とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第七十八話




 第23管理世界、ルヴェラ。時空管理局が統治している世界の一つだったので、オルティア副隊長が地上本部への報告がてらすぐに調べ上げてくれた。

豊かな自然が残る田舎のような世界であり、大自然の営みの中で聖王のゆりかごのような巨大兵器を隠す空間にも恵まれているようだ。

統治機構が存在する都市部についても、街並みは近代ミッドチルダに比べて古風で前時代的なものが多く、衛星都市区域として平和の象徴を担っている。


この世界を万が一にでも潰されると、時空管理局の統治は足元から崩れ落ちていく。


『第23管理世界自体は本局の縄張りではあるが、ルヴェラは地上本部にとっても重要な意味を持つ平和の象徴だ。失敗は絶対に許されんぞ』

「失敗すれば私は間違いなく殺されているので、容赦なく責任を押し付けてくださって結構です」

「私も隊長に殉じる覚悟ですので、二階級特進も結構です。特務機動課の隊員達及び分隊長の帰投を条件に、どうぞこの傭兵崩れの女に何もかも押し付けてください」


『お、おう、儂もそこまで言う気はなかったんだが……』


 本番前のリハーサルではないが、決戦前に最後の会談を行っている。オルティア副隊長の凛々しき決意に若干引きつつも、同盟相手のレジアス中将の承認は取り付けた。

黒幕であるイリスの正体や動機は、既に話している。隠し立てしたところで捕まえてしまえば、追求されるのは目に見えているからだ。自分達の成功の為に、イリスが極刑となってしまう。

愛娘のユーリに泣きながら減刑を嘆願されたので、イリスの為なんぞに情けをかけたくなかったが、レジアスに事前に説明して何とか取引を持ちかけた。


答えとしてはノーであり、イエスであった。


『成功すれば盛大に祭り上げてやる。情報統制は表裏含めて完璧に管理している、余計な邪魔は一切入らせん。
上層部もこれ幸いとやかましく言ってきているが、儂本人が直々に乗り込んで黙らせるので心配するな。儂が動けん分、しっかり働くように』


 イリスはエルトリア惑星再生委員会が開発した「IR-S07」という名称の生体テラフォーミングユニットであり、人間ではない。この点を利用できると彼は妥協を持ちかけた。

別の惑星より生まれた生体ユニットが暴走して危険な兵器となり、自我を持って破壊活動を行った。然るべく特務機動課が出動して、完膚なきまでに生体ユニットを破壊したというシナリオである。

人間ではなく機械なので偽装工作は難しくなく、イリス本人は破壊された事に出来ると言う。魔導を殺す未知なる兵器を破壊した実績を持って、CW社の新武装シリーズを宣伝できると意気揚々だった。


実際時空管理局でも、意思を持った機械類の扱いはいつも難義極まるらしい。


『本局や地上本部に限らず、共通の悩みの種だ。いつもこの手の犯罪となると、人権だの何だのと騒ぎ立てる輩が多いので、犯罪者の定義にいつも悩まされる。
人間であれば裁くのに何ら批判は出ぬのに、人の心を持った何かとなればうるさく騒ぎ立てるのは何なんだろうな』

「完璧な人間なんていないのに、人ではないものの心に正義を求めてしまうのか」

「人の心に神聖を求める幻想でしょう。聖人君主などこの世にはいないというのに、困ったものですね」


 犯罪者という外道達を相手にしてきた中将と、傭兵という戦争屋を束ねていた女の意見は常に厳しくて深い。平和な世界で生きてきた浮浪者には何とも言い難い価値観だった。

人でない存在に宿る、人の心。思い当たる点は腐るほどある。ローゼやファリンのような自動人形、セッテやギンガ達のような戦闘機人、ミヤやアギトのようなデバイス。

彼らには確かに心が存在するが、人であるかどうかの定義には当てはまらない。俺は人間だと思ったことは一度もなく、彼女達も人ではないことに誇りを抱いて生きている。


心の在り処を追い求めるのは、どの世界でも変わらぬ難題ということなのだろう。


『話を聞く限り、其奴の目的は貴様と貴様の娘なのだろう。地上で犯罪を犯したことは許さんが、人権問題なんぞという脱線はしたくない。
よって更生は貴様に任せ、オルティア副隊長には貴様の監視をさせる。異存は認め――』

