魔法少女リリカルなのは Lastremote Stage.9 誰が為に鐘は鳴る(中編)

 

 

 ]Z級艦‐戦艦ヴァルキリー。

 スカリエティが指揮する聖王の器の模造品で、その全長は数十キロにも及ぶ

と言われている。

 模造品といっても性能的には本来の聖王の器と同等で、オリジナルと同じく、

二つの月の魔力を浴びることで、絶対強固の魔法障壁を展開することが可能。

 さすがに模造品だけあって伝承のなかに存在していた箱舟と同規模とまでは

いかないが、それでもヴァルキリーの展開する障壁は圧倒的で、艦の周囲を飛

び交う管理局魔導師たちは決定打を撃てぬまま、ジリ貧ともいえる状況で戦闘

を行い続けていた。

 艦砲射撃やアルカンシェルによる砲撃を行うという選択肢もあったのだが、

ヴァルキリーがすでにアルカンシェルのチャージを終えていた場合、万が一砲

撃によってこちらの艦隊位置がばれてしまった場合、一網打尽にされかねない。

「知覚及び魔力遮断の魔方陣、あとどれぐらい持ちそうですか」

「なんとも言えませんね。これだけのサイズ、数をカモフラージュしたことな

んて今までありませんから、遮断魔方陣の効力が弱い部分があるかもしれませ

ん。平常時ならあと一時間は軽いですが、あちこちで砲撃魔法が飛び交ってい

るこの状況。何かの拍子にカモフラージュが切れる可能性も十二分にあります。

できれば早期決着をお願いしたいところですが」

 XV級艦船ユグドラシルのブリッジ。艦長の椅子に腰掛け操舵手にそう言葉を

継げたのは、管理局Sランク魔導師クラウム・E・リーゼ一等空佐。実戦経験や

階級などを考慮した場合、本来この椅子に座るのはリベルド・プロイア一佐な

のだろうが、今回は総力戦のため突破力の高いプロイア一佐には前線に出ても

らう必要があり、戦闘能力の低い彼女が艦隊の指揮を執り行っていた。

Sランク魔導師は管理局の切り札と言われているが、全員が全員戦闘に特化し

ているわけではない。パメラ・パーラやリーゼ一佐の様に、戦闘が苦手でもず

ば抜けた支援の能力を持っているがゆえ、Sランクに制定された魔導師も少なく

ない。

後方支援に向いた能力。リーゼ一佐が艦長の椅子に座る要因の一つに、それ

が関係していたのは確かだろう。

「本局のほうでも大規模な戦闘が起こっていると聞いていますから、ここでス

カリエティを叩いておく必要がありますね。ジェイル・スカリエティ。史上最

悪の次元犯罪者。私がいなかった間に、ずいぶんと舐めた真似をしてくれたも

のね」

 長い髪をふわりとなびかせて、魔導師クラウム・E・リーゼは次元空間に浮か

ぶ巨大な艦船をぎろりと睨みつける。

 その眼はとても鋭いものであったが、残念ながらヴァルキリー内部で起きて

いるトラブルに気づくことは出来なかった。

 

 

 

 

「魔力炉の出力、回復しないか。いや、さらに低下を続けているな。このまま

では艦の運行でさえ危ういが……」

 艦船ヴァルキリー、ブリッジ。

 ジェイル・スカリエティはモニター上に映し出される映像を凝視、艦の外側

と内側、二つのトラブルに対する対処を続けていた。

「くそっ、傀儡兵残存15%だと!」

 モニター越しに見える外の景色。傀儡兵が数十人の魔導師を潰している映像

の隣では、たった一撃で傀儡兵を吹き飛ばすような、化け物じみた強さの男が

暴れ回っていた。

 スポンサー(管理局)から資金を提供してもらっていた際に、資料とともに要注

意の人物としてゼスト・グランガイツとともに資料が送られてきた男、リベル

ド・プロイア。

 その他にも似たような猛威を振るっているものが数人いるが、その強さから

察するに、いずれもSランクの魔導師なのだろう。

「まずいなこれは。魔法障壁のおかげで艦内への侵入は妨げてはいるが、この

ままの状況が続きでもすれば……ええぃ!!」

 思わずスカリエティはコンソールに両手を叩きつける。

 艦船火器が使えれば、こんな状況になるはずなどなかったのだ。Sランク魔導

師といっても所詮は人間。ヴァルキリーの主砲を防げるはずもない。

「アルカンシェル、何故起動せん! 目の前の目障りな蝿どもの母艦を落とす

のだよ。そうすれば、蝿どもの無意味な抵抗も終わる。なのに、なのにっ!」

 ガシャァァァン!

