とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十二話




 ――この際だからバラしてしまうが、実を言うとラプター型自動人形が完成したのは決戦前夜だった。


オルティア副隊長が厳しく引っ叩いて機体モデルの仕上げまでは行えたのだが、ロールアウトしたのは前夜。ジェイル・スカリエッティ博士が妥協しなかった成果による犠牲であった。

"聖王"なんぞと担ぎ上げられている俺は元々小市民なので、起動事件の一つもせず実戦投入する度胸はなかった。とはいえ、時間そのものがない。


散々悩んだ挙げ句に渋々ではあるが、開発責任者のジェイル・スカリエッティと戦闘機人達に留守を任せるしかなかった――つまり、セッテ達も留守番である。


『一応姉を置いておきますので私は出陣いたします、陛下』

『珍しくハッキリ喋ったと思ったら、一応扱いされている!?』


 本人達からすれば当然かも知れないが、聖王騎士団を名乗るセッテ達から猛烈な反対を食らった。最前線で戦う俺を放置して後方に下がることなど出来ないと、断じたのだ。

司令官の命令は絶対だと本来なら副隊長が律するのだが、元傭兵団出身者は考え方を切り替えて提案する。一部であろうと主力を残すのは、敵に怪しまれると。

ヴィヴィオ達身内を餌にした作戦は、さじ加減が非常に重要だと彼女は指摘する。身内可愛さに厳重警戒すれば餌に釣られず、無防備にしたままだと勘ぐられる。


そのさじ加減こそが、戦闘機人達だった。戦力でありながら敵に侮られている彼女達が、最適であると。


『後方支援用の補給基地を作りますので、騎士団の皆さんはそちらで待機願いします。遊撃部隊として参戦願いますので、臨機応変な対応を求めますがご容赦を』

『ふむ、いい塩梅だと思うよ。私は研究者だ、前線で泥臭く戦う趣味はない。後方でのんびり見物させてもらおう。
それに我々の想定が確かであれば、このCW社にも別部隊が送られてくる公算だ。私の研究成果をこの目で見るいい機会でもある。せいぜい敵を笑ってあげようではないか』

『いい趣味していやがる……特等席で見物させてやる代わりに、同席者くらいは守ってくれよ』

『いいだろう。では一人――チンクに我々の護衛を頼もうか』

『むっ……出来れば私は陛下と共に――』


『CW社を襲撃して速やかに占拠、開発技術を独占して、人質を支配する動きだ。内部工作に長けた者に残ってもらいたいね』


 理路騒然としたジェイル博士の言い分に、チンクはしばし考えたが仕方なく首肯する。その代わり補給基地にトーレの出撃をお願いし、彼女に後を任せた。

俺とオルティアは最前線に出るので、補給基地の責任者はセッテ騎士団長に任命。大切な基地を任されたと大感激して、セッテは強く俺の手を握って拝命した。

喜んでいる彼女には申し訳ないが、こっそり実質的な指揮と補佐をウーノに頼み込む。博士も苦笑いしながら頼んでくれたので、ウーノは溜息を吐いて了承した。


ただチンクは知識や技能こそあるが、肝心の経験がない。そこで、プロにも頼んでおく。


『ノア、お前も残ってチンクと一緒に迎撃してくれ』

『ん、別にいいけど君の傍にいなくていいの? 護衛の子も最前線で戦うんでしょ、君がノーガードになるよ』

『敵はリインフォースを俺にぶつけてくるだろうけど、まあ注意はしておく。お前は、俺の家族を守ってくれ』

『分かった、家族は大事だもんね。お土産よろしく』

『戦場での土産って、敵大将の首になってしまうぞ』


『君の部屋に飾るね』

『やめろや!?』


 セッテも遊撃に向いた能力だが、ヴィヴィオ達の護衛に残しておいた。最悪の状況になったらあいつの能力で自由自在に逃げられるからな、こういう時は助かる。

完成されたラプター型自動人形であるファリンは技術の粋を尽くした能力を秘めているが、知識はともかく経験は到底埋められない。

起動実験も出来ないのであれば、実戦投入して経験を積ませるしかない。土壇場での賭けではあるが、無謀なギャンブルでは決してない。悪賢くも頼もしき、彼らがいるのだから。


その結果が――この屍の山だった。


「……馬鹿な」

『あらあら、どうしたのです実に愉快な顔をされて。出来損ないの兵器に問答無用で潰されて、ヘコんじゃないましたか』

「ふざけるな! たかが劣化コピー程度の兵器で、私の完成させた増殖兵器が敗れる筈がない!!」

『ほう、私のラプターを劣化コピーと罵るか。ふむ、まあ一概に否定はしないがね』


 圧倒的敗北を前にしても果敢に吠え立てるマクスウェル研究者と、圧倒的勝利を前にしても冷静に返答するスカリエッティ博士。

クアットロは汚らわしいとばかりに舌打ちしているが、ジェイルは笑って彼女をなだめている。単純な勝利の余裕だけではなさそうだ。

恐らく禅問答に等しい、この研究者同士のやり取りを純粋に楽しんでいるのだろう。使い所はどうあれ、研究成果そのものは注目するべき点は多々あるのだから。


ジェイルは勝利宣言をしたファリンを画面に移して、解説を行う。


『私から改めて紹介しよう。彼女はCW-AECシリーズ最新作、ラプター型自動人形ファリンだ』

『ラプター型、自動人形……?』


『同種のマリアージュを卑下した君とは違い、私はコンセプトというものを重視する。研究手段はいちいち問わないが、研究過程を楽しむタイプなのだよ。
自動人形とは遺失工学と呼ばれる分野の技術であり、人間を模して作られた芸術品だよ。

