とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十九話




 湖の騎士シャマルがクラールヴィントを用いて、渾身の魔力を込めて封絶結界を張ることに成功する。

封絶結界は通信を遮断する効果があり、固有型である衛星兵器の自律行動を防ぐことが狙いだった。シャマル本人というより、連携を取っていたディアーチェの戦術でもあったのだが。

磁気嵐によって通信機器類は使用不能になっているが、ヴァリアントシステムを悪用する敵を封じるには魔導による干渉も有効であるらしい。


科学と魔術、相反するように見えて一致する面も多い。どんな技術も使い方次第だということだ。


『理解不能。マクスウェルはエルトリアの再生を望んでいる』


 自身の機能が封じられたことを察して、こちらに通信が送られてくる。疑問の声に見えるが、実際は独白に近いのだろう。

固有型は自律行動が可能だが、それ以前に主の命令が絶対である。感情によって左右される機会なんてありはしないのだ。

……まあ正確に言えばローゼという指揮官型のアホが一名いるのだが、あいつは例外中の例外なので対象から外しておく。


あいつも俺には従っているんだけど、その場のノリでよく分からん行動を取るので機械じみた挙動を全然見せないからな。


「最初の志を忘れるべきではなかったな」


 アミティエと月村すずかより準備完了の知らせが入る。ヴァリアントシステムとフォーミュラ、そして商船の乗員達の協力もあって出撃が可能となった。

宇宙空間で安全に活動するために着用する宇宙服。アミティエが用意したのは、船外活動時に着用する船外服であった。

気密性と気圧の調整がされたバリアジャケットというべきか、宇宙服本体と背中に背負う生命維持システムにより、比較的優れた自由行動が行える。


アミティエが出撃し、妹さんが管制室よりナビゲートする体制――彼らの生存かつ成功確率を高めるべき、俺は敵との更新を続ける。


「あいつは自分が最後に笑う事に拘るあまり、自分の愛情を燃料にしてしまった」


 自分自身を振り返る。学歴も教養もない孤児が外へ出て、一人旅をする。望んだのは天下という名の、立身出世であった。

自分の腕力に物を言わせた剣により、強さを認められて他者から肯定される。そうして自分自身が認められて、社会の階段を駆け上がっていく。

荒唐無稽に見えるが、今になって振り返ると誰でも思い描く妄想であったかもしれない。自分が特別だと思う気持ちなんて、子供の頃は誰だって持っている。


大抵大人になれば捨ててしまうものだが、忘れられない人間だっている。どれほど大人になろうとも。


『マクスウェルの技術と知識があれば、再起は果たせる』

「確かにいずれは果たせたかもしれない。あいつの夢が頓挫したのは、世界政府より援助を打ち切られたからだからな」


 その点は俺自身とは異なる。俺は生まれ持った環境によるものだが、あいつは少なくとも最初は恵まれていた。

研究も政府が望む結果が得られなかったにしても、技術と進歩は確かにあった。ユーリヤイリス、研究員達による努力が実りつつはあった。

情勢が変化したのは政府、突き詰めれば社会による弊害であったのだろう。珍しくもないことだが、社会の権力と競争により潰されるケースは多々ある。


そういった妨害がなければ、いずれは成功していたかもしれない。


「けれどあいつの夢は終わり、徐々に変節を始めた。
政府からの資金提供の打ち切りが決定し、マクスウェルは部下達を抹殺した。夢破れた者達への慈悲かもしれないが、独りよがりだ。

