己の信じるものを貫き通す。向かうべき道に立ちはだかるなら、たとえ相手が親

友であろうと容赦しない。

　鋼のような決意を固めたスバルの心を反映するように蒼光の道、ウイングロードが大広間に広がっていった。

「行きなさい、ディバインシューター」

　ローラーブレードの稼動音が鳴り響く中。空中に浮かんでいたティアナは短銃の

先端に誘導性能を持つ光球を作り出し、スバルを捕らえるように命じる。

「……っ」

　二丁短銃の両方を短刀に形状変化させ、ティアナはスバルの突撃を受け流す。

　床に降り立ったスバルを見下ろしながら、ティアナは頬から流れ落ちる血を手の

甲で拭っていった。

「これだけ容赦のない攻撃をしてくるってことは、どうやら本当に迷いは吹っ切れ

たみたいね」

　激しい攻防を続けていたせいか、ティアナのバリアジャケットは所々が破れ、焦

げ、酷く汚れてしまっている。

「キャロが酷い怪我を負ったときのこと、なのはさんが倒れたときのこと。ティア

ナには感謝してるよ。悩んでばかりいた私の相談に乗ってくれた。叱責してくれた。

どうすればいいか、私が行くべき道を指し示してくれた」

　ティアナ同様、バリアジャケットに酷い損傷を受けていたスバルは、黒い煤にま

みれた襟首を手前に引き寄せる。

「私が行く道の邪魔をする人がいるなら、その人を殴り倒してでも、気絶させてで

も前に進む。それが、私なりのティアナへの恩返しだよ」

　悩み、苦しみ、何をすべきか見失いかけて、その末にたどり着いた答え。

　自分の道を貫き通すことが、ティアナと戦うことそのものが、ティアナに対する

恩返し。そう心に定め、スバルは改めて拳を握りなおす。

「……恩返ししようとしてくれる気持ちは嬉しいけど、それは無理ね」

　ぱちん。と、指を鳴らす音が響いていった。

　指を鳴らしたのはティアナではない。

　少なくとも上空に浮かび、スバルのことを見下ろし続けていたティアナでは。

「えっ……」

　ティアナの身体が熱せられた空気のように不自然に歪み、霞みとなって消えてし

まう。

「あんたじゃ私に勝つ事は出来ないわ」

　背後から声が聞こえた。スバルがはっとして振り返ると、その先に立っていたの

はティアナ。頬にも肌にも傷一つ負うことなく、平然と、凛然と彼女はそこに佇ん

でいた。

「な、なんで……だって、今までずっと上に」

　驚き、言葉に詰まりかけているスバルに向けて、ティアナは短銃の銃口を傾ける。

「混乱している暇なんてあるの？」

「……っ。マッハキャリバー！」

　攻撃を仕掛けようとする気配を感じ取り、スバルはティアナに向けてローラーブ

ーツを走らせていた。

「遅い」

　最速の射撃魔法を用い、ティアナはスバルの足元の床を破壊する。

「なっ」

　床に開いた風穴にローラーの車輪が沈み、スバルは足を取られて床に転倒してし

まう。

「スバル、確かにあんたの走行速度はとんでもないものだと思う。速度だけで言え

ば、フェイトさんのソニックフォームも上回ってるかもしれない。でも、『走行』

なんだよ。どんなに凄いＦ１マシンだって道の上しか走れない。どんなに速くても、

道がなければ意味がない」

　二つの短銃を一つに重ね合わせると、ティアナは身体を覆い尽くすほど巨大な盾

の形にデバイスの形状を変化させる。

「行くわよ。ファントムリング展開」

　続けて、命中精度向上のためにターゲットリングを装備した魔力スフィアを空中

に作り上げる。リングの矛先。その全てがスバルに差し向けられていた。

「撃ち抜きなさい、クロスファントム」

　大規模砲撃。

　盾と魔力スフィアの双方から光が撃ちだされ、スバルの身体を撃ち貫いていった。

「……っ。げほっ」

　砲撃の威力を殺しきれず、スバルはそのまま壁際に吹き飛ばされてしまう。手足

が壁にめり込み、稲妻のように鋭い痛みが背中を駆け巡る。唇かどこかを切ったの

か、血の味が口内いっぱいに広がっていった。

　それでもスバルは身体を突き動かそうとする。戦闘を継続できないほど酷い損傷

ではないからだ。

