とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第二十七話




 ――流石に島流しという名目でミッドチルダから出ていったので、友人知人に声をかけるのはやめておいた。

惑星エルトリアへの移住者を連れて来いと、メイドのアリサより蹴り出されて俺は地元へ戻ってきた。人数連れて来ても仕方がないので、今回の同伴者は護衛の妹さんだけである。

早すぎる帰還に感動もヘッタクレもないので、帰還の連絡は誰にもせずにいる。島流しが名目なのは関係者なら誰でも分っていることだが、名目というのは大人にとって大事だ。


ミッドチルダで村作りに励むアリサ達のために、俺も奮闘しなければならない。


「よし、かねてより声をかけていた連中をあたっていこう。荒くれ者が多いから、いざとなれば頼んだぞ」

「お任せください、剣士さん。殴って黙らせます」

「過激派!?」


 ……冗談だと気付くのに、数秒かかった。美少女が真顔で言うと、真剣に見えるから困る。

ひとまずユーリとイリス達の奮闘により、惑星エルトリアの環境は劇的に改善されている。環境も負担がかからないよう慎重に行っているので、ピッチは遅いが基盤は着実に築かれている。

足りないのは、人。それも圧倒的なまでに、人手不足。少数精鋭でミッドチルダに出向いた分、単純に数が足りなかった。今回の仕事は惑星という規模なので、無理もないが。


ということでまずは、力が有り余っている連中に声をかけまくるとしよう。















 座敷童子。


世間的には妖怪という認識ではあるが、その名の通り座敷や蔵に住む神と言われている。

家人に悪戯を働く悪い癖こそあるが、見た者には幸運が訪れて、家に富をもたらすなどの伝承がある演技の良い神でもあった。

赤面垂髪の小童という印象があるが、実を言うと年恰好は住み着く家ごとに異なるらしい。


「ダメ」

「何で?」

「八神の主、相当な奇運に取り憑かれてる。良介だけではなく、こちらも離れたら、あの子は再び運命に翻弄される。
今あの子が平穏なのは、こちらが家を守ってるから」

「うーむ、仕方ないか。はやての事は頼んだぞ」


 ――どうやら闇の書の主というのは、平穏とは程遠い運命を背負わされるらしい。

本人は家族がいれば幸せという平和を絵に描いた優しき小娘なのだが、本人の意志と気質は時にかけ離れたものとなるらしい。

はやてのことを頼むと、"黒っぽい"着物を着た少女はニンマリ笑った。


容姿がコロコロ変わるのは、人の運勢に左右されるだそうだ。そういう面は、妖怪に思える。















 猫又。


日本の民間伝承や古典の怪談などにある、ネコの妖怪。実は大別して山の中にいる獣と、人家で飼われているネコが年老いて化ける存在との2種類がある。

猫又の容姿について、目はネコのようだが体は大きい犬のようだったと伝承に記されている。ネコの化け物かどうかを大いに疑問だったのだが――

本人を目の前にすると、やはり猫の妖怪なのだと思わされる。


「日本語は通じます?」

「――まさか、妖怪に通訳の不安を問われる日が来るとは思わなかった」

「言葉というのは大切なんですよ、就職とかでは特に!」

「フリーターの苦言を叫ぶな、浮浪者だった俺にも響くから!?」


 近頃野良犬が減っているという話が以前したが、野良猫はほとんど生き残れないという過酷な現実がある。

化け猫であるこいつも同じで、人に化けて人間社会に溶け込もうとして失敗した悲しき女である。食べ物はなく、寝る場所も限られてくる。

それでも生きていくためには必死でゴミを漁ることを覚え、時には花壇などでトイレをして、ガレージで眠るしかない。


こんな話を真顔で聞かせてくる妖怪が、こいつだ。


「1から開拓するから、家持ちになれるぞ」

「いきます」

「即答だな!?」

「やった、私も飼い犬のように小屋を持てるんだ!」

「犬と猫の格差を語るな!?」


 猫としてもプライドが皆無な女に、呆れ果てる。

まあ俺も、剣士としてのプライドにしがみついて浮浪していたので、実は共感する面が大きいんだけどね。


人間も猫も生きていくのは、辛いのである。















 雨女。


もろこし巫山の神女は朝には雲となり、夕には雨となるとかや、雨女もかかる類のものなりや――朝には雲となり、暮れには雨となり、朝な夕な陽台の下で会いましょう。

ロマンスのあるエピソードだが、続きがある。産んだばかりの子供を雨の日に神隠しに遭って失った女性が雨女となり、泣いている子供のもとに大きな袋を担いで現れるという悲しくも恐ろしい妖怪談だ。