 スカリエティは、機械化した左腕をコンソールに何度も叩きつける。

 管理局の艦隊は姿を消してはいるが、魔導師が出てきている以上、そう遠く

にあるわけではないのだろう。

 艦の火力さえ復活すれば、燻りだすことは容易い。そして艦隊同士の打ち合

いとなれば、まがりなりにも聖王の箱舟の設計思想を継ぐヴァルキリーが落と

されるはずもない。

 だが敵の艦船が見つからず、ジリ貧のように魔導師たちとの戦闘を続けてい

ればいずれ……。

「ちぃっ」

 苦々しそうに、スカリエティは舌を打ち鳴らす。

 このままでは、お終いなのだ。一部の増長した科学者の自己を満足させる。

それだけのために作られて、見切られて、捨てられて……。

 そんなことで、一生を終える。そんなことで、一生が終わる。

私が、ジェイル・スカリエティが終わる。

 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!

「ずいぶんと荒れていらっしゃるようですけど、いかがなされました? ドク

ター」

 スカリエティが荒れ狂うブリッジに顔を現したのは、戦闘機人04クアット

ロ。超長距離に通信回線を繋ぎチンクで遊んでいた彼女がスカリエティの元に

訪れたのは、周囲に送り込んでおいた傀儡兵が全滅してしまったせいか、それ

とも遊びつかれてしまったからか。

「どうしたもこうしたもあるか! クアットロ、たしか艦船の最終整備はお前

とガジェットドローンたちが行っていたな!! どういうことだ! ガジェッ

トドローンだけではない、艦船の機器も、ほとんどにロックがかけられている

ではないか! 私のコードで機器を使用できるようにしろと、そう言ったでは

ないか!!」

「ええ、ええ。勝手に他人に使われては困りますものね。だ・か・ら。ちゃん

と設定しておきましたよ。ジェイル・スカリエティの音声認証によって、機器

のロックは解除されます」

「それが出来ないから、こう言っている!!」

「あらあらそんなことはないはずですよ。私の整備は完璧です。ね、ヴァルキ

リーちゃん」

yes

「うふふ。いい子。それじゃ、機器のロックを外してくれる?」

yes, sir ProductKey Release

 ヴァルキリー艦内にシステム音が響き渡り、機器の安全装置が解除されてい

く。『クアットロ』の声に反応して。

「ね?」

「……どうゆうつもりだ。クアットロ」

「うふふふ。どうもこうも、見たまんまの意味ですよ。ようするに、あんたは

もう用済みなんだよ塵が」

 常に人を食ったような喋り方を見せていたクアットロが見せる、初めての己。

 彼女は眼鏡を外し、忠誠の証であるWの数字の描かれた首当てを投げ捨てる。

「心底呆れてんだよ私は、あんたにたいして。大規模騒乱なんて事件を引き起

こしておいて、捕らえられて、新しい身体を作ってもらって。世話してやった

ってのに、それが当然みたいな顔しちゃってさ。セリムやブラッドがどう思っ

てたか知らないけど、私は最初からこうするつもりだったんだよ。Sランクの魔

導師を引き寄せるための囮。あんたの価値はそれだけなの」

