とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第二十三話




 交渉を始める前に、当たり前だがアミティエの両親に連邦政府とコンタクトを取る許可を求めた。

ドクターより病状を伝えられたご両親は、ミッドチルダへの移送を承諾。母親のエノリア女史は逡巡する素振りを見せていたが、娘達の涙ながらの懇願に折れた。

父親は容態が悪く臥せっていた為、母親のみ真実を告げられた。自分自身体調の悪化を自覚していたのか、項垂れながらも治療することを受け入れてくれたのだ。


今後は俺がエルトリアの代表を名乗る事についても、承諾してくれた。


「コロニー移住の件は撤回しないようにしつつ、エルトリア復興を促す方針でいくので安心してください」

「私達のために力を尽くしてくださって、ありがとうございます。至らぬ母ではありますが、娘達をどうかよろしくおねがいします」

「自分を卑下しないでください。キリエさん達は母である貴女に憧れて、今のような素敵な女性になったのですから」

「良介さん……こちらこそ貴女のような素敵な男性に巡り会えて、あの子達も幸せです」


 ――思いっきり打算で協力している身としては、そんな風に褒められると逆に萎縮してしまう。エルトリア復興を条件に、イリス事件の解決を協力してもらったからな。

ヴァリアントシステムやナノマシンの提供がなければ、俺なんぞとっくの昔に死んでいた。自分自身が少しは強くなれたのも、彼女達の技術があってこそなのだ。

自分の弱さに絶望していたあの頃に比べれば、今は充実している。その恩返しをしているだけであって、無償の施しをしている訳ではないのだ。


多少の申し訳無さを感じつつも、連邦政府への取り次ぎをやってもらった。


「連邦政府と交渉するのはいいけど、何の取引をするのよ。こっちの手持ちのカードは、政府に見捨てられた惑星丸ごと一個しかないんだけど」

「今日のところは挨拶だな。代表が変わったことを伝えた上で、相手の温度感を確認してみる」

「……何かすっかり、権力者達との接待に慣れたわね。道場破りしていたあの頃の無邪気なあんたはどこへ行ったのよ」

「お前がメイドしてから立身出世しまくったんだけど!?」


 アリサから嫌なことを言われつつも、連邦政府へのレクチャーをしてもらった。絶対剣士には関係ない知識と経験なんだけど、もうその辺は棚上げしておく。

連邦政府の政策というのは、惑星エルトリアの領海圏にある連邦諸国の内政と外交に幅広い影響を与える。この連邦政府全体の権力は憲法によって制限されているそうだ。

あくまで憲法上ではあるが、連邦政府に与えられた権限以外の全ての権限が各諸国の政府に留保されると規定している。独裁にさせないような仕組みとなっているらしい。


これから取り次いでもらうのは、連邦の行政府――その代理人である。


「お初にお目にかかります。本日よりエルトリア代表として交渉を務めさせて頂く、宮本良介と申します」

『エノリアより話は聞いたが、どこぞと知れぬ若造が交渉担当とはな』


 ――温度感を確かめたかったんだが、まさか出会い頭に判明するとは夢にも思わなかった。


行政府は、『大統領』とその代理人らによって構成されている。大統領といっても一国家の元首ではなく、連邦政府を束ねている政府の長そのものだ。

政府の長は立法府や議会などの双方に対して責任を負う事ができる、政治の最高責任者。その代理人を務められる人間は、言うまでもなくエリートである。



だからこそというのは偏見だが、代理人として通信画面の窓口に立ったのは若き俊才の男性であった。



『体調不良により欠席しているようだが、コロニーへの移住は決めたのか。こちらとしては一刻も早い立ち退きを望んでいる』

「コロニーへの移住そのものについては承諾頂けていると」

『エルトリアについては、連邦政府の議会で既に立ち退きが決定されている。勧告まで出しているのに、いつまでも居座られては迷惑だ』


 ハッキリという奴だな、こいつ……ひょっとしてエノレアさん、こいつとの交渉でストレス溜めて病状が悪化したのではないだろうか。

行政府の代理人の一人である、知勇兼備な貴公子。いかにも貴族然とした若き男性、血筋と才能を伺いもしないエリート風の人間。下手すれば、俺と同じ十代かも知れない。

若くして行政府の代理人を務めているのだから、まさに出世街道を歩くエリートそのものなのだろう。彼からすれば、エルトリアなどという雑事に囚われるのは面倒なのかも知れない。