　壁に叩きつけられた直後なら、身体が負ったダメージが回復しきっていない。テ

ィアナはそう判断し、クロスファントムに魔力収束を行ない始めていた。

身動きが取れない相手なら、わざわざ速度を優先した魔法を使用するまでもない。

その様子から、只ならぬ何かを感じ取ったのだろう。

「まずい、行くわよ。クロスファントム。まだ魔力収束が完全じゃないけど、」

　マッハキャリバーの音声にエコーが掛かりだして、

「誰が相手だろうと、殴り……飛ばす！」

「……っ。わかってはいたつもりだけど、やっぱりとんでもない速さね」

　一瞬意識を失いかけていた事に気づき、ティアナは頭をさすり続けていた。

　脳裏に思い浮かぶのは、数秒前に起きた出来事。

　スバルの右拳が魔法障壁に激突し、振動破砕の力が魔法障壁の隅々にまで亀裂を

走らせていった。罅割れた魔法障壁はスバルの拳を叩きつけられると、ガラスのよ

うに容易く砕け、拳の直撃を受けたティアナはそのまま、遥か遠くまで殴り飛ばさ

れた。

「折れてはいないけど、動かすのは難しいか」

　自分の身に起きた出来事を把握しなおすと、ティアナは右腕の肘を左でさすり、

怪我の程度がどれくらいかを確認しなおす。

「とりあえず、障壁は張りなおしておいた方がよさそうね」

　壁際からティアナが離れた瞬間、背後に残っていた魔法障壁がガラス片のように

床に落下する。床に落ちたガラス片が半透明な液体に変わり、一瞬で空気の中に溶

けてしまう。

　魔法障壁がクッションになってくれたおかげで、壁に衝突することだけは避けら

れたようだ。

「それにしてもあいつがここまでやるなんて。……ううん、今のは単純に私のミス

か。あの状況で、無理に大規模砲撃を放つ必要なんてなかったものね」

　大規模砲撃は身体に大きな負担をかけてしまう。そのため熟練した砲撃型魔導師

でさえ、大規模砲撃を放った直後には強い疲労・脱力感を覚えてしまうものである。

　圧倒的な火力を備えているが故の代償。

　生身の身体で放つ以上、大規模砲撃直後の脱力感を拭い去るのは不可能といえ、

砲撃直後のティアナが油断していたことは事実だった。

　油断していたからこそ殴り飛ばされる瞬間まで、ティアナはスバルの気配に気づ

けなかったのだから。

「……っ」

　眼前に蒼光の道が迫り、ティアナは逃げるように空中に飛び上がる。一瞬の後、

鉄片が凹むような轟音が響く。ティアナが立っていた位置に拳が叩きつけられてい

た。

「逃がさないっ！」

一息つく暇さえない。

壁に罅割れを走らせた後。スバルは即座にティアナを見上げ、彼女の位置まで蒼

光の道を伸ばし終えていたのだから。

　高速。

　スバルは目にも止まらぬ速度で蒼光の道を駆け上がる。

「っと、そっちのペースに合わせられるとさすがにやばいわね。けど、」

移動補助の魔法は数あれど、空中に文字通りの道を作り出す魔法――ウイングロ

ードは他の魔法の追随を許さぬほどの利便性を誇る。

「ウイングロードを伸ばして殴る。相変わらず、戦術に芸が無いわね」

　けれど逆を言えば、ウイングロードは便利なだけなのだ。

　空中に道を描けようと、どれだけその上を素早く走る事が出来ようと、道は所詮

道でしかない。

　光の道の真正面に向き合い、ティアナはクロスファントムの引き金を振り絞る。

銃口から高密度に圧縮された魔力砲が撃ちだされ、スバルは砲撃の中に自ら飛び込

んでいく。飛び込んでいってしまう。

「くっ……」

　魔力砲と正面から激突し、弾き飛ばされ、スバルは床に叩きつけられる。

　地面に倒れたスバルのことを、上空からティアナが見下ろしていた。

「スバル、確かにあんたは強いわ。シューティングアーツの技術はずば抜けている

し、機動力も魔力量も、並の魔導師を大きく上回っている。不意をつかれたといえ、

さっきの一撃は本気でやばかった」

「リボルバーショ――」

「ダガーブレード！」

　クロスファントムの銃口部分から魔力刃を伸ばし、ティアナはスバルの右腕目掛