「貴様っ」

「口の聞き方がなってないんだようすのろがっ!!!」

 ヴァルキリーのブリッジに、激しい怒号が響き渡る。

「いいか、ジェイル・スカリエティは、偉大なる天才科学者の名を関する人間

は私だ。あんたはただの塵。私に利用され捨てられるだけの、ただの塵だ」

「ふざけ――」

 叫びかけたスカリエティの胸を、銀色の刃が貫く。それを見、クアットロは、

否、スカリエティは満面の笑みを浮かべる。

「うふふ。ごめんなさい。我が家のドローンちゃんとっても優秀だから手が早

いの。でもあなたが悪いのよぉ。私に歯向かうような姿勢をみせるから」

「あ……あ……」

 コンソールが、ブリッジが、吹き出ていく飛沫で赤く染まっていく。

「ドクター。たしかあなた、ドゥーエお姉さまに似たようなことやらせていた

わよね。ミッド地上の英雄、レジアス・ゲイズを殺したときに。あれ痛そうだ

なぁって思ってみてたんだけど、どう? 実際自分が同じような状態になった

感想としては」

 崩れ落ちた塵を踏みつけて、新たなるスカリエティは問いかける。けれど、

塵は答えを返そうとはしない。まともに口を開くだけの体力が残っていないの

かもしれない。

 あっけない。

 ただただ、彼女にはそう思えてならなかった。戦闘機人でも、魔導師ですら

ない。軽く小突いただけで死んでしまうような、弱々しき存在。

 自分がこの世に生を受けて、それからずっと使えてきた存在とは、これほど

までに弱いものだったのか。

 これが、こんなものが……。

 感傷に浸りかけていたクアットロ(スカリエティ)を現実の世界に引き戻した

のは、ヴァルキリー艦内に騒がしく響き渡る警報音。

『防御フィールド、損傷率七十%を突破。敵の艦内侵入の可能性を考慮し、こ

れより隔壁の遮断、及びオートロックを行います。繰り返します、防御フィー

ルド――』

「あら、ヴァルキリーの防御シールドを生身で突き破るなんて。さすがSラン

ク魔導師の皆様。管理局ってのはつくづく化け物揃いみたいね。でも、この艦

の火力を甘く見ないでほしいのだけど」

 コンソールを叩き、スカリエティはヴァルキリーの砲座、その全てを起動さ

せていく。戦乙女が、舞いを始めたのである。

 

 

 

 

「……! プロイアの旦那、なんかやべぇぜ」

 沈黙を続けていた艦が地鳴りのような音を響かせ始め、Sランク魔導師の一

人、リゼット・モーラは慌てて声を張り上げる。

 艦船の先端に取り付けられていた、二又の槍を思わせる銀色の突起物。その

槍の先端に、人知を超えた膨大な魔力エネルギーが集められていく。

「……! 全員、最大規模の障壁を張れ! アルカンシェルが発射される

ぞ!!」

 いち早く異変に気づいたプロイア一佐が、周囲に緊急事態であることを伝え

ていく。

「アルカ……! ち、頼むぞミョルニル」

 魔導師リゼット・モーラの所有する小槌型を象ったストレージデバイスの先

端が広がり、巨大な障壁が作りだされていく。

 全てを飲み込む漆黒の閃光はモーラたちの遥か前方を駆け抜けていったはず

なのに、

「うぉ、おおおっ!

