とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三話







あの小娘、いい気になりやがって。

仮にも未来の天下人となる俺が、何で花見の場所取りなんぞせねばならんのだ。

俺だって暇じゃ――じ、時間はあるけど、あいつらの為に割く時間なんぞない。


「やったー、なのはの勝ち」

「だあっ、しまった!?」


 画面の中央に表示されている戦闘終了の文字。

なのはのキャラがカッコよくキメポーズを決めており、俺のキャラは真っ二つになって転がっている。

刹那の瞬間余計な事を考えていた為に、起こってしまった敗北。

敗因はこれだ。

他の要素では全て勝っていたのだ、うん。

――ま、まあ多少なのはのキャラのパワーゲージに余裕があるが、無視する。

俺はコントローラーを投げ出した。


「ちっ、ガキは手加減してやればすぐいい気になりやがる」

「おにーちゃんはいっつもそんな事言ってますよ」

「やかましい! もう学校始まってるんだろ。
とっとと勉強でも何でもして、落ちこぼれてきやがれ」


 我ながら、ナイス負け惜しみ。

なのはが笑っているじゃないか、こん畜生め。

それもこれも皆ぜ−んぶ、レンが悪い。

あのコンビニ女が俺に難題を押し付けるから、食後のゲームにだって集中出来なくなるんだ。

なのははいそいそとゲーム本体を片付けながら、俺を見上げる。


「・・・お花見のこと、気にされてるんですか?」

「・・・・・・」


 基本的にぽけぽけしたガキだが、なかなかどうして聡い。

高町家が開催するお花見。

家族揃って出かける季節のイベントに、何故か俺が誘われた。

部外者なんぞ誘ってもつまらんだろうと今でも思うのだが、フィアッセの泣き落としには勝てなかった。

そこまではまあいいのだが、何故か俺がレンにその花見の場所取りを頼んできやがった。

俺はちゃんと断った。

冗談じゃないと、なめんなと。

場所取りしなければ参加はさせられないというなら、俺は喜んで参加を辞退する。

レンは俺のそんな心積もりを見抜き、事情を説明した。

何でも四月のこの時期、桜が綺麗に花を咲かせる場所はどこも人でいっぱいらしい。

休日ともなれば、花を見るより人を見るだけで終わってしまいそうな勢いなのだそうだ。

かといって、わざわざ遠征も出来ない。

学生達もそうだが、桃子やフィアッセの喫茶店は休日も開店している。

そうそう休みも取れず、泊りがけなんて無理。

予めポイントを決めて、前もって場所を取っておく必要があるという訳だ。

最悪、一日や二日の徹夜を覚悟して。

そんな激戦区に俺を向かわせる唯一にして最大の理由、それが空き時間だった。

何しろ、学校も仕事にも行かない俺は二十四時間自由。

俺だって剣の修行で忙しいのだが、そんな理由でこいつらは納得しない。

嫌がる俺を懸命に説き伏せて、レンは俺に願った。

その気持ちはわかる。

だがあいにく俺はもともと花見に興味がない上に、行使される謂れもない。

右から左に流して無視していたが、桃子とフィアッセという大将格には勝てなかった。

どうしても綺麗な桜が見たいのだと、大人のくせに我侭をこねる二人。

美しい容貌を持つフィアッセが、子供のように可憐な泣き顔を見せて、断れる男なんぞいるのだろうか?

