とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十五話




 マリアージュは人語を解する知能を持っているが、作戦行動能力は昆虫並の屍兵器。判断力は低く、俺を聖王と誤認してイクスヴェリアを呼び出す餌にしようとした。

クアットロが小馬鹿にしていたマリアージュの思考能力は、大いに利用出来る。人語を解する知能さえあればある程度の記憶があり、多少の判断はきくからだ。

俺の作戦内容を理解したオルティア副隊長は早速、秘密裏にレジアス中将と交渉してくれた。理解が早くて助かるのだが、自分のことを全てお見通しな女というのは怖い。


テロを起こした屍兵器に人権なんぞあるのか怪しいものだが、犯罪者への洗脳行為は問題ではあるからだ。


「護送前であれば、大目に見てくださるそうです。ただし、条件があります」

「何か吹っ掛けられたのであれば、ごり押しはしませんが」

「ヴェロッサ・アコース査察官見習いは所属上、本局査察部となっております。協力を要請するのであれば、白旗への出向として下さい」

「言いたい事は何となく分かりますけど、責任問題になれば本局へ押し付けることもできるのでは?」

「本作戦が成功すれば、本局の手柄ともなってしまいます」

「……本当に毛嫌いしていますね」

「縄張り争いはどの組織でも同じことです。聖地で一から白旗を掲げて成功を収めた隊長の方が異例でしょう」


 徹底して本局を締め出そうとするレジアス中将の厳格さに、溜息を吐いた。クロノ達への正式な参戦は、この分だとかなり難しそうだ。

ただルーテシア・アルピーノという出向例があり、今回の交渉により白旗への出向であれば協力要請は可能となったのは地味に大きい。

クロノ達が俺の部下となるのは違和感というより恐縮が大きいので、協力者として肩を並べてもらった方がやりやすそうだな。


俺が承諾すると見事に交渉を終えて、本局よりヴェロッサ・アコース出向の承諾を得られた。仕事が早すぎて、眩暈がしてくる。


「それと隊長、私は貴方の部下となりましたので敬語は不要です」

「立場上の話でしょう。本作戦が終わったら、元の関係に戻りますよ」

「……元の関係に戻りたいのであれば、それでもかまいませんが」


 そのまま背を向けて、オルティア副隊長は事後処理をすべく歩み去ろうとしていた。態度には一切出ていないが、今の会話は不適切だったと今までの失敗が教えてくれた。

オルティアとの人間関係は、忍達や夜の一族の連中とはまた違う厄介さがあった。彼女達はゼロから始まったのだが、オルティアの場合はマイナスからのスタートだ。

一歩ずつ歩み寄っている感触はあるのだが、肝心の彼女はハードルが高い。かつて傭兵団を率いた才媛は男性社会が生きてきたからこそ、男への態度も自然と厳しくなるだろう。


あれほどの美人だ。さぞ多くの声がかかり、誰も寄せ付けなかった。迂闊な弁明は逆効果になるだけだろう。


「後ほど、また連絡します。明日の夜二人で過ごし、大いに親睦を深めましょう」

「隊長らしくありませんので、見栄を張らなくてもいいですよ。提灯屋台に連れていかれても驚きませんから」

「なぜそんな粋な飲み屋まで知っているんだ!?」

「副隊長なので、隊長の好みくらい把握しています」


 俺だって高級バーに女を連れていく甲斐性くらいあると暗に言ってやると、どこであろうと付き合いますと一度振り返って微笑み返された。くそっ、あいつ大いに酔わせて深夜街に連れ込んでくれるわ。

明日の報復戦に意欲を燃やしていると、程なくしてヴェロッサがシスターシャッハを連れて参上した。どうやら聖女様の代行として、現状把握に訪れたらしい。

聖王教会への報告はドゥーエを通じて都度行っているが、補給基地襲撃では彼女の護衛であるローゼをお借りしたのだ。聖典を奪われた彼女としても、気掛かりな状況ではあるのだろう。