障壁に、痛々しいまでの亀裂が走っていく。

「持ってくれよミョルニル!」

 障壁に浴びせられているのは、あくまでも魔力の放出による余波に過ぎない。

にもかかわらず、天変地異でも起こっているかのように、モーラとその周囲は

世界が割れるほどの激しい揺れに見舞われていた。

 やがて揺れがおさまったころ、視界の遥か先で、薄ぼんやりと何かが光る。

「いつつ。だ、大丈夫ですか艦長」

「ええ、私はなんとか。ただ、いまの砲撃で四重の魔力結界全てが突き破られ

てしまったようで……」

 魔導師クラウム・E・リーゼとストレージデバイス、パニッシャー。

 数十キロ四方に及ぶ広大な領域の全てを、知覚遮断の魔法により完全に覆い

隠す術は見事というほかないが、全てを吹き飛ばす漆黒の閃光の前では小細工

など何の役にも立ちはしなかった。

「ヴァルキリーの主砲……恐れていた事態が現実のものになりましたね。こう

なれば正面から艦砲射撃を」

「アルカンシェル二撃目来ます!」

「なっ!」

 広大な時限の海を、閃光が駆け抜けていく。光が、ユグドラシルのすぐ真横

で瞬いた。

「か、艦船ブリュンヒルデ……応答ありません」

「艦船サザーランドより入電。損傷率六十%突破。砲塔が動かないそうです」

「前方の魔導師隊より入電。負傷者多数のため、一度艦に戻りたいそうです。

着艦許可を要請しています」

 慌しく告げられていく、オペレーターからの連絡の数々。届けられてくる言

葉の一つ一つが、逃れようのない事実をリーゼ一佐に物語っていく。

 絶望的な状況。脳裏をよぎるのは、最悪の事態。

 だからこそリーゼは苦渋を飲み込み、一つの決断を下さなければならなか

った。

「……空域にいる魔導師、並びに艦船に緊急入電を行いなさい。現時刻を持っ

て掃討作戦は中止、艦隊は速やかにこの空域を離脱しなさい。前線にはたしか

ヒルツ・オーエン三佐がいましたね。彼に前線の魔導師たちをポイントS-2460

に転移させるよう伝えておいてください」

「て、撤退するというのですか」

「ええ。これ以上戦闘を続けても無意味。というより、こちらが全滅するわ。

ほら、ぐすぐずしない。急いで!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいリーゼ艦長。ヴァルキリーより転移魔法反応。