けて二丁短銃の片方を投げつける。皮膚から赤い飛沫が飛び散り、スバルが練り上

げていた魔力球が周囲に四散してしまう。

　傷口を押えるスバルに向けて、ティアナは言葉を言い聞かせていった。

「でもね、あんたの戦い方は直線的過ぎる。ギンガさんやあのブラッドって守護獣

みたいな、あんたと似たタイプの敵が相手ならそれでも問題ないんだろうけど」

「私に力押しなんてやり方は通用しない」

　ティアナが口にしていた言葉の続きを、ティアナが口にする。

　はっとして振り向いてみれば、スバルの肌を斬りつけ床に突き刺さった短銃の片

割れを、ティアナが拾い上げていた。

　傷だらけで空中に浮かんでいたティアナが一瞬で傷を回復させ、床に降り立って

いたのと似た現象が目の前で展開されて、スバルはティアナが起こす現象、奇術の

正体を理解する。奇術の種は、驚くほど単純なものであった。

「ティアナが……二人？」

　上空にティアナが浮かんでおり、そばにもティアナが立っている。

何も複雑な事などない。ただそれだけの事だった。

「ファントムシルエット。幻ではなく、実体を作り出す魔法。同時に作り出せるの

は一人が限界だけど、精度は他の幻術魔法の比じゃないわ」

　上空に浮かぶティアナが、困惑するスバルに短銃を傾ける。

「執務官という役職は、一人ないし二人で行動することが多い。だから当然、ショ

ートレンジでの戦いもこなせるようにならないといけない。でも私の魔力じゃ、な

のはさんみたいに魔法端末を自在に操るなんて事は出来なかった」

　ティアナの周囲にオレンジ色の魔力スフィアが浮かびあがり、それぞれが球体に

姿を変える。

「ヴィータ副隊長やシグナム副隊長のような技術や剣技があるわけじゃない。フェ

イトさんのような高速戦は出来ないし、あんたみたいな爆発力を持ち合わせている

わけでもない。だからずっと考えてた。どうすればいいのかを」

「だけど思ったんだ。誰かの真似をしているだけじゃ駄目だって。なのはさんの長

所もフェイトさんの長所も、それぞれに異なっている。だから私も、自分の長所を

伸ばしていくのが一番いいと思った」

　フェイクシルエットを始めとする、自身の幻術を作り出す力。それがティアナの

力。ティアナの長所。

　上空と地上に展開されていた魔力スフィアがそれぞれ回転し始めて、

「行くわよスバル。ヴァリアブルクロスフレア。シュート」

　二人のティアナが、同時に短銃の引き金を振り絞る。

「プ、プロテクトッ！」

　降り注ぐ光の雨がスバルの身体を呑み込み、轟音と爆炎が広がっていった。

地震でも起きたかのように床が激しく揺れ動き、

　クロスファントムの銃口部分の下からワイヤー付きのアンカーが射出、スバルの

腕に絡みつく。アンカーを引っ掛けるとティアナはそれを手前に引いて、スバルの

体勢を崩させる。

　頭上に浮かぶティアナがデバイスを長距離砲撃形態に形状変化させ、

　広域への攻撃を主目的とした、砲撃の雨を作り出す。

　休む暇もないほどの連撃。それでも、

　穴だらけになった床の上。スバルは両手を真上に構えて魔法障壁を張り巡らせて

いた。

「……これでもやれないか」

　戦闘機人という特異体質に加えてストライクアーツ。

　近接戦に特化した体術を身につけている関係上、魔法障壁の硬度が他の魔導師の

それを大きく上回っているのだろう。

　管理局襲撃事件の際にはスバルの丈夫さを利用してブラッドを倒したといえ、敵

として対峙してみると、その丈夫さには舌を巻いてしまいそうになる。

「でも、全く効果がないってでもなさそうね」

　ティアナが言葉を漏らした瞬間、スバルはがくりと片膝を床についてしまう。

全身が焼け焦げ、額からぽたりと血が流れ落ちる。

「ふふ、やっぱりティアナは強いね」

　それなのに、スバルは笑っていた。まるで今このとき、この状況が楽しくて仕方

ないとでも言うように。

　ダメ押しとばかりに砲撃を放つ準備を整え始めていたティアナに向けて、スバル

は静かに問いかける。

「ねえティアナ。ティアナはなのはさんとフェイトさんの子供の頃の話って覚えて

