魔法少女リリカルなのは Lastremote

 

 

 Stage.21 Pray

 

 

「うわ、凄い揺れ」

 収艦ドッグに続く渡り廊下の途中。スバルは振動が起きるたびに廊下の上の

方を見上げながら、不思議そうに首を傾け続けていた。

「さっきから何なんだろう。地震ってことはないだろうし、どこかで工事でも

やってるのかな?」

 と、そんなことを考えていると、マッハキャリバーがアラーム音を鳴らして

いった。

「ん、時間になっちゃったか」

 自分がやってきた方向にちらりと目を向けて、しかしどこにも人影がないこ

とを確認すると、スバルは小さくため息をついてアラーム音を停止させる。

 通信回線に不備が生じているせいで連絡を取り合うことが出来ていないが、

はやてが言っていた出航時刻のことを考えると、そろそろリシテアの収艦され

ているドッグに向かった方がいいだろう。

「ティア、どうしちゃったのかな」

 呟いて、スバルは両足に取り付けられたローラーブレードを走らせていった。

セインの病室での一件以降顔をあわせる機会はなかったのだが、昨夜、ティア

ナから自分も収艦ドッグへ向かうとメールが送られてきたため、スバルは集合

時間、場所を指定したメールを返信しておいたのだが……。

「もう、行き先は同じなんだから一緒に行けばいいのに」

 平坦な光景が続く長い廊下。スバルの前方には、そんな道が何キロというレ

ベルで伸び続けていた。スバルのようにローラーブレードを用いれば移動する

のは容易いが、歩いて移動すればかなりの手間がかかってしまう距離だろう。

 自分と一緒のほうが絶対楽なのに。

 そんな風に考え、スバルは広い廊下にローラーブレードの走行音を響かせて

いった。

「それにしても、どうして八神隊長たちと連絡が――」

 通信不備の理由をスバルが考えかけた瞬間、耳をつんざくような凄まじい爆

音が廊下中に響き渡る。

「な、なにっ!?」

 予想すらしていなかった出来事にスバルは足を止め、慌てて周囲を見回して

いった。けれど灰色の壁がどこまでもどこまでも続いているだけで、爆音の原

因らしき物や人の姿はどこにも見当たらない。

「今の音。上の方からだったけど、演習場で誰かが戦ってたりするのかな」

 首を捻り、まあいいや、とスバルは収艦施設へ向かうことにする。何が起き

ているかはわからないが、一先ず、はやてたちとの合流を急いだほうがいいと

思ったからだ。

 と、廊下の向こう。大広間のような部屋の中心に、一人の女性が佇んでいた。

 訓練学校時代からの付き合い。機動六課に所属し、一年を共に過ごした唯一

無二の親友。

「ティア!」

 歓喜の声を上げてスバルが女性のことを呼ぶと、女性、ティアナ・ランスタ

ーはゆっくりと顔を上げていった

 彼女が着込んでいるのは黒色の法衣。執務官の証であることを示す、正義を

象徴する法衣である。

「もう、本当にどこに行ってたのさ。心配してたんだよ」

「…………」

 ティアナは何も答えない。

「うん? どうしたの。まあいいや、とにかく急ごう。八神隊長たちと早く合

流しないと」

 にっこりと微笑んでスバルがそう促すと、

「スバル。あんたや八神隊長たちの気持ちも、わからないわけじゃない。だけ

ど管理局の職員として、ううん、友達として……あんたのその行いを見過ごす

わけにはいかない。だから、」

 スバルには、ティアナが発しようとしている言葉の意味がわからなかった。

「これ以上、あんたを先に通すわけにはいかない」

 光のように輝く強い意志。ティアナの瞳からは、僅かの淀みすら感じる事が

できなかった。

「ティ、ティア? 何言って……」

「言っている意味がわからないかしら? あんたの好きにはさせないって、そ

う言っているつもりなんだけど」

 オレンジ色の宝玉を携えたカードをちらつかせ、ティアナはカードを回転さ

せていった。カードはティアナの半身を覆うほど巨大な、楕円型の盾へと形状

を変化させる。盾の中央には、上下を結ぶオレンジ色の薄い線が刻まれていた。

 親友であるスバルでさえ、ティアナのデバイス、クロスミラージュがそんな

形状に変化することなど知らなかった。

 だが、ある意味それは当然のことかもしれない。そのデバイスは、クロスミ

ラージュではなかったのだから。

「行くわよスバル。私とこのクロスファントムが、あんたを……倒す!」

 

