とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第四十話




「紹介いたしましょう。レリックと呼ばれる当社独自の燃料媒体でエネルギーを発生させる特殊なユニット通信機器――
あらゆる言語での会話が可能としたコンバット製品"パフューム"です」


 ――ミッドチルダという文明の基礎にして根幹となる魔導の持ち出しは、厳禁とされている。

時空管理局が次元世界の管理を徹底しているのは傍目からみれば傲慢に見えるかもしれないが、彼らは魔導が起こした悲劇をよく知っている。

ロストロギアはあくまで象徴であって、遺失物だけが悲劇を生み出しているのではない。魔導という力は便利ではあるが、文明さえ生み出す恐ろしさを秘めている。


アミティエ達は魔導を知らなかったところを考慮しても、連邦政府は魔導という存在を把握していない。


「数ある衛星国家が所属する連邦政府下において、共通言語が一般的とされています。法律上で明記こそされていませんが、あらゆる分野で共通言語が使用されている。
このユニットは共通言語での会話をクリア化こそしていますが、一般的な言語として主軸を置いておりません。

連邦政府下に置かれている衛星国家全てにおいて、通常言語での会話を可能としております」

『ご、ご冗談を……衛星国家全てとなりますと、単純な公用語のみではありません。
連邦政府が管理する誘導制御指令送信を用いて、人工衛星からの各種の通信やデータ転送を行っているのですよ。

衛星同士の宇宙通信は指向性が強く、現在の通信回線ではエネルギー伝達率が上がらず、遠距離では繋がらないではありませんか』


 連邦政府緒各国における通信機器産業の停滞は目を覆うばかりであり、ポルトフィーノ商会が現在力を入れているのも当然と言える。参入できれば値千金であり、ゆえにこそ難業とも言えるのだ。

彼女自身が手掛けているからこそ、通信産業の欠点をよく知っている。遠距離に到達できるようにするには莫大なエネルギーが必要であり、宇宙局から出る電波を全て調整しなければならない。

連邦政府に所属しているとは言え、衛星各国が自国家の周波数を公開するのはありえない。通信傍受されれば情報流出の危機だ、徹底して守られており、だからこそ送受信の問題が壁となってしまう。


感度の高いアンテナが必要であると同時に、信号音を雑音から区別する技術を向上させなければならない。今の技術では頭打ちだった。


「我が社が開発した通信機器は小電力でも遠距離に到達できるように、通信回線に増大させた周波数を発信しています。
言語の壁を超えられたのは、通信衛星を発展させたからです。連邦政府に所属するエルトリアも、元々周辺各国の言語自体は把握していましたからね。システムに組み込むのは容易でした」

『中継を通さずに、惑星間の通信を可能としているのですか……恐れながらどのような技術を用いているのか、概要だけでもお聞きしてもよろしいでしょうか。
これまで当商会でも数多の技術を活用、もしくは素材を利用した技術促進を試みたのですが、マイクロ波を安定させるだけで精一杯でした』


 リヴィエラ・ポルトフィーノが唱えていた誘導制御指令送信は、地球ではロケットを打ち上げる時などに使用している。人工衛星同士の連絡などに使う、いわゆる通信衛星とよばれるものだ。

連邦政府では通信衛星については注目していて発達を続けているようだが、アンテナから出る電波の出力はどうしても小さくなる為、これまで惑星間の通信は困難となっていた。

当然全く繋がらない訳ではないのだが、惑星間で中継しないといけないため、雑音などが混じってしまう。


データ通信の精度も下がり、諸国間での情報共有などが難しくなってしまう。


「企業秘密に当たりますので詳細は申し上げられませんが、電波のみではなくレーザー技術――いわゆる光回線の実現に成功しています」

『光通信を使用!?』


   宇宙と地上を統合したグローバルネットワーク。光衛星通信と衛星通信との組み合わせで、将来の通信データを活用できる宇宙と地上の統合ネットワークの実現を行う。

地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光通信のインフラ。同時かつ同一周波数で異なる情報を光という媒体で伝送することで、通信の大容量化を実現する技術を開発した。


