とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第二十二話




 後から決めた基準だが、惑星エルトリアには猛獣と呼ばれる種類と――モンスターと呼ばれる種族が、存在する。


俺から見ればどちらも怪獣でしかないのだが、アミティエ達のような現地人からすれば明確な区別があるらしい。その基準は単純で、生物としての強さである。

猛獣は動物が進化して生まれた種類であり、その形態はあくまで各動物に依存する。どれほど巨大化していようと、あくまでも動物であり、生態に及ぶまでの変化はない。


モンスターは、違う。彼らはこの惑星エルトリアという環境で生まれた変異体であり、図鑑にも載っていない恐るべき生命体なのである。


「良かったですね、比較的大人しい生物で」

「あれで大人しいのか!?」

「基本的に噛み付いてくるだけなんです。食欲ばかり優先されて、戦いにまで気が回らない生き物ですね。
アタシも子供の頃戦闘訓練の相手にしていました、懐かしいな」


 ……ボクが子供の頃、同年代の孤児達相手にチャンバラごっこで遊んでいたんですけど……


和気藹々と、巨大な野良犬を玩具のように語るアミティエ姉妹に絶句する。更にショックな事に俺達が倒した犬は一匹ではなく、家族で構成される複数で襲撃してきたらしい。

俺達が一匹を相手に戦っている間に、アミティエ達が簡単に掃討したようだ。結構ビビっていた俺とは違って、日常茶飯事と言わんばかりに彼女達は討伐していた。


挙句の果てに俺の隙を伺っていた最後の一匹を、護衛の妹さんが叩きのめしていた事実に仰け反ってしまった。


「……ちなみにどうやって?」

「ギア3で殴り倒しました」

「一撃ですか……」


 ギア3、大人モードに?化しての一撃。イリス事件解決後もクイントやメガーヌから熱心に指導を受けていた妹さんは才能を思う存分開花させている。

ギア4という血液摂取による夜の王女モード、いわゆる先祖返りとなる技。かつて霊長類の頂点に君臣していた真祖となって、無敵の強さを誇る。

加えて全属性の魔導を使用できるというのだから、才能の宝庫というしかない。アニメや映画でも、これほどの才能を持った主人公は存在しないだろう。


その本人は決して世には出ず、俺の傍で護衛を続けてくれているのだからありがたいというしかない。


「再三襲われているのなら、転居も検討した方がいいんじゃないか」

「ここは比較的安全な場所なんですよ。深淵にまで至ると、とても手に負えない生物がわんさかいますので。
剣士さんが仰っていた、いわゆるモンスターと呼ばれる怪物ですね」

「……キリエさん、コロニーへの移住を検討するべきではないかと」

「うっ……そ、そこを何とか、魔法使いさんに是非」


 絶対アミティエやアミティエの両親が提案していたコロニーへの移住を考えるべきだったと思う。むしろ俺がこなかったらどうするつもりだったんだ、この星。

怪獣ワールドになっている惑星のテラフォーミングなんて、どうかしている。リーゼアリアがユーリの提案に反対していたのも頷ける。

ユーリが下手に惑星丸ごと生命を活性化させてしまうと、モンスター達がどのような変異を及ぼすのか想像がつかない。滅んでくれるのなら、むしろまだマシかも知れない。


俺のように生命が強靭化されてしまえば、もはや手の施しようがない事態となるだろう。


「この惑星の地図はありますか」

「今朝、シャマルさんに渡しました」

「行動が早いな、あいつ。観測データなどがあると助かる」

「リーゼアリアさんに渡していますよ」

「くっ、頼りになるけど先回りされている感がすごい」


 俺の考えることなど彼らからすれば当たり前の判断ということか。頼もしいのだけれど、自分がリーダーでいいのか真剣に悩んでしまう。

全て完璧に成し遂げるという方針で一斉に動き出しており、皆それぞれの判断に基づいて最善の行動を行っているのだろう。

アリサも言っていた通り、俺が下手に考えて行動するよりも、皆に任せた方が早いと言える。しかし、何もしないというのも気が引ける。

この惑星を良くするべく、俺なりに今から何か出来ることはないか――うん?


この惑星を良くする方法と言えば……



「お前達の両親が所属していた惑星再生委員会の資料やデータはないのか」



 所長であるフィル・マクスウェルは裏で軍事兵器密売と製造を企んでいたが、あれはあくまで彼の独断であって委員会自体の判断によるものではない。

アミティエのご両親を始めにメンバー全員が惑星エルトリアの復興を真剣に考えて、彼らなりのやり方で再起を図っていたのだ。

確かに彼らは成果を出せずに失敗してしまったが、それら全ての過程が間違えていると断ずるのは早計だろう。少なくとも一から俺が1から考えるよりは、ずっとマシだ。


俺の質問を受けてアミティエ達が姉妹揃って顔を見合わせて、大きく溜息を吐いた。


「惑星再生委員会は閉鎖が決まり、容疑もかけられて"連邦政府"に全データを徴収されました」

「連邦政府……?」

「フィル・マクスウェル所長が委員会継続のためにかつて交渉し、お母さんとお父さんがコロニーへの移住を要望していた政府組織です。
エルトリアを始めとして、周辺の惑星は独立を維持する事が難しく、連邦制が採用されているんです。
剣士さんの世界のような通常国家に比べ、連邦を構成する惑星から一部の主権を移譲されるという形をとって中央政府が形成されています。

各惑星で権限は限定されており、惑星レベルで関係のある事項や外交および軍事ならびに財政などを司る組織ですね」


 独立を維持できないという点がピンとこなかったのは、地球という惑星で諸外国が形成されているからだろう。現代では、国の構成や国境ラインが明確に定められている。

連邦政府はいわゆる立法、行政、司法の三つの部門から構成されているようだ。権力分立システムの下、三権がそれぞれ独自の判断で行動する権限を持っているらしい。

他の二つの部門を統制する権限を持つとともに、その権限の行使について他の部門からの統制も受けている。それにより連邦政府の政策は、各惑星の内政と外交に幅広い影響を与えているというのだ。


連邦政府全体の権力は憲法によって制限されていて、憲法上連邦政府に与えられた権限以外の全ての権限が各惑星に留保されると規定している。


「あくまでも建前、ですけどね」

「実際はあってないようなものということか」

「というか、惑星エルトリアはもう完全に見捨てられています。だからお姉ちゃん達も交渉には難儀していて、お父さん達だって苦しんでいるんです。
コロニーへの移住が受け入れられつつあるのは、エルトリアへの放棄を確立させたいからなんですよ」

「なるほど、政府からすれば危険区域に人がウロウロされるのも嫌だろうからな。言い方は悪いけど」


 惑星エルトリアの劣悪な環境は、彼女達の味方であるこの俺から見ても酷いものだ。連邦政府が見捨てたのも頷ける。惑星再生委員会の閉鎖が決定されるのも無理はない。

それでいて危険と判断された惑星に、いつまでも住民がのさばっているのはよろしくない。人道面から、政府が批判されるからだ。

日本でも立入禁止とされる場所にいる住民の強制撤去や立ち退きでもめる話には、枚挙がない。危険な場所にいつまでもいるなという注意は当たり前だからだ。


惑星再生委員会に嫌疑がかけられるのも、正しい判断ではある。実際、所長のアホが軍事兵器を開発していたんだからな。


「よし、分かった。アミティエ、政府への交渉窓口はまだあるんだよな」

「は、はい、コロニーへの移住を求めていたので――えっ、まさか!?」

「俺が惑星代表として、連邦政府に交渉してみよう」


 ――さて、どんな奴が出てくるやら。















<続く>








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