とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第八十五話




 ――聖王のゆりかごより、黒煙が上がっている。


ユーリ・エーベルヴァインとイリスの激突は、我が子に圧倒的な軍配が上がっていた。イリスの魔導殺しは、ユーリには何一つ通じていない。

永遠結晶エグザミアを核とする特定魔導力を無限に生み出し続ける無限連環機構システムが開放されており、法術によって完全に制御されている状態。

エグザミアから生みだす魔力以外にも周囲の魔力素を凄まじい勢いで吸い上げており、凶悪な魔力量による砲撃が絶え間なく聖王のゆりかごに発射され続けている。


古代ベルカ最強のロストロギアである聖王のゆりかごであっても、ユーリの猛攻は防げない。


『どういう事なの!? 惑星エルトリアにいた頃のあんたに、これほど強大な力はなかった筈よ!』

「わたしはユーリ・エーベルヴァイン、お父さんの子供です。自分を取り戻した今のわたしは、貴方の知るユーリではありません」

『だったらやっぱり、アタシを騙していたということでしょう!』

「過去のわたしを知る由はありませんが、今のわたしは自分を知っている。ただそれだけの事です」

『いいえ、今のあんたは法術使いによって記憶を失っているだけよ。だから――あっ』


「ようやく気付きましたか、イリス。もしもお父さんによって記憶を消されているのであれば、今のわたしは力を失っている筈なんです。生み出す余地などありはしない。
昔よりも今のわたしが強いというのであれば、失ったのではなく『与えられた』という何よりの証拠なんです」


『くっ……そんな、そんな筈はないのよ! だって今のあんたはアタシのことを忘れているでしょう!』

「はい、覚えていません。でもそれでもわたしは貴女を友達だと思っていますよ、イリス。記憶を失われても、想いはこの胸に残っている。
他人の想いを実現してくれる素敵な力が、お父さんの力なんです」

『……騙されない、騙されない、アタシは絶対に騙されない!』

「やはり貴女は分かっている。ただ悲しみが深すぎて、優しさを受け入れられないだけなんですね。
その悲しみをわたしが与えてしまったのであれば、今こそ償わなければいけません。降りてきなさいイリス、聖王のゆりかごではわたしは倒せませんよ」

『っ……マスタープログラムは何時まで時間がかかっているのよ。群体の使用まで許可しているのに、どうして法術使いを殺せないの!?』


 ――話題の人である俺はそのリインフォースを相手に、猛攻を加えている。向こうはイライラしているようだが、実際のところ戦場は膠着状態に陥っている。

マスタープログラムと呼ばれているリインフォースは決して、愚か者ではない。洗脳こそされているが、頭脳も戦力もずば抜けている超一流の魔導師だ。

近接戦闘で何度もやり込められて戦闘スタイルを鬱陶しく変えてきており、超遠距離からの広範囲魔法を展開している。戦闘ではなく戦争状態に切り替えた対応だ。


あいつは個人だが、俺は部隊を率いている部隊長である。この惑星と仲間を守る為に広範囲魔法への対処を強いられており、二転三転させられていた。ええい、なかなか近付けない!


「マスタープログラムはお父さんが倒します。頼りにするのは無駄ですよ」

『闇の書のマスタープログラムは強いわ。あんたかキリエ達によって肉体を改造したようだけど、あの法術使いでは勝てない』

「貴方が与えた自慢の群体とやらはお父さんに斬られたようですよ、えっへん」

『何であんたがちょっと得意げなのよ、割とムカつくわ!』


 どうやらザフィーラのニセモノを一刀両断した瞬間を、きっちりと見ていたようだ。ユーリが興奮に頬を紅潮させて、珍しく他人に大威張りしている。父親として誇らしいが、照れくさい。

とはいえ、イリスも流石に劣勢であることを否定しなかった。リインフォースをこちらが押さえていることは、目に見えているからだ。確実に時間がかかると、思い知ったらしい。

俺は最終的に勝つ気満々だが、イリスは俺が敗北する可能性はまだあると睨んでいる。だからこそこの状況に苛立ってこそいるが、まだ戦局が傾いていないことも分かっている。


リインフォースを俺が押さえているという事は、リインフォースに俺は押さえられている事にもなる。少なくとも、ユーリ達への援護には到底いけそうにない。


『――群体には、二つの種類がある』

「二種類……?」

『リインフォースにはウイルスコードが働いていて、有効的に洗脳できている。とはいえ法術という特殊な例があるので、洗脳の解除を想定してあの子には「量産型」しか与えなかったのよ。
量産型は最低限の判断能力は持つけど、基本的に命令に従うだけの人形。ヴァリアントシステムも内蔵しているだけの戦闘兵器とでも言えばいいのかしら』

「それはもしかして、貴方が利用したマリアージュという兵器を参考に製造したのですか!?」

『実に役立たずだったけど、データ自体は参考にさせてもらったわ。なかなかよく出来た人形ができたでしょう』

「マリアージュを出来損ないとよんでいたということは、もう一つの種類はまさか――」


『約束してあげるわ、ユーリ』


 ――イリスに奪われたのは、二つあった。

一つは言うまでもなく闇の書、法術によって改変された蒼天の書である。この魔導書が奪われたせいでリインフォースが洗脳され、守護騎士システムが利用されてしまった。

騎士達そのものを再現できなかったのは、法術による改変を書き換えられなかったせいだろう。ウイルスコードでユーリを洗脳できなかったのも、法術によってブロックされた為だ。