だがそれも過去の話、長く時代を経て現代になると、さすがに風化もしてくる。


「……異世界であれば、雨を降らせても許してくれるでしょうか……」

「そこまで切実なのか……」

「雨を呼ぶ迷惑な妖怪だと、現代社会になっても迷惑がられる私……死にたい」

「本人が泣きたくなってるじゃねえか!?」


 妖怪は伝承によって力を増すのだが、雨女ほどの妖怪ともなると格が違う。色んな意味で。

今では気象衛星による天気予報まで出来る時代だというのに、雨が降れば雨女のせいだと言われてしまうのだ。そりゃ本人だっていい加減嫌気もさす。

最初は伝承どおり恐ろしい女だったのかも知れないが、長い間雨の責任を押し付けられまくっていれば、恨みつらみなんぞどうでも良くなってくるだろう。


こいつほど、この現代に居場所のない女はいないと思う。


「雨ばっかりだと迷惑だけど、いざとなれば雨雲ぶっ飛ばす連中がいるから大丈夫だ」

「……時代は変わりましたね」

「全くだ、いいことかどうかはともかくとして」


 ――これはあくまで余談だが。

エルトリアで乾期が続いた時に雨を降らせてくれる、「雨を呼び人を助ける妖怪」という神聖な伝承が成立したことによって。


彼女はこの先、「雨神」として讃えられることになる。















 ダイダラボッチ。


日本の各地で伝承される、巨人。類似の名称が数多く存在する妖怪で、便宜的にダイダラボッチと呼称されている。

山や湖沼を作ったという伝承が多く、元々は国づくりの神に対する巨人信仰がダイダラボッチ伝承を生んだと考えられている。

鬼や大男などの妖怪伝承が巨人伝承になったという説もあるが、本人からすれば迷惑な話らしい。


「惑星エルトリアは今、開拓の時期に来ている。国づくりの神であるあんたにぜひ来てほしい」

「この新しき世に海鳴という居場所を与えてくれたお主には感謝しておる。しかし異世界、それも別の惑星となると――」

「信仰が届かない場所では、加護は与えられないと」

「うむ、恩返しはしたいが期待はできんな」


 富士山を作るため、甲州の土を取って土盛りした――そのため甲州は盆地になった。

富士山を作るため近江の土を掘り、その掘った跡地が琵琶湖となった。上州の榛名富士を土盛りして作り、掘った後は榛名湖となった。

浅間山が自分より背の高い妹の富士山に嫉妬し、土を自分にわけろといった。富士山は了解し、だいだらぼっちが自分の前掛けで土を運んだ。


日本の山々はこうして作られたとされるほど力の強い存在であるが、その信仰も遠き星には届かないと嘆く。


「俺はあんたの威光に縋りたいんじゃない」

「む?」

「国づくりの神としてこの日本を作り出してくれた、あんたの度量を後進者に見せてほしいんだ」

「ははは、言いおるわ。どうやらこの海鳴を離れて、随分とまた稀有な経験をしたようだ。立派な先達者になっているではないか」


 天が高いから楽に立って歩けると言ってこの地を好み、沼と化す数多の足跡を残したダイダラボッチ。

山奥に住んでいたダイダラボッチが、子供たちを手にのせて歩いていたともされている。当時は山をまたいだ拍子に子供たちを手から投げ出してしまったらしいが――

アミティエやキリエであれば、彼ほどの巨人でも対等に歩んでいけるだろう。















 魔龍。


次元世界に多数存在する龍族の中でも、王を冠する魔龍の姫君。吸血鬼カーミラ・マンシュタインに匹敵する、異形の芸術品。

悪魔の如く血塗られて、死神の如く冷徹で、魔物の如く暴力的な、美麗の魔神。最凶と恐れられる魔龍でありながら支配も虐殺も興味はなく、絶対の王者を求める存在。


プレセア・レヴェントン。聖地で俺と死闘を繰り広げた黒龍騎である。


「条件がある」

「敗者は勝者に従うんじゃなかったのか」

「我を見くびるな。聖地は貴様の領土となった、王となった者に唾を吐きかける下劣な真似はせん。
我が龍バハムートの封印を解いてくれ。新しき地と赴いた暁には、守護者として夥しき血を拭う贖罪を成そうではないか」

