とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十八話




 カレドヴルフ・テクニクス本社がある第3管理世界ヴァイゼンが、悲鳴を上げている。

巨大戦艦である聖王のゆりかごを凌駕する、超巨大城塞。企業都市に匹敵する物々しい建築物を模す無機物の悪魔が、激しい怒りを燃やしてカレドヴルフ・テクニクス本社へと向かってくる。

不幸中の幸いにも速度は遅いが、超巨大城塞が前進する迫力と圧力は圧巻の一言。怪獣映画を目の当たりにしている気分だが、生憎とスクリーン越しではなく、肉眼で見えていた。


超巨大城塞『グラナート』、イリスの手先と化していたマリアージュから奪い取った情報に記されていた化け物である。


「聖王のゆりかご改造に合わせた決戦兵器の一つだった筈なんだが、この局面で投入してくるとは驚きだな。思いがけない獲物が釣れたものだ」

「建造中という情報でしたが、完成は想定よりも早かったですね。隊長の陰口作戦が功を奏したという事でしょうか、お見事です」

「褒められているのか、貶されているのか、判断に苦しむぞ」

「残念ながら、どちらとも言えますね。黒幕であるイリスの技術力の高さはマイナスですが、決戦兵器の早期投入は今後の戦略においてはプラス材料ですね」

「副隊長としての見解を聞かせてくれ」

「あれほど巨大な建造物を感情に任せて早期投入してきたという事は、後先を考えず保有していた物資を使用したのでしょう。敵側の消耗は目に見えています。
敵主力の一つを分断してこの場で削れる点は、非常に有意義です。今敵側で建造している決戦兵器を除けば、新たに製造する余力までは残されていないでしょう。

ただし補給されないことが前提なので、今後の用心は欠かせません」


「副隊長が有能だと、本当に超助かるよ……」

「……自分の部下に拝まないで下さい、全く」


 ユーリと二人でテンパっていたら、颯爽と凛々しき我が副隊長殿が混乱を収拾して事態に対応してくれた。落ち着いたユーリは早速、ナハトヴァールを探して合流に向かっている。

襲撃は予測できていたので、非戦闘員の避難は完了している。優秀なスタッフ陣は残っているが、ジェイル博士やウーノが現場にいるので問題ないだろう。


隣に立った副隊長と共に、今後の対応に当たる。


「レジアス中将に、今の見解を報告しておいてくれ。聖王教会には、俺の方から詳細を伝えておく」

「了解です、隊長。いずれにしても作戦の前提を成立させた以上、この場で勝利しなければなりません」

「作戦の指揮は、お前に預ける。仮にも要塞だ、あのデカブツの中にはたらふく兵力を詰め込んできているだろう。
ティーダ分隊長と連携して、特務機動課の現場チーム総動員で対処にあたってくれ」


「出来れば私は、隊長と行動を共にしたいのですが」

「コンビを組むのはやぶさかではないけど、どうしてだ」

「陰口作戦を真顔で実行する隊長を一人にするのは、非常に不安です。私が軌道修正する必要があります」

「頭脳面は、全く信用されていない!?」


 半ば冗談で聞いてみたら、真面目な顔で心配されていて仰け反ってしまう。生活面での補佐役であるアリサもうるさいのだが、仕事面での補佐役であるオルティアも厳しい。

聖地で起きた戦乱では対立していた関係だったが、結局直接対決することもなく決着はついた。個人同士での決着ではなく、お互いが立ち上げた組織の勢力争いで勝利したというだけ。

勝者と敗者という状態のまま物別れに終わるかと思ったのだが、何の因果か同じ部隊の隊長と副隊長という味方同士となった。関係修復どころか、戦場で肩を並べて戦っている。


今はどういう関係なのか、自分達でもよく分かっていない。少なくとも今こうして心配されるくらいにはなっている。


「シュテルさんにお願いしておきますが、何かあれば対応しますので余計な気を使わずに連絡して下さい」

「分かった、頼りにしているぞ」

「私もです」

「えっ!?」

「では、出撃します。ご武運を」


 綺麗な敬礼をして、彼女は現場へと戻っていった。先程の発言の真意を問い質したかったのだが、照れもせずに信頼を向けられると聞き違いかどうか疑ってしまう。

同じ助手でもアリサだと照れ隠しの一つでも見せるのだが、オルティア副隊長は自分の感情には正直なので困る。素直クールだと、忍は彼女を人物評価していたが、意味は分かっていない。