 

「うわっと」

「ヴィータちゃん!?」

 演習場と演習場とを結ぶ長い廊下の途中。大きな振動が巻き起こり、体制を

崩したヴィータは床に転びそうになってしまっていた。

「だ、大丈夫ですか? やっぱり、もう少し休んでからの方が」

「心配いらねえよリィン。あたしの頑丈さを知らないわけじゃねえだろ。それ

よか、お前も早いとこ魔力を回復させておけ。はやてたちのところについたら、

もう一度ユニゾンしなきゃならねぇんだからな」

「……はいです」

 床に赤色の斑点模様を垂らしながら、ヴィータは皹の入った鉄槌を肩に担ぎ

なおしていく。

「……ランクS。シグナムと同レベルの魔導師四、五人が相手か。戦闘機人連

中やレリィって奴。ああ、それにザフィーラもいやがったな。あたしとシャマ

ル、はやてにキャロ。どう考えても戦力に差がありすぎるが……泣き言は言っ

てられねぇか」

「せめてシグナムやアギトが一緒に戦ってくれれば、少しは違うんですけど」

 リィンがぽつりと呟いた言葉に、ヴィータは一瞬だけ頷きそうになってしま

う。主を守るため、共に戦ってきた守護騎士たち。中でも守護騎士の長、シグ

ナムとは戦友と言っていいほどの関係を築いてきた。

 彼女が自分たちの応援に駆けつけてくれたらどれほど頼もしいことだろう。

けれど、

「……頼るわけにはいかねえよ」

 ヴィータはシグナムとは違う道を選んだ。異なるものを正義と定め、その道

を歩んでいくことを決めた。

「ここで泣きつくようなことをしたら、シグナムと戦った意味がない」

「……そうですね。変なことを言ってごめんなさいでした。行きましょうヴィ

ータちゃん」

 リィンとヴィータが決意を固めなおし、再び走り出そうとしたその瞬間、

「決意は立派だけど、その負傷じゃ八神二佐の足を引っ張るだけだね」

 二人の魔導師がヴィータたちの目の前に現れる。真っ白な上着に藍色のズボ

ンを履いた、仮面をつけた長身の魔導師たち。

「人手が足りないんだろ。猫の手でよければ貸してやるよ」

 そう言って、長身の魔導師たちは顔を覆っていた仮面を外していった。変身

の魔法が解け、茶色い耳が頭からぴんっと生えていった。

 お尻からは、細く長い尻尾が伸びている

 仮面の魔導師たちの名はリーゼロッテとリーゼアリア。猫を素体としたギ

ル・グレアム元提督の双子の使い魔であり、クロノ・ハラオウン提督の少年時

代の師匠である。

 加えて言えば、ヴィータたち守護騎士とは浅からぬ因縁を持っていて……。

「てめえら、闇の書事件のときの猫どもじゃねえか。てめえらがあたしに協力

って、どういう風の吹きまわしだ!」

「おーこわっ。落ち着けよ。敵じゃないって言ってるだろ。クロスケから頼ま

れたんだ。動くことが出来ない自分の代わりに、はやてたちの力になってやっ

て欲しいって」

「そ、それは凄く嬉しいです。ヴィータちゃんはこんな調子だし、私もほとん

ど魔力が回復してな……わぷっ」

 嬉しそうに声を上げかけたリィンの言葉を遮り、ヴィータはリーゼロッテた

ちを睨みつけていく。

「悪いがてめえらの事は信用できねえ。グレアム提督にははやてが時空管理局

に入局するとき世話になったし、てめえらが闇の書事件のときに取った行動の

理由も、わからないわけじゃねえ。それでも、はやてにやろうとしてた事が帳

消しになるわけじゃえねよ。第一、あたしら守護騎士は一度てめえらに消滅さ

せられてんだ。助けに来たなんて言われても、あっさり信用する事なんざ出来

ねえよ」

「それは……」

 鋭利な刃物のような言葉をぶつけられて、リーゼアリアは思わず口ごもって

しまう。そんな彼女に代わり、

「あんたの怒りは最もだ。だけど、私は今でもあの時点での自分の行動が間違

っていたとは思っていない。闇の書の防衛プログラムを破壊できたのはあくま

で結果論に過ぎないんだからね」

 リーゼロッテがはっきりとした口調でヴィータに言葉を返していった。

「過去のことは水に流して、なんて都合の言いことを言うつもりはない。だけ

どあたしらはクロノに八神二佐を助けてくれって頼まれたんだ。だからあんた

