とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第四十一話




 プレゼンテーションは成功したが、通信による交渉のみですぐさま契約成立とはいかない。衛星兵器と新通信機器の現物を見せた上で、テストなどの工程を経なければならない。

この点についてはトップ同士の会議で済む事ではないので、ポルトフィーノ商会とカレドヴルフ・テクニクス社との取引が必要だ。多少の時間がどうしたって必要となる。

幸いというべきか、ポルトフィーノ商会の代表を務めるリヴィエラ・ポルトフィーノは非常に前向きで、すぐにでも取引したいと申し出てくださった。


惑星エルトリアからの強制退去を命じられているこちらとしても、時間に猶予はない。早速、CW社より適切な人材を派遣することになった。


『お任せください、父上。開発責任者として、私が見事交渉成立させてみせましょう』

『研究主任といたしまして、必ずやご期待に応えてみせますわ。吉報をお待ち下さい、うふふ』

『……この組み合わせに果てしない不安を感じる』


 惑星改善に全力投球のイリスやユーリを派遣するわけにはいかないので、CW社よりシュテルとクアットロが交渉に向かう事となった。頭は良く交渉にも長けているが、余計なことをしないか怖い。

レリックウェポンと自立作動型汎用端末、そして衛星兵器。構造や仕組み、役割や設計を知る人間は少なく、そのどれにも長けている二人が適任ではあった。俺も交渉こそしたが、内部構造は熟知していない。

営業を持ちかけたのはこちらなので、連邦政府主星にある商会本部で取引が行われる。本来こちらから出向くべきなのだが、よほどこの交渉を魅力的に感じてくれているのか、リヴィエラが迎えの商船を出してくれた。


不安こそありつつも、シュテル達を見送って、俺は果報を寝て待つことにした。


「さて、今のうちに村開拓を全て終わらせるわよ。強制退去を命じられてしまった以上、早めに次のフェーズへ移行するわ」

「惑星が改善されて村が開拓できれば、エルトリアも復刻されるだろう。後は移住民に任せればいいんじゃないか」

「何言っているのよ、エテルナさん達からも不満の声が出ていたでしょう。自給自足の生活といえば聞こえはいいけど、皆に原始時代を送らせるつもりなの?」

「言い方が悪いからね、お前」


 フローリアン一家はこの惑星で今まで放牧生活を送っていたが、本人達の希望のみで自給自足を過ごしていた訳ではない。そうした生活以外に、選択肢がなかったためだ。

荒廃した環境で文明文化など起こるはずもなく、モンスター退治をしながら懸命に生きていた結果に過ぎない。結果として彼女達は美しい肉体を獲得したが、同時に文化を捨ててしまっていた。

妖怪達は古代の生活に戻ったと安穏としているが、傭兵達は文明文化のない生活に不平不満を上げている。俺も孤児院を出て放浪生活を送ってこそいたが、先進国の日本での旅だ。文明の中だからこそ生きてこれた。


何しろ自動販売機もない世界だ。井戸水を飲んで生きてはいけるが、不自由は当然のように生じるだろう。


「言いたいことは分からんでもないが、具体的にどうするんだ。ミッドチルダから科学技術を持ち込むと、色々言われるぞ」

「文明は後回し、次に行うのは産業革命よ!」

「産業……?」

「生活に必要な物的財貨および用役を生産する活動よ。ようするに人々が生活する上で必要とされるものを生み出す経済活動を、この惑星で行うのよ。
村を起こして生活基盤がようやく出来たのだから、社会的な分業として行われる製品やサービスの生産を行っていきましょう」


 アリサの計画を具体的に聞き出すとややこしくなるが、ようするに以下の3つを手順を踏んで行うとのことだった。


まず第一次産業――これは農業や林業、水産業などが代表例で、モンスターの狩猟や自然の採集を主に行う。これについては古代を生きてきた妖怪達がメインに進めることになった。

次に第二次産業――製造業、建設業、工業生産や加工業。これは俺が一番気にしていた電気やガス、水道といった整備である。この点はCW社が全面協力した上で、アミティエ達が行うことになる。


そして第三次産業――これがアリサの提唱する俺達の仕事といえる。


「情報通信業、連邦政府や主各国が現在最大の課題としているこの産業をこのエルとリアで発展させるわ」

「お前の話だと第三次産業は小売などのサービス業も含まれるんだろう。今俺達に求められているのは、そっちじゃないか」

「あんた、取引相手である商会の仕事を取り上げるつもり?」

「あ、そうか……彼らが運輸業や小売業を請け負ってくれるのか。あくまでも俺達は取引の上で対価を払って仕入れるんだな」

「非物質的な生産業だからね、どうしたって連邦政府には太刀打ちできないわよ。配分業はあっちに任せましょう」

「了解だ。ではユーリ達と連携しつつ、産業を発展させていくか」


 此処から先はものすごく忙しいが、恐ろしいほど地味な作業に従事することになる。どうしたって地味になる割に忙しく、これこそ全員が能力を発揮して取り組まなければならないからだ。

人間と妖怪、異世界人と異星人、魔導師と科学者、日本人と外国人。あらゆる分野と歴史、文明と文化、技術と魔導を知る者たちが集結しているからこそ出来る偉業であった。

エルトリアという惑星に必要なのはヒーローではない、チームだ。一人一人ではなく、大勢が集まって力を合わせるからこそできる。一剣士に出来ることはたかが知れているからこそ、軍隊という集団の力が重要となる。


