とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第六十八話




「ニュービートル代表、アクレイム・トライアンフです。通告に従い順次質問させていただきます」


 初日に議会前で顔合わせをした議員、アクレイム・トライアンフ。少年のような体格と、壮年のような知性を感じさせる人間。理知的な立ち振舞いに、才知が伝わってくる。

正に天才肌の人物といった感じで、血統の差を痛感させられる。人種差別する思想など持ち合わせていないが、彼と比較すると自分の雑種ぶりが浮き彫りにされる錯覚を感じさせた。

それでもアリサやシュテルがいれば気後れすることはないのだが、二人の知恵袋が居ないと会話さえ成り立たないのではないかという不安がある。審議なんて、俺に出来るのだろうか。


俺の不安を他所に、議会は容赦なく進んでいく。


「まず最初に私の地元に関する質問として、惑星ニュービートルの宙域における衛星空間の有効活用についてお伺いいたします。
公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信を前提とした場合、星基幹放送及び移動受信用地上基幹放送を成立させるにあたって、第一項及び前項の規定が必要となります。

各号のいずれかに該当する場合、無線局の免許を与えられないのでしょうか」


 げっ、やばい。何言っているのか、全く分からない。この議員、電波に関する条約を相当読み込んできやがったかな。

相手がテレビジョンに対して詳しくないからこそ、地球のテレビ放送を知る俺が体感で物を語っているのである。実体験と知識では、比較になりようがない。

知識を前提に説明するのと、実体験を前提に語るのでは趣旨が変わってくる。知識を持った人間に、経験で語っても伝わり方が異なってくるのである。


額に冷や汗が滲むのを感じたが、俺は少し考えて――思考を放棄した。


(よろしくお願いいたします)

(承知致しました)


 俺が一瞥すると、リヴィエラ・ポルトフィーノ商会長が心得たとばかりに立ち上がる。回答を明確に避けた俺に対して、特段思うところはないらしい。

負けず嫌いと、虚勢を張るのとでは意味合いが異なる。自分の才能を信じていた頃の俺であれば知った顔で弁論していたかもしれないが、生憎と俺は敗北を知っている。

虚勢を張って恥をかくくらいであれば、知っている人に素直にお願いした方がいい。一時の恥になるかもしれないが、一生の恥になるよりはマシだった。


聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とはよく言ったものである。


「――ですから現在残りの用地買収に取り組むとともに、、安全で円滑な通信設備確保の観点から、現道との接続や構成等の検討を進めているところでございます。
議員お示しの宙域に生じるスペースや衛星の有効活用につきましては、各国の意向とともに、将来的な全線供用時の構成を踏まえ、実現可能であるかを見極める必要があると考えている次第です」

「それは今後、他惑星での事例を調査する事を視野に入れていますか」

「連邦政府の議会や関係機関とも協議し、検討を深めてまいります」


 そんな事今初めて聞いたのだが、心得ていると言わんばかりにリヴィエラの隣で頷いている。実に馬鹿なボンボン社長ではあるのだが、ハッタリ以外に通じる武器を俺は持っていない。

連邦政府の議会や関係機関とも協議しているとか言っているが、多分裏で動いているのはクアットロだろう。悪巧みは天下一品なので、政治的分野では相当悪知恵を働かせているに違いない。

妹のセッテに頭の上がらない姉ではあるのだが、あらゆる裏技を使って政府組織に潜り込むのは上手い女である。尊敬する姉のドゥーエ譲りだそうだが、そんな生き方をしていて楽しいのだろうか。


議会がこうして進んでいる裏で、政治の腐敗が横行していると考えるとうんざりする。


「ここでパネルを御覧ください」


 この坊っちゃん議員、テレビジョンや電波法について勉強し過ぎだろう。どこから技術や知識を仕入れてきたのか、提示されたパネルには相当緻密な数字が列挙されている。

彼が話す内容は技術者からすれば当然の知識かもしれないが、民間から見ても浸透しやすい正確な説明が記されている。余程念入りに打ち合わせてきたようだ。

惑星独自で仕入れられる知識量ではないのだが、はたして何処で調べてきたのか。彼自身が天才なのも考慮しても、あれほど精通しているのは妙な気がする。


リヴィエラもパネルに視線を向けて、その美貌を険しくさせている。


「通信局では去年施行されました通信法の一部を改正する法律により、衛星空間創出のための指定制度として、総務省令を一新しました。
それに基づき、無線局に使用される同項の無線設備は適合表示無線設備でない場合であっても、総務省令で定める期間を経過する日のいずれか早い日までの間に限り、適合表示無線設備とみなされます。

