とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第七十五話




「パパ、ついに完成したよ!」

「完成……?」


 CW社のトレーニングルーム。何気なく覗き込んでみると、汗だくになった美少女が元気いっぱいに飛び跳ねているのが見えた。

最新技術が搭載されたトレーニングルーム内で元気なのはレヴィ一人で、対戦相手を務めていたのかCW社のアルバイトであるフェイトがグッタリ突っ伏していた。

シュテルが高町なのはをベースに生み出されたのであれば、このレヴィは間違いなくフェイトの影響を受けて法術が結晶化したのだろう。


家庭問題が解決したフェイトは面倒見の良い子となり、我が子であるレヴィの相手も喜んでみてくれている。


「必殺技だよ、必殺技。敵のひきょーな技に負けないように、ヒーローとしてボクが新しく編み出したんだよ!」

「ああ、そう言えばそう宣言していたな。まさか今日に至るまで、必死で修行するなんてな」

「トーゼンだよ。ユーリを襲う悪者は懲らしめなきゃね!」


 ――ディアーチェの奴、何度も説明するのが面倒になって適当に話しやがったな。難しい話は苦手と、聞き流すレヴィも十分悪いんだけど。

親の影響だと思いたくないのだが、レヴィはヒーロー願望のある魔法少女である。特に俺を英雄視しており、いつもキラキラした目で俺を見上げてくる。

自分の仕事をしているだけなのだが、レヴィにとっては英雄に値する結果であるらしい。子供ってのは、大人の仕事に憧れるものだからな。


本人のやる気は認めるが、親として注意しておかなければならない。


「しかし敵は魔法を分析――えーと、分かりやすくいうと、魔法が通じない相手だぞ」

「そーなんだよ、だからひきょーなんだよね。ボクが強いからって、魔法を使えなくするなんてさ!」


 レヴィというよりユーリを封じるための技術なのであろうが、レヴィは自分がヒーローだと思っているので自分対策だと思っているようだ。

親としては微笑ましい考え方なのだが、肝心のイリスはレヴィには注視していないのが可哀想だった。いやまあ、ユーリの家族として注目はされていたか。

いずれにしても魔導殺し自体は実在するので、対策を練るのは別に悪いことではない。無策で挑むほうがよほど問題なのだから。


ただ気になるのは、「必殺技」なるものである。


「必殺技というと、どんなものなんだ。お父さんに聞かせてくれ」

「ふっふっふ、聞きたい?」

「いや、別に――おお、聞きたい、聞きたいぞ!」

「だよね、そうだよね!」


 無関心に返答しようとすると頬を膨らませたので、慌てて言い直す。親の無関心は、子供の教育には非常によろしくないものだ。

俺がきちんと態度を改めたのを見て、レヴィも機嫌を直す。天気のように移り変わりの激しい子で、うちの家族では一番喜怒哀楽が激しい。

ナハトヴァールは良い子なので、基本ベースは笑顔だからな。


「何を隠そう、ボクの新必殺技はズバリ――『スプライトフォーム』だよ!」


「『スプライトフォーム』とまでいうからには、新型の戦闘モードか」

「ちっちっち、言い方が古いよパパ。現代ヒーローは変身と言うんだよ!」

「……そっちの方が古い気がするが」


 可愛いお胸を元気いっぱいに張って、大威張りで新型戦闘モードの自慢を始めるレヴィ。言っている事は子どもの遊びなのだが、内容は意外と的を得ていた。

つまり今までの魔導師タイプでは魔導殺しという技術には敵わないので、自分の戦闘タイプを根本から一新したという事である。

本人は何気なく言っているが、これは素晴らしい自分改革である。俺だって強くなるために一から剣をやり直せと言われたら、霹靂させられるだろう。


基礎鍛錬とは自分の型を定着させるためにあるのだ――こいつは敵に勝つ為に、その基礎をこの短期間で全部やり直してみせたのである。


「パパ。変身ヒーローというのはね、どうしても一度は敵に見破られて負けてしまうものなんだ。
そんな時ヒーローは決して諦めず立ち上がり、新しい変身を覚えて勝っちゃうんだよ!」