があたしらを信用しないって言うなら、あたしたちは二人だけで八神二佐を助

けに行く。うまくいくかどうかは、神のみぞ知るってところだけどね」

「……わからねえな。はやてを犠牲にしてでも闇の書を封印しようとしてた奴

らがなんで勝算も、メリットもねえのにはやてを助けようとするんだ?」

 リーゼロッテたちのことを睨みつけたまま、ヴィータは言葉を続けていった。

「管理局の指示ははやてやあたしらの拘束だろ。グレアム提督の、管理局の指

示最優先で動いてたてめえらのことだ。クロノに頼まれたなんて言って油断さ

せて、はやてたち共々あたしらを拘束しようとしてる可能性だってある」

「あんたを拘束するつもりなら最初からそうしてる。平常時ならともかく疲れ

きった今のあんたなら、あたしらの力でも拘束は難しくないはずだ」

利にかなったリーゼロッテの言葉を聞いても、それでも尚、ヴィータは彼女た

ちのことを信じきることが出来ないでいた。闇の書事件。十年前の記憶が今尚、

しこりのように心の奥底に根付き続けているのだろう。

「犠牲にしようとしたからだよ」

ヴィータが自分たちに抱いている誤解を解くため、リーゼアリアはぽつりと言

葉を口にする。

「父さまもあたしもロッテも、闇の書の封印を第一に考えてた。八神はやてを

『犠牲にしてでも』じゃない。八神はやてを『犠牲に』闇の書を封印しようと

してた。あんたが言ってた通り、父さまやあたしたちが今後どれだけ善行を重

ねたとしても、八神はやてに対する罪が消えるわけじゃない。だけど、だから

こそ八神はやてに恩返しをしてあげたいんだ。ただの自己満足に過ぎないとし

ても、あたしは、少しでも自分自身の罪を和らげてあげたいんだよ。だから頼

む。あたしらに、手伝わせてやくれないかい?」

十年もの長きに渡り彼女らの身体を蝕み続けていた罪の意識。

リーゼアリアやリーゼロッテ、グレアム提督。彼らは、八神はやてに対する贖

罪の機会を探し続けていた。

もちろん、今更何をしようとリーゼアリアたちの罪が無くなるわけではない。

リーゼアリア自身が言っているように、そんなものはただの自己満足だ。

「…………」

だとしても、例え自己満足だとしても、罪を償いたいと言ってくれていること

に変わりは無い。そんな人たちのことを突き放す? 幾ら十年前からの怨恨が

深くとも、所詮、十年も前の出来事なのだ。

それなのに、未だに当時のことを棚に上げて怨み続けるのか?

「ヴィータちゃん?」

ヴィータは何も答えなかった。リィンに顔を覗き込まれても、ただただ、考え

事を行ない続けていた。

やがてヴィータは結論を導き出す。過去の全てを清算するために。

「カートリッジが足りねえ」

「うん?」

「カートリッジが足りねえって言ったんだよ。今のあたしの魔力じゃ、Sラン

ク魔導師どころか戦闘機人連中にすら歯が立たねえ。てめえら、カートリッジ

の予備があったら全部あたしに渡せ」

 右手を差し出し、ヴィータは早くしろ、とリーゼロッテたちを急かしていっ

た。

「あいにく、私もアリアもカートリッジなんて使わないから予備は持ってない

よ。けどヴィータや八神二佐に渡すようにって、二、三本クロノから貰ってき

てる。そいつを全部渡すよ」

「上等だ。それじゃ行こうぜ。ロッテ、アリア。はやて救出作戦の開始だ!」

 

 

 

 

 時空管理局本局、第二演習場。

 破損した刀剣型のデバイスを鞘に収め、シグナムは壁にもたれかかりながら、

右の肩をぎゅっと押さえ込んでいた。シグナムの周りを、赤色の妖精がふわふ

わと漂い続けている。

「ブラスターモードの負担というのは、思っていた以上に激しいのだな。しば

らくはまともに動けそうにないか」

「まあ、姉御の仕事は終わってるわけだし、今はゆっくり休んでても問題ない

と思うぜ。ヴィータの方にはリーゼなんとかって使い魔が応援に行ってんだろ。

だったら、後の事はそいつらに任せりゃいいじゃねえか。クロノ提督の魔法の

師匠ってことは、二人とも相当強いんだろ」

「そうだな。十年前といえ、なのはやフェイトを上回る力を持っていたのだか

 

