とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十話




「本件電波法を議題とし、本日は締めくくり総括質疑を行います」


 議長からの宣言によって、大規模デモ活動で半ば混乱していた議会が一気に静まり返る。緊張と不安によって議場は引き締まり、議員達の顔が政治家としての面構えとなっていく。

明日は採決。連邦政府の民衆もお祭り騒ぎを起こすほどの注目が向けられている、本議題。延長が行われる雰囲気ではないことは、議会に満ちた空気が物語っている。

大統領の干渉はあれど、議会が日和ることなく結果を出せば、たとえ大統領が拒否権を発動しようとも、議会がそれぞれ3分の2以上の賛成で再可決すれば法案は成立する。


つまり実質最終日となるこの議会で、参席する議員達から出来る限りの多くの賛成票を得なければならない。


「本日はまず私が議長として総括的な質問をリョウスケ氏にいたします。どうぞよろしくお願いをいたします」


 えっ!? これまで中立の立場で猛者の集う有力議員達を統括していた議長本人が、総括的な質問をよりにもよって俺にぶつけようとしている。マジか、議長がやっていいことじゃないだろう!?

権力の乱用だとばかりに周囲を見渡して同意を得ようとするが、誰もが皆驚きを露わにしつつも嗜める様子はなかった。議会としては珍しい事例であれど、公私混同ではないらしい。うぐぐ、限りなく想定外である。

主要各国の代表者達より楽な相手だと思い込むのは、極めて危険である。これまで議会が四日間行われているが、日本の国会とは違って一度足りとも議長の判断に異を唱える議員達はいなかったのだ。


それほどまでに議長であるこの女性は大いなる人望と、主要各国の代表者さえ一目置かれる政治的強者である事が伺える。しかもリヴィエラ商会長ではなく、一般人の俺を指名だし……何でやねん。


「連邦政府においての通信制度はその業績を示すとともに、政治的戦略を決定する上で判断の基となる非常に重要な技術であります。
同様に通信技術は、政府において議決された執行結果を一年度ごとに事後的に整理したもので、言わば国の業績を示しているといえ、今後の国家戦略を立てる上で基となる重要なものです。

このような観点から貴君と商会が提示する技術見積もりを確認するにあたり、通信技術の安定性をまず取り上げる必要があると考えますが、リョウスケ氏の意見を聞かせて下さい」


 初日に主要各国のフォルテ嬢やプロドゥア女史、そしてあのポルポ代議員が指摘していた通信革命における問題点を総括したものである。ネックとなる点を指摘されて、俺は立ち上がった。

当時の俺は知ったことではないと、言った。民の生活を顧みるあまり、安定性だけを求めていては商売が成り立たないと明言した。反感を買う事になろうとも、革命は行うべきだと言及している。

この発言はテレビジョンが成功するという、地球の現実を経験しての断定である。つまり彼らからすれば根拠がないように見える事であり、議長が楽観的な無責任論だと指摘しているのである。


絶対成功するから信じてくれという言葉は、詐欺師の発言である――そして俺は、詐欺師を超える大うそつきであった。


「本議会においては、実験結果や検査からの報告書などを踏まえ、テレビジョン開設と通信革命における対策と予算全体を、こちらにいるリヴィエラ商会長ともさせて頂いています。
御説明をさせて今後の実行や必要となる予算、通信技術向上を目指した開発などについて、皆さんと徹底的な質疑は行われました。
これらの質疑を通じて私が感じたこととして、いかに人や企業、主要各国や社会に対する通信の反映を速やかにかつ適切に実施していくことが重要かということであります。

これまで通信制度に影響する事業は各国の業績や社会貢献に効果を発揮しましたが、いまだ多くの地域においては求められる水準を満たしておらず、言わば止血策にとどまっているのではないかと案じています」


 通信の安定性を求めることばかりに躍起となってしまい、本来資本主義が目指す技術の向上が疎かになっているのだとハッタリをかます。

実際のところ通信の安定性を求め続ければ、技術だって向上するかもしれないし、革命なんて急先鋒な真似をせずとも、緩やかに人々の生活に根付いていくかもしれなかった。

単純にそれではエルトリアの主権を勝ち取る時間がないから、一刻も早く革命を起こすべきだと言っているだけである。つまり俺の都合で、連邦政府の時計の針を無理やり進めようとしている。


こんな事を我が物顔で平然と言える俺はどうかしている。これも俺という人間が悪人だから言えるのだ。心なんて全く傷まない。


「通信革命により各国の産業を担う企業や商会の経営状況が向上することにより、結果として地域が発展して経済の成長につながると考えます。
特に近年の通信対策予算は補正予算によってその多くが賄われているのが現状であると、私は睨んでいます。

通信技術の向上は国の重要な政策課題であり、当初予算に計上する為にも法整備を実施するべきです」


 大統領も政府も通信技術向上が現状芳しく無く、近年では政策の課題としても取り上げられていないのはシュテル達の調査で分かっている。

批判しているように聞こえるだろうが、実を言うと彼らの気持はよく分かる。通信技術をどのように向上するべきか、具体的なアイデアがないのであれば政策案として取り上げる訳にはいかない。

政治は結果が求められるものであり、政治家は結果で物事を決める存在である。結果を出せそうにない分野に迂闊に手を出せば、民から批判されるのは目に見えている。そんなもの、誰だっていいたくないだろう。


俺は地球で既に実現している技術だからこそ、平然とのたまっているだけだ。カンニングペーパーがあれば誰だって100点が取れる。実に卑怯だが、俺は自分の手柄であるかのように胸を張る。うーん、なんてグズなんだ。


「リョウスケ氏が今御意見述べられた通信革命の対策における企業及び商会への支援策についての評価と今後の支援策の方針、予算の計上の在り方を伺うとともに、
そもそもテレビジョンを開設する上での人材確保についてどのように考えておられるのか、貴方の所見を伺います」


 ――あっ、やばい。血の気が引くのを明確に感じた。

支援策や方針、予算についてはまだいい。俺が明確に数字を述べられないが、秘書であるシュテルやリヴィエラ商会長が代わりに説明をお願いすればいいだけだ。


問題は、人材である――テレビジョンを開設する上での人材となれば、当然だがCW社及び白旗の人員以外あり得ない。その出身を、どうやって説明すればいいんだ。


勿論、わざわざ一人一人の身元を説明する義務はない。プライバシーに関することを議会の場で取り上げられるなんてありえない。

しかしながら、テレビジョンに関係する人材であることは説明しなければならない。

その身元をどうやって保証すればいいのか。連邦政府出身の人間でないのであれば、どこから連れてきたのか話さなければならない。


議会の場で取り上げる以上は、最低限でもどういった人間なのか言わなければ始まらない。


(私もパートナーとして、その点は気になっていました。リョウスケ様の紹介される人物であれば、さぞ信頼の置ける方々なのでしょうね)

(あー、いや、ははは……)


 適当にはぐらかすことはいくらでも言える。

しかし明白でないと疑われて、明日の採決で様子見を決め込むかもしれない。


異世界とは、定義の出来ないものである。これは映画やアニメのような、物語の世界ではないのだ。













<続く>








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