とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七話




 リスティと情報交換をして食事を終えた俺はその足で海鳴大学病院へと向かった。

初日の調査で思いがけない情報を手に入れられたが、同時に事件の規模の大きさを思い知って今から疲れてきている。下手すると、また大事件に発展しそうな案件である。

今までは過剰戦力投入でどうにでもなったが、生憎と今回は主戦力の大半をエルトリア開拓に注力してしまっている。限られた戦力でカバーする必要があり、頭が痛かった。


ユーリ達に連絡すれば大急ぎで駆けつけてくれそうだが、心配かけるだけなのでやめておいた。エルトリア案件もまだまだ途中だしな。


「おかえりなさい、良介さん。元気そうで良かったです。では、ベットに横になってください」

「再会の余韻が一切ない!?」

「良介さんが元気ですとそれはそれで不安なので、診断させてもらいます」

「全然信用してないじゃないか!?」


 フィリス・矢沢先生の専門は、カウンセリングおよび遺伝子学。整体の名手であり、医師資格も持っている。再会した瞬間からにこやかに微笑まれて、ベットに誘われてしまった。

リスティによると、今回の脅迫事件はフィアッセの出自が原因の可能性もあるという事。コンサート関連のテロ方面は警察民間協力者のリスティが調べる事になったので、俺はこっち方面を当たる事になった。

海鳴大学病院に赴任しているフィリスは、フィアッセの担当医である。現在は怪我の治療のため恭也や美由希の整体も担当しているので、俺も含めて高町家全員の主治医となっているようだ。


整体を通じて身体を調べられると、フィリスは首を傾げた。


「良介さん、この数ヶ月大きな戦いは行っていないようですね」

「身体は訛っているかな」

「いえ、むしろ余計な緊張が抜けて良い仕上がり具合になっています。負担の連続でしたので、良い骨休めになったのではありませんか」


 剣士としてどうかと思うが、日々の鍛錬を除けばここ数ヶ月大きな戦いは行っていない。衛星兵器とは戦ったが、大怪我するほどではなかったからな。

むしろそれ以前が異常だったと言い切れる。海外に行けば武装テロに襲われ、異世界へ行けば戦乱に遭うし、散々な目にあった。

実践から離れると剣が鈍るかもしれないが、ユーリ達の生命強化によって生まれ変わった俺の身体はエネルギーに満ちている。それも良い方向に働いているのだろう。


特に俺の身を案じているフィリスにとっては朗報だったようだ。とても機嫌が良く、俺の身体をメンテナンスしてくれた。


「帰郷してすぐに私を訪ねて下さったのは、非常に良いことです。これからもこれくらい素直な姿勢でいてくださいね」

「うーむ、何か子供相手にされているような感覚があるぞ」

「良介さんの場合、大人げないというべきです」


 駄目ですよ、とフィリスは唇を尖らせる。これまでの態度が悪かったので、少し成長してもこうして窘められる。

それでも大好物のココアを入れて俺に温かく差し出してくれたのは、機嫌の良い証拠だろう。変に反抗したりセず、護衛の妹さんと一緒に受け取って飲んだ。

海鳴を留守にしていた近況を聞かれて、とりあえずフィリスには簡単に事情を説明しておいた。異星の開拓をしていたなんて突拍子もない話を、ご近所の噂のように素直に聞いてくれるこいつは大物だと思う。


その延長で、帰郷した経緯についても話すことが出来た。


「フィアッセが脅迫されている!? 初めて聞きましたよ!」

「俺が帰ってきたら事件解決と、高を括ってたぞあいつ」

「だから私には話さなかったんですね、全くもう……リスティには説明しました?」

「あいつには先程会って話しておいた。愉快犯だとしても警察案件だからな」

「ふむふむ、良介さん本人がいきなり乗り出した訳ではないのですね。安心しました」


「俺はそこまで暇じゃないぞ」

「警察に相談せず通り魔事件で鎖骨を折られたのは一年前の話ですよ」

「グハッ!?」


 そういや高町家や月村忍を除けば、こいつが俺にとって古参なんだよな……もう一年ぐらいの関係になるのか。

鎖骨なんて折られてよく復帰できたもんだな、俺。剣士としては致命的だと思うのだが、我ながら自分の体には驚かされる。

通り魔事件なんて起きたんだよな、一年前は。今年の春になって脅迫事件が起きているし、色々物騒な世の中になったものだ。


とにかく俺はフィアッセに送られた脅迫状の文面と、リスティの見解について説明する。


「なるほど、それで私のところへ来たのですね。ご明察です」

「心あたりがあるんだな」

「良介さんが海鳴を離れられる前に、私達の出自に関する説明をしたことがあったでしょう。あの件です」


 フィリス・矢沢、専門はカウンセリングおよび――遺伝子学。

海鳴大学附属病院に所属している医師であり、G号棟の研究員。実は彼女は、リスティの遺伝子を元に作成されたクローン体である。

今となりで美味しそうにココアを飲んでいる月村すずかと同じく遺伝子の産物であり、リスティとは遺伝学上では姉妹でなく親子となるようだ。


名称は「トライウィングスr」、HGSと呼ばれる人体兵器である。


「リスティに備わっている超能力を売りにした兵器だったな」

「HGSとしてのコードナンバーはLC-23、能力を発揮する際はトライウィングスと呼ばれる光の羽を顕現いたします。
良介さんにはあの時説明していませんでしたが、私は当時指揮官として作成された為か、HGSとしての能力に秀でたものはなかったのです」