ら、実力のほどは相当のものだろう。だがSランクの魔導師とまともにやり合

うのは無理だろうな。よくも悪くも子供時代のなのはやフェイトを上回ってい

るというだけ。使い魔である以上、当時以上の成長が見込めるわけでもない」

「使い魔であるがゆえの限界って奴か。幾ら修行しても強くなることが出来な

いって言うのは、やっぱりちょっと可哀想な話だよな」

 魔導師が自身のサポートを行なわせるために作り出す存在、使い魔たちの実

力は使役する魔導師の魔力量に比例していく。熟練した魔導師が作り出した使

い魔は生まれながらに強い実力を備え持っているが、それ以上強くなることは

ない。使い魔の実力は『作り出された時点での魔導師の魔力』が反映されるた

め、その後術者の魔力がどれだけ増減しようと、使い魔に影響が及ぶようなこ

とはないのだ。

 とはいえ術者から送られてくる魔力が底をつけば使い魔は消滅してしまうの

だから、術者が魔力を失った、ともなれば話は別なのだが。

「他人事ではないさ。守護騎士という名を与えられているといえ、本質的な意

味では私やヴィータも使い魔と何ら変わらないのだからな。デバイスを強化す

ることで幾らか力が増しているといえ、私も、根本的には十年前とそれほど変

化しているわけではない」

「変わってねぇつっても、姉御やヴィータにはユニゾンって切り札があるじゃ

ねえか。使い魔って奴らもあたしらとユニゾンすりゃあ」

 声を荒立てるアギトに向けて、シグナムは言葉を言い聞かせてゆく。

「いや、残念ながらそれは無理だ。ユニゾンとは本来、魔導師の実力をほんの

少し向上させるための力。1.01.1にする程度のものだ。1.02.0という数

字に変えるには、私やヴィータのような特異存在でなければならない」

 シグナムやヴィータがSランクと呼ばれる実力を持つに至った最大の理由。

それこそがリィンフォースやアギトとの融合。すなわち、デバイスとのユニゾ

ンにあった。

生身の肉体ではユニゾンデバイスが持つ電子プログラムの情報データを読み

取ることが出来ないのだから、術者の代わりにデバイスが情報データを読み取

り、アギトの炎やリィンフォースの氷と言った、ユニゾンデバイスが持つ特性

のごく一部をデバイスに付加させる。

 ユニゾンデバイスとの融合とは、本来その程度の効果のはずなのだが……。

「確かに姉御との融合じゃ自分でも信じられないくらい力を引き出せてるけど、

あれは姉御が闇の書に作り出された防衛プログラムだからなんだよな」

 ユニゾンデバイスが持つ情報データを受け取る側も、ユニゾンデバイスと同

様電子プログラムの集合体であるならば、その力を、最大限に引き出す事が出

来る。

 けれど肉体を持つ電子プログラムが現実世界に存在しない以上、それはあく

まで理論上の話であった。

 しかし守護騎士ヴォルケンリッター。

 シグナムやヴィータたちの存在が、机上の理論を現実へと変えていった。

「データの集合体だからこそ、肉体という不純物に影響を受けることなく、ユ

ニゾンの力を百パーセント引き出すことが出来る。けど……」

「どうしたアギト。何かあるのか?」

「いや、シャマル先生が自分たちはプログラムから人間に変わり始めてるって

言ってたのを思い出して。それって、ユニゾンの力がどんどん失われていって

るってことだよな」

 相棒がプログラムから一人の人間に変っていく。アギトからすればそれはと

ても嬉しいことだ。だがシグナム本人としては、ユニゾンを行なうたびに力の

衰えを感じているものとしては、それをどのように受け止めているのだろう。

「気にするなアギト。私本人の力が衰えていくわけではない。私が力を付け直

せば今まで同様、いや、今までを上回る力を得られるかもしれないのだから、

それでいいではないか」

「……そっか。そうだよな」

 言って、アギトは頷いていった。

「って、そういやリィンたち本当に大丈夫かな。リーゼなんとかって使い魔た

ちと合流したって言っても、ヴィータもリィンも、怪我が治ったってわけじゃ

ないんだろ」

「正攻法に管理局魔導師たちとぶつかりあえば、ヴィータたちが勝つ確立はゼ

ロに近いだろうな。戦力に差がありすぎる」

「おいおい、それじゃあやっぱやべぇじゃないか。姉御は送り出してあげるつ

もりでも、管理局の奴らはマジで拘束するつもりなんだろ」

「危惧するべきはそこだろうな。理由はどうあれ、主はやてやヴィータが管理

局の命令に背いていることに変わりはない。非が主たちの側にある以上、私が

騒ぎ立てたところでどうする事もできん」

 小さなため息をついた後、シグナムは言葉を続けていった。

「だが時空管理局とて人でなしの集団ではない。このような状況に陥った以上、

彼ら一人一人の気持ちを信じるしかないだろうな」

「姉御と同じ想いの人がたくさんいるように祈れってことか? やれやれ。結

局最後は神頼みってことかよ」

 と、アギトは呆れたような表情を浮かべていた。

「信じるより他に道はない。今の私ではヴィータたちの足を引っ張るだけだろ

うし、何より、それでは管理局に対して申し訳が立たん」

「やれやれ。本当に大丈夫なのかね。ティアナはスバルを艦船のとこまで安全

に届けてくれそうなのに、肝心の八神二佐たちが足を引っ張らなきゃいいけど」

「ティアナか。レリィ三佐に呼び出された際、スバルを止めると言っていたが」

「心配しすぎだって姉御。あの二人、機動六課に所属する前からずっと一緒に

いたんだろ。そんだけ仲がいい奴らなら心配なんざいらねえって。執務官って

立場上一緒に行くことは出来ないだろうけど、ま、激励飛ばして見送って、そ

れで終わりだろうよ」

 アギトはそんな風に言ってくれているものの、シグナムは、どうしてもその

考えに同意することが出来なかった。

『スバル・ナカジマは私が止めます。だから、他の皆さんは絶対に手を出さな

いでください』

 レリィに呼ばれてはやてたち拘束の策を練っていた際、ティアナはそんな事

を口にしていた。アギトは何の心配もいらないと言っていたが、あれは、本当

に他の人たちを騙すための単なる嘘に過ぎなかったのだろうか。

 ひょっとしたら、ティアナの本心は……。

 

 

 

 

