とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第三十九話




『お待たせいたしました。ポルトフィーノ商会の代表を務めるリヴィエラ・ポルトフィーノと申します。魅力的な商談がおありだとの事で、是非お話を聞かせて下さい』

「えっ、商会長!?」

『えっ、リョウスケ様ですか!?』


「……」

『……』


『あの、何故わざわざ商会の窓口からアポイントを……? リョウスケ様のお名前を出して頂ければ、喜んで応じたのですが』

「……す、すいません」


 営業通信をあの手この手で繰り返していたら、あろうことかポルトフィーノ商会代表のリヴィエラ・ポルトフィーノとアポイントが取れて思わず仰け反ってしまう。

確かに遊び半分で行っていたのは事実だが、営業戦略を仕掛けたのはポルトフィーノという商会規模を探るのが目的でもあった。一代で起業した商会は、少国家を超える規模にまで発展している。

歴史のない財閥は侮られがちだが、反面新気鋭としての次世代戦力を持てる可能性も秘めている。そして歴史がないゆえに情報を探るのが困難で、懐にまで飛び込む必要があった。


窓口をひたすら叩いて中の様子を探るつもりだったのに、家主が出てきてしまっては本末転倒である。俺が情報という財産を奪う泥棒なら、家主は真っ先に警察を呼ぶ権利がある。


「私は現在フローリアン氏の依頼により惑星エルトリアの代表を務めておりますゆえ、惑星の今後を導く上で情報収集は欠かせません。
同時にあくまでも依頼として代理人を行っていますので、今後連邦政府管轄下での活動を視野に入れて営業を行っているのですよ」

『代表自ら営業に乗り出すとは、ご立派でいらっしゃいますね。しかし何故、我が商会の門を叩かれたのでしょう。
代表であり代理であるというのであれば、兼務する上でリスクもあるかと存じます。リョウスケ様一個人の営業成果次第では、エルトリアとの関係への影響もあるのではありませんか』


 隣の部屋で聞いていたアリサが、ほれ見ろ言わんこっちゃないと呆れた視線を向けている。お前だって面白がっていたではないかと、俺は一応抵抗する態度を見せる。

リヴィエラ・ポルトフィーノの指摘は、まったくもって正論である。惑星エルトリアとは既に取引契約を結んでいるのに、関係者が別の企業を名乗って営業を持ちかけるのは反則行為に等しい。

商売のイロハを知るリヴィエラが良い顔をしないのは当然だった。俺もまさか本人が直接営業に応じてくれるのは意外だったので、正直なところ面食らってはいる。


しかしながらこの程度で怯んでいては、夜の一族の世界会議や時空管理局・聖王教会との交渉を乗り越えられなかった。


「お言葉ごもっともですが、私自身としては手順を間違えているとは思っておりません」

『両立など難しいかと思われますが』


「敢えて両立する必要はございませんよ――ポルトフィーノ商会との契約は完了いたしましたので。
改めてご連絡させていただく所存でしたが、リヴィエラ様とお取次ぎ叶いました良い機会なのでご報告させて頂きます。

商会よりご依頼ありました人工衛星型兵器が完成いたしました」


『! まさか……まだ納期は半年以上ございますよ!?』

「よろしければプレゼンテーションさせていただきましょう。
惑星エルトリアと我々が保有する技術を用いて完成させた人工衛星型兵器、その名も『主星砲護衛機』でございます」


 日本で放浪していた頃は想像も出来なかった、異世界の通信技術。子供の頃夢見ていたハイテクノロジーにより、今では惑星間を通じて映像を見せることが出来る。

連邦政府より受注したポルトフィーノ商会の依頼による人工衛星型兵器、固有型『主星砲護衛機』。コロニー移住を条件に引き受けたアミティエ達の仕事をCW社が協力し、イリスが惑星エルトリアの技術を駆使して開発した人工衛星。

フォーミュラで衛星砲に改造した主星を守る独立個体であり、聖王オリヴィエのように自我や会話能力はなく、連邦政府が敵性判断した存在のみ殲滅する事を使命とする。


衛星軌道上から地表まで余裕で届く射程距離と威力を誇り、連邦主要政府の主星を守る人工衛星型兵器であった。


「地球軌道上の人工衛星を攻撃する兵器としての側面を持っておりますが、あくまでも対衛星兵器として機能していますので連邦政府に向ける世間の風当たりが良好と思われます。
ポルトフィーノ商会様との交渉事では偵察衛星としての実現化は難しいとのことでしたが、当社は偵察・通信のみならず多岐にわたっており、グローバル・ポジショニング・システムも実現できております」