この技術を確立させたのが、魔導殺しという目標。聖地でカリーナお嬢様相手に俺が提案した技術の最たる進化による賜物である。AMFの危険度を理解していれば誰でも提案できる空想を、カリーナお嬢様は大真面目に採用してしまった。


魔力無効状況下でも通信可能なCWコネクトといった最新の通信システムを構築することで、電波だけに頼らない宇宙から地上までのシームレスな超高速大容量通信を可能としたのだ。

魔導に反する技術ゆえにミッドチルダでは採用に漕ぎ着けるまでに多大な努力を必要としたが、言い換えると魔導の知らぬ世界であればこのように気軽に持ち込めることが出来る。


魔導殺しの異端を逆手に取った、異世界ならではの反則技だった。


「元々我が社はセキュリティーサービスをメインに行っており、こうしたセキュリティーサービスと業務提携した新製品を提案させて頂いているのですよ。
なにぶん自社製品の採用実績が未だに少ない為、代表である私自らこうして連邦政府という大きな市場への食い込みを図るべく、動かせていただいております」

『正直申し上げて耳を疑う話ではございますが、実現可能であるのならば確かにCW社様の目玉商品でいらっしゃいますでしょう。
正式採用を目指して連邦政府への売り込みが行うべく、リョウスケ様ご本人がプレゼンテーションを行うのも頷けます。

こうして営業をかけていただいたのにご挨拶もせず、疑問を投げかけてしまい、大変失礼いたしました』

「いえ、突拍子もないお話だというのは、こちらとしても自覚はしております。ゆえに私本人が商会様へ営業をかけさせて頂いた次第です」


 ……アポイントメントを楽しんでたやんけ、という隣室のアリサからの容赦ないツッコミはシカトする。話がつながったんだからいいじゃねえか。

個人装備サイズでの実用的な高速魔力変換運用技術。イリス事件解決の為に開発させた技術は、事件当時は術者の魔力を端末内部で物理エネルギーに変換して出力していた。

この魔導エネルギーの代用品がレリックである。クアットロ達が開発したレリックウェポンは小型であり、端末機器に組み込むのは容易でエネルギー変換率も高くて扱いやすいものであった。


シュテル達CW社の開発担当は、この技術の成功によって魔導エネルギーの歴史が変わると意気込んでいる。


『ご説明ありがとうございます。前向きに検討させていただきたく、是非とも詳しいお話をお聞かせ下さい。よろしければ私から直接エルトリアへ参りますので、商談の席を設けさせて頂けませんでしょうか。
もし御足労いただけるのであれば、是非当商会へいらして下さい。リョウスケ様は私にとっても命の恩人であり、歓待させて頂きたく思っております』

「魅力的なご提案、ありがとうございます。検討して頂けるとのことで、何よりです。皆さん、やはり通信産業には注目されていらっしゃるようで」

『皆さん、と申しますと?』

「先程申し上げたとおりです。この商品は連邦政府下において採用実績の少ない我が社の生命線とも言えるもので、売り込みも積極的に行っていくつもりです。
惑星エルトリアはリヴィエラ様がご存知の通りの状況でして、今後この惑星を拠点に代理人兼企業代表として活動していく手前、慎重に事を進めなければなりません」

『……ポルトフィーノ商会のみならず、他にも売り込みをかけていらっしゃると』


 八方美人と批判的に受け止められるかもしれないが、企業人からすれば当然の行動である。この通信技術が連邦政府で確立すれば、将来は安泰といい切ってもいい。

自分自身で開発したのであればこんな強気には出れないが、シュテル達が全力を注いで完成させた技術だ。企業利益だけではなく、彼ら自身の価値を安売りなど出来るはずがない。