「スバル、いい加減にしないとあんた本当に死ぬわよ」

シグナムの不安は的中していた。

その形状からモードハモニカと名づけた楕円型の盾を構え、ティアナはスバル

に向けて嵐のような勢いで砲撃魔法を放ち続けていた。

ティアナの行動に手加減の色は全く見られず、その様子から、彼女が本当の

本当にスバルを叩き潰そうとしていることがわかった。

そんなティアナに対し、スバルはプロテクションの魔法を張り巡らせるだけ。

ただただ、砲撃魔法を耐え続けているだけであった。

「い、いい加減にするのはティアの方だよ。いったいどうしちゃったのさ。何

があったか知らないけど、私とティアが戦わなきゃいけない理由なんて――」

「あんた、本気でそう思ってんの」

ティアナの声は不気味なまでに落ち着いて感じられた。

そのあまりの静けさに気圧されそうになってしまうが、軽く頭を振って気持ち

を切り替えるとスバルはティアナに向け、言葉を返していった。

「本気でって、当たり前だよ。どうして親友同士で戦ったりしなきゃいけない

のさ。そんなことやる意味がないし、絶対に間違ってるよ!」

「親友同士。そうね、確かに私とあんたは親友同士だった。ううん、今でも親

友だと思ってる。照れくさかったからごまかしてばかりいたけど、本当は私も

あんたのことを親友だと、誰よりも気を許すことが出来る相手だと思ってる」

「そ、そう思ってるなら、そう思ってくれているんだったら」

「でもねスバル。親友だからこそ私は、あんたのことを止めなきゃいけないっ

ていう風に思ってる」

親友だからこそ。

そこに、管理局という組織の命令は存在しなかった。

「私と戦う理由がない。理由がわからない。スバル、あんたさっきそういう風

に言ってたわよね。理由がないなら、理由がわからないのなら、あんたはなん

でそこにいるの。みんなが、八神部隊長がそうするって決めたから、だからあ

んたもついていこうとしているの?」

「それは……」

言葉に詰まりかけていたスバルを前に、ティアナは小さくため息をついていた。

「まああんたの考えなんてどうでもいいわ。戦いたくないって言うなら、それ

はそれで構わない。何もせずこのまま倒れてくれるなら、それに越したことは

ないんだからね」

「…………」

ティアナと戦うよりは、そっちのほうがよっぽどいいかもしれない。そんな風

に考え、スバルは構えていた拳を下に降ろしていった。

そんなスバルの姿を見、ティアナは言う。

「また逃げるの?」

「……逃げる?」

ティアナの言葉に、スバルはほんの少しだけ反応を示す。

「スバル。あんた管理局襲撃事件のとき、敵に止めを刺そうとした私を止めよ

うとしたわよね。どうしてあんなことをしたの?」

瞬間、スバルの脳裏に襲撃事件の時の情景がフラッシュバックしていった。

ブラッドに止めを刺そうとしたティアナのことを、自分はどうして止めようと

したのか。

「……理由があると思ったから」

「理由?」

「うん。あんなにぼろぼろの身体で、それでも戦おうとする。何があのブラッ

ドって人をあそこまで駆り立てていたのか、理由を知りたいと思ったから」

ティアナは動じず、質問を投げかけていく。

「その質問の答えは、あの時にも伝えておいたわよね。たとえどんな理由があ

るにせよ管理局襲撃、テロを行ったことに変わりはないって」

