とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第十八話




 病院内での捜査が行われている中、俺はリスティに昨晩聞き出した夜の一族からの情報を共有した。

ここ一年集団行動が続いていただけに、こういった情報共有や状況報告をする事が上手くなっている。我ながら要点を伝えるのが自然に出来ていた。

他人との関係を面倒がる性格がこの点についてはプラスに働いている。何度も聞き返されるのが嫌なので、相手に理解してもらえるように説明できるようになっていた。


俺から話をすべて聞いたリスティは苛立ちを露わに煙草を取り出したが、手元が震えているのを察して余計に舌打ちする。


「くそっ、甘く考えていたボクの責任だ。昨日お前と話した時点で連携を取るべきだった」

「まだこの件とフィリスの失踪が絡んでいるか分からない」

「話を聞く限りだと無関係には思えないだろう。狙うならボクを狙えばいいものを――痛っ!?」


 苛々しながらタバコに火をつけようとするリスティの髪を、無造作に引っ張った。

本当なら頬でも引っ叩いてやりたかったが、身内を心配する女を殴るのは躊躇してしまう。

女性への優しさなどではない、単なるくだらない感傷だ。他人を傷つけることを望まないフィリスへの、せめてもの義理だった。


だが男のセンチメンタリズムなど、女には通じない。髪を押さえながら、リスティは俺の襟首を掴んだ。


「いきなり何するんだ、冗談が通じる心境じゃないぞ!」

「もしもお前が襲われていたら、たとえ返り討ちに出来たってフィリスは心配するだろう。
お前こそつまらないことを言うな」

「っ……悪かったよ。ちぇっ、なんか男らしくなりやがったな」


 俺の指摘を受けてハッとした彼女はバツが悪そうに、火をつけていない煙草を投げ捨てた。おい、病院前で投げ煙草はやめろよ。

ちなみに俺は一年前まで浮浪者のチンピラだったが、喫煙の習慣はなかった。男であればガキの頃一度は興味を持つであろう煙草は、好きではなかったのだ。

孤児院時代母親気取りだったあの女の影響もあったが、金もかかる大人の嗜好品は手出しできなかった。孤児院を出た後も拾い煙草など出来なくはなかったが、何がいいのか分からなくて手を出さなかった。


自分でもはしたないと分かったのか、リスティは恥ずかしそうに煙草を拾って灰皿へ入れた。ちょっと可愛かった。


「ふう……お前の話が事実なら、HGS患者と超能力に関する知識が狙われているのは間違いない。
フィアッセに脅迫状が届いているが、だからといってあいつだけを狙うとは限らなかった。

そう考えると、フィアッセに送られた脅迫状自体は囮だった可能性もある」

「囮……?」


「ああ、フィアッセやクリステラのご両親を標的にしていると注目させておいて、他のHGS患者を狙う手だ。
チャイニーズマフィアの龍は追い詰められている分、実に慎重に行動している。少なくともボクが住んでいるこの街で、連中の影は見えていない。

病院を今調べさせているが、荒らされた形跡はなさそうだからな……だからこそフィリスへの事件性が見いだせなくて困っているんだが」


 なるほど、その点は考慮できていなかった。

俺もフィアッセに脅迫状が届いていたから、あいつを中心に物事を考えて行動していた。フィアッセが狙われているのだから、彼女を第一に考えて行動するべきだと。

だがカレン達の話では、チャイニーズマフィアの狙いはHGSも含まれている。クリステラのチャリティー活動を目障りには思っているだろうが、第一目的かどうかは不明だった。


夜の一族はあくまでもチャイニーズマフィアの殲滅と俺の安全を目的としているから、誰が標的なのかどうでもいいのだろう。だから話の主軸をフィアッセとしていなかった。


「HGS患者を狙うのは超能力が目的か。戦力にするべく患者たちを攫っている?」

「教育が通じるのはあくまで製造時の状態ではあるが、洗脳工作であれば成人した患者でも通じる可能性はある。
気を悪くしないで聞いてもらいたいが、最悪フィリスがさらわれて洗脳された場合は――敵に取り込まれてしまうかもしれない」