これは……艦そのものがワープしようとしているようです」

「そんな、艦そのものって、数十キロ大の質量兵器よ。出来るわけないじゃな

い!」

 以前にも述べたとおり、次元船サイズの質量を持った物質の転移など不可能

と言われている。転移させる物質の質量が大きければ大きいほど、必要な魔力

は膨大なものとなっていく。ヒルツ・オーエン三等陸佐のような、極端に空間

転移の能力に長けたSランク魔導師でさえ、長距離の転移となると乗用車一台

が精一杯なのだ。次元航行艦のなかでも異例とも呼べる巨大さを誇るヴァルキ

リーなど、一ミリすら動かせるはずはないのに……。

「駄目です。艦船ヴァルキリー、ロストしました」

 静かに、端的に、事実だけが告げられていく。

 なぜ数十キロ大の巨大な艦船を転移させることができたのか。いや、問題は

そこではない。なぜ全滅すら出来たであろうこちらの艦隊を見逃し、立ち去っ

ていったのか。

「私たちに情けをかけた? まさか」

 水面を揺れる、虹色の波。

 嵐が過ぎ去った次元の海に、不気味なほどの静けさが訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

クアットロが戦線を離脱したことで傀儡兵の幻影は大幅にその数を減らした。

傀儡兵の出所の発見、幻影の消失という吉報が重なり、戦いに終わりが見えて

き始めたからだろう。低下する一方だった魔導師たちの士気は回復し、状況は

管理局防衛から残存戦力の処理へと変化し始めていた。

Sフィールドとの連絡が途絶え、そのことが魔導師たちの間で疑問視されては

いるものの、あそこはフェイト・T・ハラオウン執務官が守りを固めており、N

フィールドより高町なのは一尉が救援に向かったという報告もされている。だ

から、それほど心配する必要はないだろう。

問題があるとすればもっと近場、火災事件の際に姿を現したブラッドという

守護獣のほうだろう。ティアナ・ランスター、スバル・ナカジマ両陸士が交戦

を始めたとしばらく前に報告があったが、ときおり花火のように様々な光が上

がっているところを見ると、まだ戦闘が続いているだろう。

 そんな管理局魔導師の予想を証明するかのように、再び大きな花火が上がる。

 花火が咲き乱れている場所、ブラッドとの交戦区域ではいまだ二人の魔導師、

ティアナとスバルが必死の戦いを続けていた。

「来たれ七色の断罪。我が前に立ちふさがる怨敵を撃ち砕け!」

 赤、青、黄色。

 ティアナの周囲に大型の魔力スフィアが次々に生み出されていき、それら一

つ一つが公転、ブラッドへと狙いを定めていく。

「セブンス・レイ!!」

 ティアナの合図で七色のスフィアそれぞれが光球を発射する。

 その弾数、砲撃魔法の密度はクロスファイアシュートの比ではない。それは

まさに弾幕。セブンス・レイは艦船が艦への接近を妨げるために張るような魔

法を、一魔導師、単体で作り出すようなものなのだ。

 ガッ、ガガガガガカガガッ

 ブラッドの張る障壁を削り取らんばかりの勢いで、魔法の弾丸が撃ち込まれ

ていく。

 だが撃ち込まれている本人、ブラッドは余裕の表情。不敵な笑みを浮かべて

いた。

「はっ、こんな小技で俺を潰す気か? なめんじゃねえよ!!」

「スバル、でかいの行くわよ。あわせなさい」

 ティアナは二丁銃の形態をとるクロスミラージュで嵐のような弾幕を展開し、同時に魔力スフィアを自分の目の前に構築しなおしていく。

「一撃必殺。ディバインショット!!」

 自身がクロスミラージュで発射する弾丸を、魔力スフィアを通して高密度に

変換させるなのは直伝の魔法。なのはの使用するバスタータイプのほうが威力

としては上なのだが、あの形は大規模砲撃ゆえ、どうしても魔力収束から発射

までに時間がかかってしまう。そのため弾幕魔法から主力魔法へ繋ぐティアナ

の砲撃スタイルとはあわず、ディバインバスターを自分流にアレンジしなおし

たのがこの魔法、ディバインショットというわけである。

「ちっ」

 余裕の表情を浮かべ続けていたブラッドだが、さすがにこれの直撃はまずい

と判断したのだろう。

 腕を突き出して先端に『protection』の魔法を構成、弾丸を受け止める。

 自身の力に絶対の自信を持つブラッドにとって、相手の攻撃を正面から受け

とめるというのは当然のこと。実際その戦い方でスバルを倒し、なのはと互角(

なくともブラッド本人はそう思っている)の戦いを繰り広げているのだから、ブ

ラッドが自身のそんな戦闘スタイルを疑問視したことなど一度もない。

 だから真横から伸びてきた光のレール、ウイングロードを滑りながらスバル

がぶつかってきても、ブラッドは何の小細工をすることもなく、片手でティア

ナの砲撃魔法を受け止めたまま、スバルのほうへと向きなおっていた。

 正面からそれを叩き潰すために。

「一撃必殺、全力全開!!!」

「はっ、小細工抜きの正面突破。気に入ったぜ戦闘機人。だがな、単純な力比

べで俺に勝とうってのは甘いんだよ!!」

