とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第八十一話




 聖王のゆりかごが放った主砲、世界を鎮圧する一撃がユーリ・エーベルヴァインの『多層障壁』にぶつかって完全に消滅してしまった。

ゆりかごの主砲レベルだと余波だけでも都市を壊す魔力を秘めているのだが、周囲の濃厚な魔力素をユーリの背に乗るナハトヴァールが凄まじい勢いで吸い上げている。

かつてベルカ時代を混乱に陥れた伝説の兵器も、ユーリには通じない。その事実は味方を狂喜させ、敵を狂乱させる。

イリスの明らかな動揺は、通信代わりに用いている真核からも伝わってくる。ユーリの力は、あいつの想像を遥かに超えていた。


荘厳な空気を纏った白き太陽が、威厳ある声で命ずる。


「聖王のゆりかご程度では、今のわたしは破壊できない。出て来なさい、イリス」

『誰に向かって命令しているのよ。イクスヴェリア、再装填を――』


「エターナルセイバー」


 永遠結晶エグザミアを核とする、特定魔導力を無限に生み出し続ける無限連環機構のシステムが発動。法術の完全制御により、ユーリの魔力が完璧に注がれる。

エターナルリングと呼ばれる無限連環の構築体、マテリアルが起動。闇色の炎が燃え上がって、魄翼と呼ばれる大いなる翼が生まれる。翼が風を呼び、風は嵐となり、大気を轟かせる。

