とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第七十三話




 一企業の社長との歓談と連邦政府代議員の至急の訪問。どちらを優先するべきか言うまでもないと思うのだが、何故かポルトフィーノ貴族は取り次ごうとしない。

朝食の最中に取次とは礼儀がなっていないと、まるで一般人が訪ねてきたかのような物腰で応じている。連邦政府代議員といえば結構な大物だと思うんだが、この態度はいかがなものだろうか。

代議員直々の申し出だというのに客間に待たせ、ポルトフィーノ当主は引き続き俺との歓談に終始した。ポルトフィーノ婦人やリヴィエラお嬢様もにこやかに俺をもてなしてくれる。えっ、客さん待たせて駄弁ってていいのか!?


デザートに新鮮なフルーツまで頂けて、ポルトフィーノ一家は俺を温かくもてなしてくれた。朝からビタミンもしっかり摂って健康的だが、これでいいのだろうか。


「すまないね。この後出来れば娘との時間を作りたかったのだが、生憎と客人が参られている。立場上、相手をしなければならない」

「い、いえ、大切な御息女様とのお時間など頂く訳には参りません」

「まあ、リョウスケ様。私と過ごすのはお嫌ですか」

「昨晩、あのような事件が起きたばかりです。ご両親はさぞ心配されたでしょうし、御家族との時間を大切にされてください」


「も、申し訳ありません。リョウスケ様のお心遣いを知らず、私ったらからかうような事を言ってしまいました」

「ふふふ、リヴィエラ。リョウスケ様のような紳士な方を困らせてはいけませんよ」


 顔を赤くして謝罪する御息女を、母親は苦笑いしつつも優しい眼差しを向けている。貴族社会は外から見えれば窮屈に見えるが、家族との空間は優しさに満ちている。

愛されて育った貴族の御令嬢は才能を存分に発揮して、自らの地位と地盤を固め上げた。血統主義は基本的にあまり好きではなかったが、こうまで見事に完成された女性を見るとただ感嘆してしまう。

自分には一生縁のない人だと思っていたのに、こうして貴族の屋敷に招かれている。立身出世のように見えるが、その道は苦難に満ちていたと考えればある意味で真逆の生き方と言える。


高町家での居候生活がなければ、俺も他者への気遣いなんて出来なかっただろう。孤児院時代は、自分が生きるのに精一杯だったからな。


「やれやれ、リョウスケ君はこうまで娘や我々に気遣ってくれているというのに……このお客人はどうもせっかちであるらしい。
申し訳ない、少し席を外すが君はゆっくりしていってくれ」

「リョウスケ様と面識のあるミラココアに案内させますので、どうぞ気を使わず我が家でのんびり過ごされてください」


 えっ、飯食い終わったら解散じゃないのか。昨晩命を救ってもらったお礼というのであれば、朝から豪勢な食事を堪能させてもらったので充分なんですけど。

一般庶民にはもったいない歓待を受けたのだから貴族として面子は保てた筈なのだが、何故かポルトフィーノ大貴族は俺を帰そうとしない。次は美人メイドさんに接待させようとしている、ハニートラップですか。

後で娘と二人の時間を用意しますね、と御両親が笑顔で勧めてくるのも普通に頭オカシイと思う。まあ自分の家だから男女の過ちなんぞ起こる余地はないのだが、それにしたって貴族の御令嬢と二人きりにするのはアウトだと思うんだがな。


いずれにしてもメイドさんに接待なんぞして貰ったら、後でアリサやシュテル達が絶対からかってくるので――


「もしも失礼でなければ、私も同席させてもらえませんか」

「君が? しかし君の手を煩わせるのは――むっ、そうか」

「あなた」

「なるほど、私としたことが娘を思う気持ちだけは負けていないつもりだったのだがね。君には負けたよ」


 何が!? 何で御両親がアラアラウフフと言った顔で俺とリヴィエラを見やっているんだ!? リヴィエラ本人も何も追求せずにはにかんでいるし、親子の間でどういう納得がいったんだよ!