俺も気にしていたのだが何故か娼婦の奴がたびたび顔を出しては、「聖女様は俺を信頼しているから心配ない」と会いに行こうとするのを止めやがるのでなかなか行けなかった。


「副隊長さんから話は聞いたよ、陛下。僕の能力を使用したいそうだね」

「お前、以前に対象者の脳内の「記憶」に干渉する技能があると言ってたよな」

「ロッサの希少技能である『思考捜査』ですね」


 ヴェロッサ・アコース査察官見習いが所有する稀少技能の一つに、思考捜査と呼ばれる記憶干渉能力があると説明を受けている。

俺が以前ヴェロッサに査察官という職を選んだ動機を聞いた時に教えてくれた。対象者の脳内にある記憶を捜査して、読み取ることができるそうだ。

本来はあくまで記憶を読み取る能力なのだが、マリアージュくらいの知能であれば記憶を書き換える事も不可能ではないらしい。限定能力である。


まあ確か人間ほど複雑な知能でも洗脳できるのであれば、やりたい放題になってしまう。能力なんて便利な代物程度で十分だ。


「屍兵器であっても女性を洗脳するのは少し気が引けるけどね」

「聖地で暴れまわった兵器だ、これ以上問題を起こさないようにする為の防衛目的でもある。再教育と言ってくれ。
でも、聖女様には人道面で抵抗があるかもしれないが……」

「あ、姉さんは大丈夫」

「何でだよ」

「カリムは貴方の信者になってしまっていますから」


 普通逆じゃないか、それ!? 実に呆れた顔で顔を揃えて溜息を吐いている二人に、俺は仰け反ってしまった。聖女様こそ崇め奉るべき対象だろうに。

聖女様は予言成就により信仰が大いに高まっており、ベルカ自治領を飛び越えて絶大な影響を及ぼす偉人となっている。

気立ての良い美人で常に他者を人を立てるお人柄、そして聖王教会の聖女としての権威と権力。年頃の女性となって政略結婚の数も莫大なものとなっているそうだ。


「事件が起きてそれどころじゃないにせよ、聖女様の周囲も大変と聞いている」

「カリムの身を案じてくださって、ありがとうございます。陛下に貰って頂ければ安泰なのですが」

「聖王と聖女の結婚となれば、世界中が祝福するだろうね。どうかな、陛下」

「政略結婚の意味と価値はいい加減理解しているけど、それでも本人の気持ちってもんがあるだろう」


「……まあ確かに陛下と結婚となれば、卒倒しそうだもんね」

「……お見合い相手に、私はあの方のものですとか言いそうになるほど傾倒していますから」


 なるほど、"聖王"である俺はともかくとして、聖女様は聖王を信仰する敬虔者だ。神に身も心も捧げているのであれば、政略結婚なんてNGに決まっているか。

ともあれ聖女様も承認してくださるのであれば、是非もない。シスターシャッハに事件の進捗状況を説明したうえで、聖女様への承諾をお願いしておいた。

ユーリはアミティエ達と一緒に一旦帰ったので、護衛に妹さんとシャッハを連れて護送前のマリアージュへと出向いた。軍団長であるマリアージュは眠らされている。


お膳立てはすべて整ったので、ヴェロッサ・アコースは希少技能である思考捜査を発動する。


「オッケー、準備は整ったよ。彼女の記憶に今アクセスした、書き換える前に何でも質問してくれてかまわない」

「イクスヴェリアに関する、すべての情報」


「古代ベルカ時代にガレア王国を治めた、『冥府の炎王』の異名を持つ女王。マリアージュのコアを無限に生成する能力を持ち――うーん。
マリアージュをコントロールする能力を持っているとあるんだけど、これは本人の思い込みだね」


「記憶とはまた違うのか?」

「記憶の一種ではあるんだけど、感覚による思い込みだと記録とはまた異なるんだ。要するに、確定情報ではないということだね」


 記憶と一口に言っても、さまざまな種類があるのだとヴェロッサは説明する。どうやって見極めているのか不明だが、情報の区別がつけられるのはありがたい。

冥府の炎王の異名を持つ女王、聖王オリヴィエならやはり知っていそうな気がする。決戦前に、アリシアと共に合流するので詳しく話を聞き出すとしよう。

ちなみに一応聞いてみたが、幽霊の記憶は読み取れないらしい。やや残念だが、記憶のある幽霊というのも怖いので無理やり納得しておいた。


「イクスヴェリアの改造を容認する理由は、俺に語った目的であっているか?」

「うん、概ね間違いないよ。イリスは聖典を手掛かりにイクスヴェリアの所在を発見したそうだけど、イクスヴェリア本人が万全ではなかったようだね」

「長年封印されていた影響か、確かに無事なままでいる方が変か。イクスヴェリア本人をイリスに治療させる事を主目的に、改造を容認した訳か」

「イクスヴェリアを利用する整合性を取ろうとしたんだろうね。知能が低い生物にありがちな自己矛盾だ」


 ……棘のある言い方をしているが、ヴェロッサの目はマリアージュそのものを見ていないように見える。何となくだが、分かる気はした。

記憶を読み取る能力は確かに便利だが、そもそも人間の記憶は美しいものばかりではない。まして犯罪者の記憶なんて、立派なものばかりでは絶対にないだろう。

人間の闇を覗き込むのに等しい分、人間の嫌な面を多々見てきたはずだ。それでも決して仕事を放棄しなかったのは、彼が強いからだろう。


そうした俺の感情さえも長年の経験で読み取ったのか、ヴェロッサは無邪気な少年の笑みを向ける。


「大丈夫だよ、陛下。姉さんだけではなく、路頭に迷っていた僕やシャッハを助けてくれた陛下のような人だっているのは分かってる。
僕は貴方と会って、人間を再び信じられることができたんだ」

「助けてもらったのはむしろ、こっちだ。お互い様だよ」

「これからも是非、力にならせてくださいね」


 シャッハもヴェロッサに賛同して、大いに頷いてくれた。人間の善意を信じられるこの人達の方が、実に立派に思える。俺は今まで他人を信じられなかったからな。

寝かされているマリアージュを見やる。こいつも主に恵まれていたら、こうはならなかったのだろうか。自動人形のオプションだったファリンが、正義に目覚めたように。

ノエル達は今俺の力になりたいと、CW社で改造を行っている。アギトもドラグーン化するべく、自分自身すら変える努力を行っている。


人でない者達の明暗が、明確に表れていた――この件が終わったら、CW社に行ってみるか。


「肝心の事を聞き出そう――イリスはどこにいる」

「第23管理世界「ルヴェラ」、詳細は不明。多分そこまで聞かされていないんだろうね」


「なるほど、じゃあ自分から来てもらおうか。マリアージュを洗脳して――『第3管理世界ヴァイゼン』に、誘き出す」


「ちょ、ちょっと待って。そこって」

「カレドヴルフ・テクニクス本社があるところですよ!?」















<続く>








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