とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第七十七話




 とりあえず一応身内ではあるので社長室へ連れていき、オレンジジュースを与えて泣き止ませてここまで来た経緯を聞いてみると予想以上に酷かった。

以前より俺から呼び出しを受けていた高町なのはは学業と家業を両立させてスケジュールを立て、家族に心配されないように忍達の協力を得てアリバイ工作をして聖地へ出向。

入国管理局から現地へ到着した途端、なのはの人相書きを持った黒服達(カリーナとセレナの手先)に囲まれて丁重かつ厳重に担がれて、黒塗りの高級車に載せられる始末。


誰一人何の説明もしないまま、ミッドチルダから第三世界へ空輸されて、CW車に納品されたのである――高町なのはの冒険記に、俺ともあろうものが泣かされた。


「一体全体、何がどうなっているんですか!?」

「一言でいうと、ここは俺の会社」

「うわーん、更に分からなくなったー!?」


 可愛らしい冬服姿のなのはを見て、管理外世界の海鳴は今十二月の冬である事を思い出せた。季節感どころか世界観も違うので、全くもって忘れていた。

新年を迎える頃にはきちんと帰れるのかどうか、心配になってくる。次は決戦なので戦い自体は終わると思うのだが、戦争というのは後始末の方がドえらく大変だったりする。

勝てば英雄だがレジアス中将に栄光のロードを無理やり歩かされる羽目になるし、敗北すればユーリと俺は殺されて人生は破産する。未来どころか、来年の自分が想像できない。


社長秘書のセレナが入れてくれたオレンジジュースを飲ませつつ、俺は一から順に説明してやった。


「フェイトちゃんがこの会社で働いているんですか!? プレシアさんの裁判が終わって、社会復帰のアルバイトを始めたというのは聞いていましたけど」

「うむ、うちの会社で働いているぞ」

「だ、だったらなのはも手伝いますよ! もっと早く呼んでくれてもよかったのに」

「新兵器実験のアルバイトだぞ。お前も手伝ってくれるのか」

「……ちょ、ちょっと怖そうですね、うーん……」


 魔導師としての才能はピカイチ、射撃の腕前は超一流のセンスだとクロノ達は絶賛していたが、喫茶店のマスターを目指す少女は武器製造会社に尻込みしていた。まあそうだろうね。

戦う気が全く無いというのは多分、語弊があるだろう。仲間や家族、友達の為であれば、戦うことを躊躇ったりはしない。けれど決して、恐れ知らずではないのだ。

良くも悪くもただの小学生であるなのはに、戦場なんてものは無縁である。切った張ったはご法度、仲良く遊んでいる方が楽しいという女の子なのである。


とはいえフェイトを筆頭に、シュテル達も懸命に戦っているというのであれば友情パワーくらいは燃え上がる。


「事件のことはよく分かりました。ユーリちゃんは確かあのシュテルちゃんの妹さんで、おにーちゃんの子供なんですよね!」

「お前はいい加減、その点については何か疑問には思わないのか」


「……今、我が家は毎日おにーちゃんの妹さん達で囲まれる生活ですよ」

「す、すまん……高町桃子社会復帰作戦のことをすっかり忘れてた」


 俺に子供がいる事をどうとかいう疑問は、俺の妹を名乗る女の子達が毎日高町家に遊びに来る現実に埋め尽くされるとなのはに真顔で言われて、ただひたすらに頭を下げた。

夜の一族の世界会議で俺が死んだという誤報により、高町家は悲しみと絶望で一家が離散する事態となった。大黒柱である桃子は責任を感じ、喫茶店のマスターをやめてしまったのである。

俺が何とか生きて帰国したが、なのはに相談されて責任を感じ、高町桃子社会復帰という目的の作戦を結構したのだ。


義理の母親であるクイントの義理の娘達を高町家に預けて、子供達の笑顔でもう一度社会復帰のエネルギーを与えるという健全な作戦であった――作戦指揮者は完全に忘れてたけど。


「シュテルちゃんの大切な家族が大変なことになっているのであれば、なのはも協力しますよ! 何でもなのはに出来ることがあるとか聞きました」

「うむ、端的に言うと」

「はい」


「お前の魂を抜いて、俺に憑依させる」


「お疲れ様でした」

「まてや」


 親友アリサ・ローウェルという幽霊と久遠の飼い主である退魔師という存在を知っているなのはは、猛烈ダッシュで逃げた。ふふふ、逃さんぞ!