る？　なのはさんとフェイトさんが出会うきっかけになった出来事」

「うん。事件当時、なのはさんとフェイトさんは何度も戦ったって言ってた。信じ

られないよね。あんなに仲の良いなのはさんとフェイトさんが子供の頃は敵同士で、

本気で戦ったりしてたんだよ」

　六課に所属していた時代。スバルはなのはから子供の頃のことを聞かせてもらっ

た事があった。

『私とフェイトちゃんもね、一度だけ、本気と本気でぶつかり合ったことがあった

んだ。互いが持ってるジュエルシードをかけての真剣勝負。でも途中からはもう、

ジュエルシードのことなんてどうでもよくなってた。あの頃のフェイトちゃんはプ

レシアさんのことで頭がいっぱいで、誰とも心を通わせようとしてなかった。でも

衝突を繰り返すたびに、少しずつフェイトちゃんの心に触れることが出来て……変

な話だけど、私とフェイトちゃんが親友になれたのは敵同士だったからだと思うん

だ。互いに譲れないものを持っていて、その想いを貫くためにぶつかり合った。勝

敗なんてどうでもいいんだよ。お互いに、本気と本気でぶつかり合うことが出来る

なら』

敵同士だから親友になれた。なのははそう言っていたけれど、正直、スバルには

よくわからなかった。

　仲が悪いから、相手のことが許せないから。

相手と敵対するというのは、そういうことだと思っていたからだ。

だけどティアナは言った。

『親友だからこそ、私はあんたを止めなきゃいけないと思ってる』

　ティアナの真意がどこにあるか。それはスバルには分からない。

　けれどティアナは全力で、自分も全力で、勝つのはどちらか一人だけ。ならば勝

ちを譲る必要なんてないだろう。己が正しいと、そう信じきることができるなら。

「ティアナ、色々とありがとうね」

　呼吸を整えると、スバルは全身を奮い立たせていた。拳を握りなおし、ティアナ

のことを真っ直ぐに目で見据えていく。

「でも私の目的はまだずっと先にあるから、こんなところでもたもたしてる暇なん

てないんだ」

　上空に浮かぶティアナを見上げ、スバルは蒼光の道を広げていった。

「ウイングロードを用いた接近戦。懲りないわねスバル。私に力押しは通用しない

って、そう言ったはずだけど？」

「うん。だけどこれが私の長所だから」

「戦い方を変えるつもりはないと。全く、呆れるほどの単純馬鹿ね」

　ファントムシルエットによって生み出されたティアナの分身が消失し、上空に浮

かんでいたティアナが短銃の片割れを回収する。小手先の技術に頼らず、あくまで

も力と力のぶつけ合うことを選んだのだろう。

「全力全壊。魔力量に余裕があるわけじゃないから、そろそろ決着をつけさせても

らうわよ」

「そうだね……これで終わりにしよう」

　魔法を撃ちあい衝突を繰り返した影響か、スバルやティアナの周囲には微量な魔

力粒子が四散しきっていた。夜空に浮かぶ星を連想させるそれらはデバイスが魔力

収束を開始すると、真っ白な尾を引きながら流れ落ちていく。

　星は流星に姿を変えて、短銃と握り締めた拳にそれぞれ収束されていった。

橙と蒼の魔力光が丸み帯びて、眩いほどの輝きを放ちながら膨張。恒星のように大

きく膨れ上がる。

「スターライトブレイカー。なのはさん直伝の魔法。あんたも私も、結局のところ

切り札は同じってわけか」

　恒星と化した魔力光をデバイスの先端に纏わせ、ティアナとスバルは互いに眼光

を向け合い続けていた。

「そうだね。でも、勝つのは私の方だよ」

　刺すような視線が交差した瞬間、ティアナの視界からスバルの姿が消滅する。

「……っ！」

　目の前にウイングロードが伸びているのに気づき、ティアナはほとんど反射とも

言える速度で身体を横にずらしていた。ティアナの目と鼻の先を、スバルが一直線

に突き抜ける。

「なるほど……あくまでも速さに拘るってわけね。でも幾ら速さを増そうと、」

　スバルの空中での足場の役割を持つ蒼光の道。どこまでもどこまでも伸び続ける