「へえ、だからフィリスが一番頭が良いんだな」

「分野が違うというだけで、リスティだって十分に優秀ですよ」


 指揮官といえば自動人形のローゼがアホ真っ盛りなのであまり良い印象はないのだが、フィリスが指揮官というのは納得しつつも意外なイメージが有る。本人が優しすぎて兵器というのが致命的な違和感と言えるが。

フィリスの出自についてはひょんな事から明らかとなってしまい、本人から打ち明けられた。自分が人体兵器だと打ち明けた際フィリスは俺の反応を怯えた様子で伺っていたが、平然と受け答えしたので本人も安心した様子だった。

そもそも俺の周りは自動人形とか戦闘機人とか、人間離れした連中が多すぎるので、その手の忌避反応は麻痺してしまっている。今更すぎるので、変に怯えたりする必要はない。


なので今もこうして、フィリスは信頼して打ち明けてくれているのだ。


「私の場合ですと自分以外のものを転送するトランスポートと、物体を引き寄せる「アポート」は可能なですが、共にごく微細なものしか扱えません」

「それぞれの特性に特化しているということか」

「話の流れでご理解頂いているかと思いますが、フィアッセもHGS――コードナンバーはAS-30の人体兵器です」


 ――なるほど、フィアッセ・クリステラ本人が狙われる理由というのもこれか。

本人はこれまでそんな素振りを欠片も見せたことはなかったが、リスティ達が姉妹同然の関係性を持っているというのは頷かされる。

容姿端麗で各方面に特化した能力を持つ女性達、凡人から見れば際立っている在り方は遺伝子より成り立っているという事である。


俺はかつてフィリスたちより聞いた話を総合する。


「リスティの遺伝子を元に作成されたクローンを人体兵器として量産する組織というのがあったな」

「はい、日本の北の地にかつて研究所がありました。
あくまで私の記憶ですが当時14体作製されて、胚細胞時代から育成器にかけられてリスティと同い年に設定されて出生したのです。

訓練と称して姉妹間で戦わされて……最後まで生き残った兵器を送り出すという仕組みです」

「……辛い記憶を追求するようで申し訳ないが、聞かせてくれ。その組織は今も存在しているのか」

「近年大々的に摘発されており、組織そのものは壊滅に追いやられているはずです。私達もこうして辛い過去はありますが、日常を平和に過ごせています。
だから杞憂だとは思いますが……こうして脅迫状が送られているとなれば、その線も考えられなくはありません。

フィアッセもまたHGSである事は事実なのですから」


 なるほど、超能力を持った人体兵器という事であれば狙われるのも仕方がない。少なくとも脅迫犯は、フィアッセの居所は掴んでいたからな。

今のところ過去の話から浮上した問題の一つであって、この事件への関連性はない。ただ今は脅迫状一つでしかないので、何ともいえないか。


ちょっと整理してみよう。



フィアッセ⇒愉快犯の可能性を指摘
リスティ⇒裏社会の干渉を指摘
フィリス⇒組織の暗躍を指摘



……たった一日調べただけでこれほどやばい線が繋がるあいつは地雷女なのではないだろうか。

全部の可能性を爆発させたら大変なことになるぞ、これ。たった一通の脅迫状から、ここまでの線が浮上するとは夢にも思わなかった。

もしも俺が海鳴に着いたばかりの浮浪者であったならば、白旗を上げていただろう。いや、あいつを見捨てて逃げていたかもしれない。


だがあいにくと今の俺であれば、出来ることは多くある。ただ当時と同じく、他人事に突っ込むことへの徒労感は尋常ではなかった。


「良介さん、フィアッセの事をお願いしてもよろしいでしょうか。私にとっても大切な家族なんです」

「……分かったよ、やってみればいいんだろう」

「ふふ、やはり良介さんは優しいですね。出会った頃と変わりません」


「俺が変わっていないと言ってくれるのは、お前くらいだな……」


 とりあえずこれで今日一日の調査は終わったと言える。

後は夕方にディアーチェ達を拾って、作戦会議するとしよう。どこから探ればいいものか分からんが、これは人手が必要になる。


そして夜は――カレン達夜の一族に、話を聞くしかないな。あんまり会いたくなかったけれど。














<続く>








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