いずれにしても、カレドヴルフ・テクニクス本社の防衛は彼女達に任せて問題ないだろう。俺達は作戦を成功させるべく、動かなければならない。


俺は早速想定していたこの事態に備えて、本作戦で起用していた精鋭メンバーを招集した。


「先の作戦ではディードが活躍したようだからね。今日は僕が父さんの役に立ってみせるよ」

「あれ程のデカブツ相手だとディードのツインブレイズより、お前のレイストームの方が相性が良さそうだからな」

「父さんの役に立てないと普段なら残念がるんだけど、今回は珍しく機嫌良く承諾していたよ。何か心当たりはある?」

「……いや、特には」

「誤魔化しても駄目だよ、父さん。僕だって父さんの娘なんだから、ディードと一緒に教えてほしいよ」

「射撃なんて専門外にも程があるぞ!?」

「射撃ではなくてもいいよ。僕は父さんから色々なことを学びたいんだ」

「くっ、物静かな奴だと思っていたが、すっかり感情豊かになったな……」


「父さんを愛する気持ちが、僕やディードに感情を与えてくれたんだよ」


 他人を好きになるという想いこそが、戦闘機人に人間のような感情を与える。他人を受け入れたことで少しは人間らしくなった俺とよく似ていて、オットーは自分の娘なのだと実感させられる。

散切りの茶髪に中性的な外見をしているこの女の子は攻防共に優れており、指揮もこなせる後方支援型だ。攻撃や拘束に使える光線を放つレイストームという固有能力を持っている。

剣士同士の決闘ではなく、部隊による戦争であればこの子のような人材が必要とされる。娘というより戦士として求められているのだが、本人は胸を張って参戦していた。


作戦については予め伝えているのだが――


「これは部隊長ではなく父親として聞くが、本当に大丈夫なのか」

「僕の能力を疑っているのではなく、僕の身を案じてくれているということだね。
でも大丈夫、僕も双子であるディードと同じだよ。父さんの子供として胸を張りたいから、頑張れる」

「……分かったよ。この事件が終わったら、ディードと一緒に教えてやる」

「本当に!? ありがとう、父さん!」


 中性的な外見をしているが、父に褒められて喜ぶ笑顔は少女そのものだった。頭を撫でられなくても、言葉一つで猫のように嬉しげに目を細めている。

その場で作戦開始を待たず、オットーは固有武装を展開する。彼女の装備はステルスジャケットと言って、サーチから逃れる事のできる外装衣である。

本来は魔法による探知を逃れるための装備なのだが、アミティエ&キリエからの技術提供を元に、ジェイル・スカリエッティが改造を加えてレーダー関連のサーチからも逃れられるようになっている。


彼女は今回、重要な役割を持っている。


「お父さん、準備が完了したとシュテルから連絡が入りました」

「襲撃を想定していたとはいえ、よく完成まで漕ぎ着けられたな」

「補給基地制圧の成果を受けて、管理局の中将さんが大幅に支援援助を拡大してくださったそうです。
特にシュテルはこの前の戦いで役に立てず本当に悔しそうでしたから、日夜励んで完成させたみたいですよ。

わたし、シュテルがあれほど負けず嫌いだとは思いませんでした」

「……先程、オットーとも話していたんだが」

「はい?」

「父親による影響を受けて、感情が成長したと言っていた。シュテルにも影響を及ぼしているのかもな」

「なるほど、オットーさんのご意見はよく分かります。わたしもお父さんの子供だから、あのイリスという子と戦えるんです」

「今回、あいつは出張っていないようだが……」

「あの子の強い憎しみは、感じています。何度挑まれても、何度批判されようとも、わたしはイリスと向き合い続けます」

「そうか……俺も、お前たちから良い影響は受けている。必ずこいつを倒して着実に結果を出していき、リインフォースまで届いてみせる」


 イリスと同じくリインフォースも来ていないようだが、こうして奴らの企みを潰していけば必ず姿を見せるはずだ。今度こそ、俺を殺す為に。

オルティアの見解通り決戦兵器まで持ち出してきたのであれば、奴らも戦力は少なくなっている筈だ。奪い取った物資だって限度はある。

廃棄都市を丸ごと奪われたとはいえ、これほど巨大な要塞を作り上げるのは相当な資材や物資を消費したはずだ。大量生産は絶対に不可能だ。


聖王のゆりかご一つでも十分な脅威だが、こちらにはユーリ・エーベルヴァインがいる。


「剣士さん、本日もよろしくおねがいします。先日に引き続き、作戦中ではありますが指南をさせて頂きます」

「あの機動外殻はエルトリア独自の高度な技術が使用されています。フォーミュラとヴァリアントシステムを使い熟す絶好の機会です」

「護衛はお任せ下さい。剣士さんは、次なる勝利のために全力を」

「――分かった。皆より与えられた力、この機会に必ず完成させてみせる」


 特務機動課の部隊長として必ず作戦は成功させなければならないが、成否に固執して個人の使命を疎かにする事はないとアミティエさん達は心強く頷いてくれる。

あらゆる支援を惜しまず、俺の都合を優先してくれる仲間達には感謝しかない。これほどのお膳立てがあって、強くなれないなんてことがあっていい筈がない。

才能の有無など、関係ない。生まれ持った差なんて、心強い仲間達が才能以上に補ってくれる。後は、俺次第だ。必ず、やり遂げる。


新しい自分の剣であるセフィロトを竹刀袋から取り出して、手にする。創り上げられたその時から、この剣は異常なほどに俺の手に馴染んでいた。


「機動外殻については、キリエの方が詳しいか。あのデカブツの性質は分かりそうか」

「改造型や変形型も確かに存在するんですけど、機動外殻は戦闘用に改造した兵器であり、基本構造は奇をてらして製造されていません。非効率ですから。
あの巨大要塞は見た目通り頑丈さを売りにして、突っ込んでくるだけですね。本社へ特攻して破壊、最悪でも自爆させて大きな被害を起こす手段でしょう」

