とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第三十八話




 ポルトフィーノ商会の代表を務めるリヴィエラ・ポルトフィーノ。彼女を保証人とするのは、決して簡単な話ではない。

まず交渉する場を設けるだけでも、一苦労だ。彼女やポルトフィーノ商会は連邦政府の主星に構えており、惑星エルトリアの住民ではない。以前来訪されたのは、本当に特別な事例だった。

商会長である彼女はよほどの商談でもない限り、自ら足を運んで営業を行ったりはしない。お伺いを立てられる身分の貴人であり、面会や商談を求める人間なんて星の数ほどいる。


俺のような何処ぞとしれぬ素性の人間と対面するなんて、ありとあらゆる意味であり得なかった。


「それで開発を急がせたのね、このバカ親父は」

「惑星の環境改善は概ね目処が立ってきた頃だろう。開発が遅れていると、その都度視察と称しておえらいさん方がゾロゾロ来る羽目になるぞ」

「げっ、それは絶対嫌。この前もアタシの遺跡をアレコレ触られて、吐き気がするほど怖気が立ったんだから」

「だからこそこの惑星を守るべく、俺が交渉に赴いて何とかするつもりだ。そのために――コレがいる」


「ふふん、感謝たてまつりなさい。これぞアタシの傑作、イリス固有型"主星砲護衛機"よ!」


 連邦政府より受注したポルトフィーノ商会の依頼による人工衛星型兵器、固有型『主星砲護衛機』が完成した。

コロニー移住を条件に引き受けたアミティエ達の仕事をCW社が協力し、イリスが惑星エルトリアの技術を駆使して開発を急ピッチで進めた人工衛星である。

フォーミュラで衛星砲に改造した主星を守る独立個体であり、固有型の一種ではあるが、聖王オリヴィエのように自我や会話能力はなく、連邦政府が敵性判断した存在のみ殲滅する事を使命とする。


オリヴィエに裏切られたのがよほど応えたのか、自我を与えることに完全無欠に反対した。


「衛生砲というが、威力はどの程度だ」

「衛星軌道上から地表まで余裕で届く射程距離と威力を誇っているのよ」

「……お前が問答無用だったら、この前の事件も結構やばかったな」

「フ、フン……アタシの目的はあくまであんたとユーリだもん、わざわざ巻き込むつもりはないわ」


 その割に結構巻き込んでいた気がするが、こいつなりに良心の呵責はあったのだろう。全て終わったことなので、今更蒸し返すつもりはない。

納期はまだ半年以上先立ったが、商会の依頼はこれで完了した。勿論このまま納品して終了ではなく、プレゼンやユーザテスト等を行っていく必要があるが。

いずれにしても、これなら十分な手土産になるだろう。


「えっ、主星砲護衛機の提供を条件にエルトリアの保証を迫ればいいじゃない。何のために頑張ったと思っているのよ」

「何のために頑張ったのですか、マスター」

「そりゃあうちの親父が困っていたか――コホン、アタシの仕事を台無しにしたくなかったからよ!」

「むむっ、もう少しで本音に迫れたのですが無念」

「さり気なく会話に入ってこないでよ、イクス!」


 惑星エルトリアでの生活を通じて、冥王イクスヴェリアとの主従関係はすっかり安定したようだ。遠慮のない彼女との関係はイリスにとっても心地良いのかもしれない。

マリアージュの暴走や黒幕に操られた影響で一時は自死を考えるほど苦悩していたイクスヴェリアも、共犯であるイリスとの生活で精神的に落ち着いてきたようだ。

惑星エルトリアの復興事業というボランティア活動も性に合っているのか、村作りにも精が出ている。冥王として国を治めていた頃を思い出しているのか、復興にも力が入っている。