ポルトフィーノ商会はそこらの小国程度では太刀打ちできないほどの経済力を持っているが、だからといってお伺いを立てて頭を下げまくるつもりはない。


シュテル達の技術であれば、連邦政府にも顔が利く要人が相手でも太刀打ちできる。


「いえ、お声掛けしたのはポルトフィーノ商会が最初でございますよ」

『えっ……』

「連邦政府へ直接売り込むことも考えたのですが、リヴィエラ様にはフローリアンの方々がお世話になりました。
彼らは私にとっても大切な顧客であり、友人。たとえ依頼による契約関係であろうとも、貴女様はエルトリアとの関係を大切にしてくださった。
だからこそ我が社の自慢である通信技術を私自身が直接お声がけする形で、まずポルトフィーノ商会様へお話を持ちかけました――リヴィエラ様へと直接繋げられたのは、幸運による賜物でしたが。

フローリアンの方々には義理があり、リヴィエラ様には御縁がある。私人として貴方様を尊重し、公人として連邦政府を重んじる。それ故のご判断だとお考え下さい」


 俺だって一番高く買ってくれる所へ持ち込むなんて、銭ゲバめいた馬鹿な真似はしたくない。けれどカリーナお嬢様に押し付けられたといえ、CW社の社長という立場がある。

アミティエとキリエにはお世話になったし、イリスだって今はもう自分の娘だ。彼女たちへの義理を果たすためには、リヴィエラにばかりいい顔はできない。

けれども同時に、彼女自身にもエルトリアが世話になったのだ。できれば彼女と交渉したいし、彼女の商会と取引したいとは思っている。


そのためにはなんとしても――彼女自身に、歩み寄ってもらわなければならない。


『――惑星エルトリアの強制退去の件、お話は伺っております』

「やはりそちらにも既に通じていましたか」

『ポルポ様より私宛に直接、お話が来ましたので――リョウスケ様を始めに、エルトリアの皆様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』

「いえ、リヴィエラ様の責任ではございません。モンスター襲撃にあったのは事実です、リヴィエラ様のお立場を考えれば無理もないことでございましょう。
契約関係があるとはいえ、利害のみで連邦政府は敵に回せない」

『胸中をお察ししていただくのは恥ずかしくはございますが、ご配慮頂けていたのはありがたく思います。
しかしながら、私としても一定の信頼はございました』

「信頼、ですか……?」

『ええ、惑星規模の窮地であろうともリョウスケ様であれば泣き寝入りはしないだろうと。
まさかご本人が直接営業をかけてくるとまでは読めませんでしたが、蓋を開けてみれば法外の申し出。

自分の目は正しかったことに安堵と、喜びを感じております』

「でしたら――」

『ええ、私でよければエルトリアの保証人をやらせてください。当商会の人脈やコネクション、資金や資材を活用してエルトリアを保証してみせましょう。
その代わりと言ってはなんですが、リョウスケ様の保有する通信技術を是非私の商会と提携していただきたくお願い申し上げます』

「契約成立ですね」


 偉そうに言ったが、実際に契約成立となるのは技術をきちんと見せてからだ。絵に描いた餅では、話にならない。契約書も締結しないといけないし、詰めに入るのはむしろこれからだろう。

ただ大筋で合意できたのは大きな成果であった。何より彼女から保証を申し出たのは大きい。こちらから保証を求めてしまうと、将来の弱みになりかねないからだ。

彼女に保証人をお願いするつもりではあったが、哀願してしまうと今後の関係に支障が生じる。俺はともかくとして、エルトリアの独立に向けて弊害になりかねない。


彼女は基本的に良心的な女性だとは思うが、同時に連邦政府と交渉できる手強い商人である。出来る限り、対等の関係を維持する努力は必要だ。


『衛星兵器に新型通信技術、革命が起きますよ』

「お互い、忙しくなりそうですね」


 ――革命だなんて大袈裟だな、あはは。

この時は、そう思っていた。















<続く>








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