「こいつ、すっかり特撮ヒーロー物にハマっていやがるな……」


 多分海鳴で日常生活をしていた時、テレビや絵本とか見て夢中になってしまったのだろう。元から俺に憧れていたからな、無理もない。

レヴィは魔導師としての常識には頼らず、なんとお伽噺の中でヒントを得てきたようだ。ユーリやディアーチェとは全く別の観点で、自分改革を行っている。

本来であれば子供の遊びと鼻で笑うのだろうが、レヴィが言うからには本当に身につけてしまったのだろう。


こいつもまたユーリやディアーチェと並ぶ、天才なのだから。


「そもそもそのスプライトフォームってのは、自分で名付けたのか」

「ううん、フェイトちんがつけてくれたんだ!」

「……あいつも日本のヒーロー文化に興味を持ち始めているな」


 フェイトは所謂一般的な子供として今まで育てられていない為、日本の子供文化には多大な興味を持っている。なのはもこの文化に触れて、健やかに成長したのだから。

興味を持つ無垢な少女に気を良くして、レヴィも友達として喜々として教えたのだろう。新しい友達とのヒーローごっこは存外、フェイトにとっても楽しかったのかもしれない。

新型戦闘モードの完成を我が事のように喜んだフェイトは、一緒に名前造りを行ってくれたのだろう。後で親として、お礼を言っておこう。


ただ部隊長として、名前よりも性能を重視しておくべきだ。


「スプライトフォームはどのような能力を持っているんだ」

「ふふん、聞いて驚いてねパパ。なんと攻撃性能と機動力がアップ、ボクのこのヒーローとしての力がグーンと強くなってるんだよ!」

「えーと、魔導のまの字も出てないんだが……魔法はどうなったんだ?」


「使わないよ」


「へえ、使わないのか……使わない!?」

「うん。だって敵には通じないんでしょう、使っても意味ないじゃん」

「そりゃそうなんだけど!?」


 レヴィ・ザ・スラッシャー、あろうことかこの子は魔法を使うのを綺麗サッパリ止めてしまったらしい――そんなバカな。


魔法が通じないのだから魔法を使う意味なんてない、ド正論である。子供ならそれで納得できるのだろうが、大人だとそんな事では納得できない。

レヴィの言っている事自体は当たり前なんだけど、自分が魔導師であるということをどうか忘れないでもらいたい。


魔導師が魔法を使うのを止めて、どうやって戦うというのか。


「もうちょっと具体的に聞いてもいいか。多分モードの切替自体は魔法を使うんだろうけど、スプライトフォームとやらになったらどうやって戦うつもりなんだ」

「勿論、ヒーローとして殴ったり蹴ったりしてやるんだ、ウシシ」

「原始的すぎるだろう、おい!?

えっ、もしかしてこのフォーム。攻撃力と機動力――つまりパワーとスピードを強化しているだけ?」

「うん」

「爽やかな笑顔で頷くな!?」


 ま、まあフェイトも監修しているんだから、多分単純な魔導フォームではなく、イリスに分析されないように工夫はしているのだろう。最低限、フォームが解除されないようにはしている筈だ。

ただ自分の肉体を超強化をしている分、魔導面は多分一切合切シカトしているに違いない。魔導を使わないと宣言している以上、本当に魔法を使うのを止めてしまっている。

イリスもまさか魔導師が魔法を使わず、単純に殴りかかってくるとは夢にも思わないだろう。子供みたいなやり方だが、本人は思いっきり子供である。


意表は確かについている、意表だけは。


「待てよ。魔法を使わないということはバリアジャケットの維持も困難になるから、防御力は大幅に下がるんじゃないのか」

「その前に殴ってしまえばいいんだよ、パパ!」

「勝つことしか考えてないぞ、こいつ!?」


 くそう、我が子でなければぶん殴ってやったのに。叱りつけるべきなのだが、コンセプトそのものは決して悪くはないのだ。子供の発想だけど、侮れない。

レヴィはちびっこいガキンチョなのだが、法術で誕生したこの子は力のマテルアルとも言うべき結晶体である。パワーそのものが具現化された存在だ。

特撮ヒーロー顔負けのパワーは持っており、手刀で大地を叩き割れるくらいの力は持っている。その腕力と速力を、超強化したというのだ。


物理的に対抗するのであれば、人形兵器が相手でも戦えるだろう。単純に殴ればいいのだから。


「あくまで攻撃には魔法を使わないというだけだからな、そういった切り替えはできるんだろう」

「うん、まかせて!」

「うーん、じゃあ対戦相手によるな……」


 スプライトフォーム、空の妖精を冠した名前。この名前をつけてくれたフェイトは、トレーニングルームでグロッキーになっている。

つまり魔導の天才である彼女を相手でも、十分に戦える戦力ということだ。戦う相手次第では、決して劣ることはないだろう。

このモードは恐らくイリス達エルトリア相手に戦える力であって、例えばマリアージュなどが相手だと普通に魔導師として戦ったほうがいい。


戦争のような殲滅戦には向いておらず、あくまで個人戦に向いた戦力と言える。


「ボクはラスボスを相手にしたいんだけど、ユーリが戦うんだよね?」

「ああ、実は相手はあの子の昔の友達なんだよ。お前には悪いけど、ユーリに任せてやってくれ」

「ユーリがそこまで言ってるんなら、分かったよ。じゃあボク、ディアーチェと一緒に行くね」

「おっ、お前もあの船に乗り込むのか」


 ――となると、レヴィ・ザ・スラッシャーの敵はこれで決まりだろう。


「悪者のアジトはボクが叩き潰してあげるよ、パパ!」


 古代ベルカの遺産のロストロギア、聖王のゆりかご。古代ベルカを滅ぼしたと言われるほどの火力を持つ、全長数千メートルの巨大戦艦。

ヴィヴィオの調べでは、この船には2つの特徴がある。一つ目は艦を動かすコア、聖王の代理として君臨するイクスヴェリアの存在。


そしてもう一つは、艦橋に当たる『コントロールセンター』――兵器の数々で防衛されている悪のシステムを、ヒーローが一人で殴り込みをかける。















「父上、相談があります」

「どうした?」

「せっかく家族全員分の新兵器を徹夜で開発したのに、誰も受け取ってくれませんでした。実は私、嫌われているのでしょうか」


「……涙、拭けよ」















<続く>








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