 スバルとぶつかり合うより先、ブラッドはティアナの放った魔砲を握りつぶ

す。握り潰したその手から灼熱がほとばしってゆき、ブラッドは腕を回転。迎

撃のために繰り出す一撃のために、魔力を増大させてゆく

「食らいなっ!! ブロウクンフレアッッ!!」

「ディィバインバスタァァァァァーーー!!!」

 IS振動破砕というスバルにのみ許された先天固有技能に、なのは直伝の大出

力魔法の力が付加されてゆく。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ」

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」

 特別な技術など何もない、呆れるほどに単純な、力と力のぶつかり合い。

 スバルとブラッドとの拳が正面から激突して、衝撃が波となって周囲へ放出

されてゆく。

 力は互角。いや……、

 ぐらり、

 スバルの身体が大きく揺れ動く。正面からの力比べに負けて、若干押され始

めていく。

「はっ。はははははははははははは、やっぱり俺のほうが上だな戦闘機人。悪

いがここまでだっ」

「くぅぅぅぅぅぅ……まだ、まだっ!! お前みたいな奴に、私は負けない。

絶対に!!!」

「こいつ……まだ力が」

 スバルの放つ魔力に押され、ブラッドが押し戻される。

Gear Exeilon full drive

 スバルの意思を感じ取り、マッハキャリバーは自身の力を限界まで高めてい

く。マッハキャリバー内部で練りこまれた魔力が周囲へと流れ出していき、リ

ボルバーナックル。スバルが腕に装着したもう一つのデバイスへと集められて

いく。

「スタァァライトォォォォォォォォォォォ」

「やっろう。まだ切り札を隠し持ってやがったか。仕方ねえ、チャージなしで

どこまで行くかわからねえがやるしかねえか。淵底の抱擁、煉獄の炎。砕け散

れっ!」

 次元空間に漂う微弱な魔力。それら一つ一つが小さな星となり、流星のよう

にスバルの腕へと収束されていく。恒星のように、リボルバーナックルが輝い

ていく。

それは、全てを打ち貫く破壊の流星。

「ブレイカァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 全てを焼き尽くす煉獄の炎。ブラッドの指先より何百、何千という炎の蔓が

放たれて、それらの蔓が複雑に絡み合っていく。炎は獣へと姿を変える。

 生まれたのは力の化身。九つの尾を持つ妖の姿を象った、守護獣ブラッドの

究極の炎。妖弧と呼ばれる伝説を象った炎。

「アブソリュートフレアッッッ」

 放たれた妖狐は星光と正面からぶつかり合う。

 小細工抜きに、正面から相手の力の全てを叩き潰す。

 それこそが守護獣ブラッドの掲げる『強さ』。

「焼き尽くせ!」

 ブラッドの咆哮に応えるように、妖狐が星に襲い掛かる。星を食らいつくす。

 紅蓮の妖狐は星光によりその身体の大半を失ってなお、目の前の障害、スバ

ルを焼き尽くそうと炎を伸ばしていく。

「……くぁっ」

 星の一撃が打ち砕かれ、灼熱の色がスバルを飲み込んでいく。それでも、炎

に焼かれながらも、スバルは片手を上にあげていた。

それは、合図。

「クロスシフト……S……あとは頼んだよ、ティア」

Mode-Blaze charge-100%

「おっけい。上出来よスバル」

 デバイス・クロスミラージュの魔力を長距離砲撃という一点のみに集中させ

た形態、ブレイズモード。古代に存在したとされる質量兵器、ライフルの姿を

模造したそれは1mを超える巨大な砲身を備えており、衛星軌道上からミッド

地上の小石を貫くことさえ、理論の上では可能とされている。

 本来は長距離砲撃により前線の味方の援護を行うための形態だが、ティアナ

とスバルの連携時においてのみ、ライフルは大きくその役割を変化させる。

 クロスシフトS。交差する星の光。

「受けてみなさい。ディバインバスターのバリエーション」

 魔力収束。周囲に漂う微弱な魔法粒子の全てがライフルの先端へと集められ

ていく。星が流れていくように、星を飲み込んでいくように。流星と化した星々

を力に変えて、ティアナはクロスミラージュに魔力の全てを注ぎ込んでいく。

 闇を切り裂く一陣の閃光。全てを打ち砕く、星光の一撃。

「スタァァァァライトブレイカァァァァァ」

 ブラッドを守ろうと飛び出してきた妖狐を巨大な光が撃ち貫いて、妖狐の纏

っていた炎さえも自らの力と変えて、凶暴なまでの光が放たれる。

 艦船の主砲をも上回りかねない勢いの、巨大な光の塊。破壊というただ一点

のみに力の全てを収束させたそれは、ブラッドの身体を綺麗に飲み込み、それ

でもなお威力を衰えさせることはなく、どこまでもどこまでも、黒翡色の次元

の海を真っ白な輝きで照らしながら伸びていく。

「く……そがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 果てのない絶叫。周囲に響き渡っていたブラッドの叫びは、やがて閃光の中

