とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第九話







 俺はどうやら最高に女運が悪いらしい。

女子トイレへ女教師に追い込まれ、女生徒達に群がられて、退散したと思いきや女の知り合いに見つかる。

降り積もった不幸は俺を念密に絡み取り、脱出不可能な状況へ追い込む。


「・・・・・・ぁ・・・・・・あ・・・・・・」


 月村忍、俺が会いたかった女。

別に色っぽい理由ではなく、単にスポンサーに頼まれて仕方なく会いに来ただけ。

――なのだが、こんな状況で再会するとは思わなかった。

向こうも同じ気持ちなのか、茫然とした顔で俺を見つめている。

女子トイレの奥で女の口を封じ、壁に身体を押しやって身動き取れなくしている――

誰がどう見ても痴漢である。

こればっかりは、俺も言い訳出来ない。

月村はわなわなと身体を振るわせ、顔を真っ青にしていた。

なまじ綺麗な顔立ちなので、恐怖を大いに煽られる。


(――お、お前! 何かフォローしてくれ、フォロー!!)

(そんな事、うちに急に言われても!?)


 レンもレンで予想外な事態なのか、泡食っている。

お、落ち着け俺!

咄嗟にレンを奥のトイレの中に押しやりドアを閉めたが、余計怪しかったかもしれない。

このまま黙っていれば、月村は容赦ない悲鳴を上げる。

奴の大声は思いっきり他の一般生徒を招き、あの女教師まで引き寄せてしまう危険があった。

な、何とかせねば!


「あ、あのな、月村・・・・・・は、話し合おうではないか・・・・・・」


 口癖のように他人との繋がりを否定する男が、突然の趣旨変え。

信念を曲げた訳ではない。

人間、時には言い訳も必要なのだ。


「・・・・・・」


 ほら、月村も分かってくれたみたいだぞ。

悲鳴も上げずに、無言で俺に歩み寄ってくる。

きっと、平和に物事を解決しようとしてくれたに違いない。

――なのに、何故か俺の足は一歩後退。


「に、人間、分かり合う事が大切だぞ!
お、お前が今目にしている現実は、様々な事件が重なっての誤解であって・・・・・」

「・・・・・・」


 何だろう――

月村は何故か無感情な眼差しを向けたまま、俺にひたすら近づいてくる。

快く迎えればいいのに、俺は今までに無い恐怖を感じて後ずさった。

爺さんやレン以上の戦慄を感じて・・・・・・



・・・・・あれ?



気の、せいか――



――月村の、瞳が――



――真っ赤に、染まって・・・・・・



・・・・・・。















 ――頬に、冷たい感触。

全身に奇妙な気だるさが生じ、束の間神経に鈍い衝動を呼び起こす。

ぼんやりとした頭をそのままに、俺は痙攣する瞼を開いた。


「あ――気がついた? 侍君」

「ん、あ・・・・・・」


 上から降ってくる心配げな声に、どこか懐かしさを感じる。

恐る恐る目を開くと、不安に満ちた月村の顔が映し出された。


「・・・・・・月、村?」

「うん・・・・・・ごめんね、侍君。
レンちゃんから話は聞いたよ。私、勘違いして――
頭、痛くない? 
具合悪そうだったら、すぐに言って」


 どうやら、意識を失っていたようだ。

月村の白い手が、俺の頬を優しく摩る。

冷たい指先が心地良いくすぐったさを――って、おい。


「な――なんで、お前俺を膝枕に!?」

「だ、だって、侍君をあのままにして置けないよ。
トイレの中じゃ誰が来るか分からないから、レンちゃんに手伝って貰って、此処まで運んだの」

「此処って・・・・・・屋上、か?」

「うん」


 月村の背後を柔らかい光で染める、空。

雲が流れていき、晴れた空を清々しく見せ付けてくれる。

周りを見ると、誰一人としていない。


「授業中だから、誰も来ないよ」

「授業って・・・・・・お前、いいのかよ」

「侍君をほっとけないよ。私のせいで、その・・・・・・」


 表情を曇らせる月村。

――俺は、ようやく思い出した。

じっと、月村の瞳を見る。

先程までの、禍々しい殺意の目ではない。

俺への心配に濡れた、思い遣りに満ちた瞳だ。

神秘性に彩られた美しさの宿る目。

不意に、月村は目を逸らした。


「――見たよね、さっきの・・・・・・?」


 さっき――

思い当たる点は一つしかない。

紅の瞳。

背筋が凍るような恐怖が、俺の全身を貫いた。

そこから先は・・・・・・覚えていない。

俺が見たのは・・・・・・何だったんだろう・・・・・・


「見ちゃった、んだよね・・・・・・」


 見たといえば確かに見た。

瞳の変質。

俺に向けられた殺意。

頭のイカれた人間や、キレて態度が豹変する人間は見たことがある。

連中も一般人とは逸脱しており、狂気に満ちた目をしていた。

だが、あの月村の瞳は――うまくは言えないが、違う。

見られただけで、全身が凍りつきそうだった。

目を離せず、魅入られたように動けなかった。


・・・・・・?


こいつ――震えてる?

俺を見ないまま、月村は身体を震わせている。

膝元に置かれた俺の頭を抱くように、手を乗せて。

明らかに、様子がおかしい。

こいつには何か、秘密が――


「――見たぞ」


 ビクッと身体を震わせる月村。

俺は・・・・・・苦笑いして言った。


「よりにもよって、俺を変態のような眼差しで見やがって!
あの屈辱を俺は忘れないぞ!」

「え・・・・・・そ、そうじゃなくて! 私の目――」

「何色だろうが、どうでもいいわ!
俺が気にしているのは、お前が俺を世の中の痴漢代表のように見ていた事だ!
それは、全くの誤解だ!?」


 月村は目を丸くして、俺を見ている。

こいつが何処の誰だろうが別にどうでも良い。

女の秘密を我が物顔で調べる趣味は無い。


――こいつが気にしているなら、俺は気にしなければいい。


月村は瞳を潤ませて――涙混じりに笑みを浮かべた。


「レンちゃんに事情は聞いたけど、侍君にだって問題あるよ。
私、びっくりしたんだから!
侍君がどうして私の学校にいるのか分からないし、女子トイレにいたし――
もう・・・・・・私がいないと何するかわからないよね、侍君って」

「お前がいるから、何だっつーんだ!
あ、こら! 顔を近づけるんじゃない!?」

「えへへ、こうして見ると侍君って可愛いかも」

「ざっけんな! 離れろ!」


 ・・・月村が誰であろうと、俺にとっては変わらない。

クールな割に無邪気な面もあり、ほんの少し寂しがり屋の女。

俺には、それでいい。























































<続く>

-------------------------------------------------------------




小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る