とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第二十三話







 真昼間の病院は騒がしく、患者が多い。

商売繁盛なのはいい事ではないのだが、中年や老人達の顔が男女合わせて出揃っている。

団体部屋や個室のある階上は静かだろうが、歩いていたらナースや医者に目をつけられる。

病院は娯楽施設は皆無なので、気分がてらに歩くのは楽しいものではない。

特に俺はほんの少し前まで、ここに厄介になっていた身。

我ながら恥ずかしくもないが、身勝手な振る舞いに病院連中に大層厄介になった。

お蔭様で見知った顔に出会っては、嫌な顔をされる。

どこぞのお医者様のお陰か、ナース連中には暖かい言葉をかけられるが。

そうして待ち時間の間、気ままに歩いて――



「やっぱり昼間にきた方が気持ちいいよな、此処は」



 ――病院の中庭へとやって来ていた。

入院中は剣も振れず、フィリスの監視によって運動も満足に出来なかった。

退屈な病院から出られない俺が唯一落ち着けた場所が、この暖かな自然の中だった。

病院の外に出ればフィリスに泣かれて、何故か罪悪感を味わう羽目になったからな。

理解し難い感情を、あいつからは本当に何度も味わされた。

怪我の診察以外での用事で来る事はないと思ってたんだが、あのコンビニめ・・・!

俺は無造作に整備された草むらに横たわって、空を見上げる。

気持ちのいい晴天。

眩しい太陽。

初春から本格的な春へ移り、太陽が昇る時間は気持ちの良い季節になった。

こうしてぼんやりとしていると、なかなか落ち着く。


――覚悟を決めるか、いい加減。


分かっている。

大人しく待合室にいられない理由――

シカトしたくても、俺は結局此処へ来てしまった。

その場逃れは男がするべき行動ではない。

こうして心地良い時間を過ごすのもいいが、その前にやるべき事があるのではないか。

賭けは賭け。

あんな小娘の約束でも、約束は約束だ。

誓いを踏み躙る剣士に、誇りなど抱ける筈がない。

――花見の誘い。

頼むから、こんな事を俺にやらせないで欲しい。

断られるとは思っていない。

よっぽどの理由がない限り、あいつは俺の誘いを断らないだろう。

それどころか喜んでくれそうで、うう・・・

苦手だ、本当に苦手だ。

――月村やあいつの笑顔を見ていると、何かこう落ち着かない。

桃子とは別種の、微笑みの魔力を感じる。

肌が泡立つというか、浮き足立ってしまうというか、背筋が震えてしまうのだ。

顔を合わせたくないな・・・

柔らかな草むらの上で、手足をバタバタさせる天下一。

・・・絵にもならない、みっともなさだ。

もう一度、空を見上げる。

群青色の空はどこまでも大きく、天空に掲げられた太陽はどこまでも眩しくて。

俺はその光に瞼をそっと閉じ・・・ん?


――瞳を刺す光。


地上を照らす陽光のみならず、空の遥か下に感じられる。

俺は視線をぐっと落とす。

中庭の向こうにある木々の狭間。

木漏れ日ではない奇妙な光が、水平に俺の瞳に刺し込んで来ている。


「――照明でもあるのか」


 こんな真昼間につけるライトなんて無駄な電力だろうに。

ばかばかしいとは思いつつ、俺は腰を上げて光へと向かう。


――奇妙な違和感。


頭の中で説明出来ないその光へ、俺は歩いていく。

草花をそっと避けて、芝生の上を歩き、患者を癒す為に手入れされた自然の林の中へ。

点だった光は強くなり、輝きは色を帯びる。

一点に導かれるかのように、俺は茂みを踏み荒らして近づいて。

自分の目を――


――疑った。



「おおおおおっ!! ほ、宝石が落ちてる!?」



――陽光に満たされた自然の世界に、ほのかに光る蒼い石・・・



滑らかな潤沢に潤う表面は傷一つなく、綺麗に輝いている。

俺は咄嗟に目を擦るが、夢でも幻でも無かった。

ガラスの破片とか、実はビー玉とかそういうオチでも無い。

単なる石ころに、この輝きは生み出せない。


「――うふふ・・・」


 左右を確認、誰もいない。

万が一を考えて木の上などを調べてみるが、人の目や監視カメラの類は無い。

誰もいない事を確認して、俺は即座に――拾った!

素早く掌の中にキャッチして、ポケットにしまう。


「ふっふっふ、あっはっはっは・・・やったぜっ!
いやー、やっぱ日頃の行いの賜物だねー。

我侭家族に付き合わされて酷い目にあっている俺に、神様からの粋なプレゼントを頂戴したぜ!」


 掌サイズの宝石。

その辺の宝石店に売っているケチな類とは比べ物にならない。

鑑定は出来ないが、売ればかなりの値打ち物に違いない。

病院の中庭に何で落ちてたのか知らんが、見つけた以上は俺の物。

誰が警察になんぞ届けるものか、あっはっは。

俺はポケットの中の手応えに、ほくそ笑む。

宝石類に興味は無いので分からないが、この大きさの青い宝石だと何に分類するのだろう・・・?

ま、高価な物には違いない。

売り捌けば、リッチな生活が約束される。

今度の今度こそ高町家から出て、快適な一人生活に戻るチャンス到来!

いやっほ−、神様最高!

神様なんぞ日頃これっぽちも信じていないが、今日だけは信じてやる。

俺はスキップしながら、病院へ戻ろうとすると、


"――危ない! それに触っては――!"


 頭の芯に響く透明な声。

足を止めた一瞬の俺の隙を許さず、がさっと横の茂みから飛び出して――!


「ふんっ」


 ――振り向きざまに払い落とす。

レンとの度重なる試合の賜物で、臨機応変な対応が出来る身体になっている。

フルスイングした俺の手の先に伝わる重い感触。

ギャっと悲鳴が響き、俺に向かってきた飛来物は木に激突して落ちた。

・・・折角良い気分だったってのに・・・

むかつく気分のまま、俺はその木の下へ視線を向ける。


「・・・げ、また生き物かよ・・・」


 イタチのような不気味な動物が痙攣しているのを、俺は生暖かい目で見つめた。





































































<続く>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る