に消えてしまう。

「ふぅ、クロスシフトS。実践で使うのは初めてだったけどうまくいったわね、

スバル」

「そ、そうだね。うまく……いったね」

 裾が焦げ付いて、あちこちが破れぼろぼろになったバリアジャケット。トレ

ードマークの鉢巻にこびり付いた煤を払い落としながら、スバルは恨めしげに

ティアナを見上げていた。

 スバルが何を言わんとしているのか感づいたのだろう。

「しょ、しょうがないでしょ。私の障壁やバリアジャケットじゃ、あんな強い

火力になんて耐えられっこないんだから」

 クロスミラージュをブレイズモードからガンズモードへ移行させると、ティ

アナはぷいっとそっぽを向く。

「うーひどいよティア。親友がこんなにぼろぼろになるまで頑張ったってのに、

ありがとうの一言もないなんて」

「誰が親友か!! 言っとくけど私とあんたはただの腐れ縁。親友とかそうゆ

うのとは全然関係ないんだから、軽々しく親友なんて言うんじゃないの!!」

「あう……ひどいよティア」

「はぁ、たくっ。でもまあ一応礼だけは言っとくわ。ありがとねスバル」

「えへへ、ありがとう。ティア」

 いいながら、スバルはブラッドが立っていたほうへと向きなおる。

 全てを食らう魔砲。真っ白な星光が通り過ぎていったその場所は、今もちり

ちりと真っ白な炎が名残のように燃え続けている。

「倒したん、だよね」

「たぶんね。SLBによる連携攻撃。これの直撃を受けてなんともないとなると、

さすがに私たちにはもう打つ手がないけど」

 白い炎が燃え尽きて、霧が晴れるように視界がはっきりとしていく。

「その心配はないみたいね」

 霧が晴れると、そこには男が崩れ落ちていた。紺色のジャケットは焼け落ち

て、ところどころ皮膚が露出している。膝を地面におろしたまま、虫の息、と

いう様子で小刻みに身体が揺れている。それでも、男は立ち上がろうとしてい

た。

「まだだ……まだ俺は負けちゃいねぇ……まだ……まだ……」

 身体はぼろぼろ。意識もおぼろげになっているだろう。それなのに、守護獣

ブラッドは戦いを続けようとしている。

 うわ言を呟きながら、動かなくなった足を引きずりながら。

何が彼をそこまでさせるのだろう。

 管理局本局に襲い掛かってきた悪人としてでなく、ブラッドという人物その

ものに興味が出てきて、スバルは自然、ブラッドのほうへと歩み寄る。

「スバル、動かないで」

 そんなスバルを制したのは、敵対していた相手、ブラッドではなかった。

「まだなにか奥の手を隠してるかもしれない」

 モードガンズ。二丁の小銃を構え、ティアナは魔力を練りこんでいく。

「ティ、ティア。何もそこまでしなくても」

「甘いわよスバル。戦いにおいてやりすぎなんてことはないの。手遅れになっ

てからじゃ遅い。あのときああしておけばよかったって後悔しないためには、

いつだって最善を尽くしていなきゃいけないの」

「そ、それはそうだけど。そう教えられたけど、でもあんなぼろぼろになって

もまだ戦おうとしてるなんてどう考えてもおかしいよ、何か事情があったかも

しれないんだし、これ以上傷つけるような真似は――」

「事情? 管理局本局を攻撃しなきゃいけない事情、そんな理由があるってい

うの?」

「そ、それは……」

「ふん、まあいいわ。あんたの言うとおり何かやむをえない理由があったとし

ましょう。けど、たとえどんな理由があったにせよ管理局襲撃、テロを行った

ってことに変わりはないわ。それにあのブラッドって守護獣はまだその行為を

続けようとしている。だから私はその行為を止めるの。管理局職員として!!」

「ま、待ってティア!!」

 スバルの言葉は届かず、ティアナは魔法――セブンス・レイを発射する。

七つの光を携えた断罪の一撃。正しき裁きを下すため、光の群れがブラッド

めがけて飛んでいく。

 赤、青、黄色。七色の光がブラッドの身体を飲み込み、そして……砕け散る。

「えっ!」

「なっ!」

 驚愕の声をあげたのは魔法を放ったティアナだけではない。目の前に光が迫

り、止めを刺されることを覚悟していたブラッド本人にとっても、それは予想

すらしていない出来事であった。

「ごふっ……」