歴史に刻まれることのない歩みを、俺達はエルトリアの地で着実に行っていた。















『速報です』


 ――その始まりは、ある日放送されたニュース速報であった。


連邦政府直下ではマスメディアを通じてさまざまなニュースが送られてくるが、あくまで政府直下である。理由は単純で、通信機器が発展していないためだ。

地球では明暗を電気の強弱に変えて遠方に伝える装置が媒体となっているが、これはあくまで衛星を通じて世界各国に送られる通信技術である。連邦政府ではこれが行えない。

映像や音声自体は送れるのだが、惑星間ともなると情報は限られてくる。例えば以前俺が商会に営業を仕掛けたが、あれもあくまで音声を通じてのやり取りだった。

音声と映像、この2つを同時に通信するのはデータ上の観点から非常に困難であった。


『ポルトフィーノ商会とカレドヴルフ・テクニクス社との共同開発により』


 つまり連邦政府直下において――


『"テレビジョン"と呼ばれる電気通信放送が実現される運びとなりました』


 ――テレビというものがないのである。


「……は?」


 惑星エルトリアに設置されている通信機器より聞こえてくる、音声放送。いわゆるラジオに等しいニュース速報を聞いて、俺は思わず声を上げてしまった。

今なんて言った、テレビジョン? テレビ? ポルトフィーノ商会とカレドヴルフ・テクニクス社との共同開発? そんな開発をした覚えはまったくない。

社長である俺が預かり知らぬところで、勝手な放送がされている。


『映像を遠方へと送る通信技術がカレドヴルフ・テクニクス社が開発実現し、ポルトフィーノ商会が代表で特許を出願。
連邦政府ではテレビジョン実現により、"電波法"の提案が突如なされました。現在議会では緊急動議が出され、政府内で混乱が起きている模様です』


 なになになに、何がどうなっているの!? 当事者である俺を置いて、勝手に話が盛り上がりすぎているぞ。

"電波法"が議題に上がっている? まさか、電波の公平かつ能率的な利用を商会が確保しようとしているのか。無理筋すぎるだろう!?

話を聞いていると、どうやらCW社が公共の福祉を増進することを目的としているとの事だった。連邦政府にすり寄る姿勢がズルすぎて、笑えてくる。


商売としても、交渉としても、これ以上ないほど悪辣な戦略だ。連邦政府を揺るがす事態を起こしておきながら、否定しづらい旨味を押し付けている。


『これまで我々メディアは衛星を通じ、音声と映像をデータ媒体化して皆様に放映しておりました。ゆえに限られた範囲であり、政府承認の情報を送る手段でしかありません。
ですが、"テレビジョン"と呼ばれる電気通信放送は違います。
新型の通信機器及び衛星より発信する通信電波を利用、映像を電気信号に変換する機器の開発と、映像信号を増幅する装置が諸各国に提供される運びとなります。

この技術の実現により、惑星間を隔てた地点間でのデータ送受信が実現できるのです』


 ――明らかに、政府の統制が行われていない。このニュース速報を伝える声は興奮に満ちており、自由に行われている。

待って、どういうことなんだ。通信機器の販売に出ていったシュテル達は、ポルトフィーノ商会とどんな交渉をしてきたんだ。

だいたいまだ実験段階だったはずだぞ。


『皆様、更なる速報です。連邦の政府研究所でデータ送受信の公開実験に成功したとの事です』

「連邦の政府研究所!? どこでテストしているんだよ、あいつら!」


 利権どころか、政権にめっちゃ食い込んでいて、椅子ごとひっくり返った。まさかポルトフィーノ商会、本気の本気で全力投資していやがるのか!?

政府にコネがある事自体は知っていたが、人脈やツテを最大限活用しまくっている。そうでなければ、連邦の政府研究所という最高機関で実験なんぞ出来るはずがない。

誰がそこまでやれと言った!


『ポルトフィーノ商会が資金提供を行い、今後カレドヴルフ・テクニクス社の元で電子走査式衛星装置が考案される運びとなっております。
政府が今混乱をきたしている電波法が万が一にも可決され、衛星装置が実現化した際は、なんと我々の前でテレビジョンによるメディア放送が行われるのです。

これをお聞きの皆さん、我々は今歴史上の革命を目の当たりにしています』


 いやいやいやいや、肝心の俺が全く分かっていないんですけど!?


『カレドヴルフ・テクニクス社の代表である、宮本良介氏の言葉が商会より届きました。

"皆さん、このテレビジョンは神様からのプレゼントだ。
私達はこのプレゼントを手にして娯楽を提供し、人類の未来と世界の平和を実現してみせましょう。

人々の理解を深め、偏見を根絶し、惑星間にある差別をなくす。このテレビジョンこそ、皆さんの未来を開いてくれるでしょう"』


 俺が俺の知らないところで、勝手に喋ってるぅううううううううううううううううう!?

世界平和と人類の未来を謳う、この台詞。10000000%、クアットロのバカ野郎が考えたに違いない。あいつ、世界を面白がって扇動してやがる!

電波法が万が一にでも可決したら、俺は強制的に表舞台に連れ出されてしまう。


連邦政府という巨大政府組織との、戦争になるぞ。















<続く>








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