それは天井すれすれで弧を描き、こちらに向けてなだらかなカーブを描いていた。

　蒼光の道を駆けるスバルに向けてティアナは銃口を構えたものの、魔力の収束量

に不十分さを感じて真後ろに下がる。

　スバルが描く蒼光の道の軌道から外れると、ティアナは改めて短銃に魔力の収束

を行なっていった。

「敷かれたレールの上を走るだけじゃ、どう足掻いても私には勝てないわよ」

　例え肉眼で捉えきれない速さまで加速したとしても、ウイングロードという道が

作られている以上その速さが意味を為すことはない。

　蒼光が伸びてくる。

　光が何重もの螺旋を描いた後、ティアナの足元を通り過ぎていった。

　魔力収束を終えた短銃を握りなおすと、ティアナは蒼光の道に着地する。

「終わらせるわよ。クロスファントム」

　スバルを探す必要すらなかった。このまま正面に構え続けていれば、相手の方か

ら飛び込んできてくれるのだから。

　引き金に添える指先に力を込めかけた直後、

蒼光の道が五つに枝分かれした。

「……っ！」

　五つの道は上下左右あらゆる方向にジグザグな道を描いている。けれど、蒼光の

道全てがティアナに通じていることは変わらなかった。

「そんな奇策で！」

　予想外の光景に一瞬だけ面食らったものの、ティアナはすぐに冷静さを取り戻す。

幾ら道の数が増そうと敵は一人だけ。動く人の影を追えば、スバルを容易く捉える

ことが出来る。

　奇策に意表を付かれたティアナがそう結論付けるまでに所要した時間はコンマ

数秒。けれどその刹那の時間を用いて、スバルはティアナの魔法障壁に拳を叩きつ

けていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ！」

「ゼロ距離！？　けど！」

　スバルの拳が魔法障壁を打ち砕くより早く、ティアナのデバイスは形状の変化を

終えていた。身体の半身を覆う巨大な盾。

　盾に拳がめり込み、互いのデバイスが呼応し合う。強い輝きが生み出されていく。

「スターライトォォォ！」

　蒼と橙。二色の星の光が一つに重なり合い、

「「ブレイカーーーーーー！」」

　お互いを飲み込もうという勢いで前に押し進んでいった。

　師、高町なのはに教え込まれた大規模砲撃魔法。

　周囲に四散した微量な魔力粒子を収束、自分の魔法に上乗せして撃ち出すという

基本の形は同じでも、スバルとティアナが放つものにはそれぞれ、自分流に大きな

アレンジが付け加えられていた。

　二色の輝きが互角の勢いでぶつかり合っていく最中。楕円の形状をした盾に等間

隔の窪みが生み出されていった。正方形の形に窪んだ穴の一つ一つから、橙色の光

が撃ちだされていく。

　原理としては、シャワーと同じだろう。蛇口の先端に特殊な装置を取り付け、水

が広く拡散するような工夫を加えた。

「モードハモニカは盾じゃない。砲撃魔法をゼロ距離から放つための最強の矛。消

し飛びなさい、スバル！」

　橙色の砲撃が一点集中から一転、全身を撃ち貫こうと広がった事で、スバルの魔

法障壁が罅割れてしまう。

本来魔法障壁に送られているはずの魔力すら拳に集約させていたせいで、魔法障

壁の強度が薄くなっていたのだろう。

　橙色の光がスバルを飲み込み、高熱に当てられた全身が悲鳴を上げる。

　それでも、スバルの瞳は光を失ってはいなかった。蒼色の輝きが、拳から消えて

はいなかった。

「貫く……貫く……貫く！」

　スバルの進むべき道が、蒼色の光を放ち始める。鋼の拳と光の道の両方の蒼が共

鳴するように光り輝き、ティアナが構えていた盾からみしみしと軋むような音が上

がる。

　スバルの拳に填め込まれたデバイスから射出されたアンカー付きワイヤーは正

方形の穴の一つに入り込み、

「貫く、貫け！」

　盾を貫通する。

　一箇所でも穴が開けば、物質の硬度は途端に落ちてしまうもの。星の光を纏った

拳は流星に姿を変えて、燃え尽きることなくティアナにぶち当たる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ！」