 現れたのはブラッドとは別の襲撃者。セリム・F・ヴェンデッタ。

 どこかで激しい戦闘でも繰り広げていたのだろう。彼の着ていたバリアジャ

ケットには切り傷らしき後が多数。ティアナのセブンス・レイを弾き飛ばした

黒いデバイスには、遠目からでもはっきりとわかるほど深い亀裂が走っていた。

「あ、主!!」

「ぐっ、ごほっ。生きているなブラッド。目的は達した、引き上げるぞ」

 右手で口元を押さえセリムは激しく咳き込む。ぽたりぽたり、指の合間から

赤い雫が滴り落ちていく。

「あ、主! 身体を!?」

「ぐ、すまんなブラッド。肩を借りる」

 ブラッドはセリムの腕を自分の肩に回して立ち上がる。その光景を前に、ス

バルとティアナの動きは完全に止まっていた。

 目的は達した。

 そうセリムは言った。

 目的とは何か。

 その答えは、セリムの左手にあった。

 べっとりとした液体で汚れた刀剣型のデバイス。

その切っ先は真っ二つにへし折られており、デバイスの心臓とも言えるコ

ア・クリスタルの八割が真っ赤に染まっている。

 バルディッシュ・アサルト。

 フェイト・T・ハラオウンが所有しているはずのデバイス。

「フェイト……さん?」

 最悪の結末が脳裏を過ぎり、

「う、う、うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 弾かれたようにスバルが飛び出していく。

「――スバル!! こんのっ!!」

 一瞬遅れて、ティアナもそれに続く。

「さ……せんよ」

 息も絶え絶えになりながらもセリムは自身のデバイス、クラウストルムを振

るう。小さな突風がセリムとブラッドの前に生まれて、スバルとティアナとを

弾き飛ばす。

「こんなもんでっ!!」

 弾き飛ばされたスバルが身体を起こし、セリムの方へと走ろうとする。

 けれど、そこにはもう誰もいなかった。

 ウイングロード、光の道にぽたぽたと落ちた赤い雫は足跡のよう。でも、そ

の足音は途中で消えてしまっていた。

「逃げられたわね」

 端的に、的確に、ティアナが現在の状況を口にする。

「なんで……あの人たちがバルディッシュを」

 なんでじゃない。理由なら、スバルにもわかっている。

 でも認めるのが怖かった。認めたくなかった。

 でも認めなかったとして、それで事実が変わるわけではない。

 なのはがフェイトの救援に向かった場所。Sフィールド。あのセリムという

男は、Sフィールドの方角から現れた。

つまり、それが答え。

「管理局本部、聞こえますか? こちらティアナ・ランスター二等陸士です。

守護獣ブラッド、および魔導師セリムの撤退を確認しました。なお魔導師セリ

ムはハラオウン執務官のデバイス、バルディッシュ・アサルトによく似たデバ

イスを所有しており、至急ハラオウン執務官の安否確認をお願いしたく……

はい。はい、了解しました。ナカジマ一士とともに、現場の哨戒にあたります」

 スバルがうなだれているその横で、ティアナは一人、本部に指示を仰ぐので

あった。

 

 

 

 

 キャラクタープロフィール06 

 

 

名前   クラウム・E・リーゼ

所属   時空管理局本局 次元航行部隊

階級   一等空佐

役職   ]X級戦艦『ユグドラシル』艦長

 魔法術式 ミッドチルダ式・空戦Sランク

 

 

名前   ヒルツ・オーエン

所属   時空管理局本局 執務官

階級   三等空佐

役職   執務官

 魔法術式 近代ベルカ式・空戦Sランク

 

 あとがき

 

Sランク魔導師の皆様、何とか会議出席メンバーは全員に出すことができそ

うで一安心しております。ヴァイス陸曹のような地味な地位(ほめ言葉です

よ!)の人なら、適当な場所でぽんと出すことも可能なのですが、なまじ実力

があって地位も高い人たちだけに、しっかりと出すための下地を作っておかな

いと登場させることすら難しい。Sランク魔導師って本当に面倒ですね!(自

分で作った設定+キャラたちですがw

 次回は前半パート最大の山場となります。

 




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