この自動人形におけるコンセプトとは『人間を創造する』事、君が製造した増殖兵器とは真逆の理念だね』


 ジェイル・スカリエッティの理念は生命の探求であり、フィル・マクスウェルの理念は生命の超越であった。

ジェイルにとって戦闘機人は人間の形をした戦力ではなく、戦力を有した人間なのである。戦闘能力はあくまで付属品であり、顧客を喜ばせる宣伝材料でしかない。

どちらも歪んではいるが、少なくともジェイルはウーノ達を家族のように大切に扱っている。だからこそ彼女達は、彼を心から慕うのだ。


彼が新しく製造したラプター型自動人形であるファリンにも、同様の理念が込められている。


『このラプター型は本人の強い希望もあって、女性型で製造されている。
魔力に依存しない動力システムである内燃バッテリーを使用しており、魔力結合不可状況への対抗策として研究を行った。
通常稼動も古来の自動人形を遥かに凌駕しており、全機能を解放した限界稼動時間にも大きな制限を必要としない。苦労はさせられたが、拡張外部兵装への対応も可能となっている。

全機能を解放したこの状態を、彼女は"ライダー"と呼んでいる。その戦力については、ご覧の通りだ』

『人体を超える動きを行っても大きな制限がないだと……!?』


 本人も言っているが、この点が開発に難航した部分でもある。ジェイルは敢えて軽く言っているが、ようするに特撮のライダーになりたいとファリンが要望したのだ。

後期型のノエルでも、全機能を解放した限界稼動は短時間しか持たない。人型でありながら人を超える稼動を行うには、人を超えた存在になるしかない。

フィル・マクスウェルは都度使い捨てる事でこの問題をクリアーするべく、増殖兵器を作った。使い捨てであれば、どれほど無茶苦茶させても問題ない。壊れたら捨てるだけだから。


ジェイル・スカリエッティは、違う。人の器に収めながら、人を超える技術を生み出した。


『そこにいる彼より学んだ人の繋がり――人でありながら人を諦めず、人の弱さを人に頼ることで乗り越える、繋がりによる強さを求めた。
私は自動人形とオプションのシステムを利用し、彼が持つ強さを研究によって再現してみせたのだ。
それがファリンという個性により実現した「リンク機能」、組織単位でリアルタイムに最新データを共有できるシステムだ。

一が全であり、全が一という運用。ラプター型自動人形であるファリンを基軸とした群団だよ』


『ショッカーの皆さん、片付けちゃってください』

『おー!』


 ……一緒に見た特撮映画だと悪役が戦闘員を連れていたはずなのだが、ファリン本人も実はちょっと憧れていたのだろうか。まあ子供が悪役にも憧れるのは、よくあるけれど。

ファリン群団はメイド服を着るファリンを中心に、ベレー帽型、黒タイツ型、レオタード型、フルフェイス型、白覆面型、白衣型などなど、多種多様に渡っている。

容姿も似て非なる存在であり、技能も何故か多種多様らしい。例えば今敵の屍を運んでいるフルフェイス型は、腕力は常人の5倍以上あるらしい。俺より余裕で力持ちである。


その点を説明すると、案の定フィル・マクスウェルはムキになって反論した。


『一が全であり、全が一という運用――その定義とは、まさか!?』

『そう、先程も言った通り人間だよ』

『何を馬鹿げたことを言っているんだ。コピーされた人型兵器に個性や固有技能なぞ生まれる筈がない!』


『その思い込みこそが君の限界であり、かつて私が経験した挫折だった。
生命の研究をしながら、私は命の多様性を軽視していた。人を生み出す技術を求めながら、人を模す事でしか人を表現できなかったのだ。

そんな私が見た奇跡こそが、このファリン――自動人形のオプションでありながら、魂を宿した奇跡なのだよ』


 ――ジェイル・スカリエッティは、俺に対して断言した。自動人形オプションであるファリン・綺堂・エーアリヒカイトであれば、ラプターを成せるのだと。

欧州の覇者達でさえも心の底から戦慄させた魂の誕生、特撮映画を見て正義に覚醒めた彼女であれば、ラプターによる運用が実現できると断言した。

壮絶な研究過程による酷使で一度は故障した彼女が回帰できたのは、その強気心と気高き正義があってこそだ。


ジェイル・スカリエッティという男が初めて、他人に託した願いが成就した。


『生命を使い捨てる君に、生命の神秘には未来永劫近づけまい。この奇跡を感受できない君に、心の底から憐れみを贈ろうではないか。
私は遂に到達できて、非常に満足している。今度は彼と共に生きて、生命が生み出す軌跡を特等席で鑑賞するつもりだ。

まあ君はせいぜい、軍事利用のおもちゃでも作って喜んでいたまえよ。フハハハハハハハハ!!』

「ぐっ……キ、キサマ!!」


 フィル・マクスウェルは猛然と反論しようとするが、クアットロがニヤリと笑って通信を切ってしまった。あ、こいつ、現状確認したかったのに!?

まあ、いいや。いずれにしても、長ったらしい種明かしはこれで終わりだ。


後は、決着をつけるだけだ。













<続く>








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