そしてもう一つは――


『わたしの最高傑作であるイリス群体――『固有型』を倒せたら、このアタシが貴方の相手をしてあげる』


 ――『聖典』。

聖王教会の最秘奥、法術に関する知識を含めた古代ベルカの全てが保管されたデータ媒体である。


「あれは……聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの群体!?」


 イリス群体『固有型』、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。他の誰でもない俺だからこそ彼女が誰であるか、他の誰よりも早くすぐに分かった。

歴史上の人物であり、故人。聖王家直系の王女として生まれ、武術の腕を磨いて古代ベルカの一時代を築き上げた強者であり、聖王のゆりかごによって戦争を終わらせた偉人。

ゆりかごのコアになった反動で若くして落命し、その後幽霊となって時代の行く末を見守り続け――今世になれど争いの絶えない世界に絶望して、荒御魂となってしまった反英霊。


イリスの技術によって再現された歴史上の英雄が、ユーリの前に立ち塞がっている。


『ふふふ、闇の書の中で眠っていたユーリは彼女のことをよく知っているわよね』

「どこまでやるつもりですかイリス、偉人を汚すなんて! 聖典を分析したのであれば、彼女がどれほど苦悩したのか分かっているはずでしょう!」

『固有型は量産型とは違って、指揮権を与えられた上級個体。高度な判断能力や会話能力、明確な自我を得ているわ。
もちろん本体であるアタシの判断に従うことが大原則だけど、聖王オリヴィエはアタシの復讐に応じてくれたのよ。

優しかったあの人を殺したユーリも、あの人が変えられなかった世界も、何もかも壊れてしまえばいいんだわ!』

「嘘です、優しい貴方にそんな事は絶対にできない。今の貴方は復讐に逃げているだけ、キリエさんを裏切ってしまったことをずっと悔やんでいるだけです!」

『キリエのことなんてどうでもいいと言っているでしょう! ユーリを殺しなさい、オリヴィエ!!』


 くそっ、やばい。聖王であろうとユーリなら戦えるが、オリヴィエのニセモノが相手だとやばい。だって荒御魂である筈のオリヴィエ本人は、ユーリを溺愛しているからだ。

どういう思考回路をしているのか、七色の魔力光を持つ俺を自分の息子と誤認し、ユーリ達を自分の孫だとオリヴィエの霊は思い込んでいるのである。

俺に取り憑いているあいつは暇を見ては顔を出して、ニコニコ顔でユーリ達と遊んだり、勉強を見てあげたりしている。あいつにとって俺の周辺こそが極楽浄土なのである。


イリスは歴史上の英雄として復元しただけかも知れないが、ユーリにとってオリヴィエは優しいお祖母ちゃんなのである。めちゃくちゃ手出ししづらいはずである。


俺にとっては傍迷惑な怨霊なので容赦なく斬れるというのに、リインフォースが妨害してくる。くそっ、こんな時に限って接近してきやがって。

本人を呼びつけたいところではあるが、表に出せる存在ではないのが歯がゆい。法術までバレたのでもう何もかもバラしたい心境だが、世の中には時と場合がある。

固有型オリヴィエはイリスの命令に従って、恐るべき速さで突進してくる。ユーリはやむを得ずゆりかごへの砲撃を中止して、シールドを展開して――


「どうでもいいとはどういうことよ、イリス!」


 ――シールドの前に飛び出してきたキリエ・フローリアンによって、オリヴィエが止められた。

即座にオリヴィエが相手を切り替えるが、最初から覚悟を決めているキリエは迷いもなく飛び出して、オリヴィエに自分の拳を打ち付ける。


美しい肉体を持っているキリエの攻撃は聖王といえど軽くいなせず、後退させられてしまう。


『……キリエ』

「こいつを倒せば出てくるのよね、イリス。絶対謝ってもらうから覚悟しなさい」

『ば、馬鹿じゃないの。いつもアタシに頼ってばかりだったキリエに勝てる相手じゃないわよ!』

「そうね、あたしはたしかに貴方に頼ってばかりだった。だから何もかも押し付けて、罪まで背負わせてしまった。
だから、こうしてあたしは出てきたのよ。あたしと後で迷惑かけた人達にいっぱい謝るのよ、イリス」

『だからあんたは子供だっていうのよ。謝って済む問題じゃ――』

「謝りもしないでウジウジと何言っているのよ、あんたは! 絶対、謝らせるからね!

――ユーリちゃん。この人はあたしがなんとかするから、あの子をどうか……どうかお願いね!!」


 彼女だって決して、無責任ではない。自分が犯した過ちを認めており、母や姉に叱られて涙を流して俺や関係者達に謝罪して回っている。全てが終わった後、責任も果たすつもりだ。

だからこそ、今こうしてイリスを止められないことに悔やんでいる。自分ではイリスを止められないと自覚して、恥じている。そんな彼女に対してユーリはあなたのせいではないと、優しく首を振った。

イリスがあそこまで自暴自棄になっているのは、キリエの存在あってこそだ。色々と大義名分を並び立てているが、結局自分のやったことから目を背けているだけだ。


多くの人に迷惑をかけてしまったこと、世界を傷付けてしまったこと――キリエという自分を信じてくれた友人を裏切ってしまったことを、今も後悔し続けている。


「行くよ、ナハトヴァール!」

「おー!」


 地上をキリエに任せて、ナハトヴァールを背負ったユーリは大空へと舞い上がっていく。

目指すのは、イリスが居る本舞台――約束の地である、聖王のゆりかご。


戦場は、多岐に渡っていった。















<続く>








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