『惑星上の現在位置を測定するためのシステム――民生運用に足る精度の基準を満たしているのですか!?』

「民間機の安全な航行のために非軍事的な用途、いわゆる民生的用途でも使えるように開発させていただきました。
この機能を搭載していれば、ポルトフィーノ商会様が懸念されておられた宇宙条約についても問題なく採択されるでしょう。

どうぞ憂いなく、連邦政府へ納品されてください。必要であれば商会より提示されるあらゆるユーザテストにもご対応させていただく準備がございます」


 グローバル・ポジショニング・システムとは、リヴィエラの言う通り惑星上の現在位置を測定するためのシステムである。3次元測位によって、衛星が自身の現在位置を知るシステムだ。

次元世界の航空が可能なミッドチルダにおいて宇宙航空研究開発は実に進んでおり、時空管理局との取引が成立しているCW社が導入するのも難しい話ではなかった。カリーナお嬢様から資金提供を受けているしね。

正確な受信時刻と受信機座標、いわゆる3次元空間上の点を測位計算により同時に求めるのが課題だったが、その点は忍やジェイル博士の技術を持って解決できた。


――つまり俺はなんにもやっていないのだが、自分の手柄であるかのようにドヤ顔しているのである。俺も嫌な大人になったものだ。


「本来であれば事前に規格の変更についてご説明差し上げるのが筋と思われますが、当方といたしましても先日ご確認いただいた惑星エルトリアの環境変化による影響がございまして。
今後何が起こり得るか予測不能である以上、ポルトフィーノ商会様の依頼を優先すべきであるとフローリアン氏にもご説明し、我々が保有する技術を用いて開発を推進いたしました。

あくまでも試作機でございますので問題などございましたら廃棄とし、当初の予定通りに開発を進めさせて頂く所存です。勿論今回行った開発費について、商会様に求めるつもりはございませんので」

『いえ、開発費及び諸経費全てこちらでお支払いさせて頂きます。経費は全て負担いたしますので、請求書をお願いいたします』

「ですがこちらの都合を優先させて頂いた手前、申し訳なく――」

『本来であればご指摘すべき懸案ではございますが……これほど見事かつ革新的な技術を見せつけられては、一商人として黙る他はございません。
リョウスケ様を一目拝見したときから只ならぬ御方との印象を持っておりましたが、貴方様は私の想像を超える御方でした。


失礼ですが、リョウスケ様は連邦政府直轄下ご出身ではあられませんね。察するところ、遠き異星より参られた方ではありませんか』


 ――ここまでミッドチルダの技術をプレゼンテーションしたのであれば、彼女ほどの慧眼の持ち主であれば容易く看破できる事実だろう。俺としても肯定するしかなかった。

次元世界を隔てて技術の提供や推進を行うのは時空管理局の航空法に引っかかるのだが、連邦政府という独自の宇宙条約が締結されている宙域となると話がややこしくなってくる。政治的干渉が難しいからだ。

その点については時空管理局や聖王教会とは事前に交渉を行っている。彼らからしても"聖王"という神輿を政治的理由で追放処分としたので負い目があり、ある程度の妥協は仕方がなかった。


どのみち惑星エルトリアの開拓にはCW社の技術が必要だったので、追放される際にきちんと問題点はクリアしている。


「仰る通りです。フローリアン氏には以前よりお世話になっていた経緯がございまして、この度惑星エルトリアの代理人としての依頼を引き受けさせていただきました。
その上で惑星エルトリアの地盤と私自身の基盤を築くべく、こうして営業活動を行っている次第です。
以前確認して頂いた通り、惑星エルトリアは現在未曾有の環境変化が行われております。今後の生態系が激変するのであれば、政治的猶予も生まれてくるでしょう。

人類が生存可能な環境へと発展した場合は、然るべき配慮と対応が必要となってくるかと」

『そのためにリョウスケ様は今後の足がかりとすべく、ご自身で営業活動を行っているという事ですか』

「先程リヴィエラ様より指摘受けた点に対する回答にもなります。今動かなければ、状況の変化には対応できない。とはいえ、商会様との関係を拗らせるつもりは毛頭ございません。
依頼に対してご満足頂いた上で、次なる足がかりをするべく営業戦略を実施する。その上でリヴィエラ様を始めとする商会の方々に失礼がないように、私自身が自らお声がけさせて頂いたのです」