一番意外だったのは、見下ろす態度を取られても不快に感じない自分だった。アリサのいう過去の俺だったら悪態ついていたか、喧嘩を売っていただろう。


「その立ち退きについて、少し問題が発生しまして」

『行政府はエルトリアに居座られている今の状況を、問題視しているのだぞ』

「重々承知しています。ただ肝心のフローリアン夫妻の病状が悪化しており、立ち退きできない状態となっているのです」


 これは本当である。アミティエ達の父親は多臓器不全に陥っており、ミッドチルダへの護送でさえも今ドクターやウーノ達が四苦八苦している状況である。

この事実はこちらにとっても頭の痛い問題なのだが、いっそのことこれを理由にすればいいのではないかと思い立ったのだ――アリサが。

絶対に立ち退かないと頑固に言ったところで、連邦政府の心象を悪くするだけである。病気を理由にすれば、角も立たないと進言してくれた。


案の定代理人は不機嫌な顔をしつつも、理由そのものについては否定まではしなかった。


『それはそちらの問題ではないか。さっさと出ていけば、病気も悪化せずに済んだ。我々行政府が何度勧告したと思っている』

「大変申し訳なく思っております。ですからこうして交渉を務めていたフローリアン夫妻には交渉から降りて頂き、私が窓口に立った次第です」

『……貴様なら少しは話が通じる、とでも言いたいのか』

「代理人である貴方の苦労は察しているつもりですよ」


 向こうからすれば惑星エルトリア出身の頑固者よりも、別世界から来た交渉人の方がありがたいに決まっている。

惑星エルトリアに精神論でしがみつかれては迷惑だし、さりとて実力行使で病人を追い出すのは連邦政府としても具合が悪い。

実力行使はあくまで最後の手段であり、交渉で立ち退きがスムーズに済むのであればそれに越したことはない。


この男だっていつまでも惑星エルトリアの問題に悩みたくはないだろうからな。


『いいだろう、交渉人である貴様の提案を言ってみろ』

「まず元代表者であるフローリアン夫妻には私が仲介し、この惑星からの退去を求めましょう」

『妙案はあるのだろうな。先程も言ったが、こちらは何度も勧告したのに奴らはあれこれ理由をつけて出ていかなかったのだぞ』


「勿論です。そうですね……三日でいかがです?」


『なんだと?』

「三日以内に、フローリアン夫妻を立ち退かせましょう。そしたら私との交渉を行っていただきたい」


 ――こういうのをなんと言うのだろうか。マッチポンプ、ではないか……悪く言えば、茶番かな。


立ち退きと敢えて悪く表現しているが、フローリアン夫妻がこの惑星から出ていくのは本当である。異世界ミッドチルダへ移し、治療を始めるのだから。

しかし連邦政府側は、そんな事実を一切知らない。彼らから見れば、何度勧告しても立ち退かない厄介者である。交渉人を名乗る得体の知れない男が、やるといっているのだ。


交渉して本当に出ていってくれるのなら、これほどありがたい話はない。

 
『ふむ……何を要求するつもりだ』

「コロニーへの移住は、代理人である貴方への不安となりましょう。ですので立ち退き先については、全て手配いたします。
貴方の雑事は全て私の方で負担いたしますので、貴方には代理人の権限を持って是非ともご提供いただきたいのです。

かつてこの惑星で行われていた惑星再生委員会、当時彼らが保有していた資料データを」

『むっ――いや、待て。惑星再生委員会には嫌疑がかかっている。押収したデータを持ち出すのは厳禁だ』

「研究資料は必要ではありません。私が求めているのは惑星エルトリアに関する調査資料です。
分析や観測データなどエルトリアに関する一切の資料を頂ければ、それでかまいません。

既に立ち退きが決まった惑星のデータであれば、代理人である貴方の権限で十分可能でしょう」


 嫌疑がかかっているのは委員会そのものよりも所長であるフィル・マクスウェルである。連邦政府が無能だとは到底思えないので、恐らく奴本人の悪事も判明しているはずだ。

惑星再生委員会のメンバーだって、事故とは思えない不審な死に方をしている。所長が自分の部下を惨殺したのは明るみにこそなっていなくても、事実関係は明らかだ。

だからこそ研究資料は当然持ち出せないだろうが、だからこそ交渉の妥協点として機能し得る。研究資料が無理であれば、せめて観察データでも提供してほしいという交渉が出来る。


こっちはむしろ観察データが本命なのだが、向こうから見れば妥協してくれたようにしか見えない。


『……いいだろう。ただし期限は三日だ。貴様が言った三日以内に立ち退かないのであれば、即座に交渉を打ち切る。
場合によっては実力行使に出るので、それを忘れるな。これは最終勧告だ』

「承知しております。こちらとしても、貴方とは今後もよしなにやっていきたい」

『ふん、それは貴様の交渉次第だろう。資料を用意して、三日後にまた連絡する』

「はい、よろしくおねがいします」


 通信を終える――ふう、挨拶程度で済ませるつもりだったが、意外とうまく交渉できたな……

今回は、代理人に恵まれたと言っていい。交渉相手がカリーナお嬢様やレジアス中将であれば、もっと難航しただろう。

惑星エルトリアの事なんて雑事だと高を括り、交渉役である俺を始終見下ろしてくれたからこそ成り立った交渉だ。


やれやれと肩をたたいていると、アリサが部屋に入ってきた。


「お疲れ様。交渉のやり取りは聞いていたけど」

「うむ、どうだった」


「夜の一族のカレン様やディアーナ様が喜ぶんじゃない、愛する人が権力者相手に立ち回れるようになってくれて」

「嫌なことを言うな!?」


 全然剣士に関係ないことで褒められて、俺は頭を抱える。

こんな事をしていていいのだろうか、そのうち金勘定とかも上手くなってしまうのではないだろうか。


自分のこれからに、不安を感じてしまった。















<続く>








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