とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十六話







何なんだ、一体。

高町の家の人間が全員そろっているかと思えば、こいつまで同じ学校だったのか。


――考えてみれば、そんなに不思議でもないか。


俺はこの町についてまだ詳しくは無いが、地理的に地方に位置するこの町でそれほど沢山の学校があるとは思えない。

共通した学校に通っていると考える方が自然だ。

何にせよ知り合いに会う可能性は抜群に低いはずで、俺が呪われているのではないかと勘ぐってしまうが。


「み、宮本さん・・・ど、どうして!? 学生さんだったんですか!?
で、でも私服で――」

「落ち着け。目立つから席に座れ」

「は、はい・・・失礼します・・・」


 神咲那美とか言う少し古風な名前を持つ、この女。

礼儀正しくしっかりした一面を持ちながら、たまにこうした精神の細さを見せる。

俺の家来である久遠の飼い主で、面識は少ないが何度か話したことがある。

親しくも無いので無視しても良かったが、生憎食堂は人が少ない。

シカトし続けても無意味な上に、食堂のオバちゃんに目をつけられて終わりだ。

動揺が顔や態度に出まくっている神咲を招き寄せて、対面の席に座らせる。


「・・・まさかあんたにまで会うとはな。この学校だったんだ」

「宮本さんこそ、どうして此処にいらっしゃるんです?
それに、これ・・・」


 片付ける暇が無かったんだよ、くそ。

テーブルの上に広がっている反省文を一枚つまんで、神咲は不思議そうに見つめている。

言い逃れは出来そうに無いが、詳しく話すのも面倒。

俺は簡単にだけ伝えた。


「恭也達に用が会って来たんだ。
そしたら教師に見つかって、このザマだ」


 月村に会いに、とは言わない。

女に会いに来る剣士なんてカッコ悪い事この上ない。


「でも、いいんですか? また見つかったら怒られますよ」


 自分が手に持っているのが反省文だと気づいてか、神咲は少し意地悪気味に微笑む。

理由が分かってほっとしたのだろう。

警戒した様子も薄れて、態度も少し和らいだ。


「その時はよろしくな、神咲」

「わたしなんて駄目ですよ!? 説明出来る自信がありません!?」

「っち、ケチな奴だな」


 真剣に受け止めるから面白い。

月村だったら、私に任せて、とか言い返すからな。

クールに見えて意外にノリのいい女、月村。


「でも本当に先生に怒られたのでしたら、早めに帰った方がいいですよ。
お昼休みは先生も食堂に来ますから」


 げ、それは流石にまずいな。

あの女教師が折角事態を丸く収めてくれたのに、また騒ぎになったらたまらない。

長居は無用である。


「俺も帰れるなら帰りたいけど、恭也達と待ち合わせしてるんだ。
休み時間に会う約束だから、もう少ししたら来ると思う。

飯食いに来たなら、ついでだし一緒に食う?」


 俺が一人なら、絶対にありえない台詞。

神咲の心配が的中すれば、恭也達が来る前に他の先生に出くわす可能性がある。

その時一人のままは体裁が悪い。

一応俺が釈明するが、その俺を誰か援護してくれる人間が必要だ。

話さえ終わったら出て行くので、迷惑はかけない。

唐突な俺の誘いに、神咲は簡単に頷いた。


「わたしもご一緒していいんですか? ご迷惑じゃ――」

「迷惑なら誘わんから心配するな。
席は取っとくから、飯買ってくれば?」

「・・・はい、ありがとうございます! 行って来ます」


 丁寧に挨拶までして、神咲は財布を手に立ち上がって行く。

俺はその後姿を見守りながら、嘆息してテーブルの上に頬杖をついた。


・・・腹減ったな。


朝御飯食べて出掛けて以来、動き回りっぱなしだった午前中。

精神的な疲労も手伝って、俺の胃はすっかり空っぽだった。

美味しそうな匂いがあふれる食堂はある意味で地獄だった。

――帰りたくても、帰れない。

月村との約束を破れば、またあいつが怒ってしまう。

この機会を逃せば、花見の話はまた切り出しにくくなってしまう。

こんな面倒なこと、今日中に全部終わらせたい。

・・・神咲の奴、何食うんだろ・・・

奢って、と言えない俺にささやかなプライドがあった。

恨めしげに見る俺の視線に全く気づかず、注文を終えた神咲が戻ってくる。


キツネうどん――


「――足りるのか、それ」