「ありません。隊長の補佐は、副隊長である私は引き続き行います。事件解決後についても、ぜひ私にお任せください」

『お、おう、そこまで言うのであれば任せるが……』


 異論は認めないと厳しく言うつもりだったのに、逆にズバリと言い返されて仰け反っている。部下とは言え、怜悧な美人に前のめりで嘆願されてはこうなってしまうだろう。

イリスより決戦を伝えられて、最後の戦いに向けて日々慌ただしくなっている。オルティアは毎晩遅くまで各方面の調整に駆り出されているが、疲れの色は見えない。

明らかに特務機動課で一番忙しく働かされているのだが、本人は事件解決後も特務機動課の残留を強く望んでいるらしい。副隊長として働くのだと、中将に今から人事の希望を出している。


俺としても彼女の代わりはいないのだと伝えると、オルティアは嬉しげに頬を緩めていた。やはり上司の評価こそが、部下の薬となるようだ。


『大概上は生体ユニットの破壊、つまりは暴走による死。破壊されたことで、なんとか書類上は片付けてやる。だが地上本部中将として、そのまま自由にはさせんぞ。
少なくとも、地上本部の縄張りには一切近づくな。儂の前に顔を出したら、即座に破壊してやると伝えておけ』

「寛大な処分に、感謝いたします。必ず内々に、平和裏に処理いたしますので」


 レジアス・ゲイズはたとえ女子供であろうと、犯罪者を許すほど甘い男ではない。本人が述べている通り武装テロ事件を、変な人権問題に拡大させたくないだけだろう。

レジアスとしては、生体ユニットの破壊というシナリオの方がやりやすいので処理するだけだ。人間ではないので処理しやすいという合理的な判断でしかない。

後はやはり、イリスを俺の管理下に置くという条件が聞いている。俺にはオルティアという監視がついているから、首に鈴をつけられている状態なのだ。


オルティアを一瞥すると、本人は心得ているとばかりに頷いた。


(中将への対応は私に任せてください、隊長。たとえ地上本部の代表であろうと、どうにでも処理できますのでご安心を)

(怖っ!? むしろあっちに味方するべき立場じゃないのか)

(私の立場は、隊長の副官です。誰の味方をするべきなのか、自明の理ですよ)


 レジアス・ゲイズの判断は正義感に基づいているが、政治的判断も含まれている。オルティアからすれば実に見慣れた、薄汚い大人の世界なのだろう。

オルティア本人も男社会でのし上がってきた女傑だ、酸いも甘いも噛み分ける器は持っている。欲望に満ちた社交界で生きていかなければ、長なんぞ務まらない。

けれど一方で若い時分から世界の醜さが見えてしまい、多くの失望と落胆を感じてきたのだろう。若く美しい時から既に知性や理性が磨かれているというのは、必ずしも良い事ばかりではない。


そんな彼女にとって打算抜きで戦える連中が集まっている、白旗や特務機動課の連中と戦える今が充実しているのかもしれない。初心を思い出せて。


『儂の夢も含めて全て、お前に託す――後は任せたぞ』

「ええ、朗報を期待していてください」


 レジアス・ゲイズ本人は俺の邪魔をする連中、最高評議会と戦ってくれる。ならば俺はせめて、彼の理想を阻む奴等と戦おう。

作戦司令部には、オルティア。イリスはユーリが抑え、ディアーチェがイクスヴェリアを救出し、レヴィが聖王のゆりかごを奪還。CW社の看板を背負って、シュテルが機動外殻を破壊する。

ティーダが指揮する特務機動課の連中は、イリスがミッドチルダ中から奪った資材で製造された兵器の大群を押さえる。奪われたあらゆる全てを取り戻して、俺達は生還するのだ。


