とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十八話







 恭也と月村に加えて、レンと晶も食堂へやって来た。

レンは大よその事情を掴んでおり、晶に説明して連れて来た様だ。

きちんと話さなければいけないのかと思うと面倒だが、レンには借りがある。

せめて説明はしないと、今後俺の挑戦をシカトするだろう。

まだ一度も完全な勝利を手に入れていない以上、それは大いに困る。

花見の場所に関してはこの場にいる全員に関わりがあるので、どの道丁度良かったかもしれない。

他にも生徒の連中が続々と入って来たので、俺達は目立たない場所へ移動。

それぞれ個人で昼御飯を注文し、腰を落ち着けて話をする事となった。

――その前に。


「――お前、それだけで足りるのか?」

「ん? んー」


 気のない返事をして、月村はお昼御飯を食す。

トマトジュース。

俺の奢りで飲み物を注文したくせに、昼御飯用に別に一本買ったようだ。

栄養価は高いかもしれんが腹に全く溜まらんだろ、それ。


「侍君こそ、うどんだけで足りるの?」


 足りる筈がない。

話している内に冷え切った残りの麺を豪快に食べて、俺は水を飲む。

麺類は消化が早いので、直ぐにお腹が空きそうだ。

食欲が満たされない胃を擦って、俺は素っ気無く言ってやった。


「俺はこれでいいの。奢って貰ったから」

「…」


 月村は神咲に視線を移すと、俺のスポンサーは苦笑して小さく頭を下げる。

余計な事を口にしないだけ、彼女の礼儀正しさが伺える。

俺の財布事情は月村も知っているが、あまり話題に上げて欲しくはない。

月村はしばし神咲を見つめていたが、

「…そうなんだ…よかったね。
私なんて侍君に奢らせちゃったし――」

「――はぁ? 奢れって言ったのはお前だろ」

「うん…」


 …さっきから何なんだ、この女?

らしくない態度の連発だぞ、おい。

関係のない人間にはクールに、親しい人間には素直な感情を見せる女。

マイペースで、たまに甘え上手な月村は何処に行ったんだ。

ノリの悪さが目立って絡み辛い。

一発ぶん殴れば機能回復するかもしれないが、余計壊れてしまったらやばい。

――などと考えつつ見ていると、月村は不意に俺を見て顔を赤くして手を振る。


「別に、不満があるわけじゃないから。うん、美味しいなー」


 明らかに作り笑いを浮かべて、トマトジュースを飲む。

一心に飲む姿はなかなか可愛げがあるが、変な違和感がつきまとう。

他の皆も俺達の空気を感じてか、怪訝な顔をしている。

変に聞かれるのも嫌なので、俺は月村を一時放置して全員を見渡して宣言する。


「さて諸君、耳寄りなニュースだ。

――花見の場所が決まったぞ」

「何っ?」

「ほんまか!?」


 ナイスリアクションだ、お前ら。

俺様の熱い宣言に、恭也とレンが目を剥く。

ふ、この瞬間を俺は待っていた。


「真の男に二言はない! ばっちりいい場所を取ってやったぜ。
感謝しろよ、お前ら。
お前らの我侭な頼みに、今日必死で探し回ったんだからな」

「す、凄いっすよ!
たった半日でもう見つけてくるなんて…
俺達なんて、絶対に見つからないって諦めてたのに」


 晶の尊敬の眼差しに、俺の気苦労が晴れる。

そうそう、苦労は報われなければいけない。

桃子達の勝手な要求のお陰で、こっちは本当に大変だったんだ。

感謝の一つや二つでは足りない。


「よう見つけられたな…毎年何処もいっぱいやのに…」

「どこも前日から行かないと駄目だって、私も聞いたことがあります」


 ――そんな激戦地に俺を突撃させるつもりだったのか、お前ら。

桃子やフィアッセの能天気な笑顔を思い出し、俺は腸が煮えくり返った。

あいつら、後でたっぷり文句言ってやる。

レンと神咲の話に、俺は改めて今回の仕事の難航さを知った。


「しかし――何処を確保したんだ?
花見の日に、確実に座れる所でないと駄目だぞ。
何処でも今からでは…」

「ちゃんと桜が見れる場所やで?
トイレとかコンビニの隣とかやったら、許さんで」


 恭也の心配とレンの不信。

人の頑張りを素直に受け入れられないとは、哀れな者達だ。

仕方ない、しかと聞け。

お前ら庶民には到底理解出来ない世界があるのだという事を。


「ふ、俺様に抜かりはない。
聞いて驚け。何と――私有地だ。
町を見渡せる小高い山の上に、満開の桜が咲いているんだ。
俺達だけの貸し切りだぞ」


 これほどの絶好地があるだろうか!

実際に見てみた事はないが、綺堂は信用出来る。

月村も誘ったし、条件はちゃんと満たしたのだ。

あいつが俺に嘘をつくメリットはない。


「私有地!? どうしてそんな場所を借りれたんだ?」

「俺の人脈ってやつだよ、ふはははは。
金持ちに知り合いが居てな、そいつに話をしたら場所を提供してくれるんだとよ。
まだ見に行ってないけど、まず大丈夫だ。

――花見に行けるぞ!」


 一同は互いを見渡して――歓声を上げた。

信憑性の高い話だと、ようやく信じてくれたのだろう。

普段物静かな恭也も嬉しそうな顔を見せて、


「ありがとう、宮本。母さんもきっと喜ぶ」

「助かったわ、ほんま…あんたもやる時はやるんやな」

「あー、早く教えてあげたいな…」


 お花見が正式に実現可能になりそうで、喜び合う高町家の面々。

桃子やなのはに伝えれば、きっと同様に喜ぶだろう。

人助けや頼まれ事が嫌いな俺だが――


――少しはやってよかった、と思える。


神咲も皆の明るい顔に触発されてか、喜びを共有している。

ただ一人――


「ねえ、侍君」

「何だよ」

「さくらでしょ、侍君に場所を提供したの」

「ぐ…」


 鋭い女である。

広大な私有地をこの町で持っているのは、月村の家系だけだからかもしれないが。

金持ちの繋がりなんて知らないので、俺としては憶測でしか判断出来ない。


「侍君が頼んだの…さくらに?」

「――いや、たまたま会って話したら提供してくれたんだ。
大体、俺とあの人に直接の繋がりなんてないだろ。

最初から頼むつもりならまずお前に頼むよ、俺は」

「え…そ、それって…

私を、頼りにしてるって事?」

「ああ」


 ――正確には、お前の財力に。

説明が面倒なので省くが。


「そ、そっか…

なんだ…最初から相談してくれればいいのに!
私と侍君の仲だもん、遠慮なんていらないから」

「? …ああ」


 急に元気になりやがった…変な奴。

途端に機嫌が良くなった月村に、俺は呆れて頬杖を突いた。

とりあえず、学校の用件はこれで終わり…なのだが。



さっきから何かを――誰かを忘れている気がする。
 




































































<続く>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る