渋々、俺は引き受けた。

この辺は不案内なので見つけられなくても文句は聞かない。

そうはっきり言ってやったのだが、喜び勇んでいたあの二人に届いたかどうかがかなり怪しい。

成功を確信されても困るのだが、出来なかったんだと馬鹿にされるのもむかつく。

――何なんだろうな、今の俺は。


「あ、あの・・・・・・大変だと思うんですけど、なのはも協力しますから!」


 ガキに心配されている俺。

本当ならむかつく場面なのだが、こいつに関してはいい加減慣れてきている。

子供の気休めではない。

こいつは、本心から、そう言っている。


「――俺が何とかするって言ったんだ、自分で探す。
お前がびっくりするくらい、綺麗な桜を見せてやるよ」


 いつまでもうじうじ悩むのは性に合わない。

一度約束した以上、あいつらの期待を超えるくらいの頑張りを見せてやる。

・・・レンにはむかつくので言ってやらない。


「・・・はい! ありがとう、良介おにーちゃん」 


 屈託のない笑顔を見せるなのはに、俺は苦笑いで返した。















   朝食後は基本的に皆バラバラ。

高町兄妹やレン・晶、なのはは学校。

桃子やフィアッセは喫茶店。

高町家は必然的に誰もいなくなり、俺一人が残される。

理解不能なことに、鍵を渡された。

いつでもこの家に帰ってきていいという事なのは分かるのだが、そもそもこの家にまた帰ってくるとは一度も言ってない。

それに、俺自身が泥棒になる可能性だってあるはずだ。

その辺をシカトして鍵まで渡す無用心ぶりに、腹すら立ってくる。

確かに最近ちっとは仲良くしているし、以前は偶然とはいえなのはを助けた。

だからといって、付き合いの浅い俺をここまで信用するのは何故だ。

俺がこの家を家捜しして、よからぬ企みだって出るかもしれないんだぞ。

例えばだな、フィアッセとか美由希の部屋に入ってタンスとか漁って――――って、俺は変態か。

一人家に居てそんなことを考える俺が情けなくなって、鍵をかけて外へ出る。

外はいい天気。

雲一つない青い空に気持ちの良い気候と、春真っ盛りな日である。

何の問題もなければのんびりするのだが、生憎俺には使命を背負っている。

まずは鍛錬。

美由希と恭也に教わったトレーニングを実践。

走り込みから筋トレ、素振りや剣の基礎的な修行。

一通りやり終えて汗を流した後、俺は竹刀を背中に背負って町をぶらつく。


「桜が咲いている場所ね・・・・・・」


 多分、有名どころはあいつらが全部探し終わった後だと思う。

無名で花見には最適な場所? ――この町に不案内な俺が知っている筈がないだろうが!

いくら暇だからといっても、俺に任せるあいつらはやっぱり馬鹿だと思う。

どうしようかな・・・・・・

こういう場合、やっぱりこの町に詳しい奴に聞くのが一番だろう。

高町家の連中は見こみなし。

後、俺の知り合いは――


・心配性なお医者さん
・家来の狐
・獣の飼い主
・不良警官
・酔っ払いとその仲間たち


――ろくな奴が居ねえ!?

一応、一人一人検討してみよう。

フィリス。

・・・・・・医療に優れていても、あいつは世間知らず。

あの病院の庭とか・・・・・怒るか泣くかするのでやめておこう。

久遠。

なーるほど、獣だから山に詳しい――いかん、脳みそが緩んできてるぞ俺。

役立たず、以上。

那美。

この娘は一般人で聞く価値はあるが、レン達の知らない場所を知っているだろうか?

保留にしておく。

リスティ。

お巡りさんだから、道を聞くってか? あはははははは――――ざっけんな。

真剣に答えるか大いに怪しいので却下。

真雪達。

リスティと同類。

迂闊に場所を聞いたら、強制的に参加しそうなのでパス。


後は・・・・・・

遊歩道を歩きながら、必死で考えていた所へ――



キッ



「・・・・・・ん?」


 俺の丁度真横に付ける車。

一応前方を確認するが、信号機なんてない。

しかも往来を走る乗用車の域を遥かに越えた高級車。

見た目から庶民を圧倒する乗り物に乗る知り合いに、心当たりがあった。

俺に妙に絡んでくる不思議な雰囲気をまとった女。

主に忠実に従うメイド。

相変わらず突然で、嫌味に俺の横に停まる車の助手席の窓を乱暴にたたいた。


「こら、道路交通法違反者。
俺は今忙しいんだ、とっとと散りやがれ」


 俺の声に応えるように窓が開いて――――あれっ!?


「うふふ・・・・・・随分嫌われていたのね、私」


 運転席に優雅に座る貴婦人――綺堂さくらが微笑みを浮かべる。

切れ長の、冷たく光る瞳を見せつけて。 
























































<続く>

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