　光を放つ隕石が、立ちはだかる障害を吹き飛ばしていった。

「……っ」

　激しい音と共にティアナが床に叩きつけられる。

　彼女が放っていた魔力光から、緩やかに光が失われていく。

「まだよ、スバル。こんな程度、こんなことで私は……」

　床に叩きつけられてなお、ティアナは諦めてはいなかった。

　全身が鉛のように重くなっていて、膝が笑っている。

　それでも、ティアナは何とか立ち上がろうとしていた。足取りがおぼつかなくと

も構わない。文字通り死に物狂いというような勢いで立ち上がろうとする。

「……っ！」

　けれどそれだけの気力があろうと、身体の方がついてきてはくれなかった。右膝

に重心をかけようとすると、すとんと力が抜け落ちる。

　右膝を床についた途端、身体中を鋭い痛みが駆け巡った。痛みを堪えきれず、テ

ィアナは表情を歪めてしまう。

「……私は」

　視界の先で、スバルが自分のことを見下ろしているのが見えた。

「まだ負けていない」

　渾身の力を込めて立ち上がろうとしたけれど、身体がどうしてもいうことを聞い

てくれない。

　次第に周囲の情景そのものが遠のいているように感じて、

　瞬間、ティアナの見ていた景色が一変した。

　遠くの方に銀色の天井が見える。誰かの膝が顔のすぐ近くにあって、自分の頬に

掌が当てられていた。どうやら、誰かに介抱されているらしい。

　相手の方に視線を傾けてみる。見慣れた顔立ちをした若い女性。

「スバ……」

「あ、まだ動かないように」

　思わず飛び上がりかけた身体を押さえられ、ティアナは冷静さを取り戻す。よく

よく女性の顔を見てみれば、彼女はスバルとは別の人物であった。

　顔立ちも声もスバルそっくりだけど、女性の髪は、スバルのそれよりもっとずっ

と長い。

「ギンガさん……？　どうしてここに」

める女性で、スバルの実姉でもある人物。

「レリィ三佐から非常召集を受けたのよ。セリム討伐部隊には精鋭魔導師を多く組

み込む予定だから、戦闘機人を所有する部隊長は彼女たちを引き連れて本局に集ま

るようにって」

ている。配属と言ってもなのはが倒れことによる緊急措置に過ぎないのだが、所有

しているという意味では変わらないだろう。

「と言っても、戦闘機人を精鋭部隊に組み込むというのはおそらく建前に過ぎない

でしょうね。レリィ三佐は疑り深い性格をしているから、戦闘機人の皆を手元に置

いて、監視体制を強化しておきたいんでしょう」

　そんな風にギンガが話を行なっていく中、遠くの方に見える天井を見つめながら、

ティアナは全く違うことを考えていた。

　相対していた魔導師。親友、スバル・ナカジマのことだ。

「あの、ギンガさん。スバルは……」

　ティアナが尋ねると、ギンガは収艦ドッグに続く道を指し示す。

「私たちとは入れ違いになったみたいで、ほんの少しだけ後ろ姿が見えたわ。ディ

エチとノーヴェに後を追うように伝えておいたから、心配はいらないはずよ」

「拘束する、ということですか」

　心配いらないと言う言葉が何を指しているかはわからないが、レリィ三佐の息が

掛かっているのなら、おおよそ、八神隊長たちの行動を止めることが目的だろう。

「ええ。あの子の意思を尊重したいところだけど、私たちが管理局組織に所属して

いる以上、目を瞑るわけにはいかないわ」

　ティアナには、ギンガの言葉が間違っているようには思えなかった。ギンガと気