全ての調整を終えて、俺達は戦場へと向かう。















「本日、我々は最後の任務に就くことになる」


 決戦の日、CW社。特務機動課並びに白旗、そして各組織の協力者達が集った者達の前で、俺は声を張り上げている。

当日になったのでそのまま出撃すればいいと思うのだが、何故か全員を集めた上で副隊長のオルティアが、俺に出撃前の激をお願いしますと立たせたのである。何でやねん。

一瞬イジメの一種なのかと思ったのだが、揃いも揃って全員俺を見る目が熱すぎて怖い。特に傍らに控えているオルティアは注目を集める俺の隣に控えている事を、誇らしげにしている。 


当然全く何の準備もしていないので、カンペもない。アリサやリニスを期待しているのだが、当人達は良い機会だと、真面目な顔で言葉を待っている。ちくしょう、何を言えってんだ。


「ミッドチルダで武装テロを働いた犯人からの堂々たる宣戦布告だ、大きな戦いとなるだろう。戦争へと発展してしまうかもしれない。
本来であれば、一部隊には過ぎた任務だ。このような戦いを強いるあらゆる運命に、罵声の一つでも浴びせたくなるだろう。諸君らの気持ちは、私も理解している」


 思えば、自分の運命を呪わなくなったのはいつ頃だろう。ジュエルシード事件では散々呪っていた運命の女神にも、俺は最近見向きもしなくなった。

自分の人生は自分で選んでいる自覚こそあるが、それにしたって随分と遠い世界に来たものだ。日本で一人、金もなく腹を空かせて歩いていた頃からまだ一年も経っていない。

あの頃は一人のんびり生きていたのに、今では世界の命運をかけて大勢の前で演説している。どういう人生を歩めば、こんな舞台に担ぎ上げられてしまうのか。


運命だというのであれば、一体何をさせたいのだろうか。


「故に私は敢えていつも通り、君達にこう言おう――私が全て責任を取る。何もかも全部私に押し付けて、君達は望む通りに戦えばいい」


 ――そんな風に運命を呪わなくても済むように、彼らにはせめて好きに戦ってもらおう。自分の意志で胸を張って、戦ってほしい。

金が必要なら、俺が金持ち連中から出させる。人が必要なら、俺は正義の組織から出させる。夢が必要なら、俺が運命の神様から出させてやろうじゃないか。

独りだった俺に声をかけてくれた、大人達のように。


「私は君達に理想を求めない。私は君達に主義主張を求めない。私はこの場に揃った自分の部下こそ最高の人材であると確信しているからだ。
世界を救う戦いと、身構えることはなにもない。いつもどおりやってくれ、それで最高の結果を出せるだろう。

私は神ではない。だからこそ、神には感謝している。君達のような部下を仲間として、私に与えてくれたからだ」


 信頼なんて、言葉にできるものではない。他人を信じている内に、いつの間にか他人から信じられるようになるものなのだから。

彼らはあらゆる組織から集められた精鋭であり、エリートだ。自分の優秀さを疑うものなんて、いないだろう。


「私から君達に命じるのは唯一つ、生きて帰る事だ。無駄死には許さん、大義ある死を許さん、誰かの為に死ぬことも許さん。
世界のために死ぬような部下は、私は要らん。どれほど無様で格好悪くても、生き残れ。君達を笑うやつは、私がぶん殴る。風評被害など、この私がどうにでもしてやる。

私は世界よりも、君達のほうが大切だ。君達と最高の勝利を祝いたいと、思っている」


 後は自分以外の誰かを信じられれば、完璧だ。


「今日、君達と戦えることを誇りに思う。全員生きて帰って、勝利を祝おう!」

『おおおおおおおおおお!』


 全然大したことは言っていないのに、号令をかけただけで盛り上がってくれて助かった。ノリがいい連中で、よかった。

自分を信じ、仲間を信じ、他人を信じる。当たり前のことを、当たり前のようにやるのが難しい。信じて裏切られるのは、誰だって怖いもんだ。

だから俺を第一に信じろとは言わなかった。自分が信じられないのであれば、俺を頼ればいい。


一人ではないと言うだけでも、十分戦えるものだから。





「お疲れ様でした、隊長。とても良い演説でした、撮影した動画を流すのが今から楽しみです」

「そうか、ありがとう――撮影!?」

「カンペを用意していたのですが、隊長を信じて渡しませんでした。これもまた信頼ですね」

「渡せよ、めちゃくちゃ困ったわ!?」















<続く>








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