「解放という名目は与えられない。敗者として追放する屈辱となるがかまわないな」

「無論だ。我ら龍族、新天地で覇を成そうとは思わぬ。虜囚として生き延びようではないか」


 プレセア・レヴェントン、魔龍の一族の王姫が己という絶対の強者以外に屈服するとは思わなかった。彼女はあくまで淡々と、敗北を受け止めている。

その姿に、弱々しさは一切ない。夜の闇そのものが繰り抜かれたかのような、漆黒の魔龍。魔天の空を覆う大龍の背に飛び乗っていた空の覇者は、今も目の前に君臨している。

かつてアギトに破れた魔龍は傷こそ回復しているが、聖王教会の実力者達による封印処置を今も施されている。解除としてほしいとはいっているが、解放してほしいと願っているのではない。


別の形で、罪を償わせてほしいと望んでいる。安寧による処罰ではなく、戦いによる贖罪を望んでいる。


「いいだろう。ただし隣人に対して力を振るえば、人としての威信をかけてお前達を斬るぞ」

「剣士としてのプライドにもしがみつかなくなったか。あの戦いからまた、多くの戦場を駆け抜けたようだな」

「命を保つのがやっとだがな」

「ふっ、我もまた新しき地で得難き経験をしてみるか」


 空を覆い尽くす魔龍の存在など、人間の想像を超える魔物でしかなかった。それがいまや、新しき地で大いなる翼を羽ばたかせようとしている。

勝率なんて度外視、弱者が強者を倒せるのは英雄譚だけ。現実なんて物語のように思いどおりにはいかないのだと、彼女も俺も理解している。

絶対が消え去った今不安定な足場を保つには、新しき世界でしっかりと足を踏み出すしかない。分かり合えることは出来なくても、分かり合おうと努力することは出来る。


人と龍、お互いに手を取り合って新しき戦いへと挑む。















 伽楼羅。


神とはどのような存在か、古代より誰もが皆想像する事を諦めていた。神とは絶対にして、唯一であったから。

鷲の頭とくちばし、翼と爪、脚を持つ金翅鳥。インド神話の聖獣を起源とする、守護神。美しい翼を持つ者スパルナの冠を持った、天空の王。

宿敵である魔龍を食らう、伽楼羅法の本尊であった。


         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
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      「ノア」< 自販機設置を要求する      |
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          | コーラでも飲んどけ   >「良介」
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      「ノア」< チュッチュッ>(゚ε゚(O         |
          |                |
          ゝ___________,ノ


 かつて俺が唱えていた人妖融和の理念に、ガルダ神は屈服した。

戦いと単純に呼べる規模ではなかったが、ナハトヴァールによって伽楼羅の炎は消し飛んで、俺の刃によって神という概念そのものは両断された。

聖地での戦いに敗れて、猟兵団は解散。今は副団長だったエテルナ・ランティスが新しく組織を気付き、新天地に向けて編成を進めている。


本人は渋々らしいが一応約束は守られ、彼女達はエルトリアの地へと送られることになった。


        γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
          | というか会いに来いよ      >「良介」
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         γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
      「ノア」< 向こうでSNS使えないから   |
          |                |
          ゝ___________,ノ


 ……言われてみれば、向こうでは携帯とか使えないんだよな。

エルトリアの技術は高いが、ミッドチルダとは別方面に進化している。この点については妖怪たちも含めて、ギャップが強いかも知れない。

惑星エルトリアが人外魔境にならないように、俺が間に立って仲介しなければならない。















「大勢連れてきてくれたところで、申し訳ないんだけど」

「……嫌な予感」

「エルトリアの環境変化がばれたみたい。連邦政府の代理人がうるさくあんたにクレームしてる」

「げっ!?」


 バレるのがいくらなんでも早すぎる。

フローリアン夫妻を追い出せばそれで満足するかと思っていたのだが、どうやらマークしていたようだ。


妖怪と人間、龍や神と人間――それ以外にも仲介する相手がまた増えて、俺は肩を落とした。















<続く>








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