持ちが同じだったからこそ、ティアナはスバルの前に立ちはだかったのだから。

「ギンガさんは、スバルや八神隊長の行動をどう思いますか？」　

「どう思うって、正しいか間違ってるかってこと？」

　ティアナが頷くと、ギンガは考えごとをするように目を伏せてしまう。やがてゆ

っくりと目を開き、

「あなた自身はどう思っているの？　スバルが取った行動を」

　そんな風に尋ね返してくる。

　こちらが質問したのに逆に尋ね返されるとは思っておらず、ティアナは言葉に詰

まってしまう。

「私は……」

　それでも何かを言わなければと思ったのだろう。痛みの残る頭を精一杯回転させ、

ティアナは思考を巡らしていった。

　スバルの行動を止めようとしていたのは本当のことだ。力の出し惜しみなどせず、

本気の本気で、骨の二、三本へし折っても構わないという思いで戦っていた。

　……なぜそこまで必死になっていたのかを考えてみる。

　そんなものは決まっている。次元全土の住まう人々のためにという大義名分を掲

げた場合、スバルたちの行動が手前勝手なものであることは明白だからだ。

　それなのに、自分はどうしてスバルを奮い立たせるような言葉を口にしたのか。

道を見失いかけていたスバルを叱咤し、向かうべき道を指し示したのか。

認めていた？　本当は、行かせてあげたいと思っていた？

違う、そうじゃない。スバルの気持ちがわからないわけじゃなかったけど、それ

でも、スバルの行動を認めていたわけじゃない。

『私とフェイトちゃんもね、一度だけ、本気と本気でぶつかり合ったことがあった

んだ』

六課時代に聞かされた言葉を、ティアナは不意に思い出してしまう。

ジュエルシードという宝石を巡りぶつかり合っていた二人の魔導師。成長した彼

女らはやがて教え子を持つようになった。

教え子たちもまた、互いに譲れないものを持つようになり……。

「勝敗なんてどうでもいい。お互いに、本気と本気でぶつかり合えるなら」

「うん？」

　知らぬうちに口元から零れ落ちていた言葉をギンガに聞かれてしまい、何でもな

い、とティアナは慌てて言葉を取り繕う。

「よいしょっ」

「あ、駄目よティアナ。まだ横になってないと」

　手の平を床について上体を起こそうとするティアナに向け、ギンガは安静にして

いるよう促していった。

「平気です。体力自体は回復していますから」

　真っ二つに砕けてしまった盾を手に取ると、ティアナはそれを待機状態、カード

の形状に変化させる。法衣服の胸ポケットにカードを戻し、収監ドッグに続く道に

視線を向かわせていった。

　私をぶっ飛ばしてでも行くべき道がある。

　そう決めたのなら、立ち止まったりするんじゃないわよ。

　あとがき

非常に長い話になってしまいましたが、何とかスバルＶＳティアナを書き終える

ことが出来ました。最近文章を上手く書くことが出来ず若干スランプ気味だったの

ですが、こうして２２話を終えることが出来、少しだけ安心しています。

　それでは、送って頂いた感想に返事を書かせていただきますね。

『このシリーズはある意味ありえたかもしれない話で、大変面白かったです』

　なんちゃって４期という言葉を使っている通り、ある意味でなのはの続編を意識

して書いている話なので、この感想、物凄く嬉しかったです。

ラが崩壊しないように気をつけていこうと思います。

（ただ、ルーテシアだけは黙認してください。まさか原作であんなはっちゃけた子