とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十二話




 マリアージュ軍隊を相手に戦いながら、実戦を通じてフローリアン姉妹より惑星エルトリアの技術を学んでいった。

フォーミュラドライブとはエルトリアで開発されたエネルギー干渉技術であり、体内に循環させたナノマシンを使ってエネルギー運用術がアクセラレイターという極技であった。

体内の ナノマシンを制御するには、無機物の形状を自在に変化させるヴァリアントシステムが不可欠なのである。

アミティエ達が着用する防護服はフォーミュラスーツと呼ばれており、この装備を通じてナノマシンの制御を行っていると説明してくれた。

つまり俺が強化加速ドライブを使用するには、新剣セフィロトを使いこなす必要がある。


「体内に打ち込んだナノマシンの制御、手足を動かすのとは訳が違うな。難易度が高い」


 肉体が不完全であった頃は、自分の非才を言い訳に出来た。不出来な竹刀の責任として押し付けたり、不運を運命の仕業として嘆いたりする事だってあった。

その全てのお膳立てが、仲間達の祝福によって破壊された。キリエにより生命の剣が製造され、アミティエによって肉体が改造され、ユーリによって生命が創生されてしまった。

ここまで完璧に仕上げられて強くなれないなんて、嘘だ。嘘から出た誠なんて上等なものではなく、当然のように強くなってやる。

それほどまでに、俺は彼女達に感謝しているのだから。


「聖王を確保する」


 マリアージュは屍兵器と言われるだけあって、人体に対する感覚は皆無に等しいようだ。極端な人体の変形を平気な顔をしてやって来ている。

キリエが嫌悪するのは近親憎悪というより、同属嫌悪に近しい感情だろう。マリアージュの肉体も無機物で構成されており、人体を練成して武器化している。

彼女には申し訳ないが、俺からすればありがたい話だ。無機物の形状を自在に変化させるヴァリアントシステムを使いこなすには、手本がどうしても必要なのだから。


「仲間を殺すことよりも、あくまで俺の確保を優先するつもりか」


 俺が真っ先に逃げ出すと、マリアージュ達は我先にと群を成して襲い掛かって来てくれている。囮役として非常にありがたいのだが、張り合いが無いのも考えものだった。

俺の行動の意図を理解したアミティエさん達は流石というべきか、目先の安全に固持せずに作戦成功による俺の勝利に沿って行動してくれた。
つまり想定外の要素となりえる人型兵器や過剰投入されそうなマリアージュ兵士達を足止めするべく、動いてくれた。おかげで、俺は目の前の連中に集中できる。


乱戦になりつつある状況下で、俺は作戦通り囮となるべく駆け出す。多人数に囲まれると厄介なので建物内部へ突入して、細長い通路で向き合って一対一を繰り返す戦いの場を作り出す。


右腕を刃と化して切りかかってきたマリアージュをセフィロトで受け止め、間近で凝視する。体内を練成して刃に変えるやり方、本能で行っている行為を技術として学ぶ。

刃の切れ味を確認して蹴り飛ばすと、嘘のように後方へと吹っ飛んでいく。自分の蹴打に呆れつつもそのまま突出し、狭い通路で並ぶマリアージュ達を相手に切り結ぶ。


利き腕を液状化する女に目を見張りつつ学び、逆腕を銃器化した女に驚愕しつつ磨き、足首を刃物に変える女に感心しつつ真似る。そして、斬っていった。


「作戦変更、生存を第一とする」

「自分の生存――ではなく、俺の生存のみを頭に入れた無茶振りか」


 マリアージュの目的はイクスヴェリアであり、聖王と誤認する俺を餌にする事である。その為の捕縛であったが、作戦を変更して捕獲へと切り替えてきた。

つまり俺を生きて捕まえればそれでいいという雑な戦略であり、手足くらい潰しても問題ないというごり押し戦術である。彼女達の武装の脅威が格段に膨れ上がった。

狭い通路では一直線にしか並べず、一対一を強いられてきた彼女達だったが、今この瞬間軍隊と成り代わって全員が一丸となる。


全員が凶悪な笑みを浮かべて、自身の全てを重火器に変える。一斉集中砲火する気か。


「手を撃つ」
「足を撃つ」
「肩を撃つ」
「膝を撃つ」
「股を撃つ」
「耳を撃つ」
「目を撃つ」
「鼻を撃つ」

「撃つ」
「撃つ」
「撃つ」
「撃つ」
「撃つ」


 狭い通路では逃げ場が無い、そう思っているのだろう。


「斬る」


 確かに逃げ場は何処にも無い――この通路を、平面として捉えているのであれば。


一足として飛び上がって壁を蹴り、天井へと抜けて、真上から斬り落とす。一人目が絶命してようやく一斉射撃、崩れ落ちたマリアージュが盾となって砕け散った。

そのまま地面を転がって右左に剣を振って続けざまに足を切り飛ばし、転がり上がって股関節を抜き打ちし、剣先を突き出して心の臓を刺した。一斉射撃音がこの時、遅れて鳴り響いた。

