とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十四話







 精神的には疲れ果てているので、本当ならとっとと帰りたい。

朝気持ち良く起きたら、突然花見に誘われて、参加の見返り(?)に場所取りを命じられた。

渋々探しに出かけたら綺堂に会って、場所提供の見返りに月村を誘うように頼まれる。

そのまま強制的に学校へ連れて行かれたかと思えば、鷹城に見つかって逃走劇。

レンや月村、恭也の再会と助言で助かったが、借りを作ってしまった。

たった半日でこれだけの出来事。

天下を取る宿命にある男ともなれば、毎日が試練だとでも言うのだろうか?

・・・女教師に追い回される試練って、あまりにも情けない気がする。

解決はしたけど、この山のような原稿を渡されたしな。

こんな物俺が本気で書くと思っているのだろうか、あの教師は。

冗談じゃない。

作文なんてガキの時分に卒業した。

この学校にだって、二度と来る事はないんだ。

とっとと逃げちまえばいい。

あの教師の事だから家にまで取りに来る可能性はあるが、その時はその時。

鷹城に伝えた情報では、俺は高町家に住んでいる事になっている。

ならば高町家から出て、山の暮らしに戻ればいい。

もしくはこの町からも出て行って、再び気ままな旅に戻る。

鬱陶しいこの紙切れは焚き火代わりにでも利用してやろう。

今流行りの有効利用、エコロジーって奴だ。

ちょっと違うかもしれないが何でもいいや、がはははは。

俺は自由気ままな旅人。

学校の規則になんぞ従う必要はないのだ、愚か者め。

俺の足取りを追える人間はいない。

・・・この海鳴町から離れれば、むしろ追って来たりはしないだろう。

俺に制約はない。

教師に目をつけられてまで、滞在する理由もない。

考えてみれば、何時だって出て行けるのだ。

何もかもを捨て去れば。

今まで通り――他人との付き合いを拒めば。

人との繋がりを無視して生きていけば。


――今、俺は疲れている。


この疲れは間違いなく、人との繋がりで発生したもの。

高町家や綺堂、月村や鷹城。

何か一つでも蔑ろにすれば、精神的に疲労しなかった。

疲れてまで背負うべき約束でもないだろうに。

冷静で冷徹。

自分と他人を客観的に見ている心の中の俺が語りかける。

昔の俺。

この町で沢山のお人好しと出会う前の俺。

過去が、現在を嘲笑っている。

断てばいい。

絶てばいい。

斬れば――いい。

面倒ならば、最初からやらなければ良かったのだ。

約束したからといっても、破ってしまえればそれでいい。

薄情だと責めるなら責めろ。

知った事か。

あいつ等は別に友達でも仲間でもない。

いとも容易く、簡単に切れる関係でしかない。

飯や他の世話にはなっていても、反故しちまえばいいものを。

抱えた反省文を前にげんなりしている俺が滑稽だった。

初登校には重すぎる土産を持たされて、俺は下校――


――しなかった。


「侍君!」


 鷹城から解放されて待っていたのは月村だった。

授業が終わって休み時間にでもなったのか、廊下は生徒で賑わっていた。

職員室近くの相談室前。

人通りが少ないその部屋の前で、月村が壁に寄りかかって待っていた。


「何だ、居たのかお前」


 逃げる気が急に萎える。

捨てる予定のお荷物を支え直して投げやりに声をかけると、月村はむぅっとした顔をする。


「居たのかじゃないよ、もう! すごく心配したんだから。
同じクラスの高町君に相談したら、事情を説明してくれるって――」

「あー、なるほど。それで・・・」


 どうりで、タイミングが良すぎると思った。

地元の住所を聞かれて困り果てていた俺を、口裏を合わせて助けてくれた恭也。

助ける理由が分からないのではない。

高町の家の人間は、どいつもこいつもお人好しなのは実に良く分かっている。

例え付き合いの浅い俺でも、困っていれば手を貸してくれる。

この寡黙な高町恭也でも例外ではない。

問題はあの実に良いタイミング。

困っているところを都合よく助けが入るなんて、現実ではありえない。

少し疑問に思っていたのだが、謎はあっさり氷解した。


「前にも話したかもしれないけど、高町君と私は同じクラスなの。
本当は私が助けたかったけど、一緒に居た私が説明しても説得力ないし・・・」


 困り顔で笑う月村に、俺の隣で静観する恭也が苦笑いする。

視線で感情を共有しあう二人。

・・・むぅっ。


「別にお前の助けなんぞいらんわ」

「あ、ひどーい! 
いっつも、どうして侍君はそういう冷たい事言うのかな。
こういう時って盛り上がる場面でしょ」

「お前が相手だと、クライマックスでもテンション落ちるっつうの」

「うー・・・この人、殴りたいっす・・・」


 何故か敬語で拗ねたように睨む月村。


重なる――赤い瞳。


一瞬ゾクっとするが、首を振って残影を追い払う。

月村相手に何をびびってんだ、俺は。

気にしないって誓ったばかりだろ。

ハラハラする俺を不思議そうに見つめ、月村は視線を落とす。


「何それ、反省文の束? くすっ」


 ぐっ、見られてしまった。

内容はまだ書いてないが、この状況で原稿用紙を抱えていれば誰でも分かる。


「何がおかしいんだ、てめえは!
そういうお前こそ、先生にあの後注意とか何かされなかったか?
罰として便所掃除とか、スカートめくりとか」

「・・・セクハラだよ、侍君。

でも・・・うん、侍君が庇ってくれたから何もなかったよ」

「っち、何もなかったのか」

「どうして舌打ちなんかするの!?」


 怒ったり笑ったり、悲しんだり喜んだり。

最初会った頃のイメージや、あの時の冷たい瞳には似つかわしくない今の表情。

その辺の子供にはない聡明さを備えた美貌を持っているのに、俺には気安く接する。

こいつと話していると・・・やさぐれている俺が馬鹿みたいに思える。

身構えてばかりだった昔が思い出せなくなる。

面倒なだけの関係も、何となくこれでもいいかと思わされる。

適当に書いて明日提出するか――などと。

月村忍。

この町で初めて出会った女。

――俺とこの町を繋ぐ人間。

俺は――



「月村――お前って、桜とか好き?」

「え・・・?」


 こいつと見る桜もいいかもしれない。

何故か、そんなガキ臭い事を口走っている自分がいた。






































































<続く>







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