とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第二十一話







 一波乱も二波乱もあった一日。

綺堂に送ってもらい、高町家へ戻ったのは午後六時すぎ。

俺に場所取りを命じたお気楽な大人達も帰って来ており、夕御飯となった。

お昼はうどんしか食べていない上に、心労も重なって御飯が美味しくて仕方ない。

報告を待ちわびている者達を尻目に、まずは食べる。

食欲を満たした所で、俺は今日一日の成果を話した。

――桃子とフィアッセは案の定大喜び。

これで花見に行けると、喜色満面で当日の段取りを家族と楽しそうに話していた。

俺の苦労も知らずに、呑気な連中である。

感激に満ちた熱烈な感謝はされたが、形ある報酬は出ないので嬉しくない。

他人を喜ばせて満足出来るような性格ではないのだ、俺は。

正当な労働の代価を頂きたいが、


「本当にありがとう、良介君。桃子さん、大感謝!」

「一生懸命頑張ってくれたんだよね、リョウスケ。もう大好き!」


 次の休みへの計画立案に華を咲かせる桃子とフィアッセ。

高町兄妹はそんな二人を恥ずかしそうに見ながらも、騒がしくなった食卓の雰囲気を楽しんでいる。

レンや城島はお花見に出す料理の献立に、何やらもめている。

平和な一家である。

…ま、いいか。

何となく金をせびるのも面倒臭くなり、レンに空になったお椀を突き出す。

頑張ってくれたサービスとかで、大盛りでよそってくれた御飯を食べる。

炊き立ての御飯はやはり美味い。

コンビニの冷たいオニギリや、賞味期限が過ぎた弁当類とは別物だ。

温かい御飯、美味しいオカズ、新鮮な飲み物。

賑やかな夕餉の景色。

――俺には無縁だった家族の風景。

昼間も思ったが・・・俺はきちんと戻れるのだろうか?

一人だった数ヶ月前に。

今はただ寄り道しているだけ。

こいつ等に付き合ってやっているだけだ。

自覚はしておかねばいけない。

温かさに慣れてしまうと、冷たい孤独へ戻れなくなる。

剣を手に、一人で戦い続けると決めた道を歩く為に。

戦いに無縁なこの国で生きていくには、あまりにはみ出している人生。

不満など無い。

自分で決めた生き方なのだから。

この楽しげな目の前に、流されてはいけない。

今日は本当に、自分らしくない行動が目立った。

月村は頼まれてだが、神咲達は俺が自主的に誘ってしまった。

冷静に振り返れば、恥ずかしくて腹でも切りたい気分だ。

今日で終わりにしよう。

こいつらに出会う前の自分に戻り、自分の人生を見つめ直さねば。


「――おにーちゃん、どうしたんですか」

「あん? 何がだよ」

「元気が無いみたいだから…」


 隣に座るなのはが、心配そうに俺を見ている。

考えるのに熱中して気付かなかったが、なのはは箸を置いて俺を覗き込んでいた。

かなり長い時間悩んでいたらしい。

ガキに心配される謂れは無いが、このガキは無視してもめげない。

大人顔負けの頑固者なのだ。

剣術には無縁だが、内面の強さは血筋らしい。

やれやれである。


「お前には関係ないだろ。さっさと食え。話しかけんな」


 よし、クールな回答だ。

近頃他人を甘やかしている気がするので、この辺でびしっと言っておかねば。

なのはの奴も最初は敬語だったくせに、近頃甘えた口調になっているからな。

俺様が教育せねばなるまい。

桃子やフィアッセのように、お人好しの天然思考な大人になられても困る。

一刀両断して、軟弱な精神を叩き切る。

周囲の連中は気付いた様子も無く、団欒に身を浸している。

なのはもこれで話しかけてくる事は無いだろう――

…。

…お、おいおい、何で居心地が悪くなる?

微妙な空気――座りの悪さが発生している状況に、俺は困惑する。

なのはが傷つこうがどうしようか、別に関係ないだろ。

ガキに好かれたって嬉しくない。

泣こうが喚こうが、怒鳴るか無視すればいいんだから。

なのはには嫌われた方が、逆に面倒が無くてすむかもしれない。

少なくとも、なのはと二人で留守番なんて展開はもうなくなるだろうから。


…。


…、反応を窺ってみる。

――静かに御飯を食べているなのは。

表面上何とも無いようだが――俺を見ようとしない。

目を合わせない様に意識しているのだろう。

変にそわそわしており、目も伏し目がちだった。

落ち込んでいるのが手に取るように分かり、隠し事の出来ないガキだとつくづく思う。

暗く沈んでいる子供が隣に居るだけ――飯に気持ちの悪さを感じる。

変化なんてあるわけが無いのに、口に入れると舌に苦味が広がる。

くっそ…ウジウジと人様の隣に座りやがっ――


…なんで、いつも隣に座ってるんだこいつ?

食卓は確かに毎回皆ある程度似通った位置に座るが、一定ではない。

何しろ俺が気分でバラバラに座るのだ。

自己主張しないこいつ等は俺に譲ってくれて、他の席に座る。

なのに、なのははいつだって俺の隣に率先して座り、ご飯中も話しかけてくる。

何でだ…?

こいつの、俺へのこだわりは何なんだ…


…高町 なのは。


もし俺に家族がいたとして――


「…歩き回って疲れただけだ。心配しなくても平気だよ」

「…」

「覚悟してろよ。飯食い終わったら、リターンマッチだ。
今度はキャラを変えて、お前にチャレンジしてやる」


 ――俺が何を言っているのか、分かったのだろう。

明るい顔をしてしきりに頷いて、俺にゲームの話題をふってくる。

ま、手のかかる妹が一匹いると思えばいいだろ。


花見が終わるまで――自分にそう言い聞かせて、ようやく大変な一日が終わった。






































































<続く>







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