『でしたら、私自身にアポイントを取って頂ければよろしかったのではありませんか』

「私と貴方は、フローリアン氏を通じての関係です。それはあくまでキッカケであって、進展にはなりえません。
商売を行う上でも、人間関係を行う上でも、まずは私自ら商会の門を叩き、貴女様とのお目通りが叶うまで努力するのが当然と言うべきでしょう」

『まあ……リョウスケ様は実に誠実で、情熱的でいらっしゃるのですね』


 リヴィエラ様は一瞬目を丸くし、陶器のような白い肌を朱に染めている。商人として当然のことを言っただけのに、何故照れているんだ。

アリサを一瞥して確認すると、うちのメイドは呆れた顔でカンペを書いてみせる。『貴女と関係を結びたく企業努力しアポイントを取った = 今晩食事でもいかがですかとデートに誘ってる』、何で!?

サラリーマンならただの営業だが商人同士、そして何よりも企業と商会のトップ同士であれば話が違ってくる。わざわざ社長自ら相手の企業へ乗り込み、相手企業の社長に技術と資金を投入してまでアポイントを取ったのだ。


商人の男と女であれば関係性を求めていると思われて当然だと、アリサはわざわざ赤ペンで書いて指摘する。うぐぐ、相手も商人だとそういうことになるのか。


「正直申し上げると、本日は商会様とのお約束を取次げればと思っておりました。リヴィエラ様ご自身よりお声がかかるというのは、私としても大変名誉で光栄なことです」

『ふふ、リョウスケ様の手腕が優れていらっしゃる証拠ですわ。実は窓口より連絡があり、我が商会との商談を望む声が何度も届いていると話に上がったのです』

「ポルトフィーノ商会ほどの規模であれば、日々の営業はそれこそ数しれずあるのでは?」

『こちらに探りを入れた上で、商会が抱える問題点を指摘して改善案を提示する声が連続すれば、商会側としても検案せざるを得ません。
お断り差し上げたというのに次々と角度を変えて営業を試みている動きから、全て同一人物による営業活動ではないかと察した次第です。

お話を伺った限り私本人でないと対応できないお相手だと思いまして取り次がせたら――リョウスケ様だったという事です。今朝から営業活動を行っていたのは全て、リョウスケ様でいらっしゃいますわね』


 全部、見抜かれていた。ぐぬぬ、こちらを賛辞こそしているが自分なら対抗できるという自信の表れでもある。実に手強い女だった、思惑はほぼ見透かされている。

連邦政府のおえらいさんであっても手に追える相手とは思えないが、聡明で容姿端麗な女性とあれば男ならどうしても求めたくものかもしれない。女性関係にウンザリしている俺にはピンとこない感性だけど。

いずれにしても強制退去まで出ている現状、気の抜ける相手ではない。手強いと分かったからと言って、手を引けない。コレが最後のチャンスだと思って、全力で投資をしよう。


彼女に声をかける商人はそれこそ星の数ほどいる。


「改めて自己紹介させていただきます。私はカレドウルフ・テクニクス社の代表を務める宮本良介と申します。
当社は異星を中心に活動する総合メーカーで、家庭用から業務用まであらゆる機器を開発している企業です。社外も含めたモーターモービル事業部を持っており、いわゆる――

『公的組織向け機器』の開発なども得意としております」

『……連邦政府のような公的機関にも強いコネクションをお持ちだと』

「窓口の方にお話は伺ったかと思われますが、現在は宇宙を経由して行う宇宙通信という通信分野に力を入れております。
これは宇宙空間を経由して行う無線通信でして、今回お見せした人工衛星の実現と共に衛星機器を通じた通信開発をめざましく発展させております」

『魅力的なお話に聞こえますが、もう少し具体例を挙げて頂けませんか』

「大別すると次の三つに分類されます。宇宙と地上との間の通信、主星と衛星との間の相互通信、衛星を中継点とした惑星上の2局間の通信。これら全てを実現した通信開発です」

『ど、どれも連邦政府や我が商会が担う通信分野における問題点ですが……本当に、それら全てを克服しているとでも?』

「紹介いたしましょう。レリックと呼ばれる当社独自の燃料媒体でエネルギーを発生させる特殊なユニット通信機器――
あらゆる言語での会話が可能としたコンバット製品"パフューム"です」


 うちの副隊長の実家であるイーグレット・セキュリティー・サービス。

オルティアとの和解により懇意となったセキュリティーサービスと業務提携した新製品。


彼女が使用するコンバットギア「パフュームグラブ」の技術を使用した通信機器である。















<続く>








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