とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十七話







 リスティ・槙原。

数回話した程度だが、あの女は俺の天敵だ。

関係を続けていけば、絶対俺の輝かしい未来の妨げとなるのは間違いない。

極悪警官の参加は当たり前のように拒否。

――したかったのだが、神咲は残念そうに項垂れるのを見て口がつぐむ。

おいおい、女の涙に躊躇してどうする俺。

泣いてはいないが、不参加を悲しそうに受け入れているのを見ると何か言い様の無いものを感じる。

罪悪感は微塵も無いが、こうもがっかりされると俺としても居心地が悪い。

――情けはかけるな。

俺は自分の心を戒めて、そのまま何も言わない。

最近の俺はちょっとおかしい。

妙に他人に甘いと言うか、女の顔色を伺っている節がある。

結果月村やなのは、フィリスが俺に遠慮が無くなってくるんだ。

この辺でビシッと自分の主義主張を改める必要があるだろう。

神咲の花見への誘いは気紛れの延長であり、キツネうどんの御返し。

その上で俺に被害が無いので誘っただけだ。

これ以上好意を向ける必要はなし。

――気まずい雰囲気の中二人して無言でうどんを食べるのは、陰気としか言い様が無い。

他のガキ共が次々とやって来るが、この空間だけ隔離されたかのように静かだった。

喧騒から区切られた世界は、俺の心に鈍重な重石を積み上げる。

さっさと食べて立ち去りたいが、俺には約束がある。

仕方ないので、俺は水を向けた。


「――あいつって警官だろ。仕事、忙しいんじゃないか」


 話し掛けると、神咲はぽかんとした顔をして――必死で首を振った。


「いえ、リスティさんは正式な警察官ではないんです。
警察さんへの・・・民間人としての協力と言いますか・・・」


 あー、病院でそんな事言ってたなあいつ。

国家に飼われているのではなく、野良犬として幅を利かせているのか。

・・・などと本人に言ったら、タバコの火を押し付けられそうだ。


「ですので、きっとお時間は取れると思います!
で、でも必ずしも・・・き、聞いてみないと・・・
どうしよう・・・」


 オロオロする神咲。

誰も誘っていいとは言ってないが、好意的な解釈をしたようだ。

俺としてはあいつは仕事だけしていればいいんだ、くらいの気持ちだったのだが。

麺を口に入れて、俺は微妙な思いを馳せる。


「そもそもあの不良警官、桜なんぞ興味ないだろ。
酒飲んで悪酔いするのが関の山なんじゃないか」


 花を見て楽しむ風情を、あの女が持ち合わせている筈が無い。

線も細いし、美味しい食事を皆で味わう喜びも少ないだろう。

俺と同じく、花見にそれほどの興味を寄せるとはとても思えん。

嫌そうな顔をしそうだぞ、あいつ。

俺の疑問を、神咲は笑顔で否定する。


「リスティさんは桜が好きですよ。
私がお世話になっているさざなみ寮では、寮の皆さんでお花見に出かけるんです。
――人間らしい気持ちになれるって、リスティさんいつも楽しそうで・・・」


 人間らしい・・・?

変な言い回しである。

まるで自分が普通の人間じゃないみたいな言い方を――

・・・普通じゃないよな、うん。

あいつと一般女性を比較するのは間違えている。


「そっちで行くなら、俺らのほうに参加しなくても――」

「楽しい事は沢山ある方がいいと思います。
宮本さんが御誘い下されば、リスティさんもきっと喜びますから」


 ・・・フィリスみたいな言い方をしやがって。

やばい、話が誘う方向に傾いて来ている。

積極的な熱意は否定しないが、俺はあいつが苦手だ。

そう・・・苦手なのだ。

――嫌い、じゃない。

真っ向から否定できず、あーだーこーだ遠回しに拒絶するのもその辺に理由がある。

フィリスとも仲がいいみたいだし。

・・・。

・・・待て、そうなると自動的にあいつも・・・?

・・・は、はは・・・ま、まさか・・・医者だぞ、あいつは。

仕事だって忙しいだろうし、花見に行く暇も無いだろう。

休日だって噛合わない可能性が高い。

――のに、何だこの嫌な予感は。

今すぐにでも否定しないと、どうしようもなくなる気がする。

誘ったら用事が無ければ、百パーセント来るだろう。

お陰で、決心がついた。

即効で断るべきだ。


「あのさ、神咲。お前の気持ちも分かるけど――」


「ごめんね、侍君! 授業が長引い・・・て・・・?」

「・・・神咲さん・・・?」


 ぐあああああ、よりにもよってこんな時に!?

地上最悪のタイミングでやって来た月村と恭也に、俺は頭を抱えた。















「ええ、勿論かまいません。是非御二人でいらして下さい」

「本当にありがとうございます。御無理を言ってしまって・・・」

「神咲さんなら、母もきっと歓迎してくれると思います」


 わーすごい、一秒で話がついたよこん畜生。

話を聞いて、男らしく即決で参加を受け入れた恭也。

神咲も安心したように微笑んで、招待への礼をしている。

面白くも何とも無い展開だが、抗議しても無駄だろう。

そもそもこの企画は高町家が立案し、スポンサーも高町家だ。

恭也が言った通り、桃子なら誰が来ようと歓迎する。

こんな俺にも毎日飯をご馳走してくれる呆れたお人好しだ。

俺は何もかもを諦めて、突っ伏していると、


「・・・」

「・・・何だよ」

「・・・別に」


 月村は視線をそらす。

? ・・・何なんだ、さっきから。

落ち着かない様子で、俺が金出したジュースを飲んでいる。

飲んでは俺を見て、視線が合えば無感情な眼差しを向ける。

どこか非難めいた色があり、初対面での冷たさが感情を消していた。

奢る約束だったので渋々なけなしの金を出してやったのに、何が不満なんだ?


「・・・神咲那美さんだっけ、あの娘」


 月村が目を向ける先は――神咲。

恭也と穏やかに話をしている様子を見ながら、月村は小声でそっと話す。


「侍君って・・・

・・・。

・・ああいうタイプの女の子が好きなの・・・?」

「は・・・?」


 何をトチ狂った事言ってるんだ、この女は。

月村は長い前髪に目元を伏せて、細々とした声を漏らす。


「・・・だって、侍君が自分から誘うなんて・・・

・・・特別って事でしょ?」

「お前にだって、俺から誘ったじゃねえか」


超打算だけどな。


「・・・うん、そうだけど・・・」


 ・・・うがああああ、何が言いたいんだこいつは!?

煮え切らない態度に苛々して来る。

その怒りを普段通りに発散出来ないのは――こいつが変だから。

いつも変だが、今はもっと変だ。

どう対処するべきか悩んでいると、


「ええ、それで宮本が花見の場所を探す事になって・・・」


 恭也の話を横から聞いて、俺は本来の目的を思い出した。





































































<続く>







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