あいつの夢は他人がいなければ始まらないのに、自分の夢のために他人を捨ててしまった」


 俺も同じだ。自分が認められたいのであれば他人の存在は必須であるはずなのに、孤独であることを選ぼうとした。他人と関わると弱くなると、根拠もないことを信じて。

偉そうなことを言っているが、高町なのは達と海鳴で出会わなければ今も放浪していただろう。アリサとの出会いがなければ、家族や仲間に恵まれる事もなかった。

俺に手を伸ばしてくれた他人がいたから、俺は道を間違えずに済んだ。今もまだ道半ばではあるが、ユーリ達がいれば大丈夫だと確信している。


無駄だとは思うが、俺も自分なりに手を伸ばしてみようとふと思った。


「こんなやり方をしないで、あいつの道を正してやれ。あいつを信じているのであれば、あいつを正せるように力を貸してやればいい」

『ならば、マクスウェルの解放を要求する』

「解放してどうする。あいつには何も残っていない」

『必要な知識や技術を保有している。エルトリアを再生できる』

「あいつが自分の非を認めない限り、同じ過ちを繰り返すだけだ」


 エルトリアの技術を持ったイリス、魔導導という力を持つユーリを手中に収めて、新天地で再起する。万が一全てが叶ったところで、またどこかで頓挫するだろう。

あいつは他人の存在が必要だと認めていながら、ウィルスコードによって強制的に支配しようとしている。自分の心を開かず、他人の心を開かせようとしている。

安易なやり方で他人を支配しようとしても、しっぺ返しを受けるだけだろう。ユーリは過去の記憶を忘れ、イリスは過去の自分を捨てた。


そろそろ頃合いだろう――俺は、告げる。


「人生は何時だってやり直せるが、反省しない限りは大人にはなれないよ」

『交渉決裂。攻撃を再開する』


 衛星兵器が展開――妨害されている状況を察して、全ての機能を最大限発揮して砲撃を再開する。

交渉決裂を明言した兵器は人質であるエルトリアに向けて、発射。大いなる光に照らされた砲撃が、流星のごとくエルトリアの地へ降り注いだ。


大地が、燃えている――悪夢のようでありながらも、炎の華は美しかった。


『フォーミュラドライブ、アクセラレイター!』

『!?』


 エルトリアへ攻撃を放ったその瞬間、急加速で接近する敵影。

月村すずかにより正確な砲撃の狙いを把握したアミティエが一心不乱に、衛星兵器に向かって突撃をかける。いや、特攻というべきか。

エルトリアに降り注ぐ攻撃は完全に無視。彼女からすれば悪夢に等しいはずなのに、何の迷いもなくエルトリアを無視して衛星兵器に突っ込んだ。


人質を顧みない正義の行動は、犯人からすればそれこそ悪夢である。


『攻撃再――』

『ガトリング、バーストァァァァァ!』


 アミティエのガトリングバーストは、直線範囲上にいる敵1体に連打する技。つまり、端的に言えばタコ殴りである。

遠距離攻撃に特化しているとはいえ、兵器。即座に対抗しようとするが、あろうことかアミティエは自分が宇宙空間で戦っているという自覚も内容だった。


一発目に顔面をパンチ、二発目に頬を殴打。そのまま攻撃を繰り出したが、相手柄から射撃されて肩を撃ち抜かれる。


利き腕を潰されたアミティエは回し蹴りで、衛星兵器の脇腹を蹴り上げる。即座に頭突きを入れて固有型の顔面を潰した。

相手は機械、痛覚はない。怯みこそしたが行動不能にはならず、さらに射撃。アミティエはどてっ腹を貫かれて、血も出ないほど貫通させられる。

その瞬間アミティエは敵に体当たりして押しのけ、そのままの勢いで相手の胴体を蹴飛ばした。ガトリングバーストを放った勢いで何度も相手の胴体に蹴っていく。

最後のインパクトで衛星兵器を突き破った、その瞬間――


『我々、は――間違っていた、のでしょうか』



 ――衛星兵器は、自爆した。



近距離で戦っていたアミティエ・フローリアンが、容赦なく巻き込まれる。何の躊躇もなく、無慈悲に。

血の気が引くのを感じたが、即座に衛星兵器との会話がリフレインする。

誰だって過ちは起こす。肝心なのは過ちを認めないのではなく、正すことであると。


「救助船を用意してください、あいつの救出に向かいます!」

 
 容赦なく自爆してアミティエを殺そうとしておいてこんな事を考えるのはお門違いだとは思うが――最後に、あの衛星兵器は忠告してくれたように思えた。

この戦いに、何の価値もなかった。最後の悪あがきであり、決して誰からも認められない。何も得られない、ちっぽけな戦。

けれど、彼女は声を上げた。自分自身の主張をした。過ちを犯したマクスウェルに代わって、あいつの無念を果たそうとした。


小さな聖戦が幕を下ろし、一人の少女の命を道連れにした。














<続く>








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