「それでも、理由がなかったわけじゃないよ。何かやむをえない事情があった

かもしれないし、あの事件だって、やり方を間違えてたからってだけかもしれ

ない。もしそうだったとしたら、私は……あの人たちを助けてあげたいと思っ

てる」

「なのはさんたちを意識不明の状態に陥れた相手。時空管理局の本局そのもの

を壊そうとした人たち。そんな人たちのことを助けてあげたいなんて、ずいぶ

ん妙な事を言うのね」

「妙な事でもなんでもいいよ。私は、困っている人たちを助けてあげるために

時空管理局に入局したんだよ。時空管理局の敵とか味方とか、そんなの何の関

係もないよ」

いつの間にか、スバルは小さな笑みを浮かべ始めていた。

「ティアの言ってた通りだね。私はもう答えを見つけてたみたい。もう一度あ

の人たちに会う。そのために私は八神部隊長たちと一緒にいく。ううん、たと

え一人でも行くよ。それが私の答えだから」

拳を握りなおし、スバルは防御の姿勢を解いていった。

「ティア、そこを通してもらうよ」

「通してといわれて大人しく通すと思う? さっきも言ったでしょ、私はあん

たを止めるためにきたって」

IS振動破砕。インヒュレートスキルを起動し、スバルは魔力を練り上げてい

く。戦うための魔力を。

「ティアの方こそ何か勘違いしてるんじゃない? 私は通してもらうって言っ

たんだ。別にティアの意見を聞いたわけじゃないよ」

「……ずいぶんはっきり言ってくれるわね」

「うん。私は、もう自分を誤魔化さないって決めたから」

ホテル・アグスタ警護のときにユーノが言っていた、好きだと言っていた歌。

もう曲名すら思い出せないけれど、

「今は前だけ見ればいい。信じるものを信じればいい」

今になってスバルはやっと、ユーノが口にしていた言葉の意味がわかったよう

な気がした。

 

 

 

 

 

 

「「Pray!」

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 この作品のキャッチフレーズとして使っている『ただ、自分を貫くために』

という言葉はなのはstsの挿入歌。Prayを聞いているうちに考え付いたフレー

ズです。

 スバルVSティアナは、この作品で書きたかったシーンの一つなので、何と

かここまでたどり着くことが出来てほっとしています。

 それでは、感想が届いたようなのでお返事をさせてもらいますね。

小説面白かったです。今後も期待して待っています!

 ありがとうございます。物語的には折り返し地点を過ぎたところなので、後

半部分も期待に答えられるよう頑張ろうと思います。

感想>覚悟も篭っていない刃で切れる物など何もアリはしないんすよ。

 か、かっこいい……。

 東方の妖夢に通じるところがありますよね。切れぬものなどほとんどない。

みたいな。って、これだと一部の物は切れてしまうかw

 

 

20話以前に感想を贈ってくださっていた方々もありがとうございます。

 返事を返したほうがいいと思ってはいたのですが、どこで返事に返事を書け

ばいいかわからなかったんです;

 今後は、感想を送ってくださった皆様にはあとがき部分で返事をしていこう

と思います。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。