自分の家族となって生き甲斐を見出しているのであれば、何よりだ。俺としても面倒が少なくて済む。


「主星砲護衛機はあくまで仕事だからな。技術力を見せつけて成果を訴えることは十分にできるが、今後のことを考えると商会とはもっと渡りをつけておきたい」

「今後のこと?」

「連邦政府の代議員に目をつけられてしまったからな」


 彼が騒ぎ立てているエルトリアの強制退去を、少なくとも連邦政府は半ば黙認している。つまり現時点において、惑星エルトリアの地位は圧倒的に低い。

惑星を開拓して住民を盛り立てても、連邦政府という巨大組織に睨まれれば潰されてしまう。俺達が開拓を終えて撤退してしまうと、アミティエ達では対抗できないだろう。

別にそこまでやる必要はないかもしれないが、アミティエやキリエには世話になっている。少なくとも今俺がこうして新しく生まれ変われたのは、彼女達とユーリのおかげだ。


ユーリは過去のことを忘れてはいるが、イリスやキリエ達のことは友達だと思っている。破局の原因を作りたくはなかった。


「連邦政府と繋がる商会と友好関係を結び、連邦政府への切り口とするのですね。そのための手土産ということですか、お父様」

「連邦政府の重大な仕事を商会に発注したのは、あのお坊ちゃんだろう。仕事の成果が出れば、十分に喜んでくれるさ」

「でもそれって商会への評価につながるだけで、アタシら下請けまでは届かないわよね」

「ですから商会の名を上げることから始めるのです。マスターが製作された主星砲護衛機は、アミティエさん達だけでは到底作れなかった兵器。
仕上がり具合を確認すれば、商会長は当然我々の協力と見るでしょう。商会は喜び勇んで連邦政府へ納品し、絶大な評価と信頼を得られる」

「俺達が商会を飛び越えて喧伝してしまうと、あのお坊ちゃんの事だから正面から称賛できず、アレコレ文句をつけて格を下げてくるだろうからな」

「あー、確かに……怪しい技術だの何だのと、色々言ってきそうだもんね」


 保証人となってもらうには、惑星エルトリアの将来性を買ってもらわなければならない。主星砲護衛機を保証人の交渉条件としてしまうと、どうしたって角が立ってしまう。

下請けが仕事をするのは当たり前であり、出来栄えが良くても次の発注に繋がるくらいだ。保証まで担保するには、大きな評価が必要となる。その相手が連邦政府というわけだ。

俺達が実績を訴えるよりも、主星砲護衛機を実際に見てもらって連邦政府から評価を頂いた方が何倍も価値がある。兵器開発という大きな仕事を理想以上に達成すれば、商会長としての彼女の名声は圧倒的に高まるだろう。


今はまだおえらいさんのコネで仕事をもらっている状況も、連邦政府御用達となればいずれは通商条約の締結も夢ではない。政府御用達の商人となれば、彼女は名実ともに貴族の仲間入りとなるだろう。


「うーん、なんだか難しい話ね。アタシには理解できない世界だわ」

「ようするにマスターが褒められるということですよ」

「えらいえらい」

「ちょ、ちょっと二人して頭を撫でないで!?」


 イクスヴェリアが平然と頭を撫でたので真似すると、イリスが顔を真っ赤にしてジタバタ暴れる。親に撫でられると、子供ってのは無条件で照れてしまうもんな。

ともあれ主星砲護衛機は完成したので、納品に向けてイリス達は最終調整に入った。ここから先は現場の仕事なので、おじゃま虫は退散する。

仕事の出来栄えは確認できたので、アリサやリーゼアリアと打ち合わせ。何しろこれから商会との交渉に入るのだ。詰め込まなければならない知識は山ほどある。


……こんな知識や経験が剣士にとって何の役に立つのかサッパリ分からないが、今更後には引けなかった。お坊ちゃんを斬れば終わりにならないだろうか。















 自社製品を売り込む営業方法は幾つか存在する。幾つと言ってもそれこそ個人によるのだが、枝分かれを突き詰めていくと方法というのは意外と限られる。

ポルトフィーノ商会はリヴィエラ・ポルトフィーノが一代で立ち上げた商会だが、主星を始めとした流通ネットワークが異常に広がっており、小国に匹敵する莫大な利益を得ていると評判である。

彼女自身見目麗しい女性とあって商談のみならず縁談も多数あり、日々アポイントを求める声が上がっており、商会の窓口へは毎日膨大な数の問い合わせや営業の声が届いているという。


