時間だのって、いちいちこっちに言ってくる事ないでしょうに。

 かと思えば、大事な事は相談も無く勝手に決めるって、……大体普段からお頭が皆を甘やかすからこういう事になるんじゃないですか?

 海賊だからって、言い訳は通用しませんよ!」

「ふふふ、で?」

「でって、僕が言いたいのはですね、初めに何の相談も無くいきなり僕に船を預けるって言うのはどうなんでしょうか、ということで、まぁ、僕は捕虜と言う立場ですから相談って言うのはおかしな事かもしれませんが……」

 バートの饒舌振りがいきなり全開になった。

 まぁ、結局のところマグノはねぎらいがてらに愚痴に付き合っていると言うわけだ。

 それに気づいたブザムはため息をついてその場を後にした。

 

 

To be continued

次回「果て無き海の白き大樹」よろしく! ご感想、よろしくお願いします P!  hairanndo@hotmail.com

 

2002/10/16