ポルポ代議員の言う至急の要件は間違いなく昨晩のデモ事件なんだから、当事者の俺も参席した方がいいだろう。メイドさんの接待を受けてアリサ達に笑われるより、余程有意義だと判断しただけだぞ。

結局本人には何の説明もなく、同席が許された。何かそれどころかリヴィエラも俺に守られるような立ち位置で控えていて、体温まで伝わってくる。やたら近いのは何なんだ、一体。


客間に案内されると、ソファーに座っていたポルポ代議員が大仰に立ち上がり――俺を見るなり、顔色を変えた。


「何故貴様がここにいる!」

「おはようございます、代議員。本日はポルトフィーノ様より御招待受けまして、御面会させて頂いた次第です」

「招待だと? フン、図々しい。事件の当事者として、事情聴取を受けていた事を大仰に語るな」


 俺個人に言うならともかく、ポルトフィーノ貴族の方々がいらっしゃる前でよく堂々と批判できるな。歓待を受けているゲストを不快にするのはマナーとしてどうなんだ。

何か言ってやろうとしたが、ふと考える。事情聴取、確かにこの招待にはそういった意図もあったかもしれない。何しろ自分の娘が事件に巻き込まれたのだ、犯人だけが怪しいとは限らない。

豪勢な食事と丁寧な歓待の裏には、貴族としての冷徹な意図があったのかもしれない。そうだとしても、特に嫌な気分にはならなかった。デモ事件に巻き込まれたのだ、誰を怪しんだって不思議ではない。


俺が反論しないのをどう思ったのか、鼻を鳴らして面前を改める。


「お初にお目にかかる。連邦議会議員、ポルポだ。御令嬢とは親しくさせて頂いている」

「……ポルトフィーノだ、リヴィエラから君の話は聞いている。まあ、座りなさい」


 あれ、何か妙に愛想のない対応である。俺のような一般人にもにこやかに出迎えてくれた時とは、様子が違う。御婦人に自己紹介だけして、頭を下げるのみだった。

連邦議会議員の資格を保有する人間と連邦政府の大貴族、両者の立場は憲法上大きな差はない。与えられている権限はどちらも大きいが、影響範囲は異なる。

詳細は正直政治には無縁だった俺には分からないが、どちらかに平伏しないといけないのかという、単純な話ではない。ポルトフィーノの家主とその客人という立場で、両者は挨拶を交わしている。


俺はリヴィエラに勧められた席に座ると、本人は何の迷いもなく隣に腰を下ろした。上座に座ったポルポ代議員とは最も離れた席なのは、家主と客人との距離感を考慮してと思っておこう。


「至急の要件と伺っているので、世間話は省こう。君も気兼ねなく話したまえ」

「まずは御令嬢にお見舞いを申し上げたい。私がついていたとはいえ、事件に巻き込まれてさぞ気を落とされたであろう」

「お見舞い、ありがとうございます。見ての通りリョウスケ様がお傍について下さっておりましたので、心安らかに朝を迎えております」


 リヴィエラの信頼の籠もった眼差しと、ポルポ代議員の敵意に満ちた眼差しを向けられて、俺はどう対処すべきか一瞬悩んだ。こんな事になるなら、メイドさんの接待を受けるべきだっただろうか。

それにしても昨晩の有様とは思えないほど、ポルポ代議員は堂々と自分がリヴィエラを守ったのだと胸を張っているようだった。彼の頭の中では、昨日の事件はどういう過程を辿ったのだろうか。

何の役にも立っていないどころか、デモ集団を暴走させてしまったのだが、その辺の見解はどのようになっているのか。


多分リヴィエラも探りを入れるつもりで、俺の存在を強調しているのだろう。俺へのリップサービスと同時に、ポルポ代議員への牽制というわけだ。さすがは商会を束ねる長である。


「至急の要件とは他でもない、昨晩の事件だ。御令嬢の身を脅かした卑劣な犯罪集団については、私も断固として対応するつもりだ。
私のあらゆる全ての権限を用いてでも、必ずやあのデモ集団を撲滅させてやる。さぞご不安でしょうが、御令嬢の事は必ず私が守りますのでご安心ください」

「ふむ、つまりこの事件に代議員である君が直接関与すると?」

「ええ、どうぞ私にお任せください。私自身も事件に巻き込まれた被害者ですが、泣き寝入りするつもりなどございません。
御令嬢を害されてさそ気分を悪くされておられるでしょうが、どうか御令嬢を親しくさせて頂いているこの私にこの事件預けてくださいませんか」


 ……朝から何を言いに来たのかと思えば、なんとリヴィエラ御令嬢へのアプローチとポルトフィーノへのアピールか。昨日の今日でこの対応、全くもってすごい男である。

やはりイケメンともなれば、単純に顔だけで女にモテる訳ではないという事だ。この積極的なアピールと姿勢があるからこそ、世界に名高い美女でもモノに出来るのだ。もてない男との違いは、ここにある。

自作自演によるヒーロー演出が不発に終わったので、次なる作戦を実行しに来た。転んでもただでは起きない行動力は、ある種見習いたい。昨日あんなに失敗したのに、その事件を利用して父親と娘にアピールしに来たのだ。


まあ、報われるかどうかは別の話なんだけど。


"いかがいたします、陛下。昨日の夜の出来事、このわたくしのIS「シルバーカーテン」がバッチリクッキリ録画していますけど"