交渉する上でポルトフィーノ商会の規模を把握するべく、この際色んなやり方で営業を行ってみることにした。


『申し訳ありませんが、個人の問い合わせは現在お断りさせていただいております』

「非常に良い儲け話なんですよ。ぜひご提案を」

『申し訳ありませんが、個人の問い合わせは――』


 ――自動音声なのか疑いたくなるほどに一刀両断された。当たり前だが、面会を望んでも余裕で断れれる。

新規営業は新規の顧客を開拓するために営業活動を行う手法だが、ポルトフィーノ商会ほどの規模となれば一般客は相手にしていないらしい。

アミティエの話では別に王様気分になっているのではなく、個人のアポイントをいちいち受け入れているとキリがないらしい。まあ、当たり前だけど。


別に異星に限った話ではない。地球の大企業だって、個人のアポなんて普通相手になんぞしない。


「プレゼンさせていただきますので、是非ともお時間を――」

『正式なアポイントをお願いいたします』


 ――余裕で切られた。新規営業のアプローチ方法として通信でアポイントを取って商談するテレアポ営業をやってみたが、相手の方が強すぎる。

アポなしで訪問して営業をする飛び込み営業をするのは、以前道場破りした俺にむいていそうだが、対応を間違えるとお役人を呼ばれてしまうからな。

今にして思うと、よく道場師範は俺を受け入れてくれたものだ。自分でも大した世間知らずぶりだった、結局返り討ちにあったのは今にして思うといい経験かもしれない。


とりあえず個人でアポイントを取るのは普通に無理なので、方向性を変えてみる。


「我が社は通信機器事業に精通しておりまして、この度新規製品を開拓して――」

『非常に残念ですが、通信事業は現在商会が独自で開発しておりまして、新規参入はお断りしています。何か紹介などございますか』

「いえ、当社独自で開発した優れものです。まず一番にポルトフィーノ商会様へご提案をさせていただこうと」

『申し訳ありませんが、紹介のない新規商談は間に合っております。メーカー様を通じてお話を聞かせて下さい』


 ……言い方は先程より丁寧だったが、要するに一見さんはお断りらしい。個人でも法人でもあまり対応は変わっていない。

しかし、独自で商品開発もしているのか。追い払う名目というわけでもなさそうである。コネとはいえ、連邦政府が直々に兵器開発依頼する企業力はあるというわけか。

お断りではあったが、話をする分にはなかなか面白い話を聞かせてもらった。こうして営業を通じて、ポルトフィーノ商会について知れるのは面白い。


顧客からの問合せなどをベースに営業するこのプル型で、光明が見いだせた。


「我が社は現在多くの代理店様を抱える企業向けに、ご助力させて頂いている会社でございます」

『申し訳ありませんが、新規の営業は――』

「ポルトフィーノ商会様は各方面の流通を幅広く広げておられるのでしょうが、主星を筆頭とする衛星方面へ勢力を拡大するにつれて、販路を開拓するのは困難ではないかと思われます。
これは商会様に限った話ではなく、多くのメーカーが抱える問題点でもあります。わたくし共はそうした商会様のニーズにお答えする準備がございます」

『実績がお有りなのでしたら、メーカー様による紹介を通じてご提案をお願いいたします。急に申し上げても』

「連邦政府に所属していない領域、ミッドチルダと呼ばれる大規模宙域に販路を開拓いたしました。
なんでしたら今すぐにでも、当商会が存じ上げない新商品をデータ通信できますよ」

『……少々、お待ち下さい』


 結論からいうと、結局この後断られた。急に裁可を出せる案件ではなく、やはり企業やメーカーの紹介が必要とのことだった。

俺としては予想外の反応で、もっと門前払いされるかと思っていた。そもそも新規企業からの提案なんて胡散臭いのが殆どだからだ、よもやま話なんて相手にしない。

今のやり方は代理店営業などは行う方法で、ようするにメーカーなどの代わりとして営業活動を行うのだ。メーカーと契約を結ぶことにより、販売ができた段階でインセンティブをもらう仕組みである。


なんかちょっと面白くなってきた。今までの判断材料を元に、違った方法でもうちょっとアプローチしてみるか。


「我が社は先日ポルトフィーノ商会様とお仕事をさせていただいたものです。その節は大変お世話になりました。
実はこの度新しく新規事業を立ち上げまして、是非ともお話をさせて頂ければと」

