とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第六十六話




「? リョウスケ様、ご気分でも優れないのですか」

「い、いえ、決してそのような事は」


 電波法制定の連邦議会、三日目。テレビジョン開設の命運が半ば決定づけられる重要な議会を前に、緊張を見せる俺をリヴィエラ・ポルトフィーノは怪訝な顔で見つめている。

なんで三日目にもなって今更緊張しているのか問われると、ハッキリ言って返す言葉がない。シュテルとアリサが居ないので不安なんです、こんな情けない事を堂々と言える男がはたしてこの世に存在するだろうか。

議会も三日目に突入すると、いよいよ電波法やテレビジョンそのものに対して切り込んでくるだろう。一応俺なりに勉強はしているが、専門的な事を説明できる自信は全く持ってなかった。


日本の政治家は秘書や官僚任せで情けないと思っていたが、我が身になってみると思いっきり頼りたくて仕方がなかった。


「まさか……シュテルさんがいらっしゃらなくて不安なんですか」


 美人商会長の鋭すぎる私的に、表面上狼狽を見せなかった自分の成長ぶりを自画自賛したい。少なくとも内面では、心臓が引っ繰り返る程の衝撃を受けている。

何故わかったんだと胸倉つかんで問い質したいほどの観察眼であった。貴族である実家を何一つ頼らず、独立して一代で商会を築き上げた才女の目は一人の男の困惑を見抜くくらい簡単だろう。

言い訳したかったが見苦しいだけなので、どうしたものか。単純に否定すればいいだけなのだが、この後の議論でメッキが剥がれてしまえば余計に情けない気がする。


俺が返答する前に、リヴィエラは自分の口に手を当てて口元を緩める。


「ご息女様を愛していらっしゃるのですね。シュテルさんはとても聡明な方ですが、親の心配は違いましょうし」

「目を離すと何するか分からない行動力があって、親として頭が痛くもあります」


 楽しげに全く別の見解を述べられて、瞬時に俺は乗っかった。相手が勘違いしてくれたのだから、合わせない話はない。

実際問題、何するか分からん奴ではないので嘘はいってない。ポルトフィーノ商会との交渉を任せてみたら、テレビジョン開設なんぞという革命を勝手にやりやがったからな。

俺への信頼については今更疑っては居ないのだが、俺ならこれくらい出来るだろうという勝手な信頼もされているので、始末に困る。あいつの俺への評価は、高すぎる。


今回はクアットロではなくアリサと一緒に行動しているから、訳分からん騒動は起こさないとは思うけど。


「親として、ですか……立ち入ったことを伺いますが、シュテルさんはリョウスケ様のご息女であらせられるのですか」

「ええ、ご賢察の通りあの子は養女です。血の繋がりはありませんが、私の家族ではあります」


 常に相手を立てる慎み深い貴族の御令嬢が、会話の流れに乗じて伺ってきた。シュテルがこの場に居ないからこその配慮であろうと思われる。

本人が居ないからと言って勝手に聞き出していいものではないが、その点はリヴィエラもよく分かっている。だからこそ今まで、別段問い質す真似はしなかった。

今になって聞いてくれたのはもう一つの偶然である、議会の場での会話だからだ。言いたくなければ沈黙していれば、議会が始まって打ち切れる。そうした配慮をしてくれている。


本来であれば素性を問い質しても不思議ではない取引関係なのに、今まで俺に配慮してくれたこの人にはせめて誠意を向けるべきだろう。


「とはいえ、私もまだ独身で企業を起こしたばかりの若輩者。孤児であるからと言って、身寄りのない少女を引き取るような善性は持ち合わせておりません。
実を言いますと、養子縁組の話は彼女本人が持ちかけてきたのです」

「シュテルさんがリョウスケ様に取引を?」

「ええ、自分達の才能を買って欲しいと持ちかけてきました。家族として受け入れてくれるのであれば、自分達は持てる才能の全てを尽くして私の力になるのだと。
本来であれば荒唐無稽な話ではあるのですが――シュテル達の実力については、リヴィエラ様ご自身も評価されておいでの筈です」

「なるほど、よく分かる話です。もしも私の商会を訪ねて同じ取引を持ちかけられれば、養子縁組はともかくとして厚遇を持って雇っていたでしょう。
生活の保証は勿論のこと、才能を存分に発揮できる場を設けて立身出世させていたはずです。