社長秘書であるセレナを電話一本かけると、程なくして黒服達に連行されたなのはが泣きながら帰ってきた。オレンジジュースにあうお菓子を用意させて、ちょっとした機嫌を取る。


焼きタラコレモンドーナツをもぐもぐしてようやく泣き止んだなのはは、ようやく顔を上げる。


「えーとですね、なのはの体から魂を抜いちゃうと大変危険な気がするのですけど」

「大丈夫、うちの会社には冷凍保存設備がある」

「何が大丈夫なんですか、何が!?」

「ずっと抜いたままにしておく訳じゃない、実験さえ上手く行けば短時間で終わるぞ」

「長時間かかったらどうするんですか!?」


「そう言えば昨日、過労で倒れた奴がいたな……」

「おかーさん、たすけてーーー!」


 実を言うと訃報の件では桃子だけではなく、なのはも精神的ショックを受けて一時は学校を休学していたのである。心労がたたってしまったのだ。

俺が帰ってきて少しは持ち直したのだが、やはりこうして元気な泣き顔を見ていると安心させられる。もうすぐ一年も終わるが、立ち直ってくれたのはせめてもの救いだ。

桃子がまだ不安ではあるが、高町家は全員何とか揃って元気な顔を見せている。新しい年になればきっと、良い事だってたくさんあるだろう。


その本人は今、盛大に嫌がっているけれど。


「一応、おにーちゃんのやりたいことは分かります」

「ほう、聞かせてもらおうか」


「自身の身体を的確に動かす技法であるネフィリムフィストを使って、なのはに空戦トレーニングしてほしいんですよね」


「おお、さすがはゲーマーだな。この手の分析力には大いに長けている」

「えへへ、久しぶりにおにーちゃんに褒められました」


 正確に言うと、当初の目的は違った。自身の身体を的確に動かす技法「ネフィリムフィスト」を使用して、なのはに憑依してもらってリインフォースと空戦する予定だったのだ。

以前不完全だった己の肉体で強敵と戦う際は、聖王オリヴィエと人魔一体化するネフィリムフィストで敵を蹴散らしていた。なりふり構わず、他人に協力して貰って戦っていた。

だが、ユーリ達によって肉体が完全に生まれ変わったので予定を変更した。自分自身で戦えるようになったので、この際空戦も鍛えようということになったのだ。


ただどれほど肉体が強靭化されても、空戦というのはセンスが問われるのである。いくらユーリ達でも、空戦の才能まで創れない。


「本来は何年もかけてじっくり練習していくべきなんだけど、あいにくともう時間がない。空戦のセンスを確実に掴むには、お前自身が持っている感覚が必要だ」

「だからなのはが憑依して、おにーちゃんと短期集中訓練をするんですね」

「戦闘相手はキリエとアミティエが二人で、徹底的にやってくれる。ちょっと腕鳴らししたんだけど、あいつらべらぼうに強くて泣きそうになった」

「な、なるほど、藁にもすがる思いなんですね……分かりました」


 完全に同情でなのはは危険なトレーニングを承諾してくれた。兄貴としてそれでいいのか自分でも疑問だが、もはやなりふり構っていられない。

リインフォースは恐らく、高町なのはでも単体では勝つのが難しい空戦能力者だ。剣士を相手に地表で戦うバカではない。空から必ず仕掛けてくるだろう。

それにあいつの魔法は広域型が多いので、空を舞台にしないとまず勝ち目がない。地面の上では逃げ場がないので、単純に火力で負けるのだ。


その火力についてはアギトやアリシア、オリヴィエが"装備化"するので戦える手筈だ。


「なのはの事は心配しないでください。十分にスケジュールを立てて来たので、こちらでしばらくお付き合いできますよ。ギンガちゃん達も協力してくれています」

「分かった、助かるよ。これで俺の準備はほぼ整えられる。


――放ったらかしにしておいてなんだけど、あいつら元気でやっているか」


「すごくよく食べますね、ギンガちゃん達……うちの炊飯器、毎日空っぽになってます」

「……前にも言ったけど、必要経費は後で全部負担するからな」


 遠慮というのを知らんのかと言いたいが、今年の春先では平気な顔をして居候していた俺が言っても説得力がなかった。昔の俺はほんと、ひどいやつだったからな……

話に聞くと最初は長女のギンガは恐縮していたようなのだが、今では自分からにこにこ顔でおかわりしているらしい。日本の食事がすっかり大好きになったようだ。

戦闘機人の分際で食欲旺盛であるらしく、何を出されても全員満面の笑顔で食べきってしまうようだ。育ち盛りなのは確かだが、女の子としてそれはどうなんだろうか。


――ただ。


「おかーさん、喫茶店のメニューにあるお菓子や料理をギンガちゃん達に作ってあげているんです――"美味しい"という言葉が、本当に嬉しいと」

「……そうか」

「おにーちゃん、本当にありがとう。大丈夫、おかーさんはきっとやり直せます。
なのはもいろいろ考えたんですけど――おかーさんの店を、継ごうと思っているんです。おにーちゃんのような人が帰ってこれる場所にするために」


 レイジングハート、魔導師の武器である彼女とも相談して決めたそうだ。戦うことが出来なくてごめんなさいとなのはは泣いて謝ったそうだが、レイジングハートは快諾してくれた。

そのうえで何処までも一緒に戦うのだと、覚悟を語ったのだという。いざとなれば主人の大切な人達を守る道具として、側にいるために。


ミヤのことを、思い出す――聖地でボランティアに貢献する、平和な妖精であるデバイスを。


「一緒に戦うのは久しぶりですね、おにーちゃん。頑張りましょう」

「ああ、お前の店にリインフォースを連れて行ってやるよ」















 ――そして。















『あんたを殺す準備ができた――"ルヴェラ"で待ってるわ、ユーリ』

「必ず行きます、おとーさん達と一緒に」


 決戦の日を、迎えた。















<続く>








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