「? 普通だと思いますけど・・・」


 普通の大きさのお椀に、湯気が立ち上ったうどん。

コトンとテーブルの上に軽い音を立てて、神咲は何でもない顔で首をかしげる。

量的に見ても標準以下で、俺が食べれば10秒で片がつく。


「宮本さんは食べないんですか?」


 ――そして実に当たり前のように、手痛いとこを聞いてくる。


「ここの学生じゃないからな、俺。買えないんだ」


 本当は文無しに近いから買えないだけだが、口にするのは情けなさ過ぎる。

開き直るには、神咲との距離は近過ぎた。

赤の他人ならどう見られようと平気だが、神咲との関係がこれっきりになるとは思えない。

それに、こいつはリスティと関係がある。

あの不良警官に無一文だと知れたら、次会った時絶対に笑うだろう。

そういう女である。

俺が今まで出会った女の中で、最悪の性格だ。

顔は抜群なので余計にむかつく。

弱みを握られたくは無かった。

俺の言葉を聞いて、途端に神咲は表情を曇らせる。

そして――


「でしたら、わたしが買ってきましょうか? 
久遠がいつもお世話になっていますし、お金はお気になさらなくて――」

「是非、お願いします!」


 ガシっと、神咲の手を握り締める。

プライド? そんなもんで、飯は食えないんだよ。



――数秒前の主張を覆して得た俺の報酬は、キツネうどんだった。















「・・・お花見、ですか?」


 ズルズルと食べながら、俺は神咲に簡単に事情を話した。

他人の家庭のイベントだが、神咲になら話しても怒りはしないだろう。


「素敵じゃないですか!
さざなみ寮のある小山でも、毎年綺麗な桜が咲くんですよ」


 何だと!?

うわー、先にこいつに話をしておけば良かったかも。

綺堂との約束で振り回された今日の午前を空しく振り返った。

本気で、今更だけど。


「場所取り係になっちまってな、お陰で今日は朝から散々だったんだ。
この辺一帯って、何処もいっぱいらしいからな」

「そうらしいですね・・・今からですと、特に大変だと思いますよ」

「幸い金持ちに知り合いがいて、そいつに場所を提供してもらう事になったんだ。
今日はその報告で、この学校へ来たようなものだ」


 場所取りの難航を案ずる神咲に、そういって安心させる。

言いたい事が伝わって、神咲もほっとした様子でうどんを食べる。


・・・どうしようか。

月村も誘うんだし、どうせならついでに――

恭也達に後で事情を話せば、まず大丈夫だろう。

滅多に無いことだが、俺は自分から話を切り出した。


「お前もどうだ? 確定してないけど、次の休み辺りに行く事になると思う」

「私もですか!? そんな――御迷惑なんじゃ・・・」

「だから迷惑だったら、誘ったりしないって。
恭也達も多分歓迎してくれると思う。知らない仲じゃないからな」


 ――あいつらだったら、俺の知り合いってだけで初対面でもオッケーくれそうな気もするし。

今だけは、奴らのお人良しに期待しよう。

この昼飯の借りもある。

しばらく会ってないあの狐と遊んでやるのも悪くない。

躊躇いと本心に、神咲の表情が揺れている。

楽しそうだけど、部外者の自分が行くのは申し訳ない――そんな所だろう。

俺は付け加えた。


「あの子狐も一緒に連れてこいよ。
久しぶりに、俺も会いたいからな」


 ――真顔で言うのは照れるので、言うだけ言って視線だけはそらしておく。

一瞬絶句する神咲だが、次の瞬間、


「くす・・・はい。是非、参加させてください!
久遠も宮本さんに会えるの、きっと喜んでくれます。
あの子、宮本さんが大好きなんですよ」


 ――狐に好かれる俺って・・・

微妙な気分だが、久遠は嫌いではないので黙っておく。

後は恭也達に話を通せば良し、だな。

俺は息を吐いてうどんを食べる。

そこへうきうきした様子の神咲が、


「そうだ。

――リスティさんにも、お話してみてもよろしいですか?

宮本さんとまた会いたがってて――」

「あいつは駄目!」


 ――滅多にあげない悲鳴を、俺は心から叫んだ。






































































<続く>







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