ふふ、今だけはリョウスケ様に嫉妬いたしますわ。私の所へ先に来てくださればよかったのに」

「ははは、残念ながらお渡しすることは出来ませんよ」


 ――嘘は何一つ言ってない。シュテルは実際、俺が闇の書へアクセスした時にあいつから俺に取引を持ちかけてきた。


法術を使用して自分達をアリサ達のように実体化させる代わりに、自分達は俺の家族として力になると訴えてきたのだ。

今思えばなんで受け入れたのか分からんほどの怪しい話ではあったのだが、あまりにも必死だった為につい受け入れてしまった。俺もそういう意味では情けないかもしれない。

だが蓋を開けてみれば、リヴィエラも羨む程の存在感を発揮している。ユーリ達が居なければ、聖地での乱は収められなかっただろう。


「シュテルは今大統領について調べさせています。今朝は貴重な情報、ありがとうございました」

「先日の動きを受けて、早速行動に出られているのですね。議会に直接関わってくるかどうかは未知数ですが、議会との関係を考えれば思わぬ手を打ってくるかもしれません。
徹底した権力分立制を維持するか、より多くの議会との協力関係を残すか。我々の行動による試金石とされているのでしょう」

「連邦政府における議会はきわめて強力である為、此度の騒動を受けてメスを入れるタイミングを測っているというお考えですか」


 先日の議会における俺の弁論に対して、大統領は批判的な言動をした。この事実一つを参考に、リヴィエラ・ポルトフィーノは着眼点を広げて見事な考察を示している。

俺達は彼女が地球からの転生者である事実を元に推論を立てたが、リヴィエラは連邦政府のトップである大統領本人の力量を元に今後の戦略を看過してきたのだ。彼女の才覚は恐れ入るばかりだ。

アリサ達の読み通り、地球からの転生者であることを特別視しているのであれば、俺は目障りであるはずだ。それと同時に、これを機に自分の権威を広げようともしているのだと、リヴィエラは補強している。


連邦政府は三権分立が徹底しており、大統領は議会解散権を持たず、議会も大統領不信任決議の権限を持たない。この構造にメスを入れようとしているのであれば――


「これより本日の会議を開きます」


 考察半ばで議長が開会宣言を行い、俺の思考が打ち切られる。いずれにしても大統領については、アリサやシュテルに任せるしかない。

今日の問題はあの子達無しでどう乗り越えるのか、俺本人に命運がかかっているのだと言っていい。明日の事を考えるより、今日この時に集中するべきだ。

昨日の大統領からの批判的な発言で、今日に至るまでに築き上げた流れが変わってきている。萎縮していた反対派が勢いづき、ポルポ代議員も得意げな顔で議席から俺を見下ろしている。


政治的情勢は、ちょっとした潮目で変わってしまう。昨日までの全てが崩れる訳ではないのだが、のんびり構えていると足元をすくわれる。


「日程第一、議員辞職の件を議題といたします――以上、それぞれ議員の辞職願が提出されております。辞職願を朗読させます」

「辞職……?」

「――リョウスケ様。今読み上げられたお三方、電波法に賛同されていた議員の方々です」


 なにい!? 大統領の発言で日和見を決め込むどころか、辞職までするのか! リヴィエラの神妙な説明に対して、俺は一考を案じる。

大統領からなにか政治的な圧力でもかかったのだろうか。議会に対して強制力がない為、議員達に向けて圧力をかけたとでもいうのか。

常識的に考えればありえない話ではあるが、政治に一般人の常識は通じない。連邦政府は俺にとって異星なのだ、どんな常識がまかり通っているのか全くわからない。


どの勢力が動いているのか定かではないが、いずれにしても妨害がされているのは間違いない。


「お諮りいたします。議員の辞職を許可することに御異議ありませんか」


 くそっ、誰だか知らないがやりやがる。議員に対する権限なんて俺達は持っていない。異議を訴える権利はなかった。

主要各国の賢人たちに目を向けるが、彼らが干渉する気配はない。当然だ、彼らは俺達の味方ではないし、わざわざ議員の辞職を反対したりはしない。

ポルポ代議員なんて、早くやめさせろと言わんばかりにニヤニヤしている。せめて賛同に回った議員を自勢力に寝返らせるくらいの気概を見せてほしいものだ。


そうすればリヴィエラも見直すと思うのだが、そういう反骨心とかってないんだろうな……


「御異議なしと認めます。よって――議員の辞職を許可することに決定いたしました」


 ぐぬぬ、場外ラウンドでケリがつけられてしまった。口出しする権限がないので仕方がなかったのだが、やり込められた感はすごい。

アリサやシュテルがいれば切り口の一つでも見出だせたかもしれないが、二人はいない。相談できる相手が居ないのは、意外と困るものだった。

そう考えると、やはり自分が情けなくなる。今まで多くの難局を確かに乗り越えては来たが、俺は独力で乗り越えられたと言えるのだろうか。


試金石――案外今の事態は、今の俺の真価が試されているのかもしれない。













<続く>








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