「奇をてらしていない分、弱点も少ないということだな」

「魔法使いさんに合わせて表現すると、シンプル・イズ・ベストと言えばいいんでしょうか」

「な、何か日本のことにも詳しいな……?」

「闇の書の事で事前に色々調べたんですけど、今では魔法使いさんの住む天の国だから好きになりました!」

「……直球でそこまで言われてると、照れるんだが」

「とても素直ないい子なんですよ、私の妹は!」

「悪事を思いっきり隠していたじゃねえか!」

「は、反省して自白しましたから!?」

「許してあげて下さい剣士さん、何でもしますから!?」

「ん……?」


 仲良し姉妹と語っていて話が逸れてしまったが、イリスと一時期一緒に悪巧みしていただけあって、デカブツの目標についてキリエが言い当ててくれた。

カレドヴルフ・テクニクス本社への突撃、随分と贅沢な使い方ではあるのだが、実に有効かつ悪辣な手段で頭を痛める。無人兵器なので特攻を仕掛けてきても、向こう側に人的被害はない。

超巨大城塞が一目散に突撃なんぞしてきたら、半端なやり方では食い止められない。聖王のゆりかごよりでかい決戦兵器だ、道路を封鎖する程度では止められない。


機動外殻は惑星エルトリアの超技術で製造されており、魔導が通じない構造となっている。物理的攻撃で制圧するしかない。


「自爆するとなると、火力で潰すのは悪手だな」

「本社までまだ距離はありますが、あれ程の構造物が自爆してしまうと、こちらへの被害は避けられないでしょう。この惑星の環境まで変えてしまいますよ」

「どうしますか、魔法使いさん。アタシとお姉ちゃんが要塞に乗り込んで、中から潰すという手もありますけど」

「それは俺も考えたけど、自爆するとなると内部破壊は危険だな。イリスにとってお前達二人は俺と並んで目障りな敵だ、最悪乗り込んだ時点で自爆する危険がある」

「危険は承知の上です。アタシに償う機会を下さい、魔法使いさん。この作戦がうまくいけば、イリスだって近づける!」

「……キリエ。貴方の気持ちは分かるけど――」

「ああ、償いたいのであれば自滅する覚悟なんて不要だ。その気持ちは故郷を救うまで取っておけ」

「お姉ちゃん、魔法使いさん……」

「俺があのデカブツを斬る。自分の命を粗末にするより、俺の命を守ってほしい」

「分かりました、アタシが必ず魔法使いさんのヴァリアントシステムを完成させてみせます」

「ナノマシンの制御法については任せて下さい。安心して、自らの技に没頭して下さい」


 ――補給基地を両断した技、御神の奥義を形にする。リインフォースとの戦いに必要な最後の修行を、この作戦において実行する。

あの時の感覚は覚えているが、掴んではいない。偶然だという気は全然ないが、偶発であっては困る。リインフォースに勝つには、御神の技は必要なのだ。

それに何より、俺は師匠の生徒だ。あの人は自分の剣を復讐の道具であり、大切な人を守る力ではないと自嘲していた。だから、大切な家族に合う資格はないのだと。


「作戦を、開始する――やれ、オットー!」

『"プリズナーボクス"』


 機動外殻に、魔法は通じない。よって結界魔法では、機動外殻は封じられない――だが、結界と同等の性能を持った「技能」であれば話は別だ。

「プリズナーボクス」とはオットーという戦闘機人が持つ対象を封じ込める捕獲技能、対象を光の檻で封じ込めて、移動や逃走を阻害して閉じ込める能力である。

物理と魔力の両面で封じ込めているので、魔導殺しの技術は無意味である。本体は対人相手に使用する能力なのだが――

オットーという俺の娘は俺にいい所を見せたいという想い一つで――巨大要塞を、封じた。


「……師匠、あんたは間違っている」


 どれほど血塗られていようと、想いを忘れなければ人として生きていける。ディードやオットー、俺の子供達が教えてくれた事だ。

だから師匠に変わって、俺が体現してみせる。リインフォースを倒して、必ず取り戻す。その結果を見せれば、あの人だって分かってくれるはずだ。

復讐を続けようと、あの人は優しさを最後まで忘れなかった。異国の地で死にかけていた俺を救って、生きる知識を与えてくれたのだから。


だから必ず、この場で完成させてみる。


「シュテル」

『"フォートレス"、スタンバイ――父上、貴方の道は私が切り開いてみせましょう』















<続く>








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