とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 六十話



 ――ミッドチルダの魔法には、結界と呼ばれる異世界の技術がある。

サークルタイプとエリアタイプに分類され、結界魔導師と呼ばれる専門家はサークルタイプを駆使して戦うようだ。俺は全く素人なので、聞き齧った話ではあるが。

一方でエリアタイプはサークルタイプよりも上位の魔法で、訓練用の結界を作成することが多い。範囲が非常に広く、魔法戦や訓練が周囲に被害を与えたり目撃されたりしないように使われる。


さざなみ寮へ車を走らせると――俺はいつの間にか、車を降りていた。


「――えっ」

『何故こちらへ来たのだ、父よ。判断に悩んでしまったぞ』


 道路の真ん中に放り出されてキョトンとしていると、ディアーチェの強烈な念話が頭の中に響いた。

街中は喧騒で満たされていた。騒乱があちこちから聞こえており、混乱が周囲から湧き上がっている。

敢えて喧騒と表現したのは、戦場とは呼べなかったからだ。悲鳴は何一つ聞こえず、悲壮は見受ける素振りすら見せなかった。


戦いの気配はあるが、虐殺の類は一切起きていない。


『封時結界を展開している。
専門ではないが、父と平穏を過ごすにあたり体得しておいた。

聖王教会は歴史ある宗教組織であるだけに、魔導に関する書物も多い。聖地を統治する傍ら、学んでおいたのだ』

「……いつの間に、そんな勉強まで」


 封時結界とは、通常空間から特定の空間を切り取る結界魔法であるらしい。

この結界を展開すると、結界内に進入する魔法を持つ魔導師以外は結界内で発生していることは認識できず、進入することもできないとの事だった。

ジュエルシード事件でも味方のユーノや、敵側だったフェイト達が多用していた術式。魔法も知らなかった当時は、人の気配が一切なくて混乱させられたのを覚えている。


今となっては懐かしい思い出となっているのも、不思議だった。


「俺は車に乗っていたはずだが」

『こちらは戦闘が続いている。状況が把握できなかったので父のみ許可した』


 結界の目的は海鳴の住民に被害を与えない配慮であり、第三者に目撃されたりしないように気を配った結果である。

俺が乗る車が接近していることに気づいたディアーチェは状況が掴めず、一旦俺だけ結界内への進入を許可したらしい。

同乗していたのは妹さんと御剣いずみなのでディアーチェにとっては既知の存在だが、そこまで気は回らなかったようだ。実際、ディアーチェにさざなみ寮を任せていたからな。


万が一ホテルへ出向いた俺がマフィアに捕まって、車で運ばれている可能性を考慮してくれたのだろう。俺は取り急ぎ状況を説明した。


『爆弾の解除に成功し、卑劣な輩の脅迫を跳ね除けたのか。流石我が父、国際的大事件を見事に解決されている』

「他人の手を借りまくった結果だけどな……とりあえず妹さんが強硬手段に出る前に結界内へ入れてくれ」

『うむ、結界の起点を素早く割り出して破壊しようとしている。あれほど容易く見抜かれると、感心よりも戦慄してしまう』


 ――どうやら妹さんは俺の不在と結界の展開を状況から察知して、合流するべく強硬手段に出ようとしているようだ。

即時即決すぎて恐ろしさを感じさせるが、護衛と警護の立場からすれば当然だろう。結界を破壊されると元も子もないので、ディアーチェが許可を出す。

その瞬間道路に車が登場するという、マジックもびっくりな光景が目の前で起きて思わず仰天してしまう。本当にこの空間は隔離されているようだ。


車から降りると妹さんがすぐ駆けつけ、御剣いずみが目を白黒させて周囲を確認している。


「剣士さん、ご無事で何よりです。ディアーチェさんの結界ですね」

「……分かっていて破壊しようとしたのか」

「剣士さんの安否確認が第一です。御剣さんにはやむを得ず話しました」

「とりあえず納得するのはもう諦め、理解に留めました……」


 超能力に魔法と、今晩だけでファンタジー万歳な状況が続いているのだ。気苦労が絶えないのだろう、ジュエルシード事件での自分と比較して非常に共感できた。

ちなみにシルバーレイの奴は本当に隔離施設へ帰りやがった。これ以上厄介事に関わるのはごめんと、本当にさざなみ寮は放置しやがった。くそっ、俺だって本当は関わりたくないのに。