仲間達が倒されてようやく、彼女達は仲間が斬られていることに気付いた。撃ちまくった銃口を向けてくるが、返し刀で切り裂いて、目障りだと女の顔を平手打ちする。

頬を張られて倒れた女の顔を突き刺し、一斉射撃後で停止したこの一瞬に目を閉じてイメージする。


「ヴァリアントシステム、セットアップ」


 セフィロトが長刀へと変化、その場で一回転。狭い空間で並んでいたマリアージュ軍隊が輪切りにされて、上下が無き分かれする。敗北を悟った彼女達が、一斉に破裂。

自爆兵器。マリアージュは自分の敗北を悟ると破裂して、人体を溶かす毒液を撒き散らす。硫酸より濃度の高い液体が一瞬で空間を埋め尽くした。

生存のみを優先、その使命は死んでも変更は無い。俺の手足が焼け落ちても、俺の皮膚が焼けても、俺の肉が崩れても、俺の生命が残されていればそれでいい。

神速では、間に合わない。どれほど早く駆け抜けても、空間が毒に染まっていれば逃げ場は無い。


「フォーミュラドライブ」


 尊敬も威厳も何も無かった敵ではあったが、一つだけ感心させられた。彼女達は最初から最後まで、マリアージュで在り続けた。その点だけは、敬意を払える。

俺一人では、剣士で在り続けることは不可能だった。忍を守って利き腕を壊され、妹さんを守って他人を許容し、ディアーチェを助けて剣を捨てて、他人のために戦ってついに肉体を壊した。

目の前の女を見ろ。肉体を破壊されても、マリアージュとしてやり遂げたじゃないか。たとえ知性の無い兵器であったとしても、彼女達は唯一自分自身を捨てなかった。


だからこそマリアージュという女の試練を、俺は突破しなければならない。


「アクセラレイター」


 彼女達より学んだ使命を、俺という人間における死命へとイメージする。死命を制してこそ剣士、正と死の境を知らずとしてどうして斬ることが出来ようか。

体内のナノマシンを、忍達より受け取った血に託す。夜の一族は血を生命とする種族、妹さんが体現したギア4の実演を参考にして循環させる。

剣に宿ったヴァリアントシステムを、マリアージュより教わった人体生成に託す。マリアージュは人体を変形する兵器、彼女達が体現した人体練成の実演を参考にして製造する。

ナノマシンが活発に循環して、ユーリより与えられた生命がエネルギー化。俺の肉体より生命の光が放たれて、強大なエネルギーが身体から溢れて爆発した。


剣を、振り上げる。



「御神流、奥義之壱――"虎切"」



 御神流奥義の中で速度や射程距離共に優れた、一刀による抜刀術。

『体内から』抜刀されたエネルギーが刃へ連動し御神流の奥義と成りて、毒に支配された空間を丸ごと両断。神速を持って加速した刃は走り抜けて――


補給基地の中心、司令室で待ち構えていたマリアージュ本体を斬った。


「け、計測不能の……剣技……ガハッ……!」


 本体が何処にいるか、セインが事前に教えてくれている。斬撃による余波は、妹さんが事前に察して仲間達を回避させる。

場所さえ分かればどれほど離れていようと、関係ない。オルティアさんの指揮能力があれば全軍に対して被害を与えず、マリアージュ軍団長を切ることができた。

――息を吐いた。驚くほど負担は無く、身体中がただ熱かった。初の試運転で暴走したナノマシンを忍達の血が抑え、那美の魂が癒してくれる。光り輝いている剣が、熱を帯びていた。

不慣れな奥義だったので、仕留められたかどうかは疑問だ。叩き切ってやったが、多分まだ生きてはいるだろう。

ただ、実感はあった。


「アクセラレイターを使用すれば、俺でも御神流の奥義を使用できる」


 何とか成功したが、一回撃っただけで落ち着かないようでは話にならない。

リインフォースと戦うまでに、何としても制御できるようにしないといけない。頑張って、修行しなければならない。


溜息を吐いて外へ出ると、マリアージュの残党が揃って平伏しているのが見えた――平伏!?


「どうしたんだ、こいつら」

「基地を丸ごと切られたら、そりゃビビるでしょ」


 ノアがのんびりツッコンで、本作戦は完了した。















<続く>








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