"おまえ、何処から見て――ああ、そうか。お前の固有武装か"


 戦闘機人、クアットロ。固有武装はステルス機能を有するマント「シルバーケープ」、能力であるISは電子を操る「シルバーカーテン」である。

つまりこいつにかかれば、姿を一切遮断して事件現場を盗撮したり、貴族の家に乗り込んで俺の様子を面白おかしく観察するのは容易い。こいつ、今の状況を思いっきり楽しんでやがる。

ポルポ代議員の昨晩の失言や態度も確保しているのだろう。こいつの能力、権力闘争には破格の相性を見せやがる。ジェイル・スカリエッティの奴、戦闘機人に幅広い能力を生み出しやがったな。


つまり俺の発言や態度も、こいつを通じてシュテル達に筒抜けとなっているのだ。俺もプライバシー保護を訴えてデモ活動しようかな。


「ずいぶんと思い切った真似をするね。代議員が、デモ活動に直接介入するのかね」

「デモ活動と言えば聞こえはいいですが、結局のところテロまがいの野蛮人です。我々も大変迷惑している。
御令嬢を傷つけた罪は万死に値する。私が必ずや償わせてみせましょう」

「だから、私ではなく全て君に任せろと?」

「ええ、あなたは連邦政府代表ともいうべき大貴族だ。御令嬢を害されたことでお怒りなのはご最もでしょうが、どうか私に任せてください」


"ふふん、このお坊ちゃん。自分が直接指揮を取って、自分の関与を有耶無耶にするつもりですわね。
金の流れも含めて関与を断ち切った上で女へのアプローとし、大貴族に恩を売ると。見上げた権力の亡者ですわ、汚らわしい"


 クアットロの吐き捨てるかのような言葉に、俺はポルポ代議員の意図を刺した。ポルトフィーノ氏も彼の意図に気づいて、念押しして確認を取ったのだ。俺は全く気づけなかったけどな!

憲法が制定する代議員に上り詰めるくらいの実力はあるということか。少なくとも、こういった裏工作には慣れているのだろう。ただ問題なのは慣れているのであって、長けている訳では無い点だ。

実際ポルトフィーノ氏やクアットロには、見破られている。リヴィエラも気付いているのか、彼の情熱的な申し出に冷めた眼差しを向けるのみ。社交辞令で礼を述べるのみだった。


実際、どうするつもりだ。このまま任せっきりにすると、事件に関与した痕跡を消されてしまう――まあクアットロが残しているので、台無しだけど。


「君はどうやら誤解しているようだ」

「誤解……?」

「私は元より、昨晩の事件を問題にするつもりなど無い。大袈裟に騒ぎ立てる気などまったくないよ」

「な、何を仰る。代議員である私だけではなく、御令嬢も巻き込まれている」

「リヴィエラ本人が先程言った通りだ、気落ちなどしていない。この子にはリョウスケ君がついているからね。
私や妻も安心して、彼に大切な娘を預けている。これからも是非、長きにわたってお付き合いをお願いしていたところだ」

「しょ、正気ですか!? このような得体のしれぬ男に、リヴィエラを預けるなど!
第一この男は件のデモ集団と接触をはかり、昨晩騒ぎ立てたそうじゃないですか。もしやすると、昨晩の件もこの男が関与していた可能性があります!」

「ほう、ならば私が直々に調べてみようか――この事件について」

「ぐっ……」


 ――問題にもしないとは、恐れ入った。リヴィエラが無事だったのは、デモ集団が暴走しなかったという幸運もあったというのに。

結果的に大した騒ぎにはならなかったというだけで、ポルポ代議員の言う通り事件化しても全然変な話ではない。議員や商会長を集団で取り囲むのは、デモ活動の一環では済まされない。

確かに昨晩俺が説得して止めさせたが、リヴィエラの父が事件にするというのであれば流石に庇いきれない。勿論こいつの自作自演だっただけなのだが、それにしたってリヴィエラが迷惑かけたのは事実だからな。


ポルポ代議員が言葉に詰まっていると、ポルトフィーノ氏が俺を見つめる。


「リョウスケ君、これからもリヴィエラをよろしく頼むよ」

「是非また遊びにいらっしゃってくださいね。何でしたら、御両親への挨拶でもよいのですよ」

「お、お母様、まだその話は早いですから!?」


 おいおいおい、デモ事件が起きた後だというのに俺に全部任せるのか。自分の娘が襲われようとしたんだぞ、危機感とか無いのか。

何故か握手を求められたので、俺は圧に負けて応えてしまった。ポルポ代議員がこの光景に呆然としている――


こうしていよいよ修羅場となる、議会4日目を迎えた。


 

























<続く>








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