この制度などを参考に、総務省令で定める軽微な変更であれど、その旨を必ず行政機関に届け出なければならないと検討していただきたい」


 議会が大きくざわめいた。リヴィエラも目を丸くしているし、公平な議長も突然の提案に驚いた顔をしている。

総務省令で定める法律に対してほんの少しでも規定とは違う変更が出れば、行政機関に届け出なければならない。つまり現行の通信ではなく、テレビジョン放送が可能な通信革命を行う場合は行政の許可が必要となる。

話を聞く限りでは当たり前のように聞こえるが、行政機関への届け出となると話が変わってくる。何故なら――


行政機関の長こそが、かの大統領であるからだ。


「議長」

「リョウスケ氏」


 政治における常識を盾に切り込んでくるとは、面白くも大胆な議員である。政治とは本当にあらゆる策謀が認められる主戦場なのだと思い知る。

リヴィエラの事は信じているが、彼女と大統領が対立する構図を描くのはマズい。商会の長である以上、政府を敵に回すべきではない。

一方で、俺としては大統領から目をつけられているので問題はない。いや、正確に言うと問題はありまくりなのだが、目をつけられているのはほぼ確定なので今更である。


本当に大統領が転生者で、同じ地球出身の俺を疎んでいるのか分からない――ただハッキリ言えるのは、俺はアリサやシュテルの判断を信じているということだ。


「技術基準の指定については、告示をもって行わなければならないと言及させて頂きます」

「無線局に使用するための無線設備について、当該無線設備を使用する場合の基準変更申請があったときは、行政機関が受けるべきではありませんか」


 アクレイム・トライアンフ議員は正しい事を言っている。もう少しいうと、正しさを縦に電波法にメスを入れようとしている。

彼の正しさは大統領と彼の惑星ニュービートルに通じるのであって、俺達からすれば不利益になりかねない。ゆえにこそ、対論する羽目になっている。

俺達が正しいのではない、不利益になるから反対しているだけだ。正しさは彼になり、正義は彼の主張にある。善悪を問えば、俺達に非があるのだろう。


だが生憎と、この世の中は正しさがまかり通っているのではない。人々は明日の糧を得るべく、日々を生きている。


「電気通信業務を行うことを目的として開設する無線局は、あくまで法に基づいて判断するべきです。
今後テレビジョン放送を送る上で通信の改定を受けようとする者は、申請書に事項を記載した書類を添えて、行政機関に提出すればいい」

「……認定を受けたいと思うのであれば、手続き上は私と貴方の認識は同じではないか」

「行政が常に判断するのではなく、予め法に規定して議会が定め、法令に則って申請書を元に判断すればいいのです」


 同じようなことを言い合っているように見えて、判断基準が違ってくる。つまり議会の法が決めるか、行政を司る大統領が決めるのか。

大統領でも変な横槍を入れるような真似まではしないが、転生者である場合どのような価値基準で判断するか分かったものではない。

つまり大統領が信用出来ないという理由で、俺は固辞しているのである。行政の長を信じようとしない姿勢は、向こうから見れば奇異に見えるだろう。


言い争うべきではないが、あいにくとアリサ達が居ないので上手く言い繕える自信がない。


「議長、私から提案があります。通信設計が第三章に定める技術基準に適合しているかどうか、議会へ提示していただきたい。
従たる目的の遂行がその主たる目的の遂行に支障を及ぼす恐れがないことを示していただかねば、電波法に賛同することは出来ません」

「委員会で協議いたします」


 あっ、くそ、議員ではない俺がテコ入れできない所から攻めてきやがったな。議長は協議するとか言っているが、多分提示しろと俺に要求してくるだろう。

通信における根本的基準に合致するかどうか、技術基準を明確にしなければならない。粗探ししようと思えば、どうやったって出来る。

反対派に格好の材料を与えるだけだが、ここでムキになっても心証を悪くするだけだ。大統領へ権限を渡るのを阻止できただけでも儲けものと見るべきだろう。


頭の痛い結果になってしまったが、最悪だけは回避できたというべきか。


「リョウスケ様。よろしければ今晩、私の屋敷へいらして下さい。作業と整理が必要になります」

「承知致しました」


 女性の部屋にお邪魔すると聞くと色っぽく聞こえるが、実際はただひたすらの事務作業である。

オフィス恋愛なんぞという概念もあるようだが、商売や政治が関わってくるとはしゃぐ気にもならなかった。それにしても――


アクレイム・トライアンフ議員――何故彼はあそこまで、大統領に肩入れしているのか。













<続く>








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