とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十三話




 マリアージュには軍団長と呼ばれる存在がいて、兵隊のマリアージュよりも高性能で統率能力に優れている。傭兵団長だったオルティアの護衛を務めていたのがこの女だったらしい。

補給基地の中央制御室で倒れていたマリアージュ軍団長を、オルティア捜査官本人が直々に捕縛。一刀両断された軍団長を目の当たりにして彼女がどのような感情を抱いたのか、敢えて尋ねなかった。

軍団長を失ったマリアージュ軍団は平伏し、特務機動課によって次々と連行されていく。手柄はレジアス中将に献上する約束なので、時空管理局地上本部へ連行される段取りとなっている。


参謀役であるクアットロが難しい顔をして、歩み寄ってくる。


「よろしいのですか、陛下。わたくしにお任せ頂ければ、再交渉して手柄だって丸ごと分捕れますけれど」

「お前の交渉力なら可能だろうけど、こちらで引き受けても面倒だ。マリアージュは、俺から距離を置いた方がいい」

「ごもっともですわね。陛下のお側には我々戦闘機人がおりますもの、陛下にすり寄るウジ虫なんて不要ですわ」

「……本当に嫌っているんだな、お前」

「うふふ、早くセッテちゃん達を褒めてあげて下さいな。犬のように尻尾を振って待っていますわよ」


 ――クアットロが自慢するだけの実力は、確かに目の前に在った。イリスが製造した人型兵器の大群が、セッテ達の前で一体残らず壊滅している。

団長セッテが指揮する聖王騎士団のみならず、俺の子供である事を誇るディードも固有武装で兵器を一刀両断していた。可憐な少女であるというのに、才能面では恐るべき華が咲いていた。

魔導師達が悪戦苦闘していた兵器の大群も、魔導を使用しない戦闘機人達の戦闘能力には歯が立たないらしい。イリスとの決戦に向けた、見事な前哨戦の成果であった。


俺が歩み寄ると全員揃って敬礼し、セッテが歩み出る――任務は完了したと、無口な少女が視線で力強く物語る。


「よくやってくれた。お前達は今後の決戦における切り札となり得るだろう、今後に期待している」

「――!」


 素直に褒めると変に恐縮してしまうので、大仰な言い方で称賛するとセッテが目を輝かせて最敬礼する。よほど嬉しかったのか頬を紅潮させて、期待に必ず応えると力強く頷いていた。

今こうしている瞬間にもイリスは聖王のゆりかごを大改造し、リインフォースはゆりかごの膨大な魔力加護を受けて力を蓄えているだろう。兵器の改造も進めているはずだ。

この補給基地を防衛していた軍団とは比べ物にならない戦力で挑んでくるはずだ。魔導で倒せない相手となれば、彼女達に任せるしかない。


セッテが機嫌よくなったところで、クアットロが歩み寄ってきた。妹の顔色をうかがう姉というのは、いかがなものだろうか。


「ところで陛下、わたくしに内緒で博士から人体改造でも受けました?」

「何だ、藪から棒に」

「大怪我した次の日に強靭な肉体になって帰ってきたら、誰だってそう思いますわよ」

「うっ、確かに」


 平然とした顔で切り替えされて、逆に俺が反論の声を失ってしまった。俺がクアットロの立場になっても、普通にそう考えるだろう。特撮なんて目じゃない人体改造ぶりだった。

クアットロの指摘自体は、特に間違えていない。アミティエのナノマシンで人体を修繕し、キリエのヴァリアントシステムで人体を改造し、ユーリの生命操作で人体を改良した。

生命研究者であり戦闘機人製造者でもあるジェイル・スカリエッティならばありえると、誰もが思うだろう――そこまで考えて、自分の迂闊さに気づいた。


慌てて周囲を見渡すと、マリアージュ護送の手続きを終えたオルティア捜査官が険しい顔でこちらへと歩み寄ってくる。うわっ、しまった。


「この惨状について説明して頂きましょうか。先日までの貴方ではありえないレベルの斬撃です」

「"聖王"の実力を見て頂けましたかな、麗しき捜査官殿」

「令状を持って貴方の身体を検査しましょうか、違法な人体改造した痕跡が出てくるかも知れません」

「説明するので止めてください」


 補給基地の出入り口でマリアージュ一体を切り飛ばしたくらいであれば見逃してくれただろうが、補給基地ごと斬り裂いたとあれば話は変わってくる。

時空管理局は次元世界を管理する巨大組織であるが故に、巨大戦力の保有については敏感だ。白旗は特に目をつけられており、聖王教会の承認がなければ間違いなく手入れがあっただろう。