巨大な翼の形態が、長大なビームサーベルと変幻。デバイスを用いずとも強大な魔法を行使できるユーリは、魄翼で攻撃が行える。


魄翼の炎を纏ったビームサーベルは空を断裂させて、聖王のゆりかごというロストロギアを貫通した。


『なっ――何なのよ、この強大な魔力! あんた、こんな力を隠していたの!?』

「今のわたしはお父さんの子供、ユーリ・エーベルヴァインです」

『別人だとでも言いたいの!? その父親を殺したくせに!』

「あなたを守るためであれば、わたしは自分の手を血で染めることを躊躇ったりはしない――ジャベリンバッシュ」


 魄翼を展開してユーリは巨大な槍を形成し、背中のナハトヴァールは受け取る。笑顔で受け取ったナハトは振りかぶり、豪快にぶん投げた。

天空を貫く巨大な槍は、聖王のゆりかごの真下に突き刺さる。巨大戦艦は娘達の連携攻撃でありえぬほどに揺さぶられ、挙動が不審となってしまう。

さりとて伝説のロストロギア、破壊までは至らない。当然だ、ユーリとナハトヴァールは加減している。イリスとイクスヴェリアを、殺すつもりはないのだから。


しかしながら、身内以外の人間にはそれが分からない――恐怖に震えるイリスは、切り札を切った。


『管制人格、マスタープログラム。再装填が完了するまで、ユーリを行動不能にしなさい!』


 ――闇の書の管制人格、マスタープログラムと呼ばれる存在。真実は不明だが、管制人格は戦闘能力ではユーリやナハトヴァールに匹敵すると言われている。

聖王のゆりかごから飛び出したリインフォースは闇の翼を広げて、急降下。仲間達を守るユーリをめがけて、一直線に突っ込んでくる。

彼女の飛空能力はずば抜けており、ロケット顔負けの加速で雷の如くユーリを襲撃。凄まじき速さに、ユーリやナハトヴァールは回避も防御も出来ない。


わざわざ回避する必要もない――地を蹴った俺が、ユーリの眼前に迫ったリインフォースの横面を蹴り飛ばしたのだから。


「部隊の指揮は任せる」

「了解です、隊長。ご武運を」


 襲撃を受けたリインフォースは大地へ激突し、森林を薙ぎ飛ばして、岩場にぶつかって転がり落ちた。攻撃を受けた自覚もないのか、頭を振って混乱している。

リインフォースを蹴り飛ばして地面へ着地した俺は引き裂かれた大地を無造作に歩き、生命の剣セフィロトを竹刀袋から引き抜いた。

軽く数百メートルは激突して転がった筈だが、額より流れる血を除いて負傷と呼べる程の怪我はない。その点に大した感慨もなく、俺は対峙する。


洗脳された闇の書の意思、狂い咲きする管制人格。魔性に侵された女は、狂おしいほどに美しかった。


「お前に用はない、そこをどけ」

「俺の娘に手出ししておいて何いってんだ、お前」

「警告はした。引かぬと言うなら、今度こそ殺すだけだ」

「やってみろ」


 今更負け惜しみを言うつもりはない。先の戦いでは生き残ったと言うだけで、戦闘内容はほぼ完敗と言ってよかった。

彼女の繰り出す攻撃は何一つとしてまともに防げず、命懸けで回避しても傷つき、疲弊して倒れた。実力の差は圧倒的であり、暴力的でさえあった。

恐竜と蟻。夜の一族の世界会議で表現した落差は今や権力ではなく、暴力で差がついていた。理想と現実の落差は惨めなほどに開いており、彼女の前では嘆き悲しむ死しかない。


俺一人であれば、到底勝てなかっただろう。


「刃以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー」


 ロックオン型の自動誘導型高速射撃魔法、真紅に染まった鋼の短剣が無数に放たれる。実体化された刃は眼前を埋め尽くす数を持って、俺の前進を貫きに走る。

聖王のゆりかごにより十全な魔力が補充されたのか、先の戦いとはレベルも数も圧倒的に違う。あの時は一本一本切り払うことさえも、困難であった。


人体のあらゆる急所を抉りに来た刃の数々を――俺は無造作に、切り払った。


「何っ……!?」


 今俺が手にしているのは竹刀ではない、生命だ。生命力に漲った新しい肉体は、自分の脳内にイメージした動きを忠実に再現してくれた。

御神美紗都師匠により与えられた知識を、過去の戦闘を脳内で再現。イメージトレーニングは全て、完ぺきにこなしている。

かつて魔龍の姫相手に戦えたのも、このイメージトレーニングあってこそだ。キリエとアミティエより叩き込まれたエルトリアの技術を使いこなすべく、イメージトレーニングは欠かさなかった。

頭蓋を砕く刃を叩き落とし、眼球を撃ち抜く刃を切り払い、喉奥を突く刃を打ち上げて、心臓を刺す刃を切り捨て、肺腑を抉る刃を突き刺して潰す。


かすり傷一つ追わなかった現実を前に、リインフォースは目を見開いた。


「闇に沈め、ブルーティガードルヒ」


 着弾時爆裂の効果を持つ刃、 視認が困難なほど弾速が速くて、遠隔操作も可能とする。なるほど、これなら切り払っても爆撃されて木っ端微塵になってしまう。

空間を飛び越えて襲い掛かってくる刃を切り払うと、噴煙を上げて爆発。眼前を焼く火力が押し寄せてくるが、無言で地面にセフィロトを突き刺して切り上げる。

剣術における払い技、基本ではあるがゆえの王道。魔力の爆発を剣による技で払い、凄まじき爆風が目の前で真っ二つに引き裂かれて消えた。


後に残るのは、無傷のまま立っている俺だけである。


「馬鹿な……先の戦いとは、まるでレベルが違う。どうなっている!?」

「俺は何も変わらない。変わってしまったのは、お前だけだ」


「ならばお前ごと、ユーリ・エーベルヴァインを吹き飛ばすまでだ――闇に染まれ、デアボリック・エミッション!」


 ――術者を中心とした球形の範囲内全てを純粋魔力攻撃する、広域空間攻撃魔法。

広域空間攻撃を使用できる術者は世界中を見渡しても数少なく、間違いなく天才と呼ばれる者達にだけ許される破壊の華であった。

バリア発生阻害能力があり、対魔導師攻撃力に優れるこの攻撃を防げる魔導師は存在しない。ユーリを殺すという意味では、確かに最適ではあるだろう。

戦闘ではなく、戦争で使うべき魔術。兵士ではなく、軍隊に用いられる魔導。神速を用いても完全には逃れない、広大な威力。

この場にいる人間は全て闇に飲み込まれて、消える。



「アクセラレイター」



 一刀両断――デアボリック・エミッションを、真一文字に切り裂いた。


広域空間攻撃魔法を斬り、森林を斬り、岩場を斬り、大地を斬って――リインフォースの闇の翼を、斬った。

周辺一帯が両断されて真っ平らとなり、やがて崩れ落ちる。おかげで見渡しも良くなり、地平線の彼方まで見えるようになった。


唖然とするリインフォースを一瞥して、俺は一言告げる。


「本気で来ないと、死ぬぞ」

「――!?」















<続く>








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