いずれにしても、さざなみ寮へディアーチェを派遣したのは英断だった。ホテルは爆破テロを未然に防げたので結界の必要はなかったが、こっちは既に騒ぎが起きてしまっている。


こちらに俺が先に来ていれば戦場と化すのを防げなかったし、ディーチェがホテルに行っても爆弾は解除できなかっただろう。ディアーチェに判断を委ねたのは正解だったな、我が子ながら見事な戦術である。


『こちらの状況を説明しよう。敵集団はワンボックスカーを指揮車として、さざなみ寮へ攻め込んでいる。
組織の手先で数を揃えて寮を包囲、能力者と実力者で叩く戦術だ』


 なるほど、ディアーチェが展開している結界の役目を組織の兵隊がこなそうとしていたのか。

周囲の被害を考慮したのではなく、被害の拡大によって警察などが介入してくるのを少しでも遅くしようとした。

ホテルの爆破騒ぎも脅迫だけではなく、さざなみ寮への注意をそらす陽動の意味もあったのだろう。


そうして逃げられないようにして、さざなみ寮を制圧するつもりだった。


『我は現在さざなみ寮の屋根の上にいる。寮の者達はリスティ殿を覗いて空間から隔離している』

「えっ、もしかして寮を空間から切り取っているのか」

『効果的であろう。封時結界で何が起ころうと被害が拡大することはない。
リスティ殿と那美の口添えもあって、寮の者達も大人しく従ってくれている』

「那美も協力してくれたのか……」


 神咲那美は聖地の動乱時、俺と一緒に聖地へ来てくれて退魔師の治癒能力を発揮して助けてくれた。

当時ディアーチェ達も合流して白旗として活動していたので、那美とディアーチェは知己の間柄である。

那美の優しい一面は母親知らずのディアーチェ達には心地よかったのか、随分と親しくなっていたのを覚えている。


那美は魔法の事も俺と同じくらい知っているので、寮の人達にもうまく説明してくれたのだろう。退魔師の事は寮の面々も知っているようだからな。


「能力者というのは、もしかしてシルバーレイと同じく?」

『――クローン兵士だ。あまり気分のいいものではないが、力を持っている。
敢えて兵士と表現したのは父が懐柔したあの女とは違って、こいつらは感情面の起伏が薄く組織の命令のみで動いている。

その分というのも変だが、力自体も弱い。戦闘面に特化というよりも、戦闘を行う事そのものを目的とした兵隊だな』

「……シルバーレイが言っていた失敗作とやらか、厄介だな」


 俺を捕まえたマフィア達はシルバーレイを兵士と言っていたが、現場での権限をある程度与えられていた所を見ると成功作ではあったのだろう。

俺が名前を与えたら思いっきり個性を出しまくっていやがるが、裏切らせる前は一応組織には従っていた。超能力も強く、応用の効く力を発揮していた。

あいつのようなクローンが何人もいるとは思えない。成功しているのであれば、もっと幅を利かせているはずだ。人間のクローンそのものだって難しいのだから。


多分クローンによる製造に失敗した場合、こうした流用を行っているのだろう。要するに、使い捨ての道具なのだ。


「そいつらにはどう対応したんだ」

『説得は不可能と判断した。有無を言わさず、バインドで捕縛している。官憲に突き出せばいいだろう。
我は能力者達の相手と寮の安全、周囲の警戒を徹底している。

被害を出さないように尽くしているので、父は攻勢に出てほしい』

「分かった、こちらは任せろ」


 ディアーチェがいればこのままでも解決しそうだが、戦いはまだ続いている。フィアッセ達も不安だろうし、解決に望むのがいいだろう。

司令塔であるワンボックスカーの制圧と、恐らくディード達が相手している実力者をどうにかしなければいけない。


ならば――


「一応言っておきますが、二手に分かれるのは認められませんよ」

「ぐっ、見破られた」


 妹さんにワンボックスカーの特定をお願いして、警備チームに制圧を頼もうと思った矢先に止められる。

安易な判断だと、先立って釘を差されてしまった。何が何でも俺に単独行動させないつもりらしい。


ものすごく正しいだけに、今まで自分がどれだけ迂闊に行動したのか思い知らされる。














<続く>








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