「なんだと!?」


 成人した女性を洗脳するなんて簡単なことではないと思うが、リスティの表情は優れなかった。心から心配しているのだろう。

拷問で言うことを聞かせるとか、催眠などの洗脳で操り人形とするのか。いずれにしても、クソッタレな想像でしか出来そうになかった。

フィリスめ、他人の心配ばかりしやがるくせに、心配なんぞかけるんじゃねえよ。くそっ、日頃は過干渉なあいつの優しさをこの時ばかりは求めてしまう。


まだあくまでも可能性ではある、攫われたのだと決まった訳ではない。だが少なくとも、今日から行動方針は改めなければならない。


「フィリスが攫われたのだと仮定しよう。
今まであいつの過去に関わるので聞けなかったが、HGS患者であるフィリスも超能力が使えるのか」


「……そうだな、少なくとも今のお前なら信頼して打ち明けられる。答えはイエスだ。

フィリスは転送能力――自分以外のものを転送する「トランスポート」が使える」


「転送能力……応用こそ出来るが戦闘に直接起因する超能力ではないのか」

「戦闘能力はボクが一番高い、適性もあったからな。
後は物体を引き寄せるアポートが可能なんだが、フィリスはごく微細なものしか扱えない。

その分あいつは知力がボク達の中で一番高くて、独立後に医者兼研究者になれたのもフィリスの特質ゆえだ」


 超能力と聞けば剣士である俺はついつい戦闘能力に結びつけてしまうが、確かに超能力は多岐に渡る力を持っている。

まあ科学技術のように世の中に出回っている訳ではないので、ガセネタも含めるとどこまで本当なのか分からないが、テレキネシスやテレポートといった力は俺でも聞いたことがある。

フィリスは物体を操る能力を持っているが、際立ってはいない。戦闘には結び付けられず、それこそスプーン曲げのような日常を驚かされるくらいしか出来ないのだという。


だが、誘拐する価値はないと決めつけるのは暴論だろう。物体を動かせる力が弱くても、研究次第で化けるかもしれないからだ。


「お前が一番戦闘能力が高いのであれば、狙われる危険性は高い。
返り討ちにする意気込みは大いに結構だが、相手がチャイニーズマフィアなら個人で動くのは危険だ。

今後は俺達と協力して動こう」

「……連携するのはかまわないが、ボクが今住んでいるさざなみ寮を出る事はできない」

「おい、チャイニーズマフィアが律儀にお前だけを狙ってくれると思うのか。ドイツの地では爆破テロを起こしたんだぞ」


 今でも思い出す。ガキが遊んでいたサッカーボールをクリスチーナの命令で奪おうとした時、ボールが街中で爆発したのである。

幸いにも死人こそ出なかったが、街中で撃ち合いになって俺は大怪我を負ってしまった。その時クリスチーナを守った事もあって、あの子に懐かれた経緯がある。

今にして思うとあそこで見捨てていればロシアンマフィアと縁が切れたかもしれないが、何故か律儀に守ったせいで今日まで続く関係となってしまった。


ロシアンマフィアを掌握したディアーナとクリスチーナの姉妹を思うとゲンナリするが、とりあえずマフィアは危険だと忠告する。


「分かってる。だが状況を理解した以上は、さざなみ寮を出る訳にはいかない。
お前を信じて打ち上げるが、ボク以外にも狙われそうな奴がいるんだ」

「HGS患者がお前以外にもさざなみ寮にはいるのか」

「悪いが、言えるのはここまでだ。これでもかなりギリギリの線で打ち明けている。
少なくともお前個人と深く繋がった関係の人間じゃない。ボクが知っている限りだけど、お前とあの子が接したことはなかったはずだ」

「まあ、さざなみ寮は那美の事以外ではいかなかったからな……」


 そういえば、神咲那美と久遠は元気にしているだろうか。

あいつは確か春先に一度故郷へ帰る話をしていた。俺も機会があれば招きたいと言ってくれていたが、それどころではなくなりつつある。

那美はミッドチルダの聖地に出向いて休学していたので、今は勉強に励んでいる時期だ。進級が決まるまで余計な心配はかけられない。


全て落ち着いたら、改めて挨拶するとしよう。


「分かった。無理強いは出来ないが、気をつけろよ。少なくともさざなみ寮が襲われたら、真っ先に知らせろ。
俺も詳しくは言えないんだが、あのディアーチェ達はチャイニーズマフィア相手でも戦えるほど強い」

「へえ、頼もしいじゃないか。大いに頼らせてもらうが、いいのか」

「いいって、何がだ。遠慮しなくていいぞ」


「那美にバレるぞ。お前がよそで子供作ってるって」

「ニヤニヤしながら何いってんだ!?」


 一瞬焦ったが、よく考えてみれば那美は白旗で活動していたのだからディアーチェ達を知っている。むしろ一瞬焦ってしまった自分が情けなかった。

とりあえず情報交換は終わり、状況の更新は行えた。フィアッセのみならず、HGS患者が狙われているのであれば、相当厄介な事態となる。

その後リスティは病院の捜査へ戻り、俺はフィアッセの安否確認と今後について話すべく、それぞれ連携して対処に取り掛かった。


だが、俺は甘かった。



――この日の夜、海外で国際ニュースが伝えられた。














<続く>








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