『企業名を拝聴させていただけませんでしょうか』

「カレドウルフ・テクニクス社です。是非ともご面談を」

『お待たせいたしました。申し訳ありませんが、過去にご依頼された商歴が見当たらず、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか』

「ご存じないのも仕方ありません、我々はポルトフィーノ商会様よりご依頼受けた企業様の下請けでお仕事をさせて頂き、共に汗水流して成果を分かち合ったのですから」

『承知いたしました。申し訳ありませんが、当商会は直接の受発注は厳選させていただいており、商談であればその企業様を通じてお願いいたします』


「通信事業の苛烈な競争に伸び悩んでいるご様子ですね」

『!? お話が見えてきませんが』


「当社としてもお世話になった企業様を通じてポルトフィーノ商会様と商談させて頂くのが筋だと理解しておりますが、何しろ厳正なお話でして。
実は惑星間を超える通信機器の開発に成功いたしまして、今後連邦政府御用達となるであろうポルトフィーノ商会様に画期的な通信機器をご提案させていただきたいのです。

何でしたら企業様を通じてでも構いませんが、その企業様が他に漏らさない可能性を残念ながら否定はできませんね」

『……少々お待ち下さい。カレドウルフ・テクニクス社、ですね』

「ええ、今後友好的な関係を結べるであろう我が社のお名前を覚えて頂いて感謝いたします」


 ――反響営業と呼ばれるやり方がある。


こちら主導で営業活動するのではなく、顧客からの問い合わせに対応する営業手法を指す。ようするに顧客からの問い合わせがあった場合にアポイントを取って、商談を行うというスタイルだ。

当然何の関係もないカレドウルフ・テクニクス社に問い合わせなんぞあるわけないが、"他に問い合わせていそうな案件"を想定して話を持ちかけることが出来る。つまり困っているのなら助けますよ、という提案だ。

さっき通信機器について話を持ちかけた時、自社で開発しているので不要だと言っていた。しかしアミティエ達の話では、連邦政府の通信関係は特に劇的な変化はないとのことだった。


ミッドチルダの通信設備と比較しても、エルトリアや連邦政府の通信方法は古い。つまり新規で通信事業を開拓している商会はお世辞にも上手くいっていないということだ。


(ちょっと、何で営業なんかしているのよ!? 早く商会長のリヴィエラとコンタクトを取って、交渉しなさいよ!
この前襲撃から助けた恩があるんだから、あんたの名前を出せば話くらい聞いてくれるでしょう)

(いやなんかちょっと面白くなって……このままどこまで商談できるか、ちょっとやらせてくれ)

(まあCW社は確かにAMF、アンチマギリンクフィールドに対応した次世代の通信機器は開発したけど……遊んでいる場合じゃないでしょう)

(ちょっとだけだよ。どうせどこぞの部署の課長さんレベルに持っていかれるだけだから、その人と面談くらいできそうか試させてくれ)

(ほんとにアポ取ったら、あんた剣士から転職しなさい)


 隣の部屋で状況を伺っていたアリサに怒鳴り込みされて、俺も苦笑いで応じる。通信なら適当に言えるから、なんかちょっと面白くなった。

よーし、こうなったら面談の取次くらいやってみせようじゃないか。営業だってアポイントを取れれば、大勝利の世界なんだろう。

せめて大商会の窓口くらいは開かせてや――


『お待たせいたしました。ポルトフィーノ商会の代表を務めるリヴィエラ・ポルトフィーノと申します。魅力的な商談がおありだとの事で、是非お話を聞かせて下さい』


「えっ、商会長!?」

『えっ、リョウスケ様ですか!?』


「……」

『……』


『あの、何故わざわざ商会の窓口からアポイントを……? リョウスケ様のお名前を出して頂ければ、喜んで応じたのですが』

「……す、すいません」


 遊び半分でやってみたら超大物が釣れて、ひっくり返った。

この後アリサから大笑いされて、剣を捨ててハローワークにいけと言われた。うるさいわ。















<続く>








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