特に俺の場合、次元犯罪の疑惑があるジェイル・スカリエッティを自主という名で匿った疑惑が持たれている。昨日から今日でこれほど豹変したら、人体改造を疑われるのは無理もない。


体を治した経緯はある程度共有しているのだが、人体そのものを根底から改良したことについて詳細は伏せていた。説明するにはエルトリアの事を言わないといけないからだ。


「生命操作能力――ユーリさんの実力については友人のシュテルさんより伺ってはいましたが、まさかそれほどの能力を秘めていたとは改めて驚かされました」

「貴方だから信用して話しました。出来ればこの事は――」

「申し訳ありませんが、私は時空管理局に所属する捜査官です。便宜は図れませんし、人格面は信頼していても実力面については驚異を感じています。
加えて生命を操作する能力まであるのであれば、捨て置けません。貴方をそれほど強く出来るのであれば、戦闘機人製造技術と合わせて、国家レベルの軍隊を製造できるでしょうから」

「そんな事はしないと言っても無駄でしょうね」

「ええ、他に言い分がなければ報告させてもらいます」


 ――セッテが険しい顔で近づこうとしているのを、クアットロがなだめているのが見える。実の娘であるディードは剣を持ったまま待機している、父の命があれば口を封じるという覚悟で。

ユーリはナハトヴァールを背負ったまま、遠巻きから俺の様子を見守るのみ。信頼しているというのもあるが、自分の進退を全て父である俺に委ねるという覚悟なのだろう。

あの子は法術によってようやく自分の制御が出来たと、喜んでいた。自分の力の危険性は、あの子が一番分かっているのだ。俺に見捨てられたら終わると、理解している。


それは他でもない、このオルティア捜査官も同じだ。問答無用ではなくあくまで俺に確認を取っている。どうするのか、判断が試されている。


「ユーリは決して悪用なんていませんよ」

「何故、そう言い切れるのですか。事実貴方は危険な力を手にして、マリアージュを斬りました」


「その為の『特務機動課』でしょう」

「……」


「補給基地を両断しても犠牲者は一人も出ず、被害はなかった。私は自分の力だけで成したと思っていませんよ。
いかなる状況に置かれても、最適な判断に基づいて最速の行動が行える。怪我人さえ出なかったのは、貴女やティーダ隊長による統率があってこそでしょう。

どれほど危険で強大な力であろうとも、俺達特務機動課であれば成果に変えられる。それを今日、この場で証明したじゃないですか」


 時空管理局であろうと、聖王教会であろうと、俺達のようなチームはありえない。ユーリ達に戦闘機人、アミティエやキリエ、守護騎士に夜の王女、元猟兵に傭兵と、あらゆる異種が揃っている。

奇跡的なチームを実現させたのは、俺とレジアス中将の同盟による成果だ。彼はありえない正義を掲げ、俺はありえない理想を持って戦っている。協力しなければ成立できない。

不可能を可能にしたいからこそ俺達は手を組んで、チームを成した。そして今日、見事に結果を出した。


全員で協力したからこそ、危険な力を正しく変えられた――俺はそう確信している。


「これからも頼りにしていますよ、オルティア捜査官」

「……本当に、貴方には参りました。握手はしませんが、信用はいたしましょう」


 大きく息を吐きつつも、オルティア捜査官は困った顔で小さく微笑んだ。少し笑っただけで男心を高鳴らせるのは、美人なりの特権だと思う。人間関係構築の手本にしたいものだ。

この場は丸く収まったので、全員協力して事後処理を行う。ハッキリ言って地味な作業で英雄的行為なんて何一つないが、こういう作業を皆でやるのが連帯感に繋がる。

俺は自ら率先して回って仲間達に声をかけ、局員達の作業を手伝い、メンバーとなった特務機動課の現場チームに挨拶し、泥と汗に濡れて働いた。


自分でも馬鹿なことをしていると、思う。孤独に生きてきた過去は一体どこへ言ってしまったのか、ついに今日異世界の女に仲間の大切さまで説く始末だ。


欲しかった強さは手に入った。今の俺なら、剣でも大成できるのではないかとさえ思う。御神に至ってはついに奥義にまで手を触れる距離に近づいた。

マリアージュを斬って、俺はついに剣士となった。意志あるものを斬った俺は、間違いなく人斬りだ。罪悪感はないが、何故か達成感もない。

天下は目の前だと言うのに、不思議なほどに何も思わなかった。単純にあるのは――

皆と協力して結果を出せたという、子供じみた喜びだけだ。学校では学べなかった充実を、俺はこの年になって学んでいる――大人になってから、ようやく。


……。


「ディード」

「お呼びですか、お父様」

「お前は、俺の子供なんだよな」

「勿論です、お父様。私はお父様の娘ディードです」

「……」

「いかがなさいましたか、お父様」


「この事件が解決したら、お前に剣を教えてやる」

「! ほ、本当ですか!?」


「教えられることなんて、あまりないけどな」

「ありがとうございます。私、必ずお父様の期待に応えてご覧に入れます!」


 こらこら、剣持ったまま事件現場で飛び上がって喜ぶのはやめろ。クールビューティーな淑女がはしゃいでいるのを見て、仲間達が目を丸くしている。


「お、お父さん、わたしだってお父さんの娘です。なにか教えて下さい!」

「俺より強いじゃないか、ユーリ!?」

「お父さんはわたしよりもずっとずっと強いです! そうだよね、ナハト」

「うん!」

「ちくしょう、珍しくハッキリ言いやがったなナハト……何を教えてほしいんだ」

「お父さんのように素敵な人になりたいです」

「人としての教育というハードルの高さ――分かったよ、教えてやる。
ともあれ、キリエとアミティエを呼んでくれ。マリアージュ軍団長を尋問して、イリスの所在を聞き出す」

「分かりました、やったー!」

「やっほー」

 そもそもオルティア捜査官がさきほど声をかけてきた理由は、この為である。意識を取り戻したとのことなので、早速取り押さえられた現場へと向かった。

俺も魔導についてはまだ精通していないが、ユーリ曰くバインドという捕縛魔法でマリアージュは拘束されていた。一刀両断されたショックなのか、俺が来ても大人しいものだった。

オルティア捜査官が先に事情聴取したそうだが、背後関係については概ね洗い出せたらしい。俺の事をよく知るイリスが過去の事件を把握して、逃走中のマリアージュと接触した。


自分でも驚くほど身を乗り出して、俺は追求する。


「お前を雇ったイリスは何処にいる。銀髪の女と一緒にいるはずだ、そいつの居所も言え」

「イクスヴェリア」

「お前の目的なんぞ聞いていない。あいつらの居所を――」

「我々は使命のため、奴らは目的のため、イクスヴェリアを探していた」

「――探していた、ということは」


「"聖典"に所在が記載されていた。奴らはイクスヴェリアを、ゆりかごの鍵として改造するつもりでいる」


「何だと!? どうしてお前はそれを容認している!」

「イクスヴェリアさえいれば、我々は産み出される。イクスヴェリアさえ強くなれば、我々も強くなる。イクスヴェリアさえいれば――」


 ――蹴り飛ばして、黙らせた。こんな奴に常識を期待した俺が馬鹿だった。今仕入れた情報を、吟味する。

イクスヴェリアさえいれば、マリアージュは産み出される。だからイクスヴェリアを改造すれば、自分達も強くなれる。イクスヴェリアの居場所を知ったイリスは、情報を持ってコイツラを誑かせた。

ヴィヴィオの話からすると、ゆりかごは聖王本人でないと動かせない。最低でも聖王の遺伝子が必要だが、イクスヴェリアにはない。ただ遺伝子操作できる技術があるとすれば、分からない。


やはり聖典の中身を奪われたのは痛い。リインフォースだけじゃなくイクスヴェリアまで押さえられるとは――復讐に拘っている割には、周到に行動しやがる。





「……妙じゃないですか、キリエ。私はイリスのことを貴方ほど知りませんけど――」

「――うん